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3話 マネーくれくれメンヘラ最速妖精と女神と分魂 後半

『3』


「軽い消化試合っす。とっとと終わらせてやるんで宜しくっす」


「このわたしに生意気な口叩いてるんじゃないわよ、レイナ」


 人間というヤツはなんて頑固一徹なんすかね。勝てない勝負に態々挑んできて、剰え勝つ気でいるっす。


『2』


 勝てない勝負に挑もうとする神経は、常勝無敗であるウチには理解に苦しむっす。


「いつまでそんな強気でいられるっすかね」


「わたしは強気でなんかないわよ。ダーリンを負かしたお前を見て、憎しみの炎を燃やしているだけ。憎い憎い憎い………ってね」


 矢張り頭おかしい奴っす。だからこんな勝負を無謀にも仕掛けてきたんすね。このウチにそんなくだらない感情を以ってして挑もうなんて笑止千万。


『2』


「戦いの場に私怨なんて持ち込んでいる奴なんて腐る程いるっすけど、そんな奴は返り討ちに遭って負けるのが関の山っすよ」


「弱い犬程よく吠えるってやつかしら。あんたホントによくワンワン喚くわね」


 それでウチに喧嘩売ってるつもりっすか?この小娘。安い挑発なんて、常勝無敗で余裕あるウチには全く効かないっす。小賢しいだけっすよ。


『1』


「………………」


「………ふふふ」


『GO!』


 先ずは合図と共にウィンド・ゼロ起動っす。身体に風を纏い、機動力とスピードを大幅にアップするスピード系最高峰の高等魔法。一介の人間の小娘に追い付ける訳ないっす。


「ビューン!」


 全てを吹き飛ばす爆風を起こし、誰にも入門出来ない超速の世界に突入する。


 これがウチの魔法の世界。人間風情め、分からず屋なその身体に圧倒的な劣等感を刻んでやるっす。二度と刃向かう気力も湧かない様に。


 金を奪るのにこんな勝負はほぼ無駄っすけど、人間とウチらの格の違いを見せ付ける見せしめとしては又とない機会。此処はサクッと勝って終わりにしてやるっすよ。


「もう見えなくなってるじゃないっすか。代わりに大樹さんがお見えっすね。全く、てんで大したことはなかったっす」


 大樹に超スピードでそのまま突っ込み、そのスピードを活かして大樹に手を掛け、くるっと振り回される様にターン。これが気持ちいいんすよ。


 後は来た道を戻るっす。


 立ち並ぶ木々を掻き分けていくと、ウチを祝福するゴールテープが見えてきたっす。


 あれ?


 彼奴がいないっす。戻る道なんだから、へばった彼奴を拝めないのはおかしくないっすか?


「ここにいるわよ」


「なっ⁉︎」


 ウチに並んでいる!


 今まで並ばれたことを知らないウチが、ウチが! ありえないありえないありえない!


「あら、動揺しているの?」


「し、してなんかいないっす。ただの武者震いっすよ」


 ありえない、ウチの世界に入門してくる奴なんて、世界広しといえど、ウチと同種族の妖精以外ありえない筈っす。なのに、なんすかこの体たらくは! 下等生物だと見下し、最早金ヅルとしか思っていない人間の、それも、小娘が、大した魔法を持っていない筈。


 ウチは彼奴の使っている魔法を凝視する。何処かに絶対タネがあるっす。


 あの黒炎………


………⁉︎ 信じられんっす!


 あれは伝説の暗黒魔法ダークフレア! あれを奴が使用しているウィンドに不足している速度をアップするのに、推進力の素として導入しているっすか!


「お前、どこでそ、そんな高等魔法を」


「ああ、これ?お前の様な雑魚になんて教えないわ。私を負かせたら別だけど」


「むう………」


 信じたくはないっすが、目の前のアブノーマルは全て現実っす。


 しかし、解せないっすね。生粋の攻撃魔法であるダークフレアを推進力に導入なんてしたら、常に魔法を身体の近くに留めておく都合上、身体にかかる負担が大きすぎて最悪ダメージが先行してオーバーヒート、ダウンするのがオチなんすが、彼奴は我が物顔で飛んでいるっす。


 一体何故?


「とでも言いたそうな顔ね。気が変わった。やっぱり、冥土の土産に教えてあげるわ」


「⁉︎」


「私の身体にバリアを張っているから」


 三重魔法まで! あんな高等魔法を高精度で操っている上に、魔法を三重掛けする超高等技術である三重魔法まであの人間は使えるんすか!


 理屈自体を捏ねるのは簡単っすけど、実践なんて夢のまた夢と称される程、3つの魔法の同時発動は魔法を使う者として鬼門中の鬼門っす。まさか胡散臭い机上論じゃなく、こんな小さな諍いの場であんな神がかった技術が見られるとは………


 ウィンドで空を飛び、ダークフレアで加速し、バリアでダメージを防ぐ。正に攻防一体のそれっす。


 勝てない………勝てないっすよ、あんな化け物。


 戦意喪失をしたウチに、あんな化け物じみた怪物を征する術などあるはずもなく、そのまま先を越され、ゴールテープを切られた………


「ウチが、人間に負けた………小娘に負けた………」


 ウチは地面に項垂れ、気力を全て地面に吸われる、物言わぬ植物に成り果てる。


 培ってきたプライドはズタズタのボロボロ………へへへへ、妖精失格っす。


 それを焼き付ける様に、周り妖精たちが嫌気の目をウチに向けてくる。敗者は去れと言いたいんすね。


「惨めね、レイナ………どう、忌み嫌っていた人間に負け、嘗ての仲間からも見放される気分は?」


「へへへ、そりゃ最悪っすよ………今までに一度たりとも負けたことのない、常勝無敗のウチが負けを喫してしまうんすから。妖精は負けを絶対に許さない、プライドの高い一族っす。敗者は不要。さあ、煮るなり焼くなり好きにするがいいっすよ」


「ふふふ、言質戴いたわよ………ヘルシャフト!」


 あの小娘が取り出したのは、光り輝く球体。焼くんすか?煮るんすか?介錯は早いに越したことはないっす。さあ、やるっすよ。


「我 二人の子を隔て 戦陣に立たせん 我の子 相対す 太陽よ 罪深き我を殺せ 月よ 罪深き我を愛せ 我の不屈の魂 二人に宿らせたまえ」


 ウチは奴と共に球から発せられた光に包まれていくっす。


 魂から身体が切り離される感覚………………


 ふふふ………ウチが消えていく………



 いや………………これは違うっす………



 これは………そうっすか………ウチ、まだ……………………







 存在してもいいんすね………………













「ふぅ………これでもっと、ダーリンを深く愛することが出来ますね」


「………そうっす、わたしの言う通りっす。ウチ(ベルフェ)わたし(ベルフェ)の二人で二倍ダーリンを愛すことが出来るっす。楽しみっす!」


「そうとわかれば、ダーリンに早く逢いに行きませんか?レイナさん」


「それもそうっすね………そういえば、今まではベルフェのものだった見下した口調が、わたしの丁寧な口調になってるっすね。どうしたんすか?」


「身体に残留しているベルフェの魂の割合が半分になってしまったからですよ。ですが、乗っ取った人物に成りすませるし、ダーリンとなりきりプレイも出来るしで、デメリットよりメリットの方が大きいと思います。悪くはないのではないですか?」


「思えばウチの方もレイナの性格がそのまま根付いているみたいっすね。無意識って怖いっす」


「「はははははははははは」」


「「ダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリン」」




 ウチも早くダーリンを愛したいっす。ダーリンは勿論、ハイル(わたし)だけじゃなくてウチも可愛がってくれるっすよね。エッチなダーリンっすから、本命のハイル以外もエロい目で見そうっすけど。


「「負け犬レイナ! 負け犬レイナ! 早く出て行け!」」


 2匹の妖精に負け犬と罵られた。


 勝負に負けた、前のレイナの所為で面倒ごとに巻き込まれたっす。ムカつくっす。


「言われてますよ。クスクス………」


 ハイル(わたし)には笑われる。


 自分で言うのも難っすけど、自分に馬鹿にされるのは、なんか癪っすね。


 ウチはダーリンのことを考えているだけなのに、お邪魔な虫どもっす。もうウチはダーリンのものっすから妖精なんかもうどうでもいいっすけど、ウチを邪魔立てする奴は、殺してもカマワナイッスヨネ………


「五月蝿いっす………」


「何だと!妖精族の恥晒しが………」


「ウィンド・ブレード」


 五月蝿い口は黙らすに限るっすね。あまりに五月蝿いから、ウチのブレードが火を吹いたっす。美しく刈り取った首が鮮血をぶち撒けながら宙を舞うのは、中々趣を感じるっすね。そう思い、かかる血を手に取り舐めとった。


 ダーリンの血の味も嗜んでみたいものっす。きっとさぞ美味しい血だと思うっすよ。


「あ、あああっ!俺のダチが………同族殺し!同族殺しが現れたぞ!」


 この世界では、余程の理由がない限り、妖精に限らず、同種族の者を殺めるのは御法度っす。同族殺しを一度でも犯してしまうと、地の果てまで同胞に追われて、始末されてしまうっす。これは殺された同胞の弔いというよりか一族の恥を他種族に曝さないための公的な措置という側面が強いっすけどね。


「無闇な殺生なんて、するものじゃありませんよ」


「あんたはウチ、ウチはあんたっす。お前には一生言われたくないっすよ」


「………一人芝居というのは、あんまり面白いものではありませんね、レイナさん(わたし)


「じゃあ最初からするなって言いたいっすね、ハイル(わたし)


「人間に唆されたか、この大罪人が!」


「ここに来た人間の小娘と男も大罪人諸共殺せ!これは人間からの戦線布告だ!レイナを唆した人間どもにも容赦は無用だ」


「「「「殺せ、殺せ、殺せ」」」」


 1人の妖精の言葉で森中の妖精が集まって来たっす。妖精さんは暇人っすね。高々1匹の命が奪われただけなのに、全員敵意むき出しで臨戦態勢っすよ。


「ウチがやるっすよ、ハイル」


「レイナさんの好きにしていいですよ。元々自分の尻拭いは自分でしてもらうのが当たり前ですから」


 まあ、ウチも喧嘩を売られたからには買うんすけど。ダーリンを殺すと言われて、尻尾を巻いて逃げる腑抜けではないっすよ。ウチは。


「裏切り者、レイナを血祭りにあげるの………」


「ダークフレア」


「ギャャャャャャャア!熱い熱い!あ………つ…い」


 ウチの黒炎に焼かれ、妖精が1匹燃え尽きる。


 ハイル同様、ベルフェの魔法は標準装備なんすね。んじゃ、次は、


「ウィンド・ゼロ」


 元、妖精一のウチの高速移動について来れるっすか?


「更にブースト、ダークフレア&バリア!」


 目にも留まらぬ高速移動ならぬ超速移動! 景色が見えないっす。


「エアスライサー!」


「グワァァァァ!」


「うぁぁ!」


「あがぁ!」


 超速移動からの真空波による全方位射撃!相手は死ぬっす!


 この身体は魔法だけでなく特技も光るものがあるっすね。もっと使い込めば、色々と応用が利きそうっす。






「ひっ………ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「さっきまでの威勢はどうしたんすか?」


 妖精は森の長老を残し、全員ぶっ殺したっす。元同胞を殺すのは心が痛んだっすけど、仕方ないっすよね?お前らは女神とその愛人のダーリンに喧嘩ふっかけたんすから。殺されるのは当然っす。





「…………お、お前………今に天罰が(くだ)るぞ…お前など、死んでいった同胞たちに呪い殺されてしまえ!」


「天罰?ウチは神を落す女神っす。女神は神っすよ?天罰なんて降る訳ないじゃないっすか」


「何を………言っているのだ!」


「死んでいくお前に、特別に教えてやるっす。ウチは嘗て聖域を守護していた女神、ベルフェ・アルカディア。今は訳あってウチ、レイナと………」


「人間である私、ハイル・グランツの身体を使わせていただいております。全てはバスティア様の為に………今の私の目的は簡単に言えば、バスティア様と私だけのハーレムを作ることです」


「女神ベルフェ………聖域………そんなもの書物の中の伝説に過ぎん。嘘をついて儂を騙すつもりだろうが、儂はそんな稚拙な嘘には騙されんぞ!」


「じゃあ現実で考えてみるっす。このウチ、レイナが禁忌を知っていながら仲間を殺めるっすか?それに、ウチが忌み嫌っていた人間に今味方している根拠は?え?え?え?」


「はいはい、落ち着いてくださいよ、レイナさん(わたし)………私がレイナさんを勝負で負かしたとはいえ、その程度でレイナさんが仲間を殺めたり、種族を捨ててまで、見下している筈の私たちに味方する道理はないですよね」


「本当………だというのか?」


「ウチは」


「私は」


「「この世界を統べる神となる者………ベルフェ・アルカディア」」



「証拠はあるっすよ」


 ウチは腕を構え………


「証拠はありますよ」


 ウチは魔方陣を展開する。



 最終技(リミットブレイク)ーアウトレイジー


 赤い光が全てを呑み込む。


 妖精の森は跡形もなく吹き飛び、後には上空に逃げたウチと私とダーリン、そしてぽっかりとクレーターが残るのみだった。


「女神の力は天下無双っすから。こんなちんけな森の一つや二つ、簡単にどうにでもできるんすよ」


 ウチは敢えてレイナの方でそう言い捨て、大好きなダーリンの元へ向かっていったっす。


「何があったんだ?理解が追いつかん!」


 ダーリンはハイルの方が抱えていたっす。ずるいっす、後釜であるウチにも抱かせるっす。


「ダーリン、あの勝負の時いなかったですよね。どこいってたんですか?」


「便所」


「ダーリンは相変わらずデリカシーがないですね。でも、そんなダーリンも大好きです」


「なんだ?ハイルの物真似か?」


 私の様子を不審に思い、首を傾げるダーリン。


「ウチの所為っすよ」


「お前はレイナ⁉︎」


「いやいや、そんなに身構えないでくださいっす。ウチはもうあんたの知ってるレイナじゃないっす!」


「あれにベルフェの魂を分けて入れたから、魂の量が減った分、魂がハイルに引っ張られちゃって、ハイルの性格とか仕草が反映される様になったんですよ」


「え?マジっすか、怖いなお前。複数人に魂入れられんのかよ」


流石に怖かったのか、ダーリンは私から離れる。でも、此処は


「ダーリン、貴方飛べませんよね………」


「あ、やべ。うわぁ!」


 飛べないのを考慮に入れておらず、高高度から垂直に落下するダーリンを、ウチが受け止めにいく。


「ヒェェェ!」


「ダーリン!」


「ベルフェ! ウォォォ!」


 ダーリン………さあ、ウチの手を!


「早く掴んで!ダーリンが死んじゃう!」


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」


 ダーリンが必死に足をバタつかせ、ウチの手にしがみつこうと粘っているっす。こんな場面でこんなこと考えるのは変っすけど、こんな赤ちゃんみたいなダーリンを見られて、ウチ、幸せっす!


「ダーリン!」


「ひぃぃぃ!」


 なんとかウチの方からダーリンの手を取り、ダーリンが地面とキスするのは免れたっす。ダーリンとキスしていいのは、ウチだけっす。ダレニモダーリンハワタサナイッス。


「ダーリン大丈夫っすか?」


「死んだと思った………」


 あー………気持ちいい………ダーリンがウチの温もりを感じてくれているっす。ダーリンの所為でウチ、母性が湧き上がってくるっすよ。


 うヒヒ………ダーリンのお母さんも悪くないっすね。


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