第五十九話 対決煽りはヤバいです
狭い通路を歩いて宿舎へ戻っていると、紫のゴスロリ服少女が前に立った。
「浮かない顔してるわ」
レイミアは、笑顔を浮かべながら近づく。
この際だから、彼女にフィーの目覚まし方法を聞いてみるか。
「えっと、死に戻りの起こし方の術とか、知らないか?」
「あら、まだあの娘を切り捨てないんだ」
驚いたように身体を反らされた。
「何を言う。フィーは手放さない」
「ふーん。……じゃあ、あのヴァル女は?」
「誰?」
「ヴァルキューレ・ヒルドだったかしら?」
「略し過ぎで、何のことだかわからんぞ。彼女はまだ砦に来ていない、そのうちなんとかして来るだろう」
「あら、はぐれたんだ……ふふっ、面倒な奴がいなくて清々するわ」
「それで、赤目魔族レイミアは、ここに来たのは何かな?」
片目を釣り上げたゴスロリ少女は、ため息をした。
「近くの村人たちに紛れて逃げてきたに決まっているでしょ。私でもあんな巨大獣、どうにもできないから」
「その服でが?」
「早速に目を付けられたけど……あらその人物がやって来たわ」
通路の先から、傭兵所を騒がした女の二人連れが歩いてくるのが見えた。
その剣客の方が、腰に下げた剣の鞘に手をかけて、もう一人をかばうように前に立って止まる。
不穏な状況にレイミアを見ると、笑顔で相手に声をかけた。
「あらソフィ、こんちわ。ナティフアもね。また会うとは、砦は狭いこと」
「貴様に声をかけられる筋合いはない」
ソフィと言われた剣士は声を荒げ、ダークエルフの少女も笑顔のまま、腕に持つ弓型ハープの弦を一本弾いた。
「レイミアさん、エインヘリャルさんとお近づきになって、今度は何を始めますのかしら……ふふっ」
「顔見知りだから、話してただけよ。余計な詮索は不要」
「ヴァルキューレ攻略など、考えてはいないですよね?」
おっとりしていたエルフ少女の目つきが鋭くなった。
「こいつのヴァル女は、この間逆さ吊りにしてやったわ。おかげでえらく嫌われてしまったがな」
また略すし……。
それにレイミアを疑ってたヒルドは正しかったようで、この魔族が全く反省してないことを理解した。
「まあっ、相変わらず乱暴な」
自らの首に手を置いた剣士も、声をかけてきた。
「そこのエインヘリャルよ、気をつけな。そいつは、隙あらば配下にして飽きたら捨てていく悪魔だぞ」
うん。つい二日前に見てた。
――ってか、彼女も何かの被害者か?
「わかった。彼を配下にしようとしてますね」
「ナティフア。その詮索好きは、痛い目を見ないと治らないのかしら?」
レイミアの目が赤く成りだすのを見て慌てる。
「おい、ここで能力はなしだぞ」
「大丈夫。そいつは、元神族の魔族よ」
――元神族?
「あらら、レイミアさん、年取りすぎてお忘れになったのかしら。私はいつでも神族ですわ」
「下界に出奔すれば魔族よ。そんなことも自覚できないのが神族なのよね。それに歳のことを言うなら、私を敬え!」
「赤月族としてはあなたより二百年ほど年下だけど、エルフの年齢を足せば私の方こそ、敬われていいのでは?」
――うおっ。
どっちもピチピチ肌な少女の皮をかぶったババアだった。
エルフのナティフアは気を落ち着かせるように、弓型ハープの弦を綺麗に弾いた。
「その楽器を鳴らすな、頭が割れるわ」
レイミアが頭を押さえて、眉間にしわを寄らせた。
「美しく凶暴の赤目。ここで本性を晒すなどと失態ですわね。そうそう、長く生きていて退屈なのはわかりますが、刺激ばかり追求して今回の巨大獣騒動を起こすなら、死んだ方が世のためによろしくてよ」
レイミアの悪事が彼女にばれてる。
「……余計なことを言うな」
重苦しい低い声で返したレイミアは、右手の甲に嚙付くと、皮膚を引きちぎって血を滴らせた。
――わっ、レイミアがキレた?
すぐ生き物のように、血がいくつもの針の形になり、ナティフアへ伸びていった。
ハープの弦が鳴ると、血の針はナティフアの前で次々に弾き、液体になって落ちていく。
――音が、空間に防御壁を作っている?
散っていった血の液体は、レイミアの前に集まり、また針の形に変化して飛んでいく。
そのつど、ナティフアはハープの弦を弾いて、前面で針を血のしぶきに変えていった。
「逃げるな」
「当たったら大変ですわよ」
レイミアは、反対の腕を噛みちぎり、すぐに数十の槍に生成して飛ばしだす。
やはりハープ音で弾かれるが、血のしぶきが空中を多く舞いだす。
ナティフアに外れたいくつもの槍の先は、彼女の後ろの岩を銃が乱射したように砕き、破片を飛び散らせていく。
――おいおい、エキサイトしてきてまずいだろ。
ナティフアは攻撃をすべてハープの奏でる音で無効化するが、威力が上がった槍に押され始めて焦りだした。
「ちょっとまずいかしら」
岩のはじける音で、その騒ぎに一人、二人と人が集まりだしてきた。
ナティフアの劣勢と感じた剣客ソフィが、脇から躍り出て飛んでくる槍の一部を剣で斬り液状にする。
俺も習って剣を抜き、レイミアの飛び行く槍を剣で寸断する。
「テオ、邪魔するな」
レイミアは俺へも、血の槍を向けて攻撃してきたので、真剣に相手をする羽目になる。
避けた身体の右、左と赤い槍が飛びぬけていき、なおも槍が飛んでくるとスローに変わりだし脇腹をかすっていった。
――やばっ。
さらにもう一本の血の槍が、眼前にスローになって飛んできて、身体が動いて剣で弾いた。
「うっ」
やっぱりレイミアは危険だ。
焦りながら、瞬時に第三の腕を出して、レイミアの胸に飛ばした。
――赤月粉砕を使わしてもらう。
なおも飛んでくる槍を剣でさばきながら、第三の腕に感じた感触を握りつぶす。
「うぎゃああっーっ」
唐突に声を発したレイミアは、攻撃を止めた。
血の槍や針は赤い液体に戻り、彼女の傷口へ収拾されていく。
そのまま足元から崩れ地面へ倒れると、その場に沈黙が起きた。
岩陰から見ている村人らしい数人は、顔を見合わせては倒れたレイミアを見る。
俺は剣を収め倒れたゴスロリ少女に近づくと、呼吸は荒げているが起きてこないことを確認して、ゆっくりと抱き上げる。
ナティフア、ソフィともに驚愕して俺を見る。
「あっ、あなた魔族だったの?」
剣を持ったままソフィが聞いた。
「俺は人族だと思うんだけど……」
胸に弓型ハープを抱えたまま、ナティフアも目を丸くしながら聞く。
「レイミアに何をしたの?」
「赤月粉砕しても、彼女の場合は……一時的に眠らせた? だけになるのかな」
「そんなことができるって……もしや……いえ、でも……やはり」
ナティフアは弓型ハープで口を押えながら、一歩下がって言葉を放った。
「赤月狩人」
変換ミス修正。




