12話 目指せ新天地
「ダーリン、今日からまた、二人きりの楽しい旅ですね」
「そうっす」
「ですわね」
「そうね」
「見た目は5人の、やや大所帯だがな」
◆◇◆◇◆
パルテ王国を我が物とした後も、まだ見ぬ地を知りたい、私の下に取り込みたいと考え、王国の巨大な情報網を用いて各地の情報を調べました。
数日かけ、私は周辺地域、更にそのまた、果ての地まで、凡ゆる情報を末端に至るまで一通り頭に叩き込みました。ですが、百聞は一見にしかず、実際に見てみないと満足出来ません。
『はい!旅ですか?ご主人様!奴隷であるシェキナーガとしては、ご主人様に此処に残って国を統括して欲しいというのが正直なところなのですが、ご主人様がそうしたいのなら、王国が滅びようとシェキナーガはご主人様のお手伝いをするだけです!』
あどけない仕草で、小さな身体をばたつかせて私への忠誠の言葉を宣誓するシェキナーガに、私は支配感の中で打ち震えています。
『大分奴隷根性が板に付いてきましたね、シェキナーガさん』
私を喜ばせたご褒美に、頭を撫でてあげましょう。
シェキナーガの金色でサラサラの髪をゆっくりと撫でてあげます。
『はうっ! ご主人様に喜んでもらえました。もっと、もっと、もっと、喜んでもらうんだ………シェキナーガ、頑張るもん………うふふふ、あはっ!』
いい感じに壊れてきましたね。私の下に着く者には、恐怖や躊躇いといった、余分なオプションは要りません。この調子で私とダーリンへの忠誠心以外のオプションは綺麗に無くしてもらいましょう。
目を細め、口元を釣り上げながら、シェキナーガの今後の歪んだ成長を期待する私なのでした。
◆◇◆◇◆
『今回目指すは、南の、此処から少し遠いところにある海の入り江、オセアンです。なんと、其処にはオセアンの民が護るダンジョンがあり、深奥には宝具が眠っているとの噂ですよ』
私は王宮の会議場に仲間を集めて、今後の旅の計画を練ろうと会議をすることにしました。
『宝具なんて既に二つも持っているのに、阿漕な人っすね、ハイルは。それとも、ダーリンと色ぼけた旅をしたいだけの単なる大義名分っすか?』
『でも、どちらにせよ、ダーリンのハーレムを築き上げるには、誰も寄せ付けない力を手に入れるのは必須よ。この淫乱村娘の思惑は余所にしても、ハイルに乗っかるのは悪い話ではないのではないかしら』
『まあ、そうっすね。ハイルのことは置いといても、宝具を確保したいという意見にはウチも同意っす』
アナスタシアさんが加入して以降、私がぞんざいに扱われているのを度々感じます。彼女みたいな新進気鋭の奴が賞賛され、古い奴は途端、手のひらをひっくり返され、下に見られる。なんと薄っぺらい関係性なのでしょうか。私はただダーリンを愛でたい気持ちで一杯なだけなのに。
そうです。ただ二発ダーリンから子宝を恵んでもらっただけです。その程度で淫乱だの、色ぼけだの言われる筋合いはないのです。
『すみませんが、一心同体であるわたくしたちが口頭でディスカッションをする必要性はないのではありませんの?わたくしたちは魂を通じて会話が………』
エイリア・ブリュンヒルデ………ブリュンヒルデ家のお嬢様で、幼い頃から騎士を志望し、15歳になった現在は、めでたく現役で騎士をしているという、戦いを嫌う傾向が強い貴族出身者としては異色の経歴の持ち主と聞いています。実力と努力も伴っていて、パルテ騎士団の中では飛び抜けた実力をもっている。俗に言うエリートです。
昨日身体を奪ったのは、正しくブリュンヒルデその人です。此奴に関しては他のメンバーにはない、家柄に着目し、実力も天秤にかけた形で最終的に選んだ形になりました。
因みに、ブリュンヒルデはダーリンからアスモデウスの性を与えられています。
新入りの彼女はピンクの艶やかなロールヘアを撫でながら、ナルシズムに染まった様子で、私に意見します。
『くだらないことを。新入りは黙っていてください………エイリア・ブリュンヒルデ・アスモデウス』
『ひいっ! ごめんなさい。空気を読み違えましたの………』
『ハイルがフルネーム呼びなんて、相当御冠ね、今』
『あれはウチらが悪いっすよ』
先程溜まった怒りを、先程まで溜まっていた怒りを新入りであるブリュンヒルデにぶつけてました。
私の怒気に気圧されたブリュンヒルデはすっかり縮こまり、震えています。少し悪いことをしてしまいました。後で謝っておきましょう。
ギスギスした肌を刺す痛い空気の中、形式的な会議は幕を閉じたのでした。
◆◇◆◇◆
次の日………
「では、行ってきますね、シェキナーガさん。今日から貴女は暫く王女様です。巧く民を誤魔化してくださいね」
「ご主人様、不肖シェキナーガ、邁進せずに使命を全うする所存であります」
門を開けると、雑多に生い茂った木々が顔を覗かせている。私たちはこれから、此処を抜け、先にあるオセアンの集落を目指します。
「おい、あんまりのんびりしてたら、お前の組んでるプランを辿れなくなっちまうぞ」
「はーい、ダーリン!」
新天地オセアンへ向け、私たち5人の乗った馬車は足を前に進め出した。