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第七十五話 異界に君臨する席が回ってきたので逃げることにします(三)

「どう? まだやれる」


 兵士たちの熱狂の中だと、ヒルドの新たな討伐への誘いを断ることなどできない。


「フィーは?」


 俺が心配すると、彼女は笑顔で答える。


「無問題」

 

 俺たちの乗った三頭の馬は半門を抜けると、レアンドルや集まって来た兵士たちも入り口まで付いてきた。

 砦外の石壁付近に散らばっていた赤化呪獣(フェンリル)が寄ってきたが、大した数でなく、ヒルドが問題なく(ほふ)っていく。


「手助けは」


 ソフィがと聴くと、ヒルドは「不要です」と答える。


 集団の中心は先に行ってしまっているが、まだまだ数十体の巨体が左右にばらけて、ゆっくり砦前を行進していた。


 俺が馬から下りると、フィーも降りてきて横に付き、解放の指示を待つ姿勢になる。

 やはり、巨大獣が闊歩しているのがよく見える平原だからか、彼女の腕が震えてる。

 その手を握って俺は言った。


「さーっ、どんどん討伐していこうか」


 俺が歩き来る昆虫型の赤化巨大獣(ベルグリシ)の前に立ち、赤月霊体剣を持ち上げて構える。

 フィーの(ほこら)解放と合わせて、赤月粉砕の霊体を表出、そして飛ばしていく。


 壁近くから見ている新規の兵士たちには、俺はただ立って剣を持ち上げているに過ぎないだろう。

 その周りで光の剣を振るってフェンリルを消失しているヒルドの方が、術式で何かの魔法陣を作っているようで、ベルグリシ討伐の立役者に見えるくらいだ。

 だから、俺たちの少し前にカマキリのようなベルグリシが立ち止まった状態になったら、食われると思って騒ぎ出した。


「おい、逃げろ」

「エインヘリャルは、何でいつまで突っ立ってるんだ!」


 こちらは着々と正面にある赤月結晶に向けて、霊体剣で貫くことに集中している。

 前へ進み結晶を斬り裂き、また前へ進み結晶を削っては進んでいる。

 どのくらいの距離と霊体が持つのかの実験も兼ねてだ。


 迫って来たベルグリシが立ち止まり、その場にゆっくりと後方へ崩れだす。

 後ろのベルグリシもその場に倒れ、ぶつかっているわけではないのだがドミノのように五体、十体と続けて倒れていった。

 

 さすがのヒルドも目を丸くして、俺を見、倒れたベルグリシたちを見た。

 隣のフィーも、後ろで馬を預かるソフィも、前面に起こった物事に釘付けになっている。

 俺に対して騒ぎ出していた兵士たちも、何が飛んでもない事態に遭遇したと全員呆けていた。



 倒れたベルグリシの上を乗り越えてくる後続の巨大獣はいず、迂回を始めた。

 それも中心にいる豆粒の俺たちを、最大限に離れるようにしてだ。


 ――あいつらでも、こちらの力をわかったのか、それともただ道を塞がれてと思ってのことか?


 前に来なくて迂回しても、続けるけどね。


「フィー、いける?」


 隣の彼女に聞くと、見上げて笑顔を向けてきた。


「大丈夫。いける」


 俺はさらにベルグリシ討伐を継続した。





 十分ほどでベルグリシ三十体が倒れ消えていった。

 距離的にもう追えない巨大獣はあきらめて、森や草原の方へばらけて移動していくのを見続ける。

 昆虫系や爬虫類系の死骸と、傷付いた大きな赤月石が、平原のいたるところに見い出せた。


「砦は守られた」

「ベルグリシに勝った!」

「おおおーっ」


 平原の討伐した最後の巨大獣が小さくなると、兵たちから怒号が上がりだした。


「救世主だ」

「新たな救世主が現れた」

「ヴァルキューレ・ヒルド。ヴァルキューレ・ヒルド」

「赤化狂乱災の救世主!」

「救世主、ヴァルキューレ・ヒルド!」

「救世主。救世主!」



 砦側からも、歓声が上がりだした。

 大洞窟からの人々の声が響いてくる。

 見晴らし台から見た者が、報告したのだろう。

 大洞窟からも、「ヴァルキューレ、ヴァルキューレ」と聞こえ出した。



「終わったーっ」


 俺は一息ついて、赤月霊体剣を地面に突き刺す。

 横のフィーは上向き目線のまま、頭をこちらに向ける。

 軽く頭を撫でると、気持ちよさそうに眼を細める彼女。


「上手く行ったの?」

「最高な出来だ」

「よかった」


 フィーは満面の笑顔を俺に向けてくれた。


 ヒルドは剣を鞘に納めながら近づき、俺に手を伸ばしてきた。


「テオに、これから輝かしい未来が見える。大勢から祝福されるよ」

「それは光栄だ」

「僕のエインヘリャルでいてくれれば、その祝福と、この世界に君臨できる席を用意できるわ」


 ヒルドの手を握ろうとしたが止めた。


「いやっ……それはいいよ」

「えっ?」

「フィーがいるから、席など不要だよ」


 隣のフィーに腕を回して、肩を取って宣言する。


「俺は彼女と、異界旅情を楽しみたいだけ」


 ヒルドが苦笑いの顔をしながら、腕を下ろした。

 フィーも俺を見て言った。


「私も、テオと一緒がいい。よくわからないけど、テオといると凄く安心できるの。それに楽しく過ごせそうな気がする」

「だろーっ? もっと楽しもーぜっ」


 俺たちは平原を見て、その先の空に存在感を示す巨大な紫月が赤くなりだしてるのを眺めた。

 


 --- 第四部 砦編 終了 ---

この後は、テオとフィー、そして愉快な仲間たちで、異世界を手中に収めていく展開に持っていきたかったのですが、大きなフラグを回収してひと段落ついた第四部で、この作品は「完結」とさせていただきいます。(詳しくは活動報告にて)


最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

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