7話 下級女騎士から始める王国陥落物語 転
「殺せ!パルテ王国の愚者どもを皆殺しにするのだ!」
パルテ王国に雪崩れ込むエルガ王国の騎士たち。出会う敵を片っ端から斬っていく。不意を突かれたパルテ王国の騎士たちは押されるがままに押され、抵抗虚しく倒れる。
遂に戦いが始まった。わたし、ダーリンであるバスティア様の専属騎士であるアナスタシアは、間者としてパルテ王国とエルガ王国の戦いを静観している。
「ご主人様、バスティア様の容態は大分回復してきたとのことであります」
「メラルバ、報告ご苦労」
「アハァ、ご主人様の命令を果たせて、メラルバ感激の極みにございますぅ」
宝具ヘルシャフトの次元跳躍、転身に続く第三の能力、奴隷ースレイブーで、わたしの気に入った若くて優秀な王国見習い騎士を2人ばかり、わたしとダーリンの言うことだけを聞く奴隷にして側に置いている。
「メラルバばかり狡いよォご主人様ァ、ウルガも構ってェ」
「五月蝿い、奴隷がわたしの手を煩わせるな」
「はぁんご主人様ァ、もう一回ィ」
赤黒い炎の様なセミロングの髪をし、全てを炎に包む赤い目をした見習い騎士奴隷メラルバと、渦巻く水流の如き青いツインテールをし、青い目をした見習い騎士奴隷ウルガを作った。加え、バスティア様を守るという名目でわたしを隊長に添えた小さな騎士団を立ち上げた。
「ふん、そんなに構って欲しいなら、目の前の戦場を掻き回してきなさい。もっと戦地に血の雨を降らせるのよ。姫の注意を戦場に釘付けにするの」
わたしが命令を一言言うと、奴隷二人の身体が軽く痙攣を起こした。
此奴らには、命令が快楽と同義になるよう、プログラムしてある。わたしに逆らおうとする気を起こさせない為だ。
「ご主人様、わかりました!メラルバ頑張りますゥ」
「ウルガもォ」
二人は敬礼の後、城壁の下に広がる戦地に向けて飛び降りた。
「新手か!」
「ご主人様の命令は絶対」
「グゥ!」
一人騎士がメラルバを抑えにかかる。手に持った剣でメラルバのブレードを一本防ぐが、
「二刀流を相手にするには足りないぞ」
メラルバのもう一本のブレードを防ぐには手が足りず、あっさりと斬られる。
メラルバは両手に持った特別製の仕込みブレードを用いた、二刀流の特殊接近戦タイプ。二刀流のメリットである手数の多さを活かした鋭い攻めを得意とする。
対応しようと攻め重視で攻略しようとしても、
「食らえ!」
「防げないなら玉砕覚悟で突撃? 甘いなぁ、メラルバをこの程度で攻略出来るとでも?」
「何だと? ブレードが曲がって、ギャァァァ!」
メラルバのブレードが折れ曲り、騎士の首をそのまま切り裂いた。
メラルバの仕込みブレードは刃を回転させることが出来る。一見地味ではあるが、変則的なその軌道に二刀流を合わせた剣技を実戦で防げる者は無に等しい。
メラルバは見習い一の単純な強さから、手駒としての適正を見出した。至極普通の動機だ。
「ウルガもォ、忘れてもらっては困るよォ」
「なんて水魔法だ。魔法に乏しい、肉弾戦一辺倒な騎士たちの中で、ここまでの魔法を扱える者がいるとは」
ウルガはこの世界では珍しい魔法騎士で、天性に恵まれた剣技と水魔法の合わせ技を得意としている。
「バブル」
「く、苦しい。抜け…ら………」
バブルの泡が騎士の顔を包み、溺れさせている。
「キャハ!」
ウルガは間髪入れずに、捕らえた騎士の腑を剣で斬り裂く。荒く斬った肉から飛び散った血を掬い、舐める。
彼女は大人しい見た目とは裏腹に、血に飢えた猟奇的な性格をしている。敵には情けも、容赦もしないその冷酷非道な残忍さを飼い、わたしは此奴を下に置くことにした。
「血ィ、綺麗ィ」
二人の介入で予想通り、戦場は大混乱。あれならわたしが手を回す必要はなさそうね。
城はすっからかん。防衛機構も崩れている。計画通り、メインディッシュをいただきに参るとしましょうか。
◆◇◆◇◆
「外が騒がしいぞ!」
響く怒声。だが、城内はもぬけの殻であり、声を聞く者は誰一人としていなかった。玉座には小さな女が足を組んで鎮座している。金髪のストレートなロングヘアの上に、王女の証である王冠をしている。白い絹のレースを纏い、手には様々な装飾があしらわれている杖が握られている。
「誰もおらぬか」
女は苛立っている。敵国の今までにはなかった奇襲に、女の国がここまで追い詰められてしまったことに。
「ええい! 小賢しい真似を! エルガの猿どもめ!」
女は地団駄を踏んだ。
女の足音が、無音だった城内を駆け巡る。だが、それを咎めるものが誰もいないので、取り残された音は行き場を失い、ゆっくりと存在を失っていくばかりだ。
「王女様!ご無事ですか」
その矢先に別の足音。
「アナスタシアか」
パルテ王国下級騎士、アナスタシアが一人玉座に入場する。
「はい。セイナ王女様がご健在でなによりでございます」
パルテ王国王女セイナ・エストワール・パルテ。パルテ王国に名を残すであろう、稀代の名君と称される戦女神。出自は不明だが、彼女のあげてきたその功績にはあまりあるものがあり、そんなハンデなどものともせずに、王女の位までのし上がったとされている。
「持ち場はどうした。早く戻れ」
「いえ、戦況に急激な変化があり、早急にご報告をと思い至った次第です」
「手短に話せ」
「はい、我が騎士団の誇る見習い騎士の二人、メラルバとウルガが破竹の快進撃を見せております。敵の勢いは少しですが衰えており、現在は少しずつ敵軍を押し返している状態にあります」
「ほう、騎士団入隊試験で1位の成績を叩き出した、あの優秀なメラルバがいるのか。ウルガも、性格に難はあるがメラルバと肩を並べる優秀な魔法騎士だ。今回は褒美をとらせるとしよう」
セイナは顎を摩り、先程とは打って変わり、ご機嫌な様相を呈している。
アナスタシアはこの時できた隙らしきものを見つけ、口角を釣り上げている。
「姫様、わたしはそろそろ持ち場に戻ります。安定してきたとはいえ、まだ予断は許さぬ綱渡りなのは変わりませんから」
アナスタシアは玉座の間から立ち去ろうとする………
「姫様………」
「なんだ?まだ何かあるのか?申してみろ」
………ふりをした。
「………貴女の身体、いただきますよ!」
アナスタシアは踵を返し、振り抜いた剣を王女に向ける。その勢いのまま、王女を串刺しにしようという算段である。
「………⁉︎アナスタシア!」
だが、セイナ王女は杖を剣代わりとし、鍔迫り合いの形でアナスタシアの剣を防御した。
◆◇◆◇◆
姫様を簡単に此方側に落とせると思ったけど、ツメが甘かったわ。我が国の戦女神は簡単には落ちないか。
「アナスタシア、どういうことだ、妾に剣を向けるなど………さては、表の戦いも貴様が手引きしたな」
「ふふふ、鋭いですね。ですが、手引きなんて小狡いことはしていませんよ。少し敵の恨みを煽ってみただけです。すごいですよね、1匹2匹殺しただけで、こんなに凄惨な戦いが始まるのですから」
「………ふん、下衆が。相変わらずだな。ベルフェ」
鍔迫り合いの最中、わたしは出る筈のないその名を聞き、少しばかり驚愕し、後ろへ下がった。その喋り方、身のこなし、何処かで………
「わたしがベルフェ? さあ、何の………」
「とぼけるでない。長年妾に見せてきた、暗殺だの挑発だのと、低俗なせこい戦い方をする奴など、他に思いあたらんわ。今だって大方ヘルシャフトを盗み出し、その力を使って人間に成り済まして生き永らえているといったところか。何百年経ってもその腐った性根は変わらないのだな」
「………あ!思い出した!貴女、女神シェキナーガね」
嘗て女神時代に共に戦場を駆け、聖域を脅かす敵を共に倒してきた戦友、女神シェキナーガ。ある戦乱の最中、敵の矢に不意に射抜かれ、戦死したと風の噂で聞いていたけど、生きて人間界まで逃げのびていたか。
「お前の戦い方はどうにも好かんのだ!ネチネチネチネチと謀略を巡らせて敵を精神的に追い詰めていくなど、悠長過ぎて欠伸が出る」
「ふん、貴女にわたしの戦い方はわからないわ。戦いは力じゃない。知恵と戦略なの。如何に敵を素早く無力化出来るかが全て。異論は認めないわ」
「なんだと? 妾のパワフルな戦い方にケチをつけるか! 戦略を一心不乱に戦場で練っている中、敵が黙って倒されるのを待っていると思っているのか? 現にあの時だって妾が刃を振るわなければ貴様はとうの昔にくたばっておったわ」
「くたばりぞこないの貴女に言われたかないわよ。そのパワフルな戦い方で失敗して矢に射抜かれたんだから。馬鹿みたい!」
「何を!」
「言わせておけば!」
「こうなったら」
「こうなったら」
「「戦いでケリをつけるしかないわね(ようだな)」」