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第二十話 新しい右手ができました

 バスやトラックの大型車や、飛行機など、全体の長さをひとつの身体イメージとして捉え、人は動かすことができる。

 ペリパーソナルスペースと言う、身体接近空間が人間にはあって、感覚で三次元の距離を把握する。

 医学生のとき習ったことをここで思い出した。 


 その空間認知イメージで、俺の身体感覚の神経意思で離れたところから剣を遠隔操作している感じだ。 

 車のハンドル操作のようなことで、車のタイヤが動くように。

 存在しない右腕で、剣を持ち上げる意識をすると、剣に伝わって自ら浮き上がっていく。


 握っている感触も何となく伝わっているが、それは剣と言うより石みたいな何かを軽く握った感覚である。

 さらに意識をかけると、浮き上がった剣が敵に対峙するように縦に構えた。


 残留思念で手続き記憶を認知して、能力の受け継ぎをする、そのリンクしたことによる副作用だろうか。

 これは腕が飛ばされたことで、初めて認識した物体移動能力かもしれない。


 そして独自で空に浮かぶ赤月の大剣。

 剣の重量とか持ち上げているのは、反重力系の能力か? 何にせよ、大剣側のエネルギーと察する。



 


 俺のない腕が遠隔操作をして、剣だけが空中に浮遊している。

 剣を引けばこちらに来る、ヘッドレスモード仕様だ。

 

「よし」


 フィオから指輪を外し終えたエキドナの背に、大剣を振り上げて下ろした。


「何?」


 気配に気づいた白の瞬間移動者は、手にしていた指輪や紫月石を取り落として、後ろへ下がった。


 ――だが遅い。


 白い生地ともに、俺のない右腕の神経が肉を軽く斬る感触を得た。

 さすがに、移動する暇がなかったか、エキドナは二、三歩前に出て腰を落とした姿勢になり、こちらへ苦痛の顔を向ける。


 ――かすっただけか。


 フィオの上に乗っていた腕持ち鳥半獣人が飛び上がり、空中に浮遊する剣へ突進してきた。

 無心で、消失した腕を感覚操作して大剣を水平に向け、半獣人を迎え撃つ。

 鳥半獣人は急ブレーキをかけて止まりながら、剣から避ける。


 それより早く大剣は、俺の意思するとおりに空中を素早く移動して、鳥半獣人の一体の翼を切り裂いた。

 ここでも手続き記憶の継承スキルがしっかりできていて、剣を正確にさばいている。

 雄たけびを上げた鳥半獣人は、地面に落ち片翼だけを激しく空へ動かすがもう飛べない。


 ――この能力何なんだ? 継承スキルからの新たな贈与!


「あなた、危険だわ」


 小石が跳ねた音のあと、俺の前に魔族が静かに出現していた。

 顔が笑ってなく、能面のような気味の悪いものだ。


「私の手で、狩ってあげるわ」


 白生地の中から、エキドナは細剣を取り出していた。

 俺は右腕の神経とリンクしている遠隔剣を、魔族を背中から刺す動作に返る。

 同時に左手をベルトの後ろへ持っていき、投げナイフを手に持つ。


 エキドナのレイピアの剣は動かず、細い眼だけが東門へ向いた。

 馬の地面をかけるひずめの音が、複数聞こえ出している。 

  

 その音の主が東門から広場へ乱入。

 黒馬にまたがり青いマントをなびかせた鎧姿の騎士で、兜の両サイトに羽の飾りが施してあり印象に残った。


「うっ。……うかつ、これは失態だわ」


 そういうと俺にレイピアの剣を突いてくるが、遅い。

 軽く避けて、左手の投てきナイフをエキドナに振る。


 細剣で俺のナイフを弾きながら、一歩下がったエキドナは舌打ち。

 こつ然と目の前から白の魔族はかき消えた。


「えっ?」


 エキドナのいた足元に、いつの間にか血痕のついた紫色のナイフが落ちているだけだった。

 俺はフィオを見るが、そこにも女魔族は移動していない。





 黒馬に軽装兜から黒の長髪をなびかせた美女が騎乗して、円を描くように広場を走り状況を認識している。


「兜に水色羽だぞ」

戦いの女神族(ヴァルキューレ)か?」

「ラグナ教のヴァルキューレが来た!」


 塀の隅や、大木の影、家の中から見ていた村人が口々に言いだして、両手を頭上に合わせ頭を下げていた。

 その女性戦士は持っていた弓を女蛇半獣人に向けると、手に矢が現出し、威嚇してくる半獣人頭部に向けて放った。

 屋を避けて移動する蛇半獣人に、その矢は誘導ミサイルのように追尾して頭部を貫いていった。

 女戦士はそのまま剣を抜いて、すれ違いざま蛇半獣人の頭を飛ばす。

 シモンたちの前を通ってから、馬を引き返すと顔を渋面にして周りを見渡す。


「あいつらは……いないの?」


 首のない半獣人はそれでも立ったまま、腕である蛇が女戦士に向いて激しく動き不気味な状態になる。


「これは赤月獣人でなく、キメラですか」


 そう言って黒馬から降りた女戦士は、手にした剣を額に当てて何か唱えてから、振り下ろし頭のない蛇半獣人に向けた。

 その振り下ろした剣が光、蛇半獣人は光の風にあおられたようになった。

 唐突に腕の蛇と人の胴体が分離すると同時に倒れ、元の寸法に縮んでいく。


 また馬のひづめの音で、槍を持った一人の騎士が今度は白馬に乗って広場に入ってきた。

 こちらも女性騎士だが小柄で、ヴァルキューレと呼ばれた女性と同型の水色羽付き軽装兜から金髪の髪を出して、青いマントをかけている。


 それを見て飛び上がった鳥半獣人に、小さい女騎士は片手の手綱さばきで馬を安定させた上から、手にしていた槍を軽く投げ上げた。

 飛翔する槍は、空中に上がっていた半獣人の羽をぶち破った。


「むっ、外した」


 バランスを失い、槍を引っ掛けたまま地面に墜落した鳥半獣人は、彼女の引き抜いた剣に貫かれていく。

 だが鳥の半獣人はしぶとく起き上がり女騎士の馬から離れると、もう一体の鳥半獣人が合流して馬に襲い掛かろうと歯をむき出しにする。


「こいつ赤月獣じゃないわ。厄介ね」


 東門からもう一頭の馬が現れ、乗っているのは、長身な男の戦士で状況を確認すると剣を抜き何かを唱えて、威嚇している鳥半獣人の一体に斬りかかった。

 素早い太刀の威力で、鳥半獣人を二つに斬り裂くと、ゆっくりと縮小して人の胴から翼が抜け落ちていく。


 もう一体の片羽になった鳥半獣人も、小柄な女騎士の剣で身体を刺し貫かれ、最後の狼半獣人も地面に立つ黒髪の女戦士に剣を向けられていた。





 戦士たちの終わりの見えた戦いの合間に、身体の切り傷に顔から血を流したフィオが俺の右腕を持ってきた。

 彼女から発していた赤い発色と、俺の胸の痛みは消えている。


「すぐつける……の」


 大きな革袋から例のスライムポーションを持ち出したフィオは、出血状態の酷い顔のまま、俺の腕を取り付けようと必死だ。

 俺は何も言えずに彼女に腕を任せると、治療が始まりポーションをかけられ、強烈な高熱と痛みに絶句して歯を噛む。


 炎の中に腕を突っ込んで焼いているような感覚を数分間耐え続けていると、腕が見事に身体に付いていた。 

 信じられずに、張り付いた腕を驚きながら、じっくり観察するように眺める。


「しばらくこのまま……なの」 

「あっ、ありがとう、フィオ。……なんて言うか……凄いな」


 右腕が胴体に付着して、腕から指先まで動かせているのに感動を覚えた。


「まだむやみに動かさない……なじむまで、一晩は安静にする……の」

「どのみち……痛くて動けないよ」

「でも、よかった。よかった……の」


 フィオは俺の左手を両手で取って、振りながら喜んでくれた。


「本当に助かったんだな」


 俺も彼女の感情が移ったように、生き残ったことを喚起し自然とフィオの肩を左手で抱いて頭を撫でた。

 本当に自然と出た行為だったが、何か疑似感のような懐かしいような何かが、胸の中央の心臓あたりから感じ取れた。

 彼女も驚き動きを止めて顔を上げ、俺の顔を見ながら涙ぐみだした。


 ――あれ? 何かやらかした? 


「いやっあの、嫌だった? 自然と身体が動いて、どうしちゃったかな。ははっ」


 俺の台詞を聞いて、ますます目を大きく見開いたフィオ。

 そのまま俺から離れると「別に」と無表情に言って、森の方を見ながら目をこする。


 彼女を抱いたことで少し怒らせたかと思って、ついうっかり両手でなだめるボーズを取っていたら、妙な感覚が持ち上がった。

 戻った右腕の指先が動くのと別に、隣の空間部分に同じ感覚を覚えた。

 あの大剣を持った架空の腕の感覚だ。


 動かしている指と別に動かせる腕を感じるというか、何か右腕の根元からもう一本腕がある感覚である。

 それを意識すると動かせることが分かるが、右腕は動かないので錯覚の類なのかもしれない。


 ――何だろう、この今までにない違和感は?


 存在しない腕らしき物をいろいろ動かすと、少し先まで伸ばして動作感覚を確認できてしまった。

 地面に下ろしてみるが、吸い込まれるように感触は消えていく。


 物に触れられないようだが、腕が三本に増えたような感じである。

 右腕の神経が腕を繋いだことで、切断されたときに動かせた架空の腕の神経が残った?

 人の神経は、パソコンのコピーのように増えるものなのか?


「ありえない……」

「んっ、腕の接続、よくない……の?」


 自らの顔に軟膏を塗っていたフィオが聞いてきた。


「いや、先ほどとっさに剣の浮遊を行ったけど……その感覚らしきものが残ってるような」


 彼女はエキドナへの大剣の一太刀は見ていたらしく、すぐ理解して地面に落ちている大剣を調べだした。


「これ、赤月の力が宿っている……の」

「やっぱり魔剣の類ってことなのか?」

「そう赤月剣……なの」


 フィオは重そうに持っていた大剣を地面に下ろす。


「これ、動かせる?」

「どうだろう」


 存在しない腕を、先ほどと同じように感覚で把握しながら、2メートルほど先にある大剣のグリップを握りしめる。

 リンクしたように大剣がフィオの足元で、一人で動き出す。


「あっ、感触あるな」

「興味深い……の」


 フィオは、引き裂かれたポンチョの裏から、石ころを取り出して地面に下ろした。


「昨日の紫月石(しげつせき)か」

「これ、動かせる……かな」


 存在しない腕を大剣から、紫月石に移動させて、指でつまんでみると感触があり、持ち上げられた。

 だがフィオは、空中に浮かんだ紫月石をすぐキャッチして、もとのポンチョの裏ポケットへ戻した。

 速攻で回収したことで不審に思っていると、後ろから声がかかった。





「先ほどまで魔族と対峙していたというのは、君たちだね?」


 声の主へ振り向くと、兜の両側に翼をつけていたヴァルキューレと呼ばれる黒髪女戦士が立っていた。

 俺より背が低く、密着型の生地を装着して、その上にスカートや軽装防具を身に着けマントを羽織っている。

 残りのキメラは掃討されたようで、ほかの二人も馬から降りて近くの村人に声をかけていた。


「えっ、ええ」


 フィオは相手を警戒するように、俺の脇にゆっくり歩み寄る。


「魔族は名乗っていましたか?」

「エキドナって言ってました。ヴァルキューレ? の兜を見たら、すぐ消えましたよ」

「やっぱり……逃げ足だけは速いのよね」 


 この黒い女戦士は、兜を脱着すると腰近くまで伸びたストレートロングの髪が扇のように横へ広がった。

 近くで見ると若く、少女のほっそりした体型におかっぱの髪から、学生の時に好きになった女性とイメージがかぶり少したじろぐ。

 だが、学生時代の彼女にはなかった大人の品格のようなオーラを感じた。

 ヴァルキューレと呼ばれる由縁だろうか。


「あっ、これは申し遅れました。僕はヒルド。ヒルド・ヴァルキューレ。そちらは?」


 僕っ子少女の言葉から、サバサバした明るいものを感じで気持ちが和らいだ。


「俺はテオドール、冒険者です。隣がフィオレッラ」


 女戦士ヒルドは、フィオの首元の輪を見ていたので、元奴隷とか強く言いたくなるが、彼女の目線は地面に横たわる大剣の方へ向いた。


「この剣は……オリハルコンですね。それにこの柄の紋章は……珍しいものが見れたわ」


 そう言って少女戦士は大剣を持ち上げ、空に向けて剣先を吟味しだす。 


「濃い赤月が宿っている剣ですね。これは使わずに保管しておくことを進めますよ。一般の冒険者では手に余る代物」


 彼女が下げている剣の柄に赤月石が組み込まれていることからして、赤月剣は上級者向けか、使い切れる者向けということか。


「それはこの村の名物品みたいなもので、俺はちょっと借りただけですから」

「そうなの? 村で保管するなら問題ないわ」


 剣に興味をなくすと、地面に軽々と突き刺したあと、フィオの方に向いて質問をした。


「薬師ですね?」

「そう。でも、実際は見習い……かな」

「うふふふっ。そちらの冒険者の腕を繋げて治療したのは見事でしたわよ。見習いなど、とうに卒業しているでしょ?」 


 先頭のさなかでも、彼女は周りをしっかりと観察していたらしい。


「戦場には欠損修復の薬師が全く足りてないの。どうかしら、その力役立ててくれない。戦で死を免れた者は、体の欠損者が多く出てくるものだからね」

「西のティラリも南のプーノもお抱えのお偉い薬師がいるはず……よ。それに出向いたところで、この首輪が物語っている……わ」


 フィオは強い口調で、ヴァルキューレのヒルドに断りを入れた。


「ああっ、もうやっていたってことね。ごめんなさい。……本当、戦とは酷いものだわ」


 そう言ってヒルドは奴隷首輪の経緯を聞いてきたので、俺が簡略にビックベアで襲われ、商人一行が死んでキメラになったことを話した。


「そう。大変でしたね」


 フィオに近づくと、ひざを折って彼女の目線に合わせ首輪に手をかけた。


「何?」

「奴隷商人がいなければ、この首輪は死を呼び込むだけだよね。それで、この首輪を外そうと思ったんだけど……これは複雑な術式が書かれているわ。……誰がかけたのか知っている?」

「バルツァー商会の赤化法士……ノルンって言われていて、背の高い短髪の女……なの」

「えっ、ノルンってディースの?」

「商人たちは、彼女をありがたがるように様付けで言ってた……の」

「はあっ……彼女が絡んでいるの。……ノルンの術式だと、僕じゃ力不足ね。外して上げれると思ったんだけど無理。悪いわね。……でもノルンが何で奴隷首輪の術式を請け負ったのかしら」


 腕を組んで試案にふけりだすが、俺にはとんと事情が呑み込めない。

 前に立つ少女戦士が思考にふけっている瞬間に、フィオが地面に落ちている深紅の指輪を取り上げていく。

 手で指輪を握ると俺と目が合い、笑顔を向けてくる。


「スクルド様。ちょっといいでしょうか」


 少女戦士ヒルドに呼ばれたもう一人の背の低いヴァルキューレが、兜と槍を携えてやってきた。

 羽付きの黒の兜を取った顔は、やはり幼く金髪の髪を両側に垂らしている少女。


「あっ」


 フィオが声を上げる。

 それを聞いてヒルドは少し笑うと肩に垂れた黒髪を後ろにやり、背中に黒髪扇ができて俺の目が釘付けになる。


「彼女はスクルド・ノルン・ヴァルキューレ」

「えっ?」


 俺もフィオに遅れて声を上げると、ヒルドは俺たちに彼女を紹介した。


「スクルド様は、ノルン三姉妹の三女です」

「そうですよ。いまさらどうしたの?」


 笑顔で答えるスクルド・ノルンも、ヒルドと似た屈託ない子である。


「スクルド様は姉様たちの動向は知っていますか?」

「姉様たちですか? いえ、ここ三ケ月ほど会ってないからわからないけど、なんで?」


 不安そうに聞くスクルドに、ヒルドはフィオの首へ手の平を向ける。


「このフィオレッラちゃんに、ノルンという髪の短い赤月法士が首輪付けたらしいんです。それも難解な術式を使ってるようで」

「おやっ、姉様が? 短髪は次女のヴェルザ姉様ですか……あっ、また私抜きで何か始めたのかな。もーっ、今度会ったら罵っておきます」


 胸をそらして体ごと憤慨した三女スクルドだが、微笑ましく感じた。

 同時に、首輪に手を置いたフィオは、首をかしげるばかりだ。

 そのスクルド・ノルンは、腰をかがめてフィオの首輪をのぞき込み調べだす。


「この頭の痛くなる術式、やはりヴェルザ姉様のものだわ」


 私じゃ無理と肩をすくめて首輪から離れると、見てもらったフィオは肩を落とした。


「フィオに関係する何かがあるのですか?」


 俺もよく要領が得ないので、二人のヴァルキューレに聞いた。


「それは、僕たちもわからないことなのよ」

「ヴェルザ姉様が人界に来たのは、一番上のウルズ姉様の指示だと思うんです。だからって、あなたたちに関係あるとも言えないわ」

「……そうですよね」


 雲を掴むような漠然としたことなので、今の段階では気に病むこともない気もする。

 フィオに対して、ヴァルキューレのスクルド・ノルンは考え込む顔をし、ヒルドは笑顔を向けての対照的なことで少し違和感を覚えたが、聞くほどに気にはならなかった。

 そのフィオを見ると、相変わらず首輪をさすり首を傾けていて、不謹慎だがちょっと可愛く感じてしまった。


「フィオレッラちゃんはいくつ?」


 スクルド・ノルンが彼女に聞くと、「十六」と聞かされて驚く。


「私と同じ年」

「赤月族であるスクルド様が、何を言ってるんですか」


 黒髪ヒルドに軽く睨まれると、小柄なスクルドは笑って舌を出す。


「今回の姉様は……あの計画かしら」


 何かつぶやいたスクルドは、首を左右に振ったあと、フィオに質問する。


「これからの予定は?」


 フィオは肩をすくめて俺に目を向ける。


「ああ、フィオは首輪を外すために、取り付けた商会本店がある隣国の都……えっと」

「スージュ……なの」

「そう、その都へ連れて行く予定ですよ」

「テオドール君が付き添い?」

「ええ、もともと奴隷商人の警護として雇われてましたので……スージュへ行って、首輪を外してもらおうと」


 うん。もともとテオの行動はそうだったし、今も問題はなし。

 それを聞いたスクルドは、思案顔でフィオの首輪を見てから広場の方へ目をやる。


「えっとスクルド様、ノルンの術式は普通の赤化術士でも解けますか?」


 隣に立っていたヒルドが、スクルド・ノルンに質問を振ると問題なしと彼女は答えた。


「解除術式を伝えていれば、一般の赤化術士で外せるわ」

「そう。じゃあ、問題はなさそうですね」


 そこへ残りのメンバーの長身な男の戦士と村長らしい爺さんたちがやってくる。

 なお、村の防衛を総括していたシモンは、広場に倒れて衛生兵に介抱されていた。

 ヴァルキューレの女性戦士たちは、村長らしい爺さんたちから今回の騒動を聞くと、スクルドが声を上げた。


「ヴァルキューレ・ヒルド、エインヘリャル・レジス。とにかく私たちは、あの魔族どもを追うわよ」

「はい、スクルド様。お供します」

「はっ」


 三人は馬に軽々と乗ると、疾風のごとく西門から抜けて立ち去る。

 それを見送った村人の一部の人々が、両手を頭上に合わせ頭を下げていた。


「風のような連中だな」

「たぶん、疾風のヴァルキューレって言われているグループ……なの」

「ヴァルキューレの独特な装備は、民族衣装みたいなものなのか?」


 軽装防具も、薄い水色とブラウン色の密着型フィットネススーツのような生地を装着しているのも、動きを重視している物なのだろう。


「そうかも……赤月族の女性は、体質でみんな上下繋がった密着型の生地を装着するらしい……よ」

「そ、そうなのか……若いみんなはボディスーツってことか」

「何に期待しているか、わからないけど……みんな年寄りだ……よ」

「うん?」


 俺が不審な目を彼女に向けると、フィオはにっこりと笑った。


「赤月族は肌が衰えないまま、百年も二百年も生きてる人が多いから……ね」

「げっ、そうなのか?」

「もともと、人族だったけど、若い時に赤化して成長が止まったままになるのよ」

「長寿族なのか。それも見た目で判断できないってことか」


 エルフより先に未知の長寿種族に遭遇していたとは。

 だからフィオの年齢を聞いたとき、あの二人へんなコントやってたのか。


 年上と思っても、精神は若いな……肉体の年齢が止まっているせいもあるかもしれない。

 俺もそうだが肉体が若返ったら、知識や経験はそのままなのだが、肉体年齢の感覚に精神も戻っている気分がする。

次回で第一部終わりになります。

「二個もの深紅の指輪」⇒「深紅の指輪」修正。

「噛」が「?」と文字化けしていたのを訂正。

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