第六十九話 フィオレッラ! だが……
砦の外れに位置する、片側が岩山の開けた通路の角に作られた石のテーブルに、布団に包んだフィーが寝かされている。
術中に雷が落ちるということで、この場所が最適と決まった。
待ちに待った、死に戻りの彼女を目覚めさせるイベントを、これから始めるのだ。
脇にはヒルドにナティフア、ソフィ。
フィーの前に俺とレイミアが立つ。
「本当にやれるの?」
ヒルドが疑問を投げかけるが、レイミアは手を振る。
「簡単、簡単」
初期魔法を扱うような振る舞いだ。
「まあ、可能なら、僕はなにも言わないけど……」
肩をすくめるヒルドに、俺も腕を組んでうなづく。
「憑依法術に失敗があっても、身体には影響ないわ。ただ、深紅の赤月石がパーになるだけ」
「その……憑依法術って、レイミアが編み出したものなのか?」
経緯を知らないので質問してみた。
「違うわよ。兄の専売特許ね。私が死に対して無関心でなかった頃、死んで欲しくない人を蘇らせるために、教わったの」
「んっ……」
彼女にもいろいろ過去があるようだ。
「えっと……死に戻りから、時間が経っているから、失敗する可能性も視野に入れといてね」
レイミアは、フィーの深紅の指環を付けた腕を胸に添えながら、不安な事を告げた。
「えっ? それは困る」
「じゃあ、始めるわよ」
――おい。
彼女は呪文を唱え、憑依法術を始めた。
俺は黙って、レイミアの後ろからフィーを見守る。
詠唱が終わり、静寂が周りを包む。
フィーからレイミヤが離れたので、全員が数歩下がった。
息をのんで、推移を見守ると天から光。
フィーの指環目掛けて雷光が落ち、空気が裂ける音。
二度、三度と雷撃が弾け、激しい音と光が満ちた。
――目がくらむ。
すると、フィーの周りに光の玉が駆け巡っていた。
――ボールライトニング現象だ。
光が消えると静けさが戻る。
雷撃音と光に驚き、近くの住人が路地に集まりだしてきた。
しばらくの沈黙、その後にフィーの小さい身体が身じろぎしだし、その動きで白くなった指輪の深紅の赤月石が砕けた。
レイミアは「終わり」と言って後ろへ下がり、代わりに俺がフィーに近寄る。
目を開けるフィー。
そして、首を動かして周りをうかがう。
俺は振り返り、レイミヤの手を握り、強く握手をして振り回したら嫌がられた。
残った指輪の爪付きは、フィーの母の形見なので回収していると、懐かしい言語が聞こえてくる。
「|kr:ehkrt@h《私、どうしちゃったのかしら》……|hrt@hyl:rtt《ここって、あれれ》 ……何?」
フィーが日本語と異界語を話し出し、上半身を起こして砦の建物を興味深く眺め出した。
「@hy……あなたたちは? 映画の撮影? 面白そうだけど、学校行かないと……でも、ここどこ?」
やはり別人が宿っている。
映画に学校とは、俺の前世と同じらしい。
それに彼女の独特のしゃべり方でない。
、
石のテーブルの上で小さな体を丸める、もう一人のフィオレッラ。
俺は彼女が目が覚めたら、必ずいってやりたい言葉があった。
「お帰り、フィー」
なぜか、自然と眼がしらが熱くなっていく……。
彼女は俺を見て、目を瞬かせて首を傾けた。
そのポーズがフィーそのもので、苦笑いが起きる。
「えっと……よくわからないんだけど?」
周りを見て、挙動不審になっている。
「何もわからないで不安だと思うけど、まずは落ち着いて、さっきまでの状況を思い出して欲しい」
「うん。そうよね。……えっと……。……あっ、ワゴン車、それに光」
「えっ?」
「雨の中を通学中に、ワゴン車が歩道に突っ込んできたんだ。それに引き倒され……息ができなくなって……雷の音があって……あれ、私……死んだの?」
「たぶんね。それで、今ここに来ている」
左右を見てから、上空を見て指さす。
「さっきから気になっていたんだけど、あの月。尋常でなく大きいし、赤に近い紫が不気味たけど、何?」
「異界へようこそ」
「……そっ、そうなの?」
長く伸びた白紫髪の少女は、また目を瞬かせるとテーブルから下りた。
立ち上がろうとするが、よろけて座り込みそうになり俺は肩を掴む。
「……大丈夫よ」
俺の肩に手を乗せて、一人で立つが頼りなく、またテーブルに座った。
「しばらく、寝ていたからね」
「寝てたって、病気?」
「色々あってね、これから教えていくよ」
「うん」
俺は自身の経験を踏まえて、わかりやすく彼女に事情を説明。
混乱しているフィーだが、俺に少しずつ信用を寄せて、スムーズに聞き入れてくれてるようだ。
「なんとなくわかってきたけど、大きな疑問があるの」
「何?」
「私の首のおかしな金属。これ何?」
奴隷首輪に指をさすフィーに、俺は「えっと、アクセサリーだよ」と苦笑いをして答えた。
実際に目で見れば納得するだろうと、身体の練習を兼ねて路地を歩いた。
後ろから赤月御三家とソフィが、護衛よろしく付いて回る。
周りの状況を説明しながら、異世界憑依の現実を知ってもらった。
「そうなの……私、凄いところへ来ちゃったのね」
砦の外に徘徊する、数体の赤化巨大獣に目を見開いて恐怖する。
「あっ、あんなの……あり得ない」
体を震わせその場にしゃがみ込み、俺の手を握りしめた。
「これって……死後の世界?」
「ある意味、そうなるかもしれないけど、生きているよ」
「怖い……あんな怪獣がいる世界……怖い……げほっ」
そう吐露すると、胸を押さえて咳き込みだすフィー。
「落ち着いて、巨大獣はここまでやってこないから」
落ち着かせようとするが、彼女は本格的に苦しみだした。
「胸が、げほっ、げほっ……苦しい」
咳を吐きだすと、息が細かな深紅石の結晶に代わって地面に散った。
――えっ?
「ごほっ……やだっ。なにこれ……ごほっ」
ソフィーの息は次々に、細かい深紅の結晶石となって地面を赤く彩り出す。
それを見て驚愕した彼女は、大きく咳き込んでその場に卒倒した。
俺は赤月眼で、彼女のオーラが白と混じってる黄色が、赤、灰色と代わったことに気付き、身体異常と知る。
「これは何?」
振り返って、レイミアに応えを求めた。
「彼女の胸から、今もマァニが流れ出ているわ」
それに近くの虫たちが反応し、膨らみだした。
いくつも赤化し始めた、小型の魔獣が足元に現れ出る。
「これは!」
人の頭位ぐらいに膨らんだ幼獣たちを、ソフィは早業で刺し貫くと、元に収縮して小赤石を残した。
「小さいうちに仕留めて」
ナティフアが注意しながら下がる合間にも、幼獣は増えだしていく。
俺とヒルドも剣を引き抜いて、あちらこちらに膨らみだした幼獣を剣で屠る。
だが、幼獣は減らずに広がりだしていく。
「赤化呪獣の幼獣が大量発生している?」
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