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9話 下級女騎士から始める王国陥落物語 結 後半

「姫様ぁ、メラルバはアナスタシア様の命令には絶対服従を誓っておりますので、素直にメラルバに斬られて、大人しく身体を明け渡してくれませんか?」


「すまぬな、メラルバ。幾ら優秀なお前の頼みでも、それは聞き入れてやれん」


「なら仕方がありませんねぇ、力づくといきましょう」


 メラルバが二本のブレードを振るいながら突進し、セイナ王女がそれをバックステップ中心にいなしている展開。確かにメラルバの戦法は、机上論では強いが、実際は敵が受けなければ真価は発揮しない。


 だが、それは1on1での話に過ぎない。味方を活かす戦法を取れる多人数戦では、そんなデメリットなど些細なものだ。


「バブル」


 セイナ王女の周囲にウルガが吹かせた泡が吹き荒れる。


「これは不味いな」


 セイナ王女も、ウルガとメラルバの強烈な十字砲火に曝され冷や汗をかいている。


 ウルガとメラルバは元々チームではない。個々の力を基準に引き抜いたので、連携の質は考慮していなかった。故に、彼女たちの連携自体はからっきしである。


 なので、彼女たちには予め個人戦的な戦い方でやれと命令しておいた。即ち、彼女たちは自分以外は全て敵という基準でものを見ている状態になっている。


 メラルバは敵と認識している泡を難なく避け、その中で燻っている王女を斬りつけようと剣を構える。


「王女様ァ、いい加減諦めてくれませんかねェ」


 ウルガがニヤつきながら、お前に勝ち目はないと、遠回しに突きつける。


「そうですよ。勝ち目なんてないんです。ご主人様たちの軍門に下った方がどんなに楽か理解出来ないのですか?貴女はそれがわからぬ程、愚か者ではありませんよね」


 ウルガの語りの最中、セイナ王女の目の前まで到達したメラルバが飛び上がり、右手に握ったブレードを王女に振り下ろす。王女は堪らずに槍でブレードをガードした。


「やった! メラルバの勝ちだ!」


 槍とブレードがかち合った瞬間にメラルバはブレードに取り付けられているスイッチを押す。ブレードが回転し、王女のうなじを正確に狙う。


 だが、


 メラルバやわたしの思った通りにはならなかった。


「あり? メラルバのブレードが固まって動かないぞ?」


 それもそうだ。メラルバの斬撃は王女の氷の魔法で固められているのだから。魔法ものっていない奇襲向けの攻撃では相性が悪いのは必定か。


 同様に、王女の周囲を取り巻く泡の包囲網も、その一つ一つが凍りつき、ガラス玉の様になった泡は、浮力を失って地面に落ち、砕け散る。


「ウルガの魔法までェ」


 ここまでは粗方想定内。わたしたちがあれ程多用し、その力を実感してきた宝具の力が柔なものだったら拍子抜けだ。


 メラルバは凍ったブレードを抜けないと諦めて手を離し、ウルガはまた新たにバブルの魔法を展開し直す。


「攻められっぱなしは性に合わないな。今度は此方から行こうか」


 セイナ王女は杖を掲げ、雪雲を召喚する。召喚された雪雲からは矢張り雪が降るが、この雪がまた曲者だ。雪が着いた場所が氷漬けになっていく。瞬く間に玉座が氷による銀世界と化していった。


「お前たちが中途半端に強いから、我が玉座が台無しだ。こうなった責任は重いぞ」


 術の効果範囲が広く、わたしの足元に氷が迫るのに時間はかからない。氷に足を取られぬ様、わたしは直ぐに飛び退く。


「ご主人様、此れは厄介ですね」


「………………」


 戦況をひっくり返された。ここからが策士の頭の使いどころね。幾ら宝具といえど、付け入る隙はある筈。ここは数の利を活かして徹底的に穴を探す。


 大局はまだ然程傾いてはいない。メラルバとウルガとアナスタシア、それにベルフェとしての私の知恵を合わせれば、十分再逆転は可能だ。


 ここはまだ粘り時。腰を据えて、ゆったりとお前を攻略させてもらうわよ。


◆◇◆◇◆


 アナスタシアの身体を完全にものにしておるな、ベルフェ。此れは一筋縄でいく相手ではない。他の二人も厄介だ。妾の国を守る筈の騎士の力を己を以って体感するとは何という皮肉なのだろうか。


 ベルフェめ、何処までも妾の神経を逆撫でしおるわ。


「お前たちが中途半端に強いから、我が玉座が台無しだ。こうなった責任は重いぞ」


 アイス・フォール………全てを氷の世界に閉じ込める雪雲を召喚する広域展開魔法。これで何とか彼奴らを間合いから突き放したは良いが、この魔法は展開・維持共に大量の魔力を消費する。その魔力消費は壁を張ってメラルバの武器を一本もっていく程度では割に合わない程だ。ここで一人は倒したかった。


「ご主人様、此れは厄介ですね」


「………………」


 虚勢は張ってはみたものの、宝具を使っていても尚、戦局を返す力には足り得ていない、


 このままでは奴等の狙いにまんまとはまっていく様なものだな。ジリジリと削られていくのが目に見えている。


 少々キツイが、アレでいくか。


◆◇◆◇◆


「むにゃむにゃ」


「ダーリン! 今日もおはようございます。身体はもう大丈夫ですか?」


 私がダーリンの身体を案じると、


「ああ、すっかり元気だ。1日寝たら、疲れは綺麗サッパリと無くなったぞ。なんかまだ身体が重い気がしなくもないけど」


 元気そうに微笑んで返してくれました。今日も美味しかったですよ。ダーリン!


「ダーリンが寝ている間に、ことは最終局面へと進んでしまいましたよ」


「は?」


「戦争です! 敵国であるエルガ王国と、このパルテ王国の戦争ですよ」


 ダーリンは訝しそうな表情をし、首を傾げながら窓の外を眺めました。私も便乗して、ダーリンの隣から王国の様子を見渡します。


 予想通り、国の壁の外はドンパチ騒ぎの真っ只中で、大砲やら火薬の煙が宙を舞っています。煙たく焦げ臭い臭いが此方に漂ってくるので直ぐにわかりました。戦場はさぞ陰惨な状況になっているのでしょうね。


 無血開城からは程遠いシナリオになってしまいましたが、荒っぽいアナスタシアに任せてしまったのが失敗だったと諦めます。


 この段階まで来たら、私が動くには最適のタイミングでしょう。最強のこの私が。


「ダーリン、起きて早速ですが、城に向かいますよ」


「え?待て待て、まだ話が飲み込めないんだが」


「ふふ、ダーリンのそのキョトンとしている顔も可愛いです。………今は急を要します。後は自分の目で確かめてください」


私はダーリンの手を引き、ウィンドで城に向け、飛び立ちました。ここまで来て初めてダーリンをぶら下げましたが、疲れますね。


◆◇◆◇◆


「ご………主じ………ん…さま」


「ウル………が…ダメ………みたい」


「他人の力を悪用した末路がこれか。何とも哀れなものだな」


「化け物ですね。王女様………」


 奴隷は倒れ、アナスタシアの身体もボロボロ。まだここまでの奥の手を隠していたのか。


「何か言い残すことはあるか?」






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