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姫と戦士

平日の昼下がり、あたしは時々図書館へ行きます。

取り合えず、いつもの雑誌コーナーへ。

週刊誌やファッション誌が読み放題です。

雑誌代だって馬鹿になりません。OL時代には、わざわざお金を出して買っていたのですから、毎月数千円の節約です。

こんなところも専業主婦っていいわ。

それに、『妻は質素を旨とすべし』ですもの。

ふと書架に目をやると、絵本の忘れ物。

子供が忘れて行ったのでしょうか。

懐かしくなって、あたしは手にとります。


「姫と戦士のものがたり」

むかーし、むかし、とある国のお城に、それはそれは美しいお姫さまが住んでいました。


「ダァー!ダァー!」

「キンッ!、コッ、キンッ!」

「お見事です。王子」

毎朝の、幼い弟の朝稽古。

お相手の剣術の指南役は、あたしの幼いころ、遊び友達だった男の子。今は立派な戦士です。

「お相手ごくろうさまでした」

あたしは、メイドさんの隙を盗んで、ティーカップにお茶を淹れて、カレに渡します。

「姫さまにお茶を淹れていただくとは、身に余る光栄です」

カレは片ひざをついて跪く。

「もう、大げさなんだから」

二人で大笑い。

メイドさんはちょっと困ったような顔をしていますが、いつものことです。

他に臣下がいないときは、あたしとカレは、昔の幼馴染にもどります。


そんな穏やかな日々が、いつまでも続いていくと思っていました。

「ワー!ワー!ワー!」

「キャー!、誰かー!ウグゥ」

お城の中がなにやら騒がしいです。

カレがあたしの部屋に飛び込んで着ました。

親しい仲とはいえ、姫であるあたしの部屋に、家族以外の男性が入室するのはあってはいけないこと。

異常事態です。

「姫さま、直ぐ脱出のご用意を!」

クーデターです。

大臣が城内で、突如蜂起、国王であるあたしのお父さまは捕らえられたとのこと。

お父さまの信任の厚かった大臣が何故?

いえ、理由はなんとなくわかります。

大臣はずっとあたしに求婚したかったようですが、お父さまに止められていました。

国王である父は、国家安定のため、もちろん政略結婚を考えています。

隣国のスパン国やプロース国、その隣国を挟み撃ちにするためポルト国やルス国、あるいは少し離れた大国トルク国。

国内貴族との結婚は考えていません。

大臣は国王を適当な理由をつけて幽閉した後、取り合えず、弟の王子の摂政となり、あたしと結婚した後は、お父さまと弟を亡き者にするつもりでしょう。


「カツッ、カツッ、カツッ」

薄暗い地下道をカレと一緒に進みます。

こんな時ですが、幼いころ、この地下道に迷い込んだ事を思い出します。

その時あたしを見つけ出してくれたのはカレ。

「大きくなったら、あたしをお嫁さんにしてくれる?」

あたしはカレと結婚の約束をしました。

今では、そんなことは無理なことは分かっています。

あたしは一国の王女、カレは一介の戦士、しかも爵位もありません。

もし、国内貴族との結婚が許されたとしても、子爵や男爵程度ではなく、公爵や伯爵ぐらいは必要でしょう。


裏通りの地上に出た後、あたし達は街の様子を伺います。

街の外にでるには検問があり、見つかったら大変です。

カレは少し心苦しそうな顔で、とある提案をしました。

「姫さま、ある提案があります、それは・・・」

それは、あたしが奴隷女に化けること。

一国の王女であるあたしが、下賎な奴隷女なんかに?

「おもしろそうね、やってみるわ」

カレは街で奴隷女定番のスレーブワンピースを手に入れ、あたしに首輪をつけました。


「そこの二人、待った!う~ん?ちょっと人相書に似てないか?]

二人は検問の衛兵に呼び止められました。

「あら、姫さまに似ているなんて嬉しい。今度お店にいらして~ん」

あたしはスカートをめくったり下げたりしながら衛兵に近づきます。

「ええい、寄るな!我らが姫さまが、こんな下賎な女であるはずが無い。とっとと行け!」

検問からしばらく離れて、あたしはカレに自慢げに言いました。

「どう?あたしの名演技」


<エピローグ>

「姫さま、もう危険はありません、そろそろ城へ戻りましょう」

そういって彼はあたしの首に手を回し、首輪を外そうとしました。

「首輪を外さないで下さい。ご主人さま」

あたしはカレの手を止めて、囁きます。

「姫になんて戻りたくありません。ずっと、あなたのお側に置いて下さい」

カレは優しく言いいました。

「奴隷ごっこはもう終わりですよ。姫さま」


数日後、王宮にて騎士の授与式が開催されました。

あたしは姫として、カレの肩に剣を乗せ、騎士の称号をさずけた後、突然、彼の前に跪きます。

「あたしは、貴方さまの奴隷になることを請い願います」

城内からどよめきの声があがります。

古から伝わる正式な請願です。城内の誰もこの請願を否定することはできません。

カレは優しく言いました。

「全く貴女って人は、いつも驚かせる」

「あたしは姫であるよりも、貴方の奴隷になることを願います」

宮中から万雷の拍手。

カレは古来の作法に従い、あたしの足を掴んで肩に乗せて、お城を後にしました。

   


『ああ、面白かった』

何度読んでも素敵なお話。

あたしが子供のころ大好きだったおとぎ話。

あたしは、うっとりしてしまいます。

あたしとご主人さまの子供ができたら・・・

女の子?男の子?

やっぱり最初は女の子がいいかしら、一姫二太郎っていうし。

そして女の子ができたら、この絵本を読んであげるの。

「むかーし、むかし、とある国のお城に、それはそれは美しいお姫さまが住んでいました・・・」


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