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第六十七話 散策して魔族を捕獲しよう

 正門からの不穏な爆発音から少し時間が過ぎた頃、貴族宿舎の兵士が倒れた。

 警戒していた中、魔族ダミアンは影移動で部屋に簡単に入り、一瞬でセレスティーヌ・ルクレールお嬢様をさらっていく。


 続いて使い魔、狼魔獣が十数頭、部屋や廊下に放たれて、兵士たちがパニックになる。

 この時、護衛騎士ラカムが腕に怪我を負ってしまう。


 魔族の影移動で追手はまかれ、現在もセレスティーヌお嬢様を捜索中。

 砦内にフェンリルが入り込んで、追跡兵士がそれに遭遇するたびに時間を取られ、捜索活動が上手く進んでいないらしい。





 俺はヒルドと貴族宿舎へ入り、小隊副長コラリーからそれらの状況を聞いた。

 フィーは剣客ソフィが、守ってくれたと聞き安堵。

 狼魔獣の半分を消滅させたのが、彼女とのこと。

 エルフの神族ナティフアは、ただの楽師として弓型ハープを奏でて、ピリピリした部屋の空気を和らげていた。


 俺はその後、顔を合わせた辺境伯夫人と砦長エルネストに怒鳴りつけられた。

 宿舎を留守にしていたことで、魔族襲撃を許す結果になったと許せないらしい。


 ――夜だけじゃなかったのか?


 不満に思いながらも、ヒルドとともに捜索に加わることにした。


「なぜダークエルフのナティフアがいる?」


 二人で外に出るとヒルドが驚いたまま聞いてきた。

 神族ナティフアは、元ヴァルキューレの一人であったので彼女も知っていた。


「それは、レイミアの同行を見ていたらしいけど、レイミア自身がおかしな行動を取っていて、よくわからん状態になっている感じ?」


 ――手打ちで一緒に飯食ったし。


「ああっ、やはりナティフアは、ティラリ王国の斥候をやってたのかしら?」

「プーノ共和国に軍隊を出した国から?」

「ティラリ王国に肩入れしている神族がいてね。その手伝いをナティフアもしているってことよ」

「ほおっ」


 ――色々と関係が複雑そうだな。


 砦の細い路地を歩きながら、赤月眼を使い回りを見渡して魔族を索敵する。

 周りは人の白色がほとんどで、たまに赤化呪獣(フェンリル)の青紫色を見つけると、ヒルドも気づいて光の剣で殲滅した。

 目的は赤色オーラの魔族。

 俺が赤月眼を使っていると、ヒルドが知ると嫌な顔をし、「再契約」と言って黙った。


「まあ、なんだ。使えるモノは使えと……はははっ」

「そうね。僕はその辺、大らかだから……許すよ」


 ヒルドはそう言って俺をゆっくり見てから、山肌に目を向けた。


 ――あの……ヒルドからへんなオーラが沢山出ていて、怖いんですけど。


 十分ほど片側が岩山の路地を散策する、五十メートル先の建物の一角に赤色人物を発見。

 一緒に白色が付随しているのも確認。


「いた。間男の魔男」

「何、魔男って?」

「男の性ってやつ」

「よくわからないけど、潜んでいる?」

「動いてないね。やはり人質と一緒に岩山を上るのは、危険と判断しているかな」

「昼は動かずに、夜を待っている感じかしら」

「そうだろうな」


 俺はその場に隠れて同行を見守り、ヒルドに報告を任せた。

 赤月粉砕で魔族の無効化もあったが、人質がいるので間違いがないようにプロや責任者に任せることにした。


 腕の怪我を押して護衛長ラカムと、砦長のエルネストが兵とともにやってきた。


「お嬢様は無事なのだな?」

「問題ないかと……夜に、また岩山越えをするつもりなのか、今は動きがないです」

「動かないのは、そのようですね。それで陰に入った場所がわかるのですか」

「ええっ、色で見分けられます。見られるのは今だけですが……」

「よし、じゃあ、捕まえろ。これ以上の失態は許さん」


 砦長がまた俺や砦兵に文句を垂れてくるが、ラカムが発言する。


「ヴァルキューレ殿とエインヘリャル殿は待機で、いざとなったときにサポートとして動いてください。ここは我々に任せてください」

「ラカム殿がそういうのなら……」


 砦長が渋々と言葉をひっこめると、捕獲を思案したラカムが、護衛兵と砦兵に命令を出す。


「この先の上り坂に網を張り、そこでお嬢様を確保する。そして、同時に魔族ダミアンを捕まえる」


 二人が潜んでいる場所の周りに兵が配備された。

 ラカムは俺の指示のもと、魔族を影から追い出すべく剣を向ける。


「魔族ダミアン、もうわかっている。お嬢様と一緒に出てきなさい」


 すぐに魔族のダミアンが、人質と一緒に影から抜け出ると剣を上段で振るってきた。

 ラカムが受けて剣音を響かせると、兵士が周りを囲みだす。


「お嬢様、しばし辛抱を」


 ダミアンと手を握った人質に、護衛兵の一人が捕具網を投げてきた。


「姑息な」


 ダミアンが人質から手を離し、十字を切ると暗がりから狼魔獣が次々に飛び出してきて、兵とラカムに襲い掛かる。





「あれが貴族宿舎で騒ぎになった、使い魔か」

「初めに腕を無効化するべきだったわね」


 俺とヒルドは、逃げ出さないための戦力として、今は観戦である。


「馬鹿が、頼りにならん連中だ」


 後ろで砦長エルネストが腕を組んで、乱戦に持ち込まれて歯ぎしりしだす。


 魔族ダミアンは続いて、呪文を唱えだすと、建物の側面が爆発。

 兵士たち数人が爆風で倒れ、落ちてきた石やレンガと砂煙で回りが見えなくなる。


 ――例の破壊法術か。次々とやってくれる。危ない魔族に変貌しそうだな。


「何だ法術なのか? ヴァルキューレ殿、あとはお願いしますよ」


 砦長が慌てだして、俺でなくヒルドに声をかけはじめる。


 ダミアンとお嬢様が網を被ったまま、煙から飛び出てこちらに駆けてきた。

 ラカムたちは狼魔獣たちと交戦しながら、煙の中から出てくる。

 

「僕が止めようか?」

「もうあの魔男は、魔族として無効化した方がよさそうです」

「ああっ、使うのね」


 剣の柄に手をかけていたヒルドは、手を放して腕組みに変える。

 俺は第三、第四の腕を現出して、目の前の小道を走り抜ける魔族に飛ばした。


「おい、何をしている。逃げるではないか。早く捕らえろ」


 後ろから砦長が怒鳴るが、無視する。

 注意しながら、飛ばした両手で心臓の結晶を握り、そのまま力を込める。


 ――赤月粉砕。


 走っていた魔族は突然立ち止まり、胸を押さえて倒れていく。

 一緒に走っていたセレスティーヌ嬢も立ち止まり、落ち着かない風に魔族を見る。 

    

 後続のラカムたちも追いついて、倒れて動かない魔族に兵士が群がって取り押さえた。

 人質だったセレスティーヌ嬢は呆然と立ち尽くしたあと、ラカムに身体を預けるように気絶した。

 使い魔と争っていた兵たちは、狼魔獣たちが消滅して驚いている。


「おおっ、勝手に転んで捕まるとは、この魔族、あがいた割には大したことなかったな」


 砦長の相変わらずの発言に、俺だけでなくラカムも肩をすくめたが、それが魔族捕縛の公式発表になった。

 あとでラカムから魔族を倒してくれたことのお礼を、非公式に言われたが……魔族の倒した方法まではわからなかったらしく、しつこく聞かれたのでエインヘリャルのとある法具の魔術を使ったと、適当な事を言って煙に巻いた。

誤字修正しました。

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