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10話 王国決戦

「アムド・ブレイク・アウト」


 セイナ王女は氷の壁の中、とある魔法を唱えた。鎧が身体から落ち、元のレースの白いドレスに戻る。唯一、三叉の槍だけが残るのみだ。


「王女様、さては諦めましたか? もしや、宝具の力を使いこなせなかったのか、或いは、宝具そのものが弱かったのか」


「………………」


 だんまりか、それでもいい。このままヘルシャフトで身体を奪い取ればゲームセットよ。


 そう結論づけ、ヘルシャフトを召喚しようと時空間に手をかける。


「妾に神速の足を授けよ」


「⁉︎」


 ありとあらゆる事象全てを置き去りにする神速の太刀。


 隙をむざむざと晒したか、


「ご主人様を守れ!」


「ウルガも!」


 盾になれ、僕!わたしを守りなさい!


「邪魔だ!傀儡ども!」


 疾る一閃。メラルバとウルガは王女の剣閃に捩じ伏せられ、二人共々地面と熱いキスを交わす。


「ぐあ………」


アナスタシアの方は、直撃は避けたものの、利き手である右腕に大きな傷を負う。深い傷を負い、満身創痍の腕では力をいれることなど到底適わず、剣を手から落としてしまった。


「ご………主じ………ん…さま」


「ウル………が…ダメ………みたい」


「他人の力を悪用した末路がこれか。何とも哀れなものだな」


「化け物ですね。王女様………」




「何か言い残すことはあるか?」





「そんなもの………」





「ある訳ないじゃないですか」





「私が勝ち、貴女が負けるのですから」


 壁を突き破り、瓦礫と塵から出て来たハイル。宝具を目の前にしても、確固たる自信を崩さず、仁王立ちで構えている。その後ろでチョロチョロと蠢いているローブは、ダーリンだ。ダーリンはシェキナーガを見るや否や、瓦礫の物陰に隠れてしまった。


「ここであんたの登場? ダーリンと惚けていた淫乱村娘にこの状況をどうにか出来るとは思えないんだけど」


「私はこれでも貴女たちのオリジナルです。出来が違います。記憶共有で貴女たちの戦いを観戦させてもらいましたが、実に無様でした。下手な野望を掲げて突っ走り、驕るから相手の力量を測れずに負けたのです」


 ハイルは村娘に似つかわしくない剣幕で、仮にも騎士ベースであるわたしに対し、捲し立ててくる。


 挙げ句の果てにはわたし独自の計画まで看破されていた。


「駒として切り離した、切れ端の貴女がダーリンを狙うなんて笑止千万なんですよ。レイナにタラタラと計画の概要を話したのが運の尽きでしたね。あんなに詳細に話されては、リークのネタとしては十分過ぎる程お釣りが来ます」


「チッ………小物風情がチョロチョロと」


「さて、彼女は小者なのでしょうか?」


 ハイルが話し終えると、天井から吊り下げられていたシャンデリアの鎖が何かの衝撃で切り裂かれセイナ王女の頭目掛けて落ちてくる。


「妾がその様な稚拙な策で落ちると思うておるか!」


 シャンデリアは彼女の振るう槍で払われ、壁を突き抜け、城外の庭園に落ちた。


「そうっすかね? 狭苦しい城内なら、攻撃の種は幾らでも作れるっすよ」


 天井から響く声。城にいる全員が上を向く。


 次に飛んで来たのはキャンドル。炎のついたキャンドルの先を加工し尖らせ、それをミサイルの要領で大量に飛ばしている。


「無駄だ!こんなもの、策を労せずとも叩き落とせるわ!」


 王女は柄を長く持った槍を薙ぎ払い、キャンドルミサイルを全て撃墜する。


「ん〜、これは降りて直接戦わないといけないみたいっすね」


 天井のガラス窓を突き破り、落ちてきたのは第二のベルフェ、レイナ・ベルゼブブ。妖精の羽を忙しなく羽ばたかせ、静かに床に足を着ける。


「聞いたことがあるぞ。ヘルシャフトの真髄は、魂の分散にあると。魂を分け、複数の器に入れて乗っ取る能力。つくづく下衆の好みそうな力だ。お前の駒は下級騎士のアナスタシア、上級妖精、少し出来の良さそうな村娘か。女神である妾を相手取るには少々役者不足の様だが?」


「役者不足かどうかは、この駒とやればわかりますよ」


 ハイルは一歩引き、代わりにレイナを前に出した。


「駒と言われるのは癪っすけど、今回は大目に見てやるっすよ。女神シェキナーガ、出し惜しみはもうなしっす。ウチの奥義妖精秘伝(フェアリースキル)ー百花繚乱ー!」


 スキル発動と共に、玉座の椅子が動き出す。目がつき、椅子の脚を生物の様に動かす、怪物の誕生。


<グォォォォォォ!>


 椅子の怪物は脚を上げ、セイナ王女の位置を正確に捉え、叩きつける!


「アナスタシア同様、此奴のスキルも完全網羅しているか」


 王女は槍を両手で支え、椅子の怪物が振り下ろした脚を何とか防いだ。


「王女様、足元がお留守ですよ、クエイク………」


 続けて、ベルフェが両手を広げ、広域魔法を詠唱した。


 ベルフェの辺り一帯に魔法陣が現れ、地面が揺れる。


 ベルフェの魔法、クエイク。地面が大きな揺れに晒され、地に着くものは全て共振する。


 レイナとハイルはダーリンを連れて既に空中に退避しており、取り残されたわたしと、セイナ王女だけが被害を被っていた。わたしは地面にしがみつき、セイナ王女は足先を床のヒビに食い込ませ、踏ん張っている。


「グゥゥゥゥ!」


「これは!」


 遂にセイナ王女は揺れる地面に足を取られ、体制を崩す。空中の二人はすかさず、


「追い討ちです」


「いくっすよ」


「「ダークフレア」」


「⁉︎」


 なんて威力なの?魔力に恵まれた妖精族のレイナはいいとしても、ハイルのものはケタ違いに強い! わたしはこんな恐ろしい奴に反逆しようとしていたのか。


 でも、ここでそんな超威力の魔法なんて撃ったら………近くにいるわたしたちもタダでは!


「ダーリン、私たちに防御魔法、頼めますか」


「お前の魔法を余波とはいえ、防げるかはわからんが、やってみよう」


「ふふふ、ダーリンとの初の共同作業です」


「煩い」


「あん♡」


 ダークフレアの着弾間際、ダーリンは強化結界をわたしとレイナと、自身を抱えているハイルの周囲にそれぞれ展開する。


 椅子の怪物ごと、セイナ王女を巻き込み、二人の放った黒い炎は着弾地点を残さず焼き尽くす。最後は中心部に集約されたエネルギーが暴走し、盛大に爆発した。


 刹那、ハイルの後ろ髪に巻いてある大きな黒いリボンがたなびいているのが見えた。


 爆発後の玉座は見るも無惨な状態だ。


 熱で溶けた氷水が水蒸気を出しながら天井から滴り落ちる。爆心地の辺りは黒焦げで、原型すら留めていない有様だ。爆心地の中心でボロ雑巾になったセイナ王女が倒れているのが、煙の合間を縫って確認できた。


「あれで彼奴は倒れたんすかね」


「まだですね、微かに魔力の流動を感じます」


 倒れたセイナをわたしも確認すると、手が震えているのがわかった。生きている証拠だ。


「さっさとヘルシャフトの術中に落としましょう。躊躇した結果、事切れられても困りますし」


 ハイルはヘルシャフトを手に持ち、セイナの元に歩み寄る。さらに、一応の生存確認の為、彼女の手に触れようとした。瞬間………


「この………く…に………は………わた……さ………ん」


 セイナがハイルの手を掴もうと、自身の手を伸ばす。


 ハイルはシェキナーガに手を触れるのをやめ、バックステップで身を退く。


「しぶといですね」


「貴様の様な命を弄ぶ外道に、妾が育んできた崇高なるこの国は渡さん!」


 セイナはふらつきながらも立ち上がった。その満身創痍の身体でまだ立ち上がれるのか。


「全力………全開………破壊者ーツェアシュトーレンー!」


「何の宝具かと思っていたらツェアシュトーレンですか。貴女にぴったりの脳筋宝具、貴女に実にお似合いですよ!」


 宝具、破壊者ーツェアシュトーレンーを完全開放したセイナに対し、一歩も引かないハイル。


 何故だ。


 身体が動かない。


 わたしの身体が微塵たりとも動きを見せようとしない。


 あの二人に、割って入れない。





 わたしはあのハイル・ベルフェゴールを介して産み落とされた存在。


 レイナは言っていた。


 同じ穴の狢、一心同体だと。


 だが、現実はどうだ。わたしのダーリンを独り占めする計画は奴にあっさりと潰され、更にわたしは今、床に這い蹲り、ハイルの戦いを完全に下から見届ける形になっているではないか。


 同格どころか、全てにおいて、わたしはアレには勝てないということを思い知らされる。


だから………そこが奴との決定的な差になるから、わたしは彼奴になりきれない。ベルフェ・アルカディアとして何も果たせない。


 そして、現在、わたしは同時に、現実という凶器に酷く打ちのめされた。




 完敗よ………ハイル・ベルフェゴール。


 弱いわたしにダーリンを独り占めする資格はないわ。



「グゥゥゥゥ!」


 宝具に飲まれ、理性が完全崩壊したセイナ王女。四つん這いになり、口からは涎が溢れ出ている。対するハイルは、腕を前に組み、膝を落とすという、構えとしては異端な、独特のポージングをとる。


「貴女がそこまでしたんです。私もそれ相応のお返しをせねばなりません」


 ハイルの周りに黒い邪気が纏わりつく。どこか懐かしい様な感じがする、そんなドス黒い邪悪な闘気。


「モード:ベルフェゴール」


 邪気がハイルの全身を覆い、彼女の姿を視認出来なくなる。


「ベルフェゴールってもうよくわかんねぇな、ありゃあ………」


 ダーリンはハイルの変わりゆく姿を見て、完全に腰を抜かしている。


「アレはウチも見たことないっす。ハイルと一心同体のウチでも、あんなスキルは所有はしてないっすよ。かといってハイルの固有スキルというものではないだろうし………わかんないっす!」


 レイナも目を丸くして、目の前に起こっている光景に困惑している。


 邪気は暫くして晴れ、中から悍ましい黒い鎧に、黒い髪を身に纏ったハイルが現れる。


「このスキルはベルフェの始祖である私の特別製………ベルフェの能力に一時完全に回帰するスキルです。貴方方に備わっていないのは必定ですよ」


「お前、本当にベルフェゴール?」


 ダーリンは呆気に取られた状態で、言葉を震わせながら、目の前の変わり果てたハイルに質問を投げかけた。


 ハイルはニコッとダーリンに微笑み、


「はい! 貴方だけのベルフェゴールです!」


と、格好に似合わぬ明るい声色でダーリンに語りかけた。このギャップが災いしてか、ダーリンに怖気が走った様で、ブルブルと震え上がっていたのがわかった。


 黒く厳つい鎧に、黒く変色した髪の毛。面影として残っといるのは赤い目のみ。生粋のチキンのダーリンが怖がるのも無理はない。


「オウコク、マモル。ウォォォォォ!」


「異形の姿になってまでそんなこと言っちゃうなんて、健気なものですよ」




「何れにせよ、これで終わりです」


 私たちの王国制圧計画にピリオドを打つ時がきた。



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