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24話 カエサル・ルシファー

「ボクの身体、可愛いかい?」


 起き上がったカエサルはローブを惜しげもなく脱ぎ出し、色白の上半身を曝け出す。


「えへへ、ローブ脱ぐの恥ずかしいけど、バスティアの為なら羞恥心なんて投げ捨ててしまいたくなる」


 ローブの下は最低限の下着のみであり、覆う衣服を失った上部は、鎖骨や小さな胸が見え見えであった。


「この辺境の地にもエルフがいるのですね」


 銀髪のロングヘアーに、エルフの象徴である尖った耳。最初、フードを被っていた時は目測することが出来なかったカエサルのプロポーション。


「可愛い………ホォォ!」


 カエサル自身がベールを脱いだ、ベルゼブブ顔負けのフェアリーチックなあどけなさが残る可愛らしさを目前で目にして、俺は悶絶しそうになった。


「ダーリン⁉︎ 鼻血出てます!」


「ボクが可愛い? 可愛い! ふひひひ、ボクの身体、使えるんだぁ………もっとバスティアに見てもらわないと。他の女なんて目に入らなくなるぐらいに!」


「完全にカエサルを取り込んでしまった反動で、理性のタガが完全に外れてしまったのですね。新しい発見です。身体を余すことなく明け渡してもらうとこうなるのですか」


「ボクはバスティアのもの、バスティアはボクのもの………誰にも渡さない」


 カエサルの瞳の光は消え、己の感情を俺への独占欲で焦がしてしまう呪詛を垂れ流している。


「カエサルさんはまあ、このままでもいいかもしれませんね。下手に性格を生前のものに合わせて卑屈になられても動かし辛いですから」


 ベルフェゴールは気の抜けた表情で、やれやれと、溜め息を吐く。


「ご主人様! 只今戻りました!」


「ルナさんですか。魔法陣は必要ありませんでしたよ。この人は最期まで気を私に許していました。私は考え過ぎるのが欠点ですね。こんな欠点がある様では、私の器量もまだまだ未熟です」


「確かにご主人様はこんを詰め過ぎることはありますが、それでも………奴隷の私を使い潰してくださる方は、貴女様だけです」


 ルナは憧れの存在を見る、輝きを纏った目で、悩みに耽るベルフェゴールを宥めた。


「………そうですね」


 ベルフェゴールは微笑み、外見にもほぐれた気持ちで砂の大地を踏みしめる。


 見上げる空は夕焼けに焼かれたブラッディレッド。ベルフェゴールにとっては、闇への入り口へと向かう太陽が、俺と彼女が描く暗黒世界の入門の瞬間と重なり合っている。


「ご主人様、帰り道もしっかり確保してきました」


「言われなくても、唯一無二のレアスキルを持つ貴女は重用してあげますよ、ルナさん」



「使い潰されたい気持ちなんて、俺には理解出来んよ」


 俺は洗脳の所為とはいえ、自分を捨ててまで主人に努めるルナを理解出来ないでいる。きっと、理解したくとも、理解出来ない。彼女と同じところにまで堕ちない限りは。


「バスティア様にわかってもらえなくても構いません。言ってしまえば、私は最早、意思から乖離した、何かの引力に引かれているだけです。つまり、動く身体と使える能力、上っ面だけのコミュニケーション能力を持っている、魔力充填式の機械なんですよ」


 笑顔で機械だのと意思がないだのとのたまうルナは、目に生気が宿っていないのも相俟って、痛々しく、恐ろしく見えた。


 だが、俺の恐怖は所詮そこまで。俺はヘルシャフトにもう甘んじてしまっている。甘美な味を占めてしまっては、俺に集る恐怖は、虚飾にさえ感じてしまうのだ。そんな俺には、奴隷となる前のルナの想いや、恐怖なんかを理解するには、既に程遠い場所にいた。


◆◇◆◇◆


 ボクはバスティアの妻、カエサル・ルシファー。ルシファーの性は、バスティアにさっき付けてもらった。とっても気に入っている。


 今は、今まで自分を隠してきたフードを破り、有りの侭の姿でバスティアを愛そうとしている。


 昔のボクはもういない、死んだんだ。ボクはベルフェの魂を注がれ、カエサルの魂を喰らい尽くして生まれた愛の化身。ボクはバスティアなしじゃ、生きていけない。


 ボクはバスティアの為なら何だってする。バスティアに死ねって言われたら醜く死ぬし、誰かを殺せって言われたら、躊躇わずに、誰だって手にかける。ハイルたちだって例外ではない。


 もし、お前らでも、ボクからバスティアを奪ったら、


 その時は………


 コロシテヤルカラナ………



「着きました!ご主人様!」


 バルバール砂漠から、拠点の馬車へとボクたちは帰って来た。厳密にはボクはここに来るのは初めてだけど、ベルフェゴールたちと記憶を共有していて、新鮮味がないからこう言わせてもらおう。


「終わりましたの?」


「其奴がカエサルか。此奴はダーリンのお気に入りになりそうな人材ね」


 此処に来るなり、ボクは騎士二人から手厚い歓迎を受けた。別にどうでもいいが、社交辞令はしっかりしておく。


「カエサル、服をずっとはだけさせていたら、風邪を引くぞ」


 エルフは持ち前の耐性故、そんなに簡単に病気にはならないが、バスティアが心配しているので、素直にローブを着直す。


 勿論、首元の露出を増やし、フードを被らない様にして、自分を魅せることを忘れない。


「ボクは可愛いでしょ?」


 カエサル………君の容姿、心行くまで堪能させてもらうよ。


 全てはダーリンの為に………


◆◇◆◇◆


 私………ベルフェゴールはオセアンに向け、宝具………侵略者(プレデター)を振りかぶる。


 そして………力一杯に振る………


 目の前に流れる滝が真っ二つに裂けると同時に、村が吹き飛んでいきます。


 私の手を煩わせた罰です。

これでオセアンの話はおしまいです。次回からは新展開です。お楽しみに!


※ちょっとキリが悪かったので、章のエピローグ的な話を挿入しました。

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