第六十六話 風化紫月石剣の秘密を知る
屋根に目をやるが、ゴスロリ服少女は消えていた。
――あれ?
「レイミア、もう帰ったのか?」
周りを見渡していると、背中を押された。
「失礼ね。しもべが遊んでいるのに、私が帰るわけないでしょ」
もう隣に来ていた。
「それ貸して」
俺の持っている風化紫月石剣を、興味深く見ている。
「何で?」
「それ魔族の専用剣だよ。大昔の話だけど」
「知っているのか?」
「ええっ」
驚きながら持たせてみると、軽く中型剣を持ち上げて吟味しだす。
彼女の横顔を見ていたら、例のことを忘れていたことを思い出した。
「聞きたいことがあった」
「私に? ふふっ、何かしら」
「眠り続ける者を呼び起こす、憑依法術」
目を細めるレイミア。
「エルフ楽師にでも聞いたか……だが、なぜ私に聞く? 私はあの小娘を眠らした一人だぞ」
「俺は……過去を振り返るより、フィーの目覚めている未来を取る」
「ふん、そんなにあの小娘を起こしたいか」
ゴスロリ服の少女は、剣を見ながら不快な表情になる。
「回収ご苦労だたわ」
「はっ?」
「この剣よ。受け取ったわよ」
「いや、それは、もともとアナネア村の財産で……」
「もともと、私が造らせて、そして紛失していた剣」
「えっ?」
困惑していると、レイミアは剣の柄を見ながら話しだした。
「赤月霊体剣って言わせてたわ。そして、この柄の紋章を見なさい」
言われるがまま、繁々と紋章を見た。
「これは大昔に没落した、我がテスティーノ家の家紋」
「えっ、えーっ!」
――レイミアは、元貴族だったのか?
……うん? テスティーノ家? どこかで聞いたような……思い出せない。
「憑依法術……この剣で手を打つわ。だけど、深紅の指環が必要。それも使いつぶすわよ」
「わっ、わかった……彼女が目覚めるなら」
「ふん」
レイミアは鼻を鳴らして、中型剣を一振りして前に出ていく。
「ちょっと遊ぼうかしら」
ゴスロリ少女に剣を渡したので、レアンドルが驚いて近づいてきた。
「エインヘリャル殿。あの少女に何をさせるつもりですか?」
――うん、そう思うよな。
「大丈夫。ヒルド……ヴァルキューレなみに、たぶん頼りになると思う」
「本当ですか。腕の立つ冒険者?」
「えっと、まぞ、でなくて……そうです、ゴスロリ冒険者」
「ゴスロリ?」
「ふっ、二つ名ですよ」
「よくわからないが、強そうな名だ」
――ふうっ。
……剣の腕はわからないが、自信の裏付けの腕は持っているだろう。魔族は秘密だけど。
そう思っていたら、レイミアが振り返って「ゴスロリ冒険者?」と眉にしわを寄せていた。
――わっ、聞かれてた。
「ゴスロリ少女冒険者」
何か、あるまじき単語を付け加えてから、向き直りフェンリルの一体と対峙した。
「やーっ」
彼女は気の抜けた掛け声を上げ、剣を上段構えから、素振りをするように、魔獣の頭を叩く呑みだった。
だが叩かれたフェンリルは沈黙、速攻で収縮していく。
また前に出ていき、繰り返すと魔獣が沈黙。
――うん。赤月眼があるから、たぶんできる子? なのだろう。
魔獣の集団をヒルドと兵士たちが、削って押しだして広場を取り戻していく。
そこへ商人の幌馬車三台を、兵士たちが押して破壊された門へと移動させる。
この時の外には、数体のベルクリシがやって来ていて、アリ型のフェンリル集団は避けるべく散りだしていた。
ヒルドがまた外へ出ていき、赤化巨大獣から逃げるように門に殺到した魔獣を屠っていく。
広場に数十体のフェンリルを残しながらも、幌馬車を外へ送り出し、応急防壁にして行く。
俺も打ち直した剣を引き出して、外のヒルドへ応援に出て行くとレイミアも付いてきた。
入ってこようとするフェンリルの結晶を、俺は一撃剣で砕いて行く。
赤月霊体剣を振るレイミアだが、結構屠ってくれている。
「こんな使い方する剣じゃないんだけどね」
振り回すのに飽きたのか、そううそぶいて、剣を地面に刺し腕をちぎり血の槍、血流パイクで、魔獣の赤月結晶を撃ち抜き始めた。
兵士が運ぶ幌馬車が二台、三台と防壁を築いていくと、ヒルドの馬が幌馬車の間を縫って戻ってきた。
さらに荷馬車が送り出されて、空いてる空間へ突っ込まれて防壁化し、フェンリルも障害物に足踏み状態となった。
広場の魔獣を兵が狩りながら、その間に倒れた三メートルの門を立て直す余裕が出てくる。
俺も余裕ができてきたので、ベルクリシ数体の同行をうかがう。
あの巨大獣にも赤月粉砕が効くか、試してみたくなった。
幌馬車の下からのぞいて、フェンリルを食っているベルクリシに照準を定める。
――さー、赤月粉砕が巨大獣にも有効かやってみよう。
第三、第四の腕を同時に飛ばして、まずは届くか距離を測る。
無理なら、こちらから近づかないといけないが……。
赤月眼で見える赤化結晶へ、伸びていくと透明腕は到達できた。
――おおっ、結構伸びたな。
そこで、赤月粉砕を試す。
「んんっ」
が、結晶石がかなり大きいので、両手粉砕でも効かない。
――駄目だ。
「はあっ……」
あの怪物には無効で、万能ではなかった。
仕方なく幌馬車から抜け出て塹壕となった門前で、座り込むとゴスロリ少女も戻ってくる。
「向こうは、片付いたよ」
「こっちも近くにはもういない」
幌馬車の隙間を抜けたヒルドは、馬から下り片手で黒髪を後ろへ流すと、俺とレイミアが一息ついているところへやって来た。
「質問、何でこの女がいるの? それもテオと一緒に!」
怒り心頭のヒルドである。
「ああっ、いろいろ偶然が重なって、今は共闘している……感じ?」
俺が言い訳がましく言うと、レイミアが、ヒルドに爆弾発言。
「テオはもう私のしもべ。ヴァル女は用済みよ」
目を吊り上げて、レイミアと俺を交互に見た。
「僕の耳にはよく聞こえなかったんだけど、もう一度行ってみてくれないかしら?」
「ヴァル女は用済……」
ヒルドは瞬時に剣を引き抜き、レイミアに剣を打ちかかるが、血の盾で弾かれる。
レイミアはすぐに盾を槍に変形し、ヒルドへ飛ばし反撃。
ヒルドは光らせた剣で血流パイクを弾くと、槍の先端が液状化して形が崩れた。
「わーっ。わかったから、今はなしな」
俺の仲裁に、二人の少女が駄目だしする。
「何がわかったのよ」
「そうだわ」
「いっ、今は、そうだ! ここは落ち着いたから、すぐに貴族宿舎に向わないと! フィーが危険だ」
応急防壁は、レアンドルと小隊兵に任せて、俺は、ヒルドの愛馬に乗せてもらい、貴族宿舎へ向かった。
貴族宿舎に向いながらも、深く入り込んだフェンリルたちを屠っていく。
レイミアは、ヒルドとの共闘を拒んで、応急防壁に残った。
彼女は兵士たちに、赤月霊体剣を振り回して剣舞を披露、「私、ゴスロリ少女冒険者。よろしく」と自己紹介して、拍手されていた。
どうやら、単語を追加した二つ名は気に入ったらしい。
変換ミス修正。




