第六十話 ソフィはあれとこれの知り合いだった
集まって見ていた人を避けて、人気のない路地へ移動した。
倒れたレイミアを抱いた俺は、近くの石段の上へ寝かせる。
元神族ナティフアは、怯えるように俺から離れて、ソフィの後ろへ隠れるように様子をうかがう。
赤月族の赤化粉砕を見たので不安を隠せないようだ。
俺は彼女を見て頭をかきながら笑う。
「何もしませんよ。それにレイミアを落ち着かせるためだったので、使いました」
「彼女、死んでないの?」
「死にはしませんが、彼女なら能力も大丈夫だと思います」
――たぶん。保証はないが……。
「そっ、そう」
やっと警戒を解いて、俺に近づきレイミヤを見る。
「ほんと、寝ているだけね」
「そういえば、レイミアを怒らせた、彼女の最近の行動を何で知ってたんだ?」
俺が聞くと、剣客ソフィが俺に向って指をさしてきた。
「エインヘリャル・テオドール。冒険者エンゾを知らないと言わせないわ」
「えっ、あの鎖斧の用心棒?」
知り合いなのか。……これは厄介な。
「冒険者として組んでた時の仲間よ。その彼から情報はもらっていたわ」
ソフィに続き、ナティフアが続けた。
「私の使い魔バードが、行き来してくれているのよ。一分ほどの音を固定して、情報交換できる優れ獣よ」
――うん? 録音装置みたいなことができる魔物か。
「また、エインヘリャルと戦うのが楽しみだと言ってたわ」
――何?
「生きて……いるのか?」
「まだあの村のどこかに隠れているそうよ。あんたに受けた傷が深いらしくて、動きが取れないってね」
不機嫌に言うソフィ。
「なるほど……だから初めて会ったとき、俺を見ていたのか」
「ああっ、それは違うわ。私はエインヘリャルが、背負っていた子を見ていたの。心当たりがあってね」
「フィーを? あ、そのエインヘリャルでなく、テオでいいから」
「では、テオ。治療師として腕がいいフィオレッラ・テスティーノ、その彼女で間違いないかな?」
下の名前は、テオドールの少年時代が憶えていた。
「そうだ」
俺からフィーの状況をソフィに話した。
首輪や生贄にあって死に戻ったこと、今は眠りについてると話すと、彼女は唇を噛んだ。
「昔、フィオレッラと少し関係があった……」
それだけ言って、詳しくは語ってくれなかった。
ソフィは組んだ腕を解くと、胸に腕を添えて俺に頭を下げた。
「フィオレッラをよろしく頼む、テオ」
「うん。それは絶対に」
俺が力強く答えると、ソフィは微笑むと両腕を腰に当てて胸をそらしてきた。
けっこうな胸の脹らみと絞まった身体に目が行き、慌てて目を反らしてしまう。
「……それで一つ、手合わせ願いたい」
「えっ、俺と?」
少し当惑してあごに手を置く。
「まあ、ソフィ、やっぱり交えたいんだ? いいけど。あまり私の手をわずらわさないよう、お手柔らかにね」
俺が首をかしげてナティフアを見やると、答えてくれた。
「私、赤化したけど攻撃はさっぱりだったの、でも治癒士として一時期は頼られたんですよ。おほほっ」
弓型ハープをつま弾くダークエルフ。
「でも、ヴァルキューレで酷使され、悠々自適の神族に鞍替えたと」
「そこまで話さなくてもいいです」
少し赤面した少女は、弓型ハープでノイズ音をソフィに向けて弾き出す。
それを合図にしたかのように、腕組みしていたソフィが俺の前まで来た。
「それでだ。あのエンゾを、一回でも倒した猛者テオと勝負をしたい」
腰の剣の鞘に手を乗せると引き出して、俺に刃を向けてきた。
――俺の承認も聞かずに、もう始めるつもりだ。
「それって、敵討ちとかでないですよね?」
「何もない。ただの腕試しだ」
「冒険者で組んでて、何もなかったなんてあるのかしら? うふっ」
「エッ、エルフの楽師は一言多いぞ」
俺は得体のしれないもやもやしたものに、巻き込まれたような変な気分になった。
「わかりました」
気を引き締めて、俺も剣を抜く。
「よし!」
すぐにソフィは、俺に向けて駆け、片手剣で横殴りに振って来た。
一歩下がって、刃を受け止め反らそうとする。
――重い剣だ。
無理やりに弾き返す。
だが、彼女は左手で小型剣を引き抜き、そのまま体を半回転して、加速の付いた刃を俺にぶつけてくる。
「両剣使い!」
相手の剣を反らして剣で、袈裟斬りをするつもりだったが、もう目の前にスローモーションになりだした小型剣の刃が迫っていた。
すぐに上半身を下げ、相手へ斬りだした剣を盾に変える。
金属音のぶつかる音。
その圧力で、少し後方へ身体が下がった。
――小剣なのに重い。赤月力の増幅か。
そのまま一歩後ろへ跳躍すると、ソフィもこちらへ駆けながら身体を回転させて剣を叩きこんでくる。
「ちっ」
受け止めると、もう一本の小剣が身体を刺しにくる。
剣を反らし、小剣を避けるべく、また後方へ跳躍。
「厄介な」
赤月剣使用は疲弊するから、一気に攻略する戦法か。
「逃げるな」
ソフィは声を上げて俺を追撃し、右手の剣を叩き付けては左手の剣で斬りにくると見せかけて、脚を引っ掛けに来た。
バランスを崩して、脇へのけぞると、追撃の剣を受ける。
「エインヘリャルはこんなものでないだろ? 全力をだしてくれないと、手合わせした意味がないぞ、テオ!」
両剣を交互に叩き付けてきて、剣の防御に終始してしまう。
――らちが明かない。使うか?
第三、第四の腕をイメージ表示する。
すぐ飛ばし、ソフィの赤月剣を掴んでもらう。
「うあっ?」
彼女は両腕を上げたまま、誰かと腕比べをしているように、剣を天に向かわせ硬直した。
体制を整えた俺は、彼女の首元に剣を向けるとそれを避けるように、彼女は上半身を反らしだす。
すると、ソフィは宙に浮く二本の剣にぶら下がった身体を海老ぞらした状態となった。
「あらまあ、面白いこと」
ナティフアが、あきれた感じで、ハープを奏でて終わりの合図とした。
剣を収めたソフィが、握手をして一言。
「お前やっぱり、魔族だ」
「人だよ。エインヘリャルではあるけど」
「ふん。一つ忠告するが、その剣はかなりくたびれている。打ち直すか、新調した方がいい」
「ああっ、俺も思っていた……そうだな」
赤月剣の方はまだしも、よく使う剣は刃こぼれがひどくなっている。
後で防具屋でも行ってみるか。
ひと運動した感じで、石段に横たわるレイミアの前に戻る。
――さて彼女をどうするか……。
そのレイミアをのぞき込むと、突然赤目を開けた。
「おっ」
俺は安堵しながら、レイミアの状態を見守る。
彼女は腕を上げ、手の指を見ながら開けたり閉めたりしたあと、のぞいていた俺に笑顔を向けるとしがみついてきた。
「捕まえた」
「えっ?」
突然の行動に固まっていると、レイミアは自ら噛み切った腕の血をすすり、顔を首元に近づけてくる。
「逃げろテオ」
ソフィに声をかけられたがもう遅い。
「カプッ」
そのまま俺の首元へ、吸血鬼のように噛みついて吸っては舌で舐めてきた。
「いてっ、てて」
噛まれたのか、吸われたのかわからないが、首から血が流れ出た。
レイミアは俺の血をすすると満足したのか、首から口を離すと一言言った。
「よし」
――よし、じゃねえ。
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