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8話 下級女騎士から始める王国陥落物語 結 前半

「始めに断っておく。妾は聖域を捨て、王女になった身。同僚であったお前には悪いが、妾の場所を侵すのなら、容赦はせぬぞ」


「わたしが欲しいのは、この国の実権と、貴女。此処を手に入れ、わたしの、わたしだけの計画は動き出す」


 それぞれの思惑を胸に秘め、戦争から隠れた、後の歴史に語られることのない、人の域を超越した戦いが始まる。


 先ず動き出したのは、セイナ王女。


「暴走ーバーサクー!」


 王女は身体強化魔法バーサクを使い、防御能力を下げる代わりに身体能力を一時、飛躍的に上昇させる。


 彼女にとって、それは王道かつ必勝のパターンへの定石だ。今まで共闘してきたわたしにとってそれは手に取るようにわかる。


 絶え間ない連続攻撃の応酬にアナスタシアの身体が悲鳴をあげる。


 咄嗟に壁際に退避するも、氷の壁を展開する魔法、ウォール・オブ・アイスで周囲に壁を作られ、追い詰められた形になった。


 更に、氷柱を降らせる魔法、アイスショックがわたしを襲う。


 剣で捌くも、身体にいくつか氷柱が刺さってしまう。痛い。


 わたしは痛みと疲れで身体を崩し、片膝をつく。


「どうした、ベースのアナスタシアらしく、骨が足りんのか?」


 このままでは少々キツいわね。ならば、


「配下であるわたしに全力でかかるなんて正気ですか? 王女様。民を守る王女様が王国中でもか弱いわたしに、そんな酷いこと、本気でしちゃうんです?」


 アナスタシアの真似をして煽ってみる。敵を精神的、又は肉体的に疲弊させれば勝利をより早く掴むことが可能だ。


 更に、油断を誘えればなお良し。


「スライサー!」


 剣から鋭利な真空の刃を飛ばす。


「ほう、猿真似だけは得意だな」


 弾かれた。


 セイナ王女には小手先の言葉責めなど殆ど効果がないようで、捌くのに苦労していた元々激しい攻撃が、より激しくなる。


「アナスタシアを愚弄するな。こんなもので高潔な妾の意志は揺るがん。アナスタシアの真似で気を引こうとしたのは失敗だったな」


「アナスタシアが可哀想と思わないの? 外道ね」


「ほざいていろ。アナスタシアも騎士だ。こうなったのはアナスタシア自身の責任。アナスタシアには己の死を以って今回の落とし前をつけさせる」


 こうなると逆効果。相手の怒りを煽ってしまった。しかし、まだ此方には手がある。こんなものは楽に勝つ為の知恵だ。血反吐を吐く思いはするが、勝つイメージはまだまだ絶えていない。


「じゃあ、進化したわたしの剣技、見せてあげます。王女様」


「またアナスタシアの真似事か?芸がないな」


「さてさて、真似だけですかね」


 わたしは剣を抜き、セイナ王女に突貫する。単なる自殺行為と見てくれるなら好都合。看破されてもそれで構わない。


「なんだ、敵わぬと見て玉砕してくるか。愚かな女神ベルフェ」


 釣れたわ。これで一気に決める!


「王女様、いきますよ」


「騎士アナスタシアよ、一思いに殺してやる。恨むなよ」


 わたしは剣を添え、王女に斬りかかる。王女は杖を構え、先端に淡い光を迸らせる。


 両者の技が激突する瞬間である。


 アナスタシアが未熟さ故に扱いきれなかった剣技の応用技をわたしは使いこなせる!自らを守る為の技で逆にくたばれ!


「ディメンション・ギアスパイク!」


「速い!アナスタシア以上か!」


 王女の杖の魔法より先に懐に潜り込むことに成功する。そのまま容赦なく技を打ち込もうと構える。


「がはぁ!こ………れ…は」


 王女は戦いの感からか、咄嗟にわたしの一太刀を防ごうと、太刀の軌道上に杖を構えるも、見えない斬撃に両肩を斬られる。


 王女は受けた大きいダメージに耐えきれず吐血し、この戦いで初めて片膝をつく。


 ディメンション・ギアスパイク、自殺を匂わせる突貫と最初の一太刀は陽動。突貫で怯んだ相手のガード誘い、目に見えぬ斬撃で敵を斬り刻む奥義。油断した相手の鼻を明かし、死地に活路を見出す為の技だ。


「どうですか?王女様………手下に首を垂れる気分は。わたしは凄く良い気分ですよ。嫌いな奴をこうして………」


 わたしは王女の頭をアイアンクローの要領で掴み、目線を合わせる形になる様持ち上げる。傷の所為で腕を擡げることが出来ずに杖を落とし、王女は持ち上げられた頭を支柱に、ぶら下がっている状態だ。


「痛めつける快楽を味わえるのですから」


「うっ……グゥゥゥ!」


 王女は必死に抵抗するも虚しく、力無い蹴りはわたしの着ている鎧の前には無力同然だった。


 因みに王女にアナスタシアの真似をして話しかけているのは、なりきりプレイの一環で、苦しむ王女を部下の立場を模倣して楽しむ為の、ちょっとした遊びである。特に大きな意味は持ち合わせていない。


「ベルフェ、アナスタシア…の………真似をするの………はやめ………ろ」


「あん?聞こえないわよ。もっと大きな声で言いなさいよ」


 王女の髪の毛を掴み、耳元で囁く。


「アナスタシアの真似をするな!」


「うるさい」


 わたしは王女を玉座に投げつける。鼓膜が破れるかと思ったわ。ボリュームの調節くらいはしなさいよ。


「ふふふ、もう満足したし、そろそろ当初の目的通り、身体を貰うわ」


 わたしはヘルシャフトを取り出し、身体を乗っ取る準備を始めようとした。


「まだだ…」


 まだ抵抗する気力があるのかしら?身体にあんまり傷はつけたくはないのだけど、わたしに楯突くなら、やむを得ないか。


「あ? 負け犬の女神様がまだ何かを成そうという訳? わたしの目論見を見抜けず、部下に負ける様な無能なお山の大将がこれからどう刃向かおうが、わたしに抗うことは出来ない」


「わたしに………は、まだ…これが…………ある」


 突如発光を始めるセイナ王女。光に怯み、咄嗟に後ずさりする。


「この眩い光はヘルシャフトに酷似している」


 わたしは少しの仮説から、一つの仮説を導いた。王女もわたし同様、宝具を所有していると。


「妾は負けぬぞ、ベルフェ、この国の民を貴様の様な下郎に渡すのは、国の統括者として決して認められぬからな」


 光から王女が姿を現わす。王女は身体中に鎧を纏い、手には杖ではなく、三叉の槍を握っている。


「下郎に妾の宝具を持ち出すとは思わなんだ。これまで持ち出して負けでもしたら、妾を讃えてくれる民に示しがつかんな。故に………貴様には死しか有り得ぬ。これを身に纏った妾に負けはないからな」


「ふふふ、偉く威勢が良いですね。王女様、ですが、わたしもカードを全て切った訳ではありませんよ」


 わたしは軽く人差指を動かす。すると、


「メラルバに御用ですか? ご主人様!」


「ウルガにかかればァ、敵の一人や二人ィ、チョチョイのチョイだよォ、ご主人様ァ」


 わたしの二人の奴隷が飛んできた。ここからはなしくずしに敵の体力を削るゲリラ戦といこうと考え、数で押せる様に二人を呼び寄せ、三人がかりで攻めることにした。


「矢張り、貴様が高らかと此奴らのことを誇張していたから怪しいと思っていた。その様子では既に目の前の此奴らはお前の手駒になっているな」


「御名答です。王女様! 貴女の期待していた二人の優秀な戦士たちは、貴女に牙剥く奴隷に成り下がってしまいましたよ!」


 相変わらずメンタル馬鹿のタフネスな王女様だ。もう揺さぶりは通じないと見ていいかしら。でも、副次的な狙いには対して期待していない。本命はゲリラ戦。長期戦に持ち込めば此方が勝った様なものだ。


 ここからは我慢勝負よ。女神シェキナーガ。




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