表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/75

第五十三話 フィーとテオ

 奴隷商人や調教師などが乗り込んだ一台目の幌馬車が動き出す。

 二十人の奴隷を乗せた二台目の幌馬車も後ろに続き、馬上した六人の冒険者に守られて占拠されたサクサン砦を出た。


 私は悶々とした気持ちで幌馬車から後ろを見ると、離れた位置にテオが馬をさばいて付いてきているが、肩を落として冴えない表情が見て取れた。

 私が奴隷になっていたのがショックなのだろうか、邂逅後のテオは他の冒険者たちとも話さずに黙り込んだままだった。

 簡単な昼食後から奴隷同士が打ち解け会話をしだすようになり、そこそこ騒がしい幌馬車になっていた。





 夕方になり森の入り口で野営地を定め、幌馬車から奴隷たちは下ろされ、一つの場所に騒がしくしながら移動した。

 私たちは草むらに座ると、護衛の冒険者たちが周りに配置され、テオが近くに立ったので彼に近づき話しかけた。


「テオ、いつから冒険者……に?」


 彼は一瞬黙ったが、腕を組んで話に応じた。


「ああっ……その一年ほど……前だよ」

「就職先を辞めた……のは?」

「あそこは、合わなかった。それより……」

「私との約束……は?」


 私は立ち上がって、テオの顔をじっくり見た。


「んっ……」


 少し言葉を濁らせたテオは、私を見て不満気に言いだす。


「冒険者で食えるようになったら、迎えに行くつもりだったんだ。それなのに、フィーは何で奴隷などになっているんだよ」

「私は事情があるの……よ。あの砦では、薬師をしていて敵軍に捕まった……の。そのままここ……いたっ」


 鋭い痛みが背にかかり前倒しになると、テオに抱き留められた。

 次に足元に鞭のしなる音と地面から激しい音が煙と一緒に飛んだ。


「……うあっ」

「おい、小娘。勝手に動いていいと誰が言った?」


 調教師が怒鳴りながら鞭を飛ばして、熱の棒が当たったような痛みが足に起きて声を上げてしまう。


「ぐあっ」

「止めろ!」

「なんだぁ、冒険者の小僧? ここの奴隷は、ティラリ王国軍から買い受けた商品だ。きさまが手を出せる代物じゃねえ」


 また鞭が私に襲い苦痛で身体を丸めると、調教師に髪の毛を掴まれ引っ張られて、奴隷の座る輪の中に戻された。

 立ち上がっていたテオに、リーダーのモイーズが肩を取り何か言うと、調教師をにらんでから元の位置に戻っていった。

 私は鞭で打たれた痛みで身体を丸めながら、改めて奴隷に落ちたことを自覚して歯を噛む。

 その後は他の奴隷たちも騒がしくする者、反抗的な奴と次々に調教師の鞭にやられて、全員が従順になっていった。





 南のプーノ共和国の占領されたソラタから、東のイラベ王国に属する森林地帯に入った。

 その夜、テオが護衛で変わり立っているのを見計らって、私はトイレに立ち、彼が見張りで草木の陰まで付いてきてくれた。


「鞭で打たれたところ、大丈夫か?」

「もう、平気……なの」

「……ごめん。まさかフィーを、奴隷として売る手伝いをすることになるなんて」


 後ろからついてきながら、悲しそうに言った。


「冒険者って、そういうもので……しょ」

「占領されたソラタの冒険者ギルドは、占領軍の要望に応えないといけなくて、でも実際は強要され色々なチームが派遣されたんだ」

「そう……なの」

「俺やリーダーのモイーズさんも拠点にしていた場所が、あんな短期間で占拠されるとは思わなかったん。敵軍の威張った駐留にも愛想が尽きて、拠点変えにこの護衛仕事を受けたんだよ。チーム内にプーノ出身は俺だけだったからってのもあって、上手くサクサン砦に回されたけど……最悪だ」

「再開できたんだから、いいじゃ……ない」


 私が少し投げやりに言うと、足で草を蹴り上げるテオ。


「何で戦争なんか起こったんだ……くそっ」


 私たちが無言になると、森の虫の音がよく聞こえだした。


「なーっ、フィー」

「うん?」

「一緒に……ここから逃げないか? 深夜寝静まって、俺が見張りに立ったときにさ」

「しっ、ここでそんな話、まずい……よ」


 周りを見渡すが、草木の周りには私たち以外いなかった。


「大丈夫だよ」


 テオも静かな声で回りを見渡して言うが、私は奴隷首輪を叩いて状況を説明する。


「これ、ある。逃げたのがわかれば、奴隷商人の専属赤化法士が呪文を唱えて首輪閉まるって聞いた……よ。すぐ首が飛ぶっ……て」

「うっ……駄目なのか」

「もう、なるようにしかならない……よ」

「くそっ」


 唇を噛むテオを見ながら、プーノを去る前に彼に会えたことを良しとしようと私は思った。

 元の寝場所へ戻るときに、テオから静かに言われた。


「何か逃げられる方法があるはず……スージュに着くまでに考える」

「うん。でもテオも立場があるでしょう……から、無理しない……で」


 そこに地面に鞭の音が立った。


「わっ」

「小娘、またお前か? 静かにできないようだな」


 調教師が前に現れると、鞭のグリップを持った手が上がり、紐のしなった先端が飛んできた。

 両手を前に出し目をつぶったが、痛みは襲ってこない。

 目を開けると鞭の先端のクラッカーを、手に握っていたテオが横にいた。


「商品じゃなかったのか? それを壊すような真似をしてるのは、馬鹿な行為だ」

「はあっ? 奴隷としての躾だ。貴様は奴隷が逃亡しないように見てるだけの存在。舐めた口をきくな」

「躾? 単なる鞭の練習台だろ?」


 鞭で引っ張り合いをしている二人に、別の護衛冒険者が声をかけてきた。


「テオ。いい加減遊んでないで、見張り位置に戻りな」

「ああっ、すいません、トスカンさん」

「調教師さんも子供相手に遊んでないで、身体休めたらどうだい?」

「ちっ」


 トスカンに言われた調教師は、渋々と奴隷商人のテントに脚を向ける。


「ごめん、テオ。その……腕……は?」

「ああっ、何でもないよ」

「ありがとう」


 私は焚火を囲って寝ている奴隷たちの中に戻って横になると、テオもトスカンに肩を叩かれて前の暗がりの立哨位置に戻る。

 テオは周りを見たあと後ろを向き、先ほど鞭を受け止めた腕を押さえて、上下に揺すり何かを我慢している風に見えた。

 彼のその行動を横目で見ながら、今の状況に心底嫌になった。


 ――テオと一緒になりたい。


 そう思ったら覚悟が決まり、ハーフ魔族のあの血を使ってでも逃げようと画策する。

 まずは、あの奴隷調教師を何とかしないと……そして同じく、首輪に権限がある奴隷商人と専属赤化法士もね。





 よく日、奴隷商人の召使いと専属護衛者が作る朝食、その野菜汁を盛り付けるのを自ら手伝いに名乗りを上げる。


「早く食べたい……から」


 そう言って油断させ、木茶碗に野菜汁を盛り付けの手伝いをした。

 それを召使い経由で奴隷商人たちへ配られたが、その茶碗汁はトゲのある枝を私が拾ってきて、指を傷付けその血だまりを数滴づつ落として混ぜたものである。


 どう変化するかはわからなかったが、夕食時には効果らしきことを確認できた。

 私がテオに話しかけているところを、また調教師に見られ鞭が飛んできたが、すぐに身体の調子が悪くなったようで調教師はテントに戻っていった。


 ――効いてる?


 その後、調教師は他の者に鞭を振るうが、私には鞭を上げても打ってくることがなくなった。

 奴隷商人リーダーも私がいる奴隷グループを怒鳴ったりすると、胸を押さえてしきりに首をひねるようになる。

 しまいに専属契約者たちと冒険者たちに、奴隷は大切に扱うようにと何度も言いだした。


 私が寒いと言えば、商人は召使いにポンチョを持ってこさせ着せてくれるようにまでなる。

 調教師はすっかり仕事がなくなり、奴隷たちを眺めるだけになっていった。

 おかげで、テオと隠れて会うことができ、二人で逃亡する計画も話せるようになった。


 そして、初めてテオに抱き寄せられて、キスをされた。

 それからは会っては抱擁。続いてキス。また抱擁にキスと大胆な関係になっていった。

 ただ、そんな関係になっていくと、黙っている事柄が心を重くさせていった。


 ――深紅者。


 いつか彼に話さないといけないけど……今でなくて……いいよね。

 テオとの関係を壊したくないし、まだ彼には知って……欲しくない。

 だけど、それを話さなかったことが罰となったのか、最悪が訪れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ