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28話 シーラス攻防戦 その3

 わたしの剣は、彼女のショッキングピンクの前髪を掠める。アーデルがわたしの剣を気で押したことで、剣が彼女の頭をかち割る前に止まったのだった。


 そして、千切れた髪は宙を舞い、アーデル自身の炎に焼かれ、霧散していった。


「ぐっ!あぶねぇな!いきなり出てくんな!」


「勝負の世界にそんな言い訳を持ち込むのはタブーよ。死んだら全て無価値に終わるんだから。過程なんて意味はない。死人に口なしというでしょ?つまりそういうこと」


 わたしは剣に魔力を込めて、もう一度振るう。


「だから御託はいいって言ってんだろ! ネチネチうるせーんだよ! 理屈でものを語るインテリは嫌になっちまうぜ」


「あんたもシェキナーガと同じね。力のベクトルを違え、単細胞で物事を動かせないと思い込んでいる残念な奴。真の戦いってのはね………」


 わたしは一旦アーデルから距離を離した後、次元の亀裂を開き、中から瓦礫を飛ばした。


「手段を選んじゃいけない。わたしの思い描く力のベクトルは、敵の心理を侵食する力、恐怖の力、それさえあれば、わたしの様に搦め手で戦局をコントロール出来る。シェキナーガも、あんたも、わたしの理想とは対照的な、失敗例なのよ」


「こんなの、結局は力攻めと変わんねえよ! 屁理屈捏ねてる暇あんなら、向かって来やがれってんだ!」


 アーデルは裂け目から降り注ぐ岩塊を炎の渦を振り回して焼き尽くす。


「ほら、もう周りが見えてないわよ」


 わたしは渦の間から手を伸ばして、アーデルの肩に触れる。


「自分の力を誇示したい………中途半端な力を持つ奴は、こういったナルシズムに酔い痴れているから、人の話を聞こうともしない」


「てめっ! 離しやがれ!」


「次元幽閉ーディメンション・ホールドー」


 アーデルは次元の狭間に飲み込まれた。


◆◇◆◇◆


「此処は………」


 目が醒めると、摩訶不思議な空間にいた。ぐにゃぐにゃに湾曲している、ディープブルーの空間を見ていると、気分が悪くなる。


「ベルフェ! 何処にいやがる! コソコソ隠れてインテリ気取ってんじゃねぇぞ! 出て来やがれ!」


「ククク……あんたが出て来なさいよ。あんたはわたしの手で閉じ込められているのよ。わたしがむざむざと敵を解放する訳ないじゃない」


 空間の外で、俺を嘲笑うベルフェの顔を想像するだけで、俺の苛立ちは募っていく。付け焼き刃の他人のスキルで俺を捕まえることが出来ると考えている、その甘っちょろい考えにもだ。


「俺の力があれば! こんな結界紛いの異空間なんて」


 消し炭に変えてやる。テメェのその相手を見下した様な巫山戯た余裕も、この小賢しい空間も、そして、ベルフェ、裏切り者の愚劣なお前もな!


火炎滅却(オーバーロード)!」


 俺は双剣エルガオンのみならず、全身を烈火の炎に包んだ。暗闇の空間には、俺という光が灯り、俺の周囲には灯が生まれた。


爆裂(バースト)!」


 この言葉を引き金に、俺の魔力を爆発させる。


 爆風により、空間にヒビが入り、崩壊が始まる。


「どうだ! 俺の魔力を舐めやがって! テメェの付け焼き刃じゃ、所詮時間稼ぎに過ぎなかったな!」


と、粋がってはみるが、かなりしんどい。空間の脱出に、大量の魔力を投資したからな。だが、彼奴もそれなりのスキルを使ったのだから、五分と五分の筈。それなら、俺の方が強い。


 空間がガラスが割れる様に崩れ去り、本来映る風景である、シーラスの町並みが露わになった。


 しかし、肝心のベルフェの姿が見えない。


「いつまで逃げる気だ!出て………」




「ほら、また油断した………」


「ゴプッ………」


 俺の腹部を、ベルフェの持つ、鋼の刀身が貫いている。


 後ろから、そのベルフェがにやけた顔をしながら、俺の耳元で………


「だめ、全然足りない」


と囁いた。


 ベルフェは刀身を引き抜いた後、俺を蹴り落とし、地面に叩きつけた。


「あ………うぁ………」


◆◇◆◇◆


 俺は地面に仰向けに倒れている。


「う………ぐぅ」


 腹部は大量の血が溢れ、背中を中心に、煉瓦のフィールドに赤い血溜まりの絨毯を作っている。


「わたしの勝ちねアーデル」


 ベルフェは先程まで付加していたウィンドの魔法を解き、俺の腹部に、鉄の鎧で固められている足を乗せる。


「あ!あがぁぁぁぁぁ!」


 痛過ぎて言葉にもならねぇよ。


「あんたの敗因は、わたしの力を分析しようともせず、自分の力を過信したこと」


 俺を見下すベルフェの瞳は、今まで見た奴等なんて比にならない、言うに言われぬ冷たさを秘めていた。


「さっきの空間だって、出口あったのよ?」


「なん………だ………と?」


 俺の言葉を不快に感じたのか、ベルフェは眉を顰め、俺の腹部に身体の重心を寄せた。


「うがぁぁぁぁぁ!」


「わたしの独壇場にお前の声は要らないわ」


ベルフェは刀身についた血を払った後、脇に下げている鞘に、使っていた剣を仕舞う。


「あのスキルは元々移動用なの。あんたが捨て身で爆破させる価値もない、補助魔法の一種。つまり、あんたはわたしとの駆け引きに完全に負けてしまったのよ。残念だったわね、もっと広い視野を持てば、わたしと良い駆け引きが出来たかもしれないのに」


 なんだよ………さっきから、まるで勝ち誇ったかの様な態度をとりやがって!


「これでダーリンに褒めてもらえる………」


「⁉︎」


 お前、その惚けた顔は何なんだ。まさか………ずっとダーリンとやらにうつつを抜かし、上の空で俺と戦ってきたのか!


「うぐぐ………」


許せねぇ! 俺を舐める奴は、どいつもこいつも、俺が全員、死んでもぶっ殺してやる!


「お前も道連れだ!」


「ん?」


 俺は残った魔力を全身に溜め、身体中を爆発物質に変換しようと試みる。


 せめて、世界に仇なす敵の足を一本でも!


「ハハハ!何でも思惑通り行くと思うなよ!」


「…………………」


 ここまでやっても澄ました面は変えないのかよ。


 なら、澄ましたまま………⁉︎ 死ね!


 だが、俺の願いは叶わない。


「グハァ………」


「手を出すなってあれ程釘を刺しておいたのに、短期ね、マナ」


 俺の意識を飛ばすのに、決め手となったのは、飛び込んで来たもう一人のベルフェによる肘打ちだった。


「ふん、悠長なのは好かんからな。決める時に決めて欲しいものだ」


 ケッ………結局………俺は、無様に犬死にかよ。


 俺の意識はこれを最後に、闇に溶けていった。


「自分を犠牲にしてまで手にしたい正義って、一体何の意味を持っているのかしら。ただの無意味の残骸じゃないの? ………くたばった奴に言ったところで、虚しいだけか」


◆◇◆◇◆


「ご主人様?」


 目を瞑り、意識を集中させている私に声をかけて来たのは、ランでした。


「進捗状況はどうですか?」


「はい! ブリュンヒルデ様が上手くやってくれています!」


「そうですか、なら、このまま計画続行です」


「はい!」


 アナスタシアを使って、アーデルの奴は始末しました。


 この勢いに乗って、一気に本陣を叩き、敵の頭を獲るとしましょう。

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