第三十七話 広場は乱戦でした
暗く長い階段を上りきると壊れたドアがあり、横の壁に背を預けて部屋の中をのぞく。
ランプがいくつか点いていたが、人の気配がない広い室内だった。
中へ入ると一つのベッドのような台があり、その周りにいくつものテーブルが設置され、人の四肢の部品が並んでいるのに気付いて目を背ける。
――うわっ、ひでーな。実験室か?
ここはあのテュポンの創作室か何かで、村人が生贄にされていたってことか。
ひしひしと不快さから怒りが沸いてくる。
フィオがこんなことされたなら……。
奥の壊れたドアの先から足音が聞こえてきて、石壁に弓を置き壁に背を合わせ、様子をうかがう。
足音が近づくと、剣の柄に手の力が入る。
兜を取った鎧騎士が一人部屋に入ってきた。
あの副官デジレの側近にいた男だとわかるが、相手はこちらに気付かずにそのまま地下の階段へ向かう。
――なぜ一人で地下へ? ヒルドの様子見? あるいは……処刑?
何にせよ、今降りてもらっては困るので声をかける。
「警備団の魔族崇拝組織か?」
相手は振り返り、俺を見て驚くと剣をすぐ抜いた。
「きさま、なぜこんなところに」
声とともに鎧騎士は、剣を振りかざして迫ってきた。
すぐ俺も剣で受け止め、二度、三度と叩き付けてくる刃を合わせたあと、脇へそれる。
力任せだった鎧騎士は、俺が背にしていた壁に剣を叩き付け身体のバランスを崩したので、足を引っかけて床に転がした。
だが、剣をこちらに振るいながら倒れたので追撃を避ける。
鎧音を鳴らしすぐに立ち上がると、剣を乱暴に振り回してきたので部屋の方に退避する。
テーブルに置いてあった身体の四肢を、振り回す剣が引っかけていくつも床に落としていく。
その大振りを軽く避け、相手の胴に剣を叩きこむが鎧がへこむだけだ。
「ふん。馬鹿が」
相手は鼻で笑いながら、俺に剣を振るってくる。
その剣を刃で受け止め、衝撃を受けながら脇へ反らす。
剣を弾かれた鎧騎士の胴が、がら空きになった。
すかさず、先ほどへこませた鎧の隙間へ、剣を深く刺し入れる。
相手はまた剣を大きく振ってきたので二、三歩後退すると、それが最後の攻撃で動きが止まった。
俺の剣が入った胴の分部をひじで押さえると、床にしゃがみこんだ。
そのまま体を痙攣させたあと、床に倒れて動かなくなる。
死者に心を持っていかれないように、死体を見ずに前を向き聖生弓を手にした。
俺は機械のように徹すると、そう決心した。
フィオを救出するまで……。
聖生弓を手で持つ握りの分部に赤月石がはまっていて、弓を肩にかけるとその赤い結晶が肩に吸盤のように固定されることに気付いた。
――おおっ、これは便利だ。
鎧騎士が来た通路をのぞくと、また上に上る階段があり、そこをゆっくりと登っていく。
上がると通路に出るが、奥の方の部屋から警備団らしい者が数名走って、開け放たれたドアの外へ出ていった。
俺は普通を装って堂々と通路を歩き、集会所の建物から外へ出る。
巨大な紫月が上空で輝き、足元の暗がりを薄く不気味に照らしだす。
ピラミッド神殿前の広場へ出ると、ところどころにかがり火が設置されて明るくなっていたが、緊張感を覚える剣の打ち合いと怒号が聞こえた。
――ん? 知っている声だ。
「後ろだ。コゼット」
「言われなくともわかってます」
広場の空中には炎弾が飛び交っては、前衛の剣使いや槍持ちが剣を交わしては離れていた。
「殺してかまわん。儀式の邪魔をさせるな」
警備団副官のデジレが長い杖を持って、周りにいる二、三十人ほどの山賊風な男たちに命令している。
マチアスたち三人と知らない鎧騎士に槍兵と赤化術士十数名が、魔族崇拝組織たちに囲まれて劣勢に立っているのを把握できた。
俺のいない間に新たに仲間を集ったようだが、人数的に分が悪い。
村の警備隊長エヴラールも、斧を持ったエンゾとかいう冒険者と剣を交えて押されている。
例の巨体キメラが四体、五体と集まりだしてきていて、まずい状況になりつつあった。
「きゃーっ」
「下がれコゼット」
「後ろからなんて卑怯だわ」
「キメラまだいたのか」
「まずいぞ。下がれ」
マチアスたちも気付いて、混乱と焦燥感がこちらへも伝わってきた。
戦いは彼らに任せてフィオの救出を最優先にしたいが、この広場での戦闘も放置できなくなってきている。
アナネア村で俺を助けて死んだ、冒険者のことが頭をよぎり少し反省する。
そしてここで俺が、絶対成すべきことを再認識した。
――俺を助けた冒険者の役割を果たすこと。
まず、広場の味方が手遅れにならないように、キメラを倒さないていけない。
すぐに第三の腕に集中する。
百メートルほど先にいるキメラたちで、距離的に届くが疑問だったが、見えない手は赤月石の反応を察知できた。
物体を空間認識か目線確認できれば、距離があっても第三の手は赤月石に反応すると知る。
速攻で粉砕。
また感触を掴んでは破壊する。
破壊。
破壊。
目に見えた五体のキメラは次々に倒れていく。
その無生物は縮小し、人と昆虫や爬虫類に分解されていくことに成功。
次にコゼットたちと争っている数人のレッドゴッド、赤化術士たちの杖の紫月、赤月石を続けて潰して沈黙させていく。
粉砕。
粉砕。
「わっ」
「こっ、これは?」
敵が驚き困惑し、マチアスたちは歓喜の声を上げた。
「なんだ、自滅か?」
「これはヴァルキューレの加護だ」
「ヴァルキューレ・ヒルドがきてくれた?」
「いけるぞ」
今度はレッドゴッドたちが、何者かの襲撃に混乱して勢いがなくなった。
戦いは均衡して乱戦になっていく。
俺はもっとかく乱させるべく、レッドゴッドたちの後ろへ近づき、手にした聖生弓を使い矢を発生させる。
マチアスたち付近のレッドゴッドたちへ、狙い定めて二射、三射と放った。
矢は湾曲しながらイメージ通りに、剣を振るうレッドゴッドたちへ届き、うめいて倒れていく。
再度、聖生弓で矢を射ち命中させて、山賊兵を無効化する。
――この弓凄いな。百発尺中ってやつになりそうだ。……ただ、腕が虚脱感を起こして辛くなるのが難点か。
すぐに副官のデジレと周りの数名が、俺に気付いて声を上げた。
「連中の仲間だ!」
「後ろから、姑息な真似を」
「応戦しろ」
「おおっ」
軽装だが屈強な男たち五人が一斉に抜刀し、槍を構えて俺の周りを囲みだした。
――そんなに一度に来るなよ。焦るだろ。
聖生弓を背にかけて、剣を抜いて囲みの薄いところへ走る。
一人の男と剣を合わせて押し切ると、横からもう一人が斬りかかってきた。
切り返した剣を盾にして、男の剣を受け取り弾き返す。
相手が体制を崩したところへ、下から上へ向けて太刀筋を浴びせると肉を切る感触が腕に伝わる。
「おのれ」
最初の押し切った男が、声を上げて後ろから上段斬りで迫ってくるが、身体を左へそらしながら剣を水平に振り相手の胴を斬る。
囲みを抜けて前に進むと、副官のデジレの方角から槍状の太さの矢が数本続けてこちらへ飛んできた。
「あっ、やばっ」
矢弾の一群を横跳びしてなんとかかわすが、前のめりになり地面に転がってしまう。
聖生弓が肩からはずれて、腕に乗ってきたのでそのまま弓を持つ。
飛んできた方向へ聖生弓を向けて矢を放つが、矢弾も連続でこちらへ飛び込んできた。
矢は矢弾と重なり、同時消滅をしたが、身体を半回転させて後続の矢弾数本の直撃を避けると、地面に深く突き刺さる。
飛んできた矢は氷でできていて、目に見える銃弾だと思った。
――この矢弾を身体に受けると風穴があきそうだぞ。
すぐ立ち上がり飛んでくる氷の矢を避けつつ、聖生弓の矢をデジレに向けて二射放つ。
一本は氷の矢と交わり消滅、もう一本は矢弾を繰り出したデジレの肩へ飛び込みヒットした。
――よし。
続いて追ってきた男たちへも、剣を持ちながら聖生弓の矢を連射して、何人かを無効化させる。
だが、レッドゴッドの山賊兵が落とした槍が足に引っかかり、転びそうになると同時に声が飛んだ。
「危ない」
突然、地面に尻餅をつき片腕を抑えた警備隊長エヴラールが、数名の兵に守られながら俺に危険を知らせた。
発した方向から黒い物体が飛んでくるのに気付き、素早く身体がそれに反応。
黒い塊は、ゆっくりと回転するような錯覚を覚えながら眼前に迫ってきた。
剣を持ち上げて盾にしたところへ、強い衝撃を受け、弾いて地面に落ちた黒い物体は、斧だった。
――これは。
すぐ聖生弓を肩にかけ体制を取ると、鎖の音と巨体が迫り、長剣の斬撃が飛び込んでくる。
構えた剣に重みのある刃が押し込まれていた。
「エンゾ!」
「ほう。名前を憶えてくれて光栄だぜ」
相手の剣をそらし脇へ飛び距離を取るが、エンゾの追撃の斬撃は止まらない。
すぐ剣を盾に応戦をするが、力技の長剣で叩き付けられ後ずさる。
エンゾの腕力で手にした長剣一本の対応では、いずれジリ貧になる。
すぐ左手で赤月剣を抜き二刀流で打ち返すと、目の前の巨漢が笑う。
「ふっ、ははっ。おまえ、それ似合わんぞ」
「言ってろ」
赤月剣をエンゾに投げるとよけられるが、俺の見えない手がもう握っていて、空中に停止させた。
隙があれば斬れと命令する。
「何?」
背後をつくように頭上から、浮遊剣が袈裟切りをかけるが逃げられる。
その隙に俺はエンゾの距離を縮め、長剣で突きを入れ左腕を切り裂く。
「くっ」
腕を押さえて数歩下がったエンゾは、足元にある斧を持ち上げると、すぐ空中に制止している赤月剣に投げてきた。
鎖の音と一緒に飛んでいく斧を、軽く避ける浮遊剣。
だが、その鎖の付いた斧は、巨漢の腕力でこちらへ強引に叩き付けてきた。
二歩、三歩と下がっると、前にいた場所へ的確に斧が土をえぐっていく。
こちらも浮遊剣をエンゾに向かわせるが、左腕の斬り傷をモノともせずに長剣で弾き返す。
突然、目の前に氷の矢弾が続けて飛んできて、俺とエンゾは急いで飛びのく。
何とか避けた矢弾は、地面へ次々に突き刺さり土を掘った。
その矢弾が飛んできた方向を見やる。
聖生弓の矢を受けたが、傷を治して立ち直った赤化術騎士デジレがこちらへ攻撃を仕掛けていた。
「邪魔するな」
「どけエンゾ。私の獲物だ」
俺はデジレがこちらへ向けてる赤月石の杖を見て、こいつの根本を叩くのが先決だったとミスを自覚する。
すぐに浮遊剣を地面に刺して、奴が持つ細い杖の赤月結晶へ第三の手を伸ばした。
そして、軽く握って粉砕。
「なっ?」
デジレは杖の赤月石が突然破裂して粉々になったのを驚き、すぐに周りを見渡してから俺から距離を取った。
赤月石の杖に集中していたら、エンゾが右手で斧の付いた鎖を持って振り回すと、こちらへ投げてきた。
とっさの反応ができずに、斧を弾いた剣に鎖が巻き付いてしまう。
斧が重しになって、手にした長剣が地面に下がると、強い力で引き上げられた。
「またか」
武器を奪われないように、手に力を入れるが、体制が悪くなり剣を奪われそうになる。
まずいと感じ赤月剣を握り直した第三の腕を特攻させるが、エンゾの左手が握る長剣はわかってたとばかりに弾き返した。
だが、鎖の力が弱まったので、手にした剣を前方に振り回して鎖から抜き取った。
と思ったら、腕から剣が飛んで数歩前に落としてしまう。
――振り回しすぎた。
エンゾが笑いながら、斧を引き上げるとこちらへ飛ばしてきたので、手ぶらのまま一歩後退し避ける。
下がった足元に、先ほど転がった敵兵の槍がぶつかったことに気付き、すぐに足で救い上げて両手に持った。
俺は槍を振り回して構え、刃の先端をエンゾへ向ける。
――んっ、痺れもこなく、変わりなく使える。
「おわっ? お前、槍術の心得もあるのか」
「少しだけね」
斧を引き上げるエンゾへ、高速二段突きを繰り出す。
鎖斧で払われるが、なおも踏み込んで突きを入れ、浮遊剣も首へ刺しに行く。
「うっ、なんだ」
斧と長剣を盾に防戦一方にさせて、かなりエンゾを驚かした。
「半端ねえスピードだな」
再度槍の突きを入れるが、見切られて大きく払われた。
鎖斧を振り回しだしたので、踏み込めなくなる。
「剣もそこそこ立つ、けったいな法術も使えて、それで槍術。あのヴァルキューレからでも習ったか?」
斧が飛んできて、それを避けてから俺は答える。
「いいや。俺は継承者……死者からの継承者。ただそれだけ。それ以上でも以下でもない」
「ふぁはは、意味深だな。面白れぇ。お前、面白れぇぞ。だが、そんなふざけた強者を俺は叩き潰して、最高で痛快な気分にさせてもらうぜ」
「なるか」
斧を鎖で引き寄せた瞬間、前に出て槍で突く。
伸びた鎖で防御され弾かれるが、瞬時に槍を戻して鎖をかい潜って突き入れる。
空中の赤月剣との同時だったが、エンゾの長剣で空中剣は弾かれ、身体への突きも上手くよけられる。
戻した槍に斧が飛び鎖が巻き付き、刃先が地面へ下がり封じられる。
――しまった。……だが今の俺の身体なら。
浮遊剣を向かわせエンゾの気を引きながら、思い切って槍を地面に刺し、棒高跳びのごとくエンゾの横を飛び背後へ回りこむ。
着地して落とした俺の剣を拾いながら、背後へ剣を半円を描くように切り上げた太刀筋を浴びせる。
エンゾは足を軸にすぐ回転してこちらへ向くが、倒れた槍に巻き付いた鎖が身体へ邪魔になり対応が遅れ、俺の刃を脇腹へ受けた。
「くっ。見余った」
立ち上がりながら振り返り剣を構えると、エンゾは浮遊剣を右手で素手のまま掴んでいた。
血を待ち散らしながら浮遊剣を地面へ叩き付けて、左手の長剣をこちらへ垂直に振ってきた。
俺も剣で応戦し、エンゾの長剣と激しく噛み合う。
左手でも凄い腕力で押され気味になる。
二度、三度と、上段での叩き合いが続くが、噛み合った剣を強引に下方へ落とし、血管が切れそうなくらいに力を入れてエンゾの長剣を大きく弾く。
片側へバランスを崩したエンゾに、返した剣で袈裟切りをかけた。
「あうっ」
エンゾの長剣がこちらを斬りにくるが、たやすく避けることができ、右から左へと水平の太刀筋を浴びせる。
肉を切る感触を腕に覚えて、俺は顔を苦痛にゆがませた。
「くっ……まいったな」
長剣を杖のように地面に立てて、エンゾは片足をつくとそのまま倒れた。
俺は気が付くと激しく呼吸をしていて、全身が汗まみれになっていることに気付く。
倒れたエンゾは、血だらけの右手を握りながら天に向けてから、ゆっくり下ろした。
変換ミス、文章ミス修正。




