第三十三話 また魔族とな
五人がそろったところで、先ほどのフィオの話を俺がするとマチアスからも情報が来た。
「先ほど村を回ろうとしたら、神官トマの後ろに控えていた斧を持った色黒な大男。エンゾと言う冒険者らしいんだが、進行方向からやってきて、村は疫病が流行っているから動き回るなと、俺に必要以上に恫喝してきやがった」
「疫病?」
「人がいないってのは、疫病が流行っているの?」
「死臭がたまに感じる……の」
「本当か?」
俺が驚いてフィオに聞く。
「うん。でも魔族がいれば、魔族自体が疫病……なの」
「まあ、疫病などでっち上げだろうな」
「何でそう思うの?」
コゼットが聞くとマチアスは、暗く静かな街へ目を向けながら答える。
「俺が道を引き返して、あの救出した四人の女性たちに会おうと馬装所の裏の家にいったら、消えていたってこと。老人もばあさんたちも誰もいなくなっていたよ」
全員沈黙する。
「それについさきほど、路上で帰ってきた討伐隊に会って、警備隊長エヴラールがいないので訪ねたら、死んだと言われた」
「えっ?」
ヒルドがすぐ反応した。
「森の身辺を捜索中にオークと遭遇して、助からないような崖から落ちた、という話らしいが、この村の様子から口封じに殺されたのだろうと俺は思う」
「んーっ、僕は彼について行くべきだったんだね」
ヒルドが気落ちするが、マチアスは否定する。
「ヴァルキューレ・ヒルド、それはない。あの騎士デジレが、同じように何かしら理由を付けて拒んでたはず」
「俺たちはあの時点で全然知らなかったのだから、ヴァルキューレ・ヒルドが気に病むことはないと思う」
「そうね。ありがとう」
ヒルドは組んでた腕を解き、マチアスと俺に微笑してお礼を言う。
「じゃあ、ここってどうなっているの?」
コゼットが不安げに誰となしに聞く。
「夜になって魔族が来て、キメラもどきが徘徊しだしている……なら、村はもう……それらの支配下に入っている……の」
フィオが淡々と言葉を紡ぐように話した。
「夜型の魔族?」
俺が首をひねって聞くと、肩をすくめるフィオ。
「そこまでは、わかん……ない」
「魔族って言っても、元は何かしらあった人族だからね。夜型? まあ、どこかに行っていて戻ったってのもあるしね」
コゼットも加わるが、脱線させたと思って話を元に戻す。
「そうなると、俺たちと普通に対峙していた神官長のトマや騎士のデジレたちは、操られていた?」
「神官長、普通だったよ。ちょっと上から目線で、いい気分じゃなかったけど、傀儡ではなかったと思う」
俺の疑問にコゼットが否定する。
「あれだ。 魔族崇拝組織。それにこの村が乗っ取られていた線が濃厚じゃないか? そうなると、警備隊長エヴラールは脅されていたってことか」
「村人が人質にされて?」
「住んでた村人が、見かけないのは閉じ込められている? あるいは、何かしらの事情で移動させられたか」
「逃げたかもしれないわ」
「魔族がいるから、実験にされたってこともある……の」
「あのアナネア村のキメラのように? 嫌な予感しかしない」
俺が言うと、ヒルドが毅然として言った。
「僕が魔族を討伐します。だから、皆さんは村人が捕まっていたなら、脱出させて欲しい。供に来た二人の女性とともに」
俺とマチアス、フィオとコゼットがそれぞれ顔を見合わせる。
「一人じゃ無理ですよ」
俺が声をかけると、ヒルドは毅然とこちらに顔を向けたあと微笑んだ。
「僕はこれでもヴァルキューレの一員ですよ? 僕よりあなたたちの方が心配です」
「ちげえねえ。俺も見習いちゃんを守って戦うのに手いっぱいだ。キメラ殺しも同じだろ?」
「はあっ……まあ、俺もフィオいるし、助けた女性たちも心配ですね」
コゼットとフィオが顔を見合わせて、お荷物的な会話に俺たちに渋い顔を向ける。
「私もこの杖があるから、レッドゴッドなどひとひねりですよ。何しろ神殿を乗っ取るとは、信者に対して許しがたき暴挙ですよ」
「私も索敵や防御できる……の」
マチアスが二人の頭を軽く撫でてなだめる。
「うん、うん。期待しているぞ」
「決まりですね。僕が食堂に行ってひと暴れし、魔族のところへ案内してもらいますから、テオやマチアスは、村人が集められているところを探してみてください」
そう言ったヒルドは、部屋へ防具を取りに戻った。
「そうなるとフィオの首輪の話は……無理?」
「相手はただの魔族崇拝組織だ。残念だが、期待するだけ無駄だな」
俺たちの目的にマチアスが駄目出しをした。
「でもあの神官、自信持って解除できるようなこと言ってたんだが……」
「あれはヴァルキューレ・ヒルドができなかったことで、興味を持ったように見えたな」
「うっ……そうか」
俺とフィオは同じ動作で肩を落とした。
マチアスが剣を腰に納めたので、俺も長剣と一緒にオーク戦で新たに取得した赤月剣を下げる。
「俺たちも動くぞ」
「二手に分かれて捜索かしら?」
コゼットの提案にひげ男が待ったをかける。
「いや、まとまっていた方がいい。俺たちのところへ魔族が来るってこともあるからな」
「それは怖い」
コゼットが三角帽子を深くかぶって、窓から暗い村を見る。
「コゼットは俺と、フィオちゃんはテオで組んで、お互い見える距離でつかず離れずで捜索しようぜ。ここでの分散はやばそうだからな」
「ええっ、それがいいですね」
「それでは僕は、呼ばれた食堂へ行ってみます」
部屋から戻ったヒルドは、俺たちに告げて出ていこうとして、弓だけで矢筒を持ってないのに違和感を感じた。
「あれ、ヒルドさん、気になっていましたが、その肩にかけている弓はわかるのですが、矢はもう切れたんですか?」
「ああっ、必要ないんです。赤月の矢が生成されるんです」
弓の弦を弾くと、矢が浮き上がってきた。
「すげーっ」
おおっ、これぞ異界ファンタジーの醍醐味。
「素晴らしいです」
隣からコゼットも声を上げて喜ぶ。
「矢を放つとイメージした方向へ向かってくれる、僕の秘蔵の弓なんです」
誇るように笑顔で言ったあと、真顔になる。
「皆さんは村人たちと四人の女性を見つけたら、何とか避難してください。僕も合流できるようにします」
「気を付けてヒルド。罠があるかもしれない」
俺の心配に会合があった集会所に歩きだしたヒルドは、片手を上げて大丈夫と答えた。
俺たち四人は、神殿の横の並んでいる家々の方向へ向かう。
基本は大きな建物を捜索になり、一方が中へ入ればもう一方は外で待機との話になった。
村人は一人もいなく、窓から明かりも漏れていない道をしばらく歩く。
俺たちの足音だけが道に響き、他に音が聞こえず不気味である。
「あの光は?」
「先ほどの討伐隊が向かった厩舎だな」
「連中は 魔族崇拝組織の一員かな?」
「脅されている兵士や村人も入っているかもしれねえが、今はまず消えた村人たちを探そう」
マチアスたちはこちらに合図したあと、ピラミッド神殿に隣接した集会所と似た建物に入り、コゼットが杖から光を作り出し調べだした。
俺とフィオは、その建物を外側の窓からのぞいたり周りを注意する。
フィオが俺に近づき、強く手を握ってきた。
「見えた……の」
「ん?」
「魔族……三人に増えてる……の」
「えっ、三人? 本当に?」
「うん」
俺が驚くとフィオは、ピラミッド神殿の上に目をやっていた。
「その一人……知っている女の色が見える……の」
「女魔族?」
「アナネア村に出た女魔族……なの」
「あの突然現れる、エキドナって魔族か。厄介な」
「村の外のキメラっぽいのも動き出して、少しづつ近づいている……わ」
俺の手を引っ張りながら、フィオはピラミッド神殿の階段状の石に手をかけた。
「白……ぼやけてわかりずらいけど、いくつも見える……の」
「赤月眼だと、人が白色に見えるのかい?」
「うん。でもぼやけている……結界でもあるよう……なの」
フィオはピラミッド神殿の中を集中してのぞいてるようで、当たりらしいな。
「この石段の中、下に人がうごめいている……の」
「部屋のようなものがあるってことは、結界が牢屋の役目でもしているのか?」
「たぶん、そう。でも入り口はどこ……だろ」
「周りを知らべれば、通路とかあるかも」
ピラミッド神殿の左右を見渡していると、鎖の鳴る音が後ろから聞こえた。
驚き振り返ると、人影があって目を細める。
「おいおい、この暗がりで何こそこそやっているんだ?」
斧を手にした色黒の大男、エンゾが道端に立ってこっちをにらんでいた。
フィオを俺の後ろへ下がらせて長剣に手をかけると、エンゾは斧を手から放して一回転させるとまた手に持つという、危ない遊びをしている。
「質問に答えなしは、やましいことをしているってことだよな? 殺されてもかまわないってことだ。へへっ」
話ができそうなので、逆に質問してみるか?
「いや、あの……救出した四人の女性が消えたから……探しているんだ。知らないか?」
「はん、知らねえよ。どっかに行ったんだろ? 村長にでも聞くべきだったな。それよりもう二人、そこの建物に無断で入っているよな? 忠告はしてたんだが、なめられたもんだ」
――本気か?
「じゃあ、覚悟しな」
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