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第三十二話 再契約は性急でOK

 案内役となったデジレは、一晩の宿を俺たち五人に提供してくれた。

 もちろん男女別々の部屋で、それぞれ分かれて入室した。


「では、夕食の席でオークの話を詳しく聞かせてもらいましょう」


 デジレはそう言って、紹介した部屋から出ていった。

 十畳ほどの簡素な部屋で、ベッドが二つに木製のイスと机があり、ランプが置いてある。

 マチアスがベッドのシーツを上げてみたり、隅の置物を観察しながら俺に聞いてきた。


「フィオちゃんの奴隷首輪の期日が迫ってんのか?」


 俺は椅子に座りながらうなずく。


「奴隷商会の本店がスージュって街にあって、そこまでいかないと外せないらしいんだけど、解除できる人がいるならすぐにも外してやりたいんですよ」

「奴隷商会で外すのはよくないな。面倒事しか起きそうにないから、ここで解除できるのが最適だ。……しかし、スージュって隣国だろ? 奴隷商会も遠出するもんだな。ああ、赤化狂乱災で需要が増しているからか」

「赤化狂乱災……近いって聞いてるんだけど、起こるんですか?」

「俺だって初めてのことでよくわからんが、起きるんだろ? そうなればその時は、その時だな」

「そうですね」

「小さい時によく脅されただろ? 深紅者がやってきたら逃げるんだって、それが誰だかわからないんだから、なるようにしかならん」

「深紅者?」

「あれ、知らないか?」


 記憶喪失は彼には言ってなかったか……ここは。


「えっと、南の小さな村で育ったから、街での常識はわからないんですよ」

「そうか……そうだな、赤化狂乱災ってのは、百年おきの文明荒廃とも言われているしな。深紅者は一言で言うと、狂乱媒介者だ。頭上の紫月が大きくなり赤化する頃、特定の人や獣人、野獣が自らの身体を媒介にして、溜まっていたマァニを解放する弁の役割をするらしい。近くの昆虫系を中心にマァニを吸収して一斉に巨大化、見上げるほどの赤化巨大獣(ベルグリシ)になる」


 赤月の接近で起きる赤化狂乱災は、前世であったポンペイの山のように、溜まったマグマが噴火し溶岩で甚大な被害を出すような感覚か?


「その昆虫系の巨大化ってのはどうして起きるんだろ?」

「赤化に一番反応しやすいって話だな。赤化呪獣(フェンリル)も昆虫系多いし、次に爬虫類系か」


 フェンリル……初日の大蜘蛛を思い出すが、そうなると遺伝子レベルでもともと組み込まれている構造なのか。


「それが赤化狂乱災の開始で、いくつかの地区に起こり、巨大化したベルグリシは物の破壊と殺戮を尽くして、やがて擦り切れた状態になり、赤化巨大獣(ベルグリシ)は体が保てず衰退して死滅する。残るのは広範囲に建物が破壊され、逃げ遅れた人や獣人などの大量な屍が残るって話だ」


 百年置きにそんなことが、この異界では起きているのか?

 マァニがあふれるのは、赤月がこの星に接近して重力を引き合う関係で発生でもしているのだろうか……なんにせよ、凄い世界に来たものだ。


「じゃあ、昆虫を隔離するとか問題解決はしないのかな?」

「昔やって生態系を変えてしまったらしい。食物が枯れ、野獣(マンイーター)も減少、大量の餓死者を増やして戦争になったとか。今は深紅者を見つけ出そうと一部で動いているが、これもわからないものだしな」

「深紅者……狂乱媒介者か」

「何度も経験している赤月族の中で、ディース族だけが教団を作って救済をしているのが救いかな。だから、崩壊を娯楽としている一部の魔族と対立になり、人である俺たちがあおりを食う感じだろ? 今回の西南戦争も魔族やそれを崇拝するレッドゴッドって組織が裏でかかわっていると言われるしな」


 アナネア開拓村で会った、白色の魔族エキドナが頭をよぎる。


「魔族、最悪ですね」

「ああっ、だからって俺たちか戦って勝てる相手でもないからな。幸いにして、仲間割れで人数減らしているって聞くし、人族に目を向けないでいて欲しいものだよ」

「そうですね。二度と会いたくない人種だな」

「間違いねえ」


 マチアスは部屋の周りを物色したあと、窓から外を見て言った。


「……それにしても村が静かだ。人をほとんど見かけない」

「そうですか?」

「胸騒ぎがする。気を付けた方がいいかもな」


 会話をひと区切りしたマチアスは、村を一人で回ってみたいと言って出ていき、部屋に残った俺はベッドに横になると疲れからかすぐ寝てしまう。





 馬の複数のひずめで目が覚めると、机にランプが灯っていて、体に布団が掛けられ横にフィオの寝顔があった。

 彼女はベッドの前まで椅子を持っていき座り、両腕を枕代わりにして寝ている。

 窓からは赤みがかった紫月光に照らされた外が見えて、そこを馬に乗った武装集団が前を通り過ぎていく。


「夜になったのか」


 すぐに昼間会った討伐隊とわかり、帰ってきたのだと思ったが、人の乗っていない馬が一頭引っ張られていた。

 その馬の顔には水色の生地を巻きついていて、三人の騎士が乗っていた馬の一頭だと思い出す。

 乗っていないのがヒルドの信者と言われた、警備隊長エヴラールだ。


 俺がベッドから起きだすと、フィオも目を覚ましたようで、顔を上げて手の甲で口を拭く。

 よだれか? 前にもあったな。

 かわいい顔が台無しだが、それも悪くないと思ってしまう。


 ベッドから立ち上がって、窓を見ると先ほどの討伐隊はいなくなっていた。

 この奥に馬の厩舎があるのだろうが、馬に人が乗っていなかったのは気になる。

 そう思っていると、フィオが椅子から立ち上がり俺に向かい合った。

 そして、言いずらそうにして話だす。


「ねえ、契約……するの」

「うん?」

「もう切れる頃だから……するの」


 身体を揺すり恥ずかしそうに言ってくる彼女に目を奪われ、少し胸が暖かくなる。

 すぐあのキス契約だとわかったが、俺は契約を続けることがいいのか迷った。


「いや……あれは」


 上手く行けば、今夜か明日にでもフィオの奴隷首輪が外れるかもしれない。

 そうなったら俺は、冒険者としてフィオと同行する意味がなくなる。


「まだ必要か?」

「えっ?」

「もうすぐ首輪外れるかもしれないんだ。そうなったら、お互いに同行する意味がなくなるだろ?」

「えっと……」


 彼女は目を丸くしたあと、体を丸めるようにして椅子に座り直した。


「フィオはどうしたい? 奴隷首輪が取れれば、普通の生活に戻れるだろう。薬師としてやっていくことも十分に可能だろ?」


 フィオは薬師でやっていける能力があることは、俺の身体がよく知っている。


「奴隷前も薬師をしてたんじゃないか?」

「うん……そう……だね。テオは……テオはどうしたい……の?」


 彼女にこの異界をナビゲートしてくれたおかげで、だいぶわかってきて、一人でも動けるようにはなった。


「俺は……そうだな、この世界を見て回りたいかな……冒険者として、お金の稼ぎ方がまだわからないから、その辺から勉強するための行動をすることになると思う」

「わっ、私も、冒険者……なる。稼ぎ方……教えられる……よ」


 彼女は顔を赤くして、たどたどしい言葉で、思いをつづった。


「あっ、ああ……そっ、そうなのか? なら……また一緒に……俺と行くってこと?」

「うん。うん。うん」


 すごい勢いで、顔を前後させるフィオ。


「フィオが付き合ってくれるなら、俺は歓迎だ。嬉しいよ」

「じゃあ、契約……しよ」 


 笑顔のまま彼女は腰の短剣を出すと、ためらいもなく自分の親指の付け根に刃を当て、数ミリ裂き血が丸く出ると口に含んだ。

 性急だな……いいけど。


「じゃあ、これは再契約になるのか?」

「うん。ふぇて」


 血を口に含ませたフィオは、あごを上げて目をつぶる。

 俺はフィオの肩を掴んで引き寄せ、自ら唇を重ねた。

 すぐ彼女の舌が入り込んでくると、口の中が鉄分の味がしだす。


 俺の首にフィオの両腕がまかれ、唇が吸われる。

 気付くと、彼女の身体を無意識に抱しめていた。

 しばらくキスと抱擁を続けていると、フィオは俺の腕から抜けるようにして、体がずり落ちてひざ立ちした。


 彼女の腕を支えたまま、顔を見合わせると俺に涙目で笑いかける。

 フィオと一緒に生死をくぐっていたせいなのか、数日の付き合いとは思えない愛しさが胸から沸いてくる。


「契約、成立だよ。これからも一緒……なの」

「ああっ。首輪が取れたら、また一緒に旅だ」


 ゆっくりと彼女を引き上げ、椅子に座らせて腕を解いた。


「……でも、近いうちに赤化狂乱災ってのがあるよな」

「その時は、山奥に逃げていれば大丈夫……だよ」

「そうなのか?」

「過去何度もそうして、みんな生き残ってきている……よ」

「山奥か……」


 ドアからノックの音が聞こえて、顔を上げて返事をすると、軽装になったヒルドがドアを開けた。





「少しいいかしら?」

「はっ、はい。どうしました」


 顔がまだ赤面しているような感じがして動揺するも、ヒルドは真剣な顔で部屋に入ってくる。


「この村、何かに良くない気に満たされてきているわ」

「えっ?」

「肌に刺すような刺激が感じられるの」

「ヒルドの能力?」

「簡単な索敵よ。危害を加えようとしている感情を僕の赤化が感じて、肌に警告を出してくるの」


 部屋の窓へ寄ったヒルドは、外を眺めだすので俺も外をのぞくと、あの騎士デジレが歩いて離れていくところだった。


「デジレさんですね」

「夕食の用意ができたので、会合をした集会所に来てくれと伝えに来たんですよ」


 フィオが俺の手を取って硬く握ってきた。


「うん?」

「感じた……の。近くに魔族がひそんでいる……の」

「えっ、本当か?」

「魔族?」


 俺と同様ヒルドも驚いてフィオを見た。


「他にも周辺に、アナネア開拓村のキメラと同等の者たち、そしてそれ以上に危ない光を発しているのも……見えるの」

「フィオレッラは赤月眼?」

「うん。入ってくるときはいなかったのに……今は周辺に何体も見える……の」


 緊急性を要してだろう、ヒルドに対して目の能力を肯定するフィオ。


「赤月眼の索敵なら、危険な状態になりだしているわね」

「周辺ってのは、どこまで? 囲まれているってこと?」

「うんと。村の外ぐらい……かな。いくつかに固まっている……の」


 部屋の壁やドアなどを見渡しながら、フィオは考えつつ言った。


「魔族が誰かわかる?」

「個性的でないと、人物の特定までは無理……なの」

「みんなまとまってた方がいいな。コゼットとマチアスは?」

「二人は玄関に出ているわよ」

「呼び寄せよう」

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