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6話 下級女騎士から始める王国陥落物語 承

 城のごたごたの原因は、仲の悪い隣国との戦争に起因していたのですね。内情がわかったのは大きいです。よって、ある程度は派手に駒を動かしていくことが出来るのではないでしょうか。この国での明確な目標も定め、此方の持ち駒も増えたことですし、多少強引にことを進めていきましょう。


◆◇◆◇◆


「早速で悪いっすけど、これから城でのスパイ活動をしてもらうっす」


「妖精さんは一々上から目線なのね。別にわたしが行かなくたって、妖精さん程の実力をもってすれば、こんな小国の一つや二つどうとでもなるでしょ」


 なんかアナスタシアとウチ、論点がずれているっす。どうすればいいか、非常に悩ましいところっすね。しかし、こんな袋小路で陰気なディスカッションにしゃれ込んでいる暇はないっすよ。


 本当は暴れたくてうずうずしている癖に、妙なところで屁理屈捏ねるんすね。でも、身体は正直っすよ。欲求に耐えかねて小刻みに震えているじゃないっすか。


「ウチらは別にこの国をとって食おうなんていう、蛮族の思考は持ち合わせてはいないっす。ただ、ここの姫様に堂々と謁見できれば十分なんすよ。ウチらへの人材登用だとかその他諸々について。それを成し得る為には、城を開城させる、こう、大義名分と言えるべきものが欲しいんす」


「それならさっきの提案で出て来た不確定要素の塊みたいな案より、この国の置かれた状況を丸々利用してやるのが得策じゃないかしら」


「......一理あるっすね。あんたの描いているシナリオをウチに詳細に聞かせるっす」




「なるほどっす」


 ウチは熟考した結果、アナスタシアの案の効率の良さと、何よりも此方に降りかかるリスクの小ささに着目し、今回の計画は彼女に一任することにしたっす。




「此処で敵国であるエルガ王国とは、アナスタシアは視野が広いっすね」


 ウチはアナスタシアの作戦に従って、パルテ王国の東に位置するエルガ王国に出向いたっす。道中はパルテ王国と違い、砂漠だらけの暑い国境っす。妖精の羽はデリケートっすから、羽をケアしながら飛ぶのは骨が折れたっす。


 こんなところにウチを寄越すだなんて、ハイルと同等かそれ以上の妖精使いの荒さっすね。


 飛んでいると、砂漠の真ん中に、周囲の背景から浮いている集落を見つけたっす。


 ………あったっす、奴等のテントっす、パルテ王国の国境にも設置してあった、戦場の拠点っすね。今日も睨み合いっすか。何時もご苦労さんっす。


 パルテとエルガは毎日毎夜衝突の睨み合いをしている、つまり、少なからず敵対関係を持っている国々ってところっすね。


 無駄な思考は省いて、軽く集落を捻るっすかね。ウチらのこの一手だけで恐らく、


「なんだ!敵襲か!」


「仲間が一人やられた! 敵兵は一人。パルテ王国の兵士を名乗っている妖精だ」


「妖精だと? 我が人類史において、汚点しかないあんな下郎を保有し、剰え戦に放るとは。グゥ………パルテの野蛮人共め、何を考えているのだ!潰せ!相手が何者であれ、我等に牙を剥いたのだ!生きて返すでないぞ!」


「は………グワァァァァ!」


「何………!」


「あんたが最後の一人っすね。将校のお偉いさん方はさぞ大変でしょう。みんなの期待を一身に受けて、プレッシャーの中、戦場で毎日身を削っているんすから」




「でも、その期待が今回、ウチらの計画を成立させてしまったんすから、あんたら不幸っすね。対してウチらは幸福っす。あんたらとは必要以上に戦わないで済んだっすから。たったこの一点だけで世界はウチら全員の運命を決め付けてしまうなんて、世の中、神も仏もないっす」


(正確には天上で踏ん反り返っている無能共がいるんすけどね)


「た、助けてくれ………」


「あ、少し間違いがあったんで訂正させてもらうっす」




「神であるウチは運命を動かす側っす。つまり、お前を殺すのは、ウチにとっては確定事項っすから、命乞いは無意味っすよ」



「ウィンド・ブレード」



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 鬱陶しい均衡は崩れるっすね。



 どうやら成功したみたいですね。戦争を動かすのは初めてですが、はっきり言わせていただきましょう。中々楽しいではないですか。憎悪が渦巻く中で、互いが互いのエゴを押し付け合い、共に倒れていくんですよ。それをコントロール出来るんです。此れは多数の人形を手の平で踊らせる傀儡師を想起させますね。私は支配するのが好きです。だから楽しい。それ以外の理由なんてありません。



「おーおー、派手にやってるっすね」


 次の日、エルガ王国の外壁から中を眺めると、国の中央で昨日ウチがしていたことが大々的に取り上げられていたっす。


 パルテ王国の刺客が我が国の将校を暗殺したとかなんとか。


 ハイルが念話で呟いていたことがわかる瞬間っすね。中々悪くないっすよ、これ。


「パルテ王国の奴等を皆殺しにしろ!」


「血の雨を降らせるのだ!」


 弔い合戦する気満々の雰囲気っすね。今更っすけど、感情が戦争を動かすんすか。まあ、元が人間の利益追究の為の延長線が他国の人間との争いっすからね。感情がキーになるのは当然の帰結っす。


 人間の怨みが何処までウチらを楽しませてくれるか、お手並みを拝見させてもらうっすよ、とはいうものの、ウチが一人で盛り上がったところで何も釣りが来ないことが悲しい、というのが本音っす。


 後は当人たちの戦い次第なので、ウチは家に帰ってミルクでも飲みにいくとするっすか。






「貴女、うちの一個師団に匹敵する戦力を持っていたのね」


「アナスタシアは見てはいなかったんすか?ウチら三人は思考を共有出来る筈っすけど」


「ええ、見ていないわ。結果が見えているイベント程つまらないものはないじゃない。貴女が勝つのは分かりきっているから」


 またっすか。ウチとは協調性のカケラもないっすね。昨日立てた作戦も、ウチだけには口頭での説明に留めていたらしいっす。ハイルだけ特別扱いでムカつくっす。ウチに恨みでもあるんすかね。


「お前、ウチを馬鹿にしているんすか?」


「暴論ね。わたしは貴女の腕を飼っているのよ。元憧れの存在さん。第一貴女を虐げる根拠が何もないわ」


「暴論じゃないっす!昨日もハイルもアナスタシアもウチだけを除け者にしていたっす!」


 アナスタシアは一泊置いた後、目を下ろしてウチに言ってきたっす。


「ふふふ、それよ、その短絡的な思考回路をわたしは危惧しているの。だから貴女には口頭でしか何かを教える気はない。下手に動かれて、ダーリンを幸せにする計画が総崩れというのは避けたいから」



「それに」



「なんすか?」


「わたしは貴女を評価してはいるけど、所詮戦闘能力だけ。貴女の全てを認めている訳ではないわ」


「ウギギ………」


 ムカつくっすムカつくっすムカつくっす!同じ穴の貉の存在なのに格付けしてくるのが無性に腹が立つっす!ウチの方が先輩なのに。後輩であるアナスタシアが、てめぇの先輩であるウチを立てるのは当然じゃないっすか!


「わたしが忠を尽くすはダーリンとハイルのみ。能力ある騎士は無能には尽くさないことを覚えておくといいわよ」



「ダーリンハワタシダケノモノ。ツヨイワタシダケソバニイレバイイノ」


「⁉︎」


 アナスタシアはウチを一瞥した後、城の中に消えていったっす。


「彼奴………」


 ウチは心の中、何もない暗闇の中で考える。


 ちょっと冷静になって考えるっす。


 さっきの言葉は………


 あの女、ウチをいいように使っているっす。同一人物の思考を備えているからわかるっすよ。ウチを都合の良い様に使い倒し、用済みとあらば理由を何かしらつけて捨てる算段っすね。味方といえど、邪魔なモノは始末し、ダーリンを我が物とする。数が増えるとこういう身勝手なのも湧くんすか。


 ベルフェの性格上、危な目な思考を継いだ危険因子が湧くのは仕方ないっすけど。


 アナスタシアの考えは未だ深くはわからないっす。ハイルのことは忠義立てしていたっすけど、内心はどうなんすかね。味方などいないと、ウチを陥れる為だけに用いた狂言の可能性も捨てきれないっす。


 最後のあの言葉はハイルも要らないと言っている節があるっす。内にも敵が出てきてしまうとは………宝具も万能ではないということっすね。


 どちらにしろ、彼奴を監視するのは必須っす。



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