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第四話 状況把握せよ

 夫婦喧嘩のたえない親の下、何をやっても駄目とレッテルを貼られ、不良にもならず陰気なままの幼少時代。

 中学ではいじめられる日々、「明日はいじめられずに、いい日でありますように」と寝る前に祈り、一人新教宗教を始めた十四歳。


 高校時代、親切にしてもらい、好きになった女の子がいた。

 だが、俺が後ろに居るのを気付かず、陰口でボロクソに叩くのを聞き、女性不審になる十七歳。


 大学の医学部に入学できたが、病気にかかり長期入院で休学から中退の二十歳。

 体調が整って就職面接をするが、二十回落ち。

 二十一回目に受かった歓喜の会社は、一年目で倒産。

 何でもいいと焦って入った先はブラック企業で、上司に怒鳴られ深夜までサービス残業の二十四歳。


 心労がたたり病気療養を繰り返したら、使えないから首と言い渡され失業。

 腹いせに巨大掲示板で毒を吐くが、板の住人からフルボッコにされ三日間寝込む二十八歳。


 ツイッターをしても誰からもフォローを入れてもらえず……以下略。

 お金も少なくなり、2DKマンションから風呂なし四畳半のアパート暮らしの三十路。


 気がついたらニートになっていて、金がなくなったら、仕方なしにバイトに出るの繰り返し。

 今の俺の知識と意識で、若いときからやり直せたらと思うこと度々。

 人生を漂流し始め駄目人間を爆進中、バイト帰りにコンビ二で買い物を済ませたあと、雨の中土手を自転車をこいで光に打たれた三十四歳。





 どこかで経験したような悪夢を見たあと、夜の焚き火が灯る前で目覚めると、ちっこい少女が半眼で見ていた。

 いや、こっちが悪夢なのではないだろうか。


「野宿で相談もなしに居眠りするなんて、やっぱりポンコツ冒険者だ……よ」

「あっ、そうだった。ついうっかり……見張りが必要だよな? じゃあ、夜は交代するのか」


 起き出し腰に装備していた譲り受けた茜色ナイフで、大量の小枝を切断して火にくべる。

 ちなみに火は少女が火打石を持っていてつけてもらったのだが、この地に魔法はないのかな?


「私に……見張り?」

「ああっ、ごめん。難しいよな。じゃあ、俺が眠くなって少しだけ仮眠したいときだけ、やって欲しいかな」

「んっ。わかった」


 毒づくかと思いきや、素直だったので顔をのぞいてみると、恥ずかしそうに顔を背ける。


「んっと……テオが大怪我していたこと……食事して睡眠が必要なこと、忘れていたから……よ」


 おおっ、辛口であるが意外と根はいい子だ。

 うしろの森の深部から、いろいろな生き物の聞きなれない鳴き声が耳に入り、寝てしまう前と様相が変わっていて少し焦った。

 だが、フクロウらしい鳴き声を聞いて安堵しながら、姿勢を正していると革袋を枕に横になる少女。


 彼女がもっと大人の女性だったら、まずいシチュエーションだったなと、つまらない妄想を抱きながら焚き火に枝をくべる。

 そうこうしていると、無意識に体を横にして、そのまま二度目のうたた寝をしてしまった。



 ◆◆◆



 最初のうたた寝は夕食後に横になってすぐだったが、その夕食で腹に入れたのはワイルドボアの焼いた肉。

 その調理が大変だった。

 もちろん血抜きも解体も知らないので、ちっこい少女に罵られた。


「なんなの? 冒険者なのに何も知らないの? ポンコツの二乗……だわ」

「うるさい。みんな忘れたんだ。知らないものは知らん」


 俺が怒って開き直ったら、少女は記憶喪失だったと手を叩いて納得し、粛々と作業命令を下してきた。

 小さな魚をさばいたぐらいの経験しかなかったので、二頭の解体は大雑把の作業でも夜までかかってしまう。


 最初の内は、血が流れ出たり内臓が飛び出て、それらがグロく見え何度もえずきそうになった。

 これは、グロと思うから駄目なんだ、美味しい食べ物と思いながら作業をこなし続ける。

 しかしここでも経験がないのに、長剣とナイフでの肉のさばき方は上手くこなせることができた。


「うん。テオ、やればできる……ね」


 眺めていた少女から合格点をもらうが、前世の俺の知識にないものだ。

 これは、この肉体の持ち主の経験が無意識に体を動かしているのだろう。


 解体した内臓や皮、腹骨、頭などは土に埋め、夕食以外の肉は木の幹にぶら下げて干した。

 近くに泉があり、血で濡れた手を洗う。

 少女も手が血で汚れていたので、洗いだすと指輪も外して水洗いをしだす。


 透明な水を眺めて、飲めるのかと少女に聞くと、湧き水だから問題ないと答えたので、岩場の上から静かに流れてくる清水を一口飲み、腰に吊り下げてたひょうたんをくり抜いたような水筒に水を詰める。

 その水面に映り込んだ自分の顔と体系が見て取れて、しばらく眺めてしまう。


 整った顔に、筋肉質でなくやせ細っているわけでもない優良体型は、まさしくアバターに入った気分を再認識する。

 生前と比べればレベルアップした気分だが、内面がその俺だからポンコツ冒険者になってしまう。 

 肩をすくめて立ち上がり次の作業に戻った。


 夕食の肉を水洗いしていると、後ろから小さな悲鳴が聞こえたので振り向くと、少女が固まって立っていた。

 近づくと足場がぬかるんでいて、その先に太ももまで土に埋まって動けない彼女がいる。


「泥沼か?」


 少女が指差す方に、片腕ほどのグロテスクな大ムカデが湧水の岩場から顔を出していた。

 驚いて飛びのいたら、泥沼にはまって立ち尽くしているってところか?


「小さなオーラで、気にしなかったのが間違い……なの」


 よくわからないこと言っているのは無視して、これ以上進むと、俺の脚も沈み込んで動けなくなるのは目に見える。


「そっちから動くことは?」

「無理」


 少女が上半身を動かすだけで体が沈みだして、身動き取れない状態を示した。

 どうしたものかと考える俺を、所在なく見つめる少女の顔は、思いのほか悪い。

 俺は森を見渡して、板なんかないだろうかと思案しながら、奥へ歩き出すと呼び止められた。


「逃げる……の?」

「んっ? ちげーよ。足場になる物を探してくるから」

「本当?」

「ああっ」


 そう言って、動かせる折れた古木を探しに行くが、少女の不安を怖がりだと簡単に思った。

 数分ぐらいで動かせる古木を見つけ、手で引きづり湧水まで戻ってくると、彼女の声。


「わっ。ばか。駄目よ。いやっ、来ないで」


 ちっこい少女が短剣を振り回して騒いでいた。

 何かと思い駆け寄ると、さきほどの大ムカデが彼女の近くへ、泥をかき分けてはいよっていた。

 それも三体も降りてきている。


 すぐ腰の投げナイフを取り出し、投げると一発命中。

 もう一本も投てきして仕留めて、自ら驚く。


 俺、こんな腕なかったし、さっきのワイルドボアでも刺せなかったのに、突然どうしたんだ?

 だが投げナイフはもうないので、残りの大ムカデを止められない。


 少女も真似して、短剣を投げるが目の前なのに外れて泥沼にめり込んでしまう。

 俺を見ながら、顔を青くして泣きべそをかきだした。

 すぐ折れた木を少女の横まで押し出すが、不気味なムカデ足がポンチョに乗り上ると、少女は固まって動きを止めてしまった。


 彼女に近づけた太木に乗って、バランスを取りながら走り剣を鞘から抜く。

 少女の胸まで上がっていた大ムカデを、無心で刺し貫く。

 そのまま体を回転させて、足元の木に叩きつけた。

 絶命した大ムカデを見ながら、剣を鞘に収める。


 無心で上手く立ち回れる自分に驚きながら、放心状態の少女を見て安堵する。

 彼女の腰に手を回してゆっくり担ぎ上げると、スポッと音がして突然泥沼から抜け出た。


「んっ?」


 少女は裸足のままになっていて、皮のブーツを泥沼に取り残してしまったようだ。

 抱きついてる少女は、泥の中のブーツと俺の顔を交互に困ったように見る。


「わかった、ブーツも短剣もあとで取り上げる」

「ありがとう」


 顔を明るくして礼を言ってきた。

 木を伝い少女を硬い地面に下ろすと、腰を傾けて付近の草むらに手を入れ何かを探し出した。


「どうした?」

「さっき、ビックリして手放した……の」

「何が?」

「ん……あっ、あった」


 地面から赤い石の指環を取り上げて、ため息をつきながら左手にはめた。

 先ほど水洗いしてた薬指の指輪で、彼女の大事な物らしい。

 その少女は手を洗っていた水場へ移動して、ポンチョを脱ぐと泉で両足の泥を洗落とし始めた。


 ポンチョの下は、胸までのこげ茶のタンクトップに白革のミニスカート姿。

 ちっこい少女なのに、胸に多少のふくらみを確認して、目が留まってしまう。


「あれっ?」


 小学生くらいと思ってたが、中学の高学年くらいかな。

 太ももからつま先まで生足が見えて、こちらも目の毒である。

 いかん、いかん。

 ブーツや投てきしたナイフを回収しなければと思い、振り返り泥沼に戻った。

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