第六十三話 深紅の指環はどこへ
奴隷商人に会いに通りを歩く。
途中、マルセル武器防具屋に剣を打ち直しに出していたので、たぶん剣は必要になるだろうと思って取りに寄る。
剣はもう直り、刃こぼれのなくなった刀身を目にして、ドワーフのマルセルに礼を言い、礼金を払って店を出た。
腰に剣を下げてから砦の門前広場に出る。
目的の三番倉庫へ行くと、その前に人だかり。
奴隷商人ヤニックが雇った、あの弓使いの傭兵たちだが多い。
四人だったのに十人以上増えてる。
――実に怪しい。
その中にジャコと仲間四人も混ざっていて、頭を抱えたくなった。
傭兵たちを割って入ろうと近づくと、二メートルはある巨漢の男が、俺の前に立ち塞がった。
「ここからは、入っちゃなんねえぜ、エインヘリャルさんよ」
――エインヘリャルは強制的に下ろされたんだが、ここでは秘密にしておこう。
傭兵たちの間から、杖を持った赤化法士のオディロンが素面で現れる。
「エインヘリャルさんとは、内と商談はなかったと思いますが?」
「奴隷商人のヤニックさんと話がしたいんです。中へ連れて行ってくれますか?」
「我々はエインヘリャルさんと、話すことなどありませんな」
「そういうことだ。帰んな」
巨漢男が俺の肩を取って押してきたが、腕を片手ではねのけた。
――こんなことで帰るわけにいかない。
割とこの手のことに慣れてきたのか、それともテオドールと融合したせいか、もう恐れとかが無くなっている。
「貴様」
「もう一度言います。ヤニックさんと話がしたいです」
「だから話すことはないと、言っとるだろ!」
赤化法士オディロンが、苛立って声を荒げる。
「では、押し通ります」
一歩前に出ると巨漢男が手で制するが、身体を反らして進みだす。
そこへジャコが道を塞ぐように現れた。
あの風化紫月石剣を重そうに持って構えだす。
他の愉快な仲間四人も、剣を抜いて出てきた。
「昨日も思ったが、村であったときと比べて一人足りないけど、フェンリルにやられた?」
「きっ、貴様に関係ない」
本当のようだ。
「ああっ、冥福を祈るよ」
「しらじらしい奴。へっ、だいたい貴様、二刀流とか笑わせるな」
「ああっ、俺、両手剣ですよ」
「はあん。自分から、飾りだと申告したぞ。おい」
ジャコが笑うと、後ろの連中も笑い出す。
「傑作だ。はははっ」
『リミハリチモモチカニラミ……』
後ろから不気味な呪文を唱えだす声に、俺の耳が反応した。
――オディロンか?
聴覚が過敏になっている。
これもしもべの便利増強の一つ?
近くで敵視する者の声が、かすかに拾えるようだ。
『トクラーカ』
空気が弾くような音を聞き、俺は横へ跳躍しながら剣を抜く。
避ける前の場所に炎弾がいくつも飛んでいき、こちらへ誘導されて来ると身構える。
だが、炎弾は真っ直ぐ突進して、ジャコたちの足元に次々に着弾。
「わああっ」
立っていた五人全員飛ばされ、倒れると足元が火だるまになった。
急いで剣を離して両手で叩き消そうとするが、中々沈下しないで焦っている。
――あれ? 基本魔法のみで、応用がない。おまけに同士討ち。
俺は速攻で戻り、オディロンの炎弾を打ち出した杖に剣を叩きこむ。
だが、巨漢男の中型剣に遮ぎられ、大きく弾かれる。
「よくやったエッボ」
赤化法士が一歩下がって、巨漢男エッボをねぎらう。
ジャコたちと交代に、あの傭兵たち数人が出てきて俺を囲みだす。
弓使いの男も、荷台の上に立って弓をかまえている。
――巨漢の中型剣と飛び道具をかたずけないといけないか。
耳に弦が弾く音と風を切る音。
振り向きざまに、飛んできた矢を剣で打ち落とす。
続いて、腰のベルトから投てきナイフを引き出し、弓使いの左腕に投げた。
寸分たがわず左腕にヒット。
「うげっ」
男は弓を落とし、身体をかがませた。
俺は第三の腕を呼び出して、ジャコが取り落とした風化紫月石剣を拾う。
赤月の中型剣は、周りからは一人で勝手に宙を舞いだしたように見えた。
「なんだ?」
「どうなってんだ?」
近くにいた傭兵たちは驚き、後ろへ後退する。
俺は剣をしまって、飛んできた風化紫月石剣を自らの手に収めた。
それを見たオディロンと巨漢男は驚愕する。
「あり得ねえ」
中型剣を直に持った感触は、意外と軽かった。
何かレイミアしもべか、赤月粉砕か、継承能力のどれかの加護だろう。
手にした中型剣を振り回して、普通に使えることを認識すると、巨漢エッボと対峙して中型剣の刃を交わらせる。
金属音を何度か繰り返すと、少しずつ後退を余儀なくされた。
そこから、また呪文が耳に入る。
――うるさい。
すぐに第三の腕を飛ばして、オディロンの杖から紫月石を粉砕。
杖の石が突然砕けて、赤化法士が狼狽。
焦りだして、俺から離れるように広場から離脱した。
中型剣の打ち合いから、一歩引いて下がる。
――あの腕力からくる強引さは、力負けしてしまう。
エッボは笑いながら、剣を振るって俺を追撃してきた。
風化紫月石剣で受け止め、また打ち合いで後退する。
剣音が響く中、金属音にひずんだ音が混じり始めた。
エッボが撃ち込んだ中型剣の刃に細かく亀裂が入り、見る見る刃こぼれをしだして破片が散乱した。
「何?」
相手は剣の異常に打ち込みを止めて、下がりだす。
すかさず、エッボの腕に剣の平で一撃を加えると、簡単に中型剣を落とした。
「うっおっ」
相手が驚いて声を上げた顔面に、剣の平を叩き付けると、まともに食らい地面に盛大に倒れ動かなくなる。
風化紫月石剣が、練度で打ち勝ったのか?
――そういえば前に、ヒルドがこの剣をオリハルコンとか言ってたな。
柄の紋章を見ながら思い出した。
広場の周りを見渡すと、雇われ傭兵も、見物人も静まり返っている。
門番の兵士たちも、止めることもなく突っ立ったまま見ていた。
――あっ。大勢の前で、先ほど第三の腕を使ってたな。
これはエインヘリャルだからと、言い訳しても収まらないか?
読んでいただきありがとうございます。




