32話 傀儡のシーラス王女〜シーラス陥落〜
「私も少々身体を動かしたいと思いましてね、貴女方にお相手をと訪ねて来た次第です」
「あの娘がベルフェだ! 見た目が村娘だからと油断するな! 彼奴の力はあれでも健在、常に数的優位を活かす様に意識しろ!」
残った聖騎士たちは、一丸となって、のこのことやって来たベルフェを取り囲む。
「聖騎士さんたちも動ける様、今は力を抑えています。精々ウォーミングアップの役に立ってくださいね」
「ご主人様!俺たちはどうすれば良いんだ?」
傷が全快したアーデルは、ベルフェを憧れの眼差しで見つめている。
「私のウォーミングアップの邪魔が入らない様に、ソフィアさんらを適宜牽制していてください」
「はい! ………おい、チビたちもご主人様の戦いを観戦するぞ! ご主人様の戦場を舞う姿、一度見てみたかったんだ〜♪」
「わたしも見たい、シエル姉さん」
「そうだね、わたしもだよ、ノエル」
◆◇◆◇◆
「者共、かかれ!」
「「「「ウォォォォォ!」」」」
俺は今、ご主人様の戦いの様を見届けている。
「それで一つになったつもりですか?烏合の集が」
ご主人様は前傾姿勢で前進を開始した。先ずは前進した先の聖騎士の頭を押さえ付け、膝蹴りを顔面に与える。
「がぁ!」
続いて、両脇から挟み撃ちをかけてくる聖騎士2人に、
「シャドウ」
黒い霧を放出する、目眩しの狭域魔法をかけ、周囲の連中の視界を閉ざす。
「見えんぞ! 小賢しい霧だ!」
「何処だ! 何処にいるのだ!」
「剣を振り回したら危ないですよ」
ご主人様は目眩しをした聖騎士の1人から剣を奪い、そのままその騎士を斬り裂く。
「女の子の手には余りますね」
直ぐ様もう1人の聖騎士を斬り裂いた後、聖騎士の群れに飛び込むご主人様。
「真空波」
ここで、ご主人様は今思い付いた剣を使った魔法を使い、剣から放たれる風の斬撃で周囲の聖騎士たちを巻き上げ、斬り刻む。
「話になりませんね。それでも聖域の守護者ですか?」
俺が意識を現実に戻した頃、ご主人様の背中には、数多の聖騎士たちの屍が転がっていた。
「ご主人様、カッケェ!」
◆◇◆◇◆
「ベルフェ、貴様ァ!よくも仲間を!」
「激昂なんて醜いですよ、女神さん」
私は怒りに身を任せ、ベルフェの立つ方へ走り出した。
「ウォール・オブ・グレート」
ベルフェは前回合間見えた時に使ってきた魔法、ウォール・オブ・グレートを用いて、防御を固める。
「また小手先の手で逃げるのか! 光の矢!」
私の光魔法で、現れた岩の壁を砕く。
「ベルフェ! ベルフェ!」
狂った様に、私はベルフェの名を連呼した。もう、私の頭の中には、ベルフェに対する怒りと、恨みしかない。
「私が逃げる? 私は前回、戦略的撤退をしたまで。そしてそれはそのまま………」
「がはぁ………」
岩の陰から突如出て来たベルフェに、我を忘れた私は不意を突かれ、
「今に活きている」
私の胴体は剣で貫かれた。血を吐き、剣を支柱にぶら下がっている私を、ベルフェはそのまま投げ捨てた。
「ひぃ…………スフィアさん!」
薄れ行く意識の中、目の前の現実に恐怖し、腰を抜かしているブルーラが見えた。
「女神はざっとこんなものですか。後は………」
「やったの? ベルフェゴール」
「シーラス王女、生まれ変わった気分は如何ですか?」
「気持ちいいわよ。この世が全てどうでもよくなったわ。ベルフェゴール………」
私たちの希望は、全て絶たれた………
◆◇◆◇◆
「シーラス王女まで………うわぁぁぁぁぁ!」
わたしは恐怖に慄き、逃げ出した。正義は朽ちた………アーデルは敵に堕ち、聖騎士たちは皆殺しにされ、ソフィアさんも倒れた。極め付けは国民からの信用の失墜………もう、終わりだ。
「逃げるなんて、正義の味方として、最低の行為じゃねぇのか?」
わたしの逃げ道を塞いだのは、敵になったアーデルだ。
「恐い………逃げたい………」
その言葉を聞いたアーデルは、
「ひひひ、ほらぁ、通れよ、醜い敵前逃亡者さんよ!」
「あ………あぁ」
道を開けてくれた。
「やっと………逃げられる、ニゲラレル………」
「そうやって、全てから逃げちまえ………」
「ニゲル………コワイ………ニゲル」
ニゲル、ニゲル、ニゲル、ニゲル
◆◇◆◇◆
「ご主人様! このブルーラを可愛がってください!」
「よしよし、いい子ですね」
「クゥ〜ン、クゥ〜ン」
四つん這いになって首を垂れるブルーラのマリンブルーの髪を軽く撫でてあげます。気持ち良さそうに後輩が鳴く姿は、戦略家の先輩として、慈愛を唆られますね。
「遂に女神様も奴隷にしたっすか。ハイルは相変わらず恐ろしい奴っす。敵に回さなくてどんなに幸せなことか、見ていてよくわかるっすよ」
「わたくしに感謝しなさい! わたくしの交渉があったからこそ、あそこまでスムーズにことを運べましてよ!」
「といってもあれ、ほぼ身勝手な買収じゃないっすか。何でもかんでも直ぐに金貨をばら撒くのはどうかと思うっすよ?」
「あ? 妖精の分際で、高貴なわたくしの策に意見しますの?」
「ブリュンヒルデの策は名ばかりのただの権力の乱暴っす!」
「ほんと、ブリュンヒルデとレイナは仲悪いわね」
ガミガミ、ワチャワチャ………
因みに今、私たちは、城の地下で軽い戯れをしています。
「ご主人様、ブルーラだけじゃなくてよ、この俺も可愛がってくれよ!」
「後でも宜しいですか? そろそろ時間なので」
「こんなに待たせてまだ焦らしプレイをするのか! 全く、ドSなご主人様の言うことを聞くのは堪えるぜ」
少し待っていると、シーラス王女………エルザ・シーラス・マモンが下卑た笑みで部屋の中に入って来ました。
「エルザさん、準備は整いましたか?」
「ええ、国民は私の配下の者を使って集めておいたわ」
「ククク、さて、最後の仕上げですよ」
私はシーラス王女と共に、大衆の面前へと赴くのでした。
◆◇◆◇◆
ザワザワ、ザワザワ………
「皆さん、聞いてください!」
シーラス王女が皆の前に立ち、演説のスタートラインをきります。
「私は、悪い女神たちに騙され、先程まで、誘拐されておりました」
「何ということだ!」
「矢張りあの女たちは悪魔の使いだったのだ!」
「では………町で暴れていたあの者たちは」
「あの方たちは、国の異変にいち早く気付き、私を魔の手から救い出してくださったのです。町で暴れていたのも、女神たちの気を引く為の、陽動です!」
「あの方たちこそが、真の正義ということか!」
「私たちの国を、あの方たちが救ってくれた!」
ウォォォォォォォォォォォォ!
シーラス王女の言葉の重みは、国民たちを信じ込ませるには充分過ぎますね。
ククク………私の野望の成就は、後少しです………
私はほくそ笑みながら、闇が照らす道を歩んで行く。
もう、私を止めるものは………
いない………