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23話 カエサルの懺悔 後半

 ボクは唯一の親友であった彼女だけでも救いたかった。


 誰からも忌み嫌われてきた、一匹狼のボクに初めて接してくれた異端児。だが、当時ミーイズムとなっていたボクは最初、自分から彼女に接しようとする気力はなく、彼女から追われは逃げる、彼女から逃げれば追われるのイタチごっこをしていた。


『お前は寂しいのではないのか?』


『わからない、ボクは沸き立つ願望に乾き、飢えているのか、嫌われるのを恐れ、恐がっているのか、それとも、僕が自身が誰も寄せたくないのか………キリのないエモーショナルな思考の連鎖にハマると、何もわからなくなるんだ。自分だけの偏狭な世界に生きていると、己すら制御出来なくなるものだよ』


『ならば………』




『私が世界を見せてやる』


 ボクに世界を見せてくれた彼女。占いで客観的に見ただけの心象風景を謳うのではない。主観に立ち、自分の目で直接見たそれぞれの情景を、自分の空っぽだったメモリーに溜めていった。その見返りとして、彼女にボクの占いの力を用いて、彼女の国を襲ってくる敵や、その規模の予言をしてあげた。


 彼女は見返りなんて社交的なものは要らないと言っていたが、せめてものお礼だと言って、渋々通してもらった。




『貴女がカエサルさんですか? 私はルナ。今日は貴女が色々と巡りたいと聞き、貴女方を送るように頼まれて参じた次第です』


 新たな友達も紹介してもらい、ボクの人生は、荒みきった味のないものから、順風満帆なものへと昇華していく。


 ボクたちは今後もずっと一緒だ。そう楽観視していたのはつい最近。


 だが、幸せの終わりの時は直ぐに訪れた。


 ボクは彼女に手を伸ばそうとはせず、嘗てない過酷な戦いに身を投じようとする彼女に、忠告という名の言葉の羅列を漠然としたきり、ただ指を咥え、悪戦苦闘する彼女をただ見ていたに過ぎなかった。


◆◇◆◇◆


『ククク、魔力の充填は完了しました』


『その光は、宝具………』


 ベルゼブブに羽交い締めにされ、毒にも侵されて、身体の自由も利かないマナには、ベルフェゴールの儀式の一部始終を黙って見ているしかないというのが現状であった。


『貴女の身体はさぞダーリン好みなのでしょうね………正直、ダーリンを傷つけたことは許せませんが、一生ダーリンのものとなるなら、贖罪としてはそれなりといったところですか』


『確かに俺のニーズには合っている』


 一人で納得したベルフェゴールは、例によりヘルシャフトを天高く掲げて、詠唱を開始した。


 計り知れない魔力の鼓動が地を揺らし、割れた岩の破片がベルフェゴールの周りに浮かび上がる。大気にまで干渉が行き届き、空が鳴く頃、ヘルシャフトの光は全てを飲み込んだ。


『やめ………………』





『さあ、身体を明け渡してください』



『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』





 カエ……サ………ル、ご………め……ん………な




◆◇◆◇◆


『この身体、不思議な力が溢れている』


 立ち上がったマナは右腕を上下に振り回す。力を確かめる様に。


『如何ですか? 調子は』


『毒は未だ効いているが、それ以外は悪くないぞ?身体は至って正常に働いてくれそうだ』


 マナは腕を組んで自慢げにベルフェゴールに感想を語った。


『お、そうだそうだ、あんたがこっちに与してから聞きたいと思っていたんだ』


『ダーリン♡ 私に聞きたいことがあるなら、何でも聞いてくれ。妻である私が優しく耳打ちしてやるぞ』


 マナはバスティアの姿を視認するなり、目にハートマークを浮かべ、犬の様に尻尾を振って彼に靡く。其処には嘗てのオセアンの英雄の、勇猛な戦士としての姿はもうない。


『お前は一体、どうやって俺たちの正体を嗅ぎつけたんだ?下調べはして来た。あんたが手練れといっても、そう簡単に尻尾を掴まれる程、俺たちは致命的なヘマをした憶えはないのだが』


 マナは一泊置いて、


『占い師カエサルだ』


と、静かに言った。


『ほう、カエサルとは貴女の………』


 ベルフェゴールは頭に人差し指を当て、軽く目を瞑る。共有されて来たマナの情報を整理しているのだ。


『カエサルは私の友人だった。見返りと称して、随分助けてもらったよ。彼奴がいたから、今の英雄としての私がいたといっても過言ではない』



『だが』



『それとこれとは話が違う。ダーリンのものとなった今の私にとって、カエサルなど邪魔な存在。我等が覇道を征く為には、デリートしなければならない敵だ』


 マナは長いアクアブルーの髪を愛おしそうに撫でながら、ダーリンにくっついている。


『ダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリン』


 彼女は顔をバスティアの平たく貧相な胸盤に埋め、光のない目で、エバーグリーンな愛を囁くのだった。


◆◇◆◇◆


『マナさん!辞めてください!』


『ルナぁ………ダーリンのものになって、ナルノ………ナラナキャイケナイノ』


『助けて!先輩!いやぁぁぁぁ!』





『うひひ、ご主人様………私はもう、貴女様のものです。ご自由に、壊れるまでお使いください』


◆◇◆◇◆


『あはははは!ダーリン、ダーリン、ダーリン!』


 臆病なボクの所為で、二人もの尊く、かけがえのない人たちの未来が失われた。もう、何も救えなかった惨めで愚かなボクに価値はないし、ボクとして生きている意味もない。


「そろそろ宜しいですか?」


「ああ、懺悔は済んだ」


「最期まで楽しかったですよ」


 ボクも行くとするよ。キミたちの元に。

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