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29話 シーラス攻防戦 その4


 城の中マリンブルーの長髪をたなびかせる少女がいた。


◆◇◆◇◆


「おい………助けてくれ………」


 シーラスの最奥に位置する居城。背後は断崖絶壁になっており、飛行魔法なしでは近づくことすらままならない。


 しかし、その飛行魔法すら、仕掛けられた対空魔法陣の毒牙にかかってしまうので、事実上、背中への奇襲は不可能だ。


「敵が………雪崩れ込んでくる………俺……単騎じゃ…………止められなかっ……た」


 玉座の間に現れた、血塗れのアーデル。息は絶え絶えで、翼もボロボロ。彼女は今にも崩れそうな身体を持ち前の精神力で支えていた。


「アーデル! 誰にやられたのですか!」


「ブルーラ、ベルフェで………ベルフェが………此処に………来る……」


 わたし、ブルーラ・メイリはアーデルと同様、ベルフェを迎え撃つべく、シーラス王女から雇ってもらった女神だ。


「まさか! 一人でベルフェと戦ったのですか?わたしも一緒に戦うって言ったじゃないですか!」


 わたしの叫びを聞いたアーデルは、わたしの手を力なくとり、微笑を漏らした。


「へっ………お前なんか要らねぇよ………」


「なんで………そんなにボロボロになって帰って来て何を!」


「そりゃ、決まってんだろ………」






「お前なんかと行ったら、ご主人様の奴隷候補が無駄に一人増えちまうだろうが!」


「アー………デル?」


 アーデルのエルガオンが、わたしの胸部を深く斬り裂いた。


「ご主人様には俺だけを可愛がって欲しいからな。クゥ〜ン、クゥ〜ン、犬みたいに………地にへばり付いて………あははは! あはははははは!」


 わたしは狂ってしまったアーデルを見上げ、その場に崩れ落ちた。


◆◇◆◇◆


「ご主人様、後は姫だけだ。ご主人様が手を汚す前に、ご主人様の奴隷である俺が方をつけるぜ」


 アーデルは躊躇なく奥にある玉座を包むシルクのカーテンを焼き切る。


「あれ?」


 だが、玉座はとっくにもぬけの殻であり、姫は脱出したあとだった。


「ブルーラ、姫をどっかへ行く様、手引きしやがったな?」


 アーデルは血塗れの身体を庇いながら、踵を返し、此方のいる方へ近づいて来る。


 そう………アーデルの言う通り。ヘルシャフトに味方が洗脳されて、スパイとして此処に潜り込んで来ることは考えられた。こう考えたわたしは、スパイの足止めとして、自分自身を此処に残し、敵のターゲットであるであろう姫様を城から逃がした。


 ベルフェが此処に来ることはわかっていた。敢えてわたしたちの気配をちらつかせ、釣り上げようと目論んだのだから。


 しかし、目論見はとんだイレギュラーを生み出すきっかけを作ってしまった。油断した友人の独断先行、そして、その友人が今、わたしの前に敵として立ちはだかっている。


「ご主人様のお手を煩わせてしまうじゃねえか。どう落とし前つけてくれんだよ!」


 アーデルは怒りに満ちた表情で剣を振り抜き、此方に迫って来る。


『それじゃあ、今までと変わらないわよ、アーデル』


 アーデルの剣がわたしの額を小突く時、聞き憶えのある女の声が城内に響き渡る。


「あ♡ ご主人様の声だ♡ 脳がビリビリして気持ちいい!」


 アーデルは得物である双剣を興味を失った様に地に放り落とし、両手を耳に当ててベルフェの声を聞くことに執心する。彼女の頭に聳え立つアホ毛が、嬉しさのあまり、小さなダンスを奏でている。


『そう、頭が熱くなったら、私の言葉を思い出して。いいわね』


「はい、ご主人様!」


『いい子ね、今回は貴方の為に、特別な講習もしてあげるわ』


「え?どんな………うぐっ」


 声が止んだと思いきや、苦しみだしたアーデル。喉に手を当て、踠き苦しんでいる。


「ふぅ………ふぅ………ククク」


 少し経って、苦しみから解放されたアーデルの表情は、不気味そのものだった。


 アーデルは以後は無言で、足元に落ちたエルガオンを拾い、それを眺め、ジロジロと吟味していた。


「こんなものか………」


 そう吐き捨て、再び身構えたアーデルの纏う空気には、異様なものが流れていた。今までのアーデルのものではない、フィールド全体を支配する、幻視をしてしまう恐怖を生み出す程の力。見えない力に、わたしは今にも潰されそうだ。


「女神の身体も久しぶりね。やっぱり元同族の身体は馴染むわ。基礎能力が段違い。ほらぁ!」


 アーデルは他人事の様に自分を評価し、双剣の片割れを地に疾らせ、巨大な火柱を横に吹き上げる。燃え盛る炎は、一帯の壁を燃やし、美しかった城を、無惨にも破壊してゆく。


「ねえ………」


 アーデルは満足気な顔で此方に再び歩を進めて来る。いや、彼女はもう、アーデルじゃ………


「ベルフェ………!」


「ふん、元々隠す気なんかないから、同胞の変化ぐらい、直ぐに見分けられて当然よね」


「お前、地上の連中だけじゃなくて、わたしの友人まで弄ぶのですか!………とんだ外道に成り下がりましたね」


 外道という言葉に反応してか、ベルフェはアーデルの顔で下卑た笑みを浮かべる。


「勝つ為なら何でもするのが私のモットーよ。汚い手だろうが、なんだろうが、勝った奴が全てを支配出来る!私を真似たつもりの戦略家気取りの女が、私に意見するなんて1000年早い!」


「確かに………お前を真似て戦術論を学んでいたのは事実です。ですが、わたしは正義の下に、蓄えた力を行使しています。対してお前は、己の欲に絆され、崇高な戦術論を穢し、不幸ををばら撒いている悪そのものです。わたしは悪になど屈しない!この窮地を、嘗ての英雄、ベルフェ・アルカディアを、ここで超えてみせます!」


◆◇◆◇◆


「バスティア様ぁ、ベルフェゴール様なんて置いといて、私と結婚してしまいませんかぁ」


「グランツの奴、また出て来たと思ったら、ダーリンを求めて、幻視、幻聴の中、徘徊しているっす」


「えへへ、ベルフェゴール様がいない間に、いいこと一杯しましょうね………」


「ベルフェゴール、早く戻ってくるっす………」

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