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第十九話 魔族降臨で終わった?

「あああっ」


 俺は剣を持って、鳥の半獣人へ攻撃を仕掛けるが、宙空へ届かないほど上がってしまう。

 上空まで持ち上げられたトスカンが、こちらへ落下してきた。

 剣を捨て、無心で彼の身体をキャッチし地面に下ろすが、もう息絶えていた。


 ――俺をかばって……こんなことに。


 空を見やると、鳥の人獣は隅で治療している村人に襲いかかり始めた。

 剣を拾いこちらへ注意を引こうと走って近寄ろうとするが、また羽ばたきが耳に入りとっさに地面へ伏せる。


 頭上に羽ばたきと風が通り過ぎる音。

 剣を上げて振るが、軽々避けて舞い上がっていく二体目の鳥獣。

 この半人は先ほどのと違い、胴から下に鳥の足が生えていて、人の両手がなかった。


「まだいるのか!」


 狙われていた村人は、一体目の鳥獣にまとわれて、血だらけになって倒れ伏す。


「トスカンさんの言う通り、戦うものがいなくなると……狩られる」

 

 西門に行ったフィオは、地面に伏せたシモンの服を引っ張り蛇半獣人から距離を取ろうとしていた。

 彼女たちのいる場所に足を向けたいが、空飛ぶ半獣人からの執拗な鳥足攻撃に応戦して助けに行くことができない。


 合成部分を狙うが、かするだけで飛び上がられ決定打を与えられないで、また後ろから攻撃を受けてしまう。

 そこへ先ほどのナイフを持ったもう一体の鳥が加わり、前と後ろから交互に俺に攻撃を仕掛けてきた。


「やばい、二体は……くっ」


 物陰に一時退却と思って足を動かすが、地面が見えてなくトスカンの遺体につまづき、バランスを崩してしまった。

 防御ができないところへ、背中にナイフの一太刀を受けてしまう。


「くうっ」


 頭上の一体がここぞとばかりに俺の顔面を爪で引き裂きに来たが剣を振り回して対抗、だが後ろから背中をナイフでまた切られる。


「うわっ」


 背後へ剣を向けると、前から鳥爪で肩を引き裂かれた。


「くっ、しまっ……」


 大木の陰に隠れようと移動したいが、二体を対峙して防戦するのが手一杯になってきた。

 村人がやられたときに物陰に逃げるべきだったと後悔。


 ――これは、継承スキルの過信だ。


 上空の敵に対しての能力を持たず防御なしなら、俺は村人と同じで狩られるだけなんだ。

 後悔が焦りを生んで、二体を相手にする冷静さを失くし、能力も落としてしまう。


 空の半獣人の連続攻撃に、剣で迎え撃つところから振り回すだけになり、その力も尽きると剣を盾にする防御一方で、頭が混濁してきた。

 腕に頭にと、鋭い爪と硬い刃物が飛んできて、皮膚を粗く刻まれだす。


「うっ」


 剣を盾にするが、一方的に攻撃を受けた傷のためか、力が抜け地面に片足を折って極まってきた。

 必死に剣で身体をかばうが、空から爪と刃で責められて、広場に自らの血痕が飛び散るさまを恐怖して傍観する。


 視界がまた真っ赤にぼやけてきた。

 偶然に憑依した身体だが、壊れていくさまに焦燥感だけが心に暗くにじみ上がってくる。


 ――もう終わりかも……。


 あきらめかけたとき、声を聞いた。


「テオッ」


 同時に鳥半獣人たちが苦痛の声を上げると攻撃が止んで、羽ばたきだけが必要に耳に入ってくる。

 見上げて瞬きすると、フィオが目の前に立っていた。


「これは一時的なもの。今日はもう何度も使っているから、もうすぐマァニ切れが起こる……かも」


 足をふらつかせる彼女の顔は、いくぶん青ざめていた。

 二体の空飛ぶ半獣人は宙でこちらに来ては、背中の翼をバタつかせて戻っていっている。

 紫のナイフを持った鳥半獣人は、また腕を下ろして切りかかってきたが、空中で跳ねてナイフは手から離れ地面に落ちていく。


 それは俺とフィオの周りに白い透明に近い壁でもあるかのように見えた。

 よく見ると、半透明な白色の細かい網目のようなのが周りを覆っていて、ドライアイスのような白い煙を微妙に上げているのがわかる。


「ぼっ、防御魔法か……何かか?」

「そんなもの。弾力性があって矢や、打撃剣だって弾く……の。私のお守り……なの」


 左手の薬指と人指し指に光っている、深紅指輪をこちらに向ける。


「赤月? ああっ……」

「革袋から予備も引っぱり出した……の」


 彼女自らの危機は、これで凌いでいたのか。

 フィオは急いで担いでいる革袋から、黒い革水筒を取り出して、俺の上半身の傷口にかけて擦り付けてきた。


「いっ……なんか、ジュッて音がして……あつぃ、うううっ、いてっ、あつっ」


 痛みと熱を我慢すると、涙と鼻水、よだれが出て、彼女から顔を伏せるように地面に腰を下ろす。


「傷軟膏の液状もの、染みると熱くなるけど直りは早い……の」


 熱と痛みを我慢しながら側面に目をやると、鳥半獣人たちが上空に上がって浮遊しだしたので少し安堵する。

 痛みが緩和していくことで、肌の傷が癒えているのを感じだす。


「もう一度、これ飲むと……いい」


 先ほど飲んだ液体ポーションが入った小さい水筒を手に渡され、それを飲み干す。

 西門の方を向くと倒れていたシモンが立ち上がっていて、蛇半獣人と狼半獣人を囲み、残りの隊員たちを統合させて対峙していた。





 隊長も今の俺と同じように、フィオに治療されて復活したようだ。

 液状薬をかけ終えた彼女が、黒い革水筒を閉じているときに唐突に声をかけられた。


「あらあらーっ、休憩なのかな?」


 顔を上げると、少し離れた距離に全身真っ白の生地に包まれた女? が一人立っていた。

 正確に言うと、白髪に白生地を頭からかぶって足先まで下ろし、神々しさと恐怖を併せ持った人物が生地の合間から横長の目だけをこちらに向けていた。

 明らかに村人の風体でない上に、唐突に出現した感じでやばそう。


「誰?」

「私は、赤月族エキドナ。降臨よ」


 彼女は俺たちにではなく、広場に向けて首を動かし、少し大きめの声で自己紹介をすると、聞こえた村人から悲痛なざわめきが広がった。


「こんなところに……何で」


 フィオの発言に驚き、彼女を見ると震えだしている。


「なんだ、知り合いか?」

「魔族……なの」

「へっ?」


 じゃあ、半獣人の関係者? いやっ、雰囲気はどう見ても親玉か。

 その女を見ていると、白い服から出ているようなオーラーに充てられ、俺は不安で力が抜けてくるのを感じて生唾を飲み込む。

 鳥半獣人二体が、白の女の脇に降り立って静かにこちらを凝視する。


「烈赤月体の特異点観測で来てみて謎が解けたわ。なんでかと思ってたけど、二個もの深紅指輪持ちがいたのね。それにあんた、変わってるね。面白いわ。テュポンへの土産にちょうどよさそう。彼も喜びそうだし、ふふん」

「何を言っているんだ?」


 俺が不気味な奴に警戒を強めて剣を持ち立ち上がり、フィオを俺の後ろへ下がらせる。

 彼女は光が消失した指輪の左手を、ポンチョの中に隠して後ずさった。

 同時に周りにあった半透明の防御網が消えた。


「それは……んむっ、指輪は誰からかすめ取ったものかしらね?」


 エキドナは考えるように見えてないあご部分に手をやると、顔部分の白生地が下りて青白い美形の顔が浮き上がるように現れた。


「そんなことして……ない」

「まーっ、よろしいかしら。元の持ち主などどうでもいいし。ただ回収すればいいことなのよ」

「うっ」


 寒気を誘う発言だ。


「しかし、せっかく生命を宿らしたキメラなのに、小さな村の住人に何体も壊されて、困惑しているのよね」


 やっぱりキメラか。


「あんな半獣人、生命など宿ってない……わ」

「えへへーっ、キメラ作品をけなすとテュポンが怒るわよ。簡用キメラだけど。 ……能力も人の四、五倍に能力数値上がってたはずで、この村などモノの数分で簡単に全滅できたはずだったのにね」


 フィオの赤月眼を知らないようだ。


「何でこんなことを……アナネア村を襲わせた……の?」

「質問? うーん。いいわ。こちらも少しは提供しないといけないでしょうから。快くテュポンの実験体になってもらえるためにもね」


 二十代とも、三十代ともつかない年齢不詳の女が満面の笑みを浮かべると、なぜか蛇と向かい合っているような不気味さを感じた。


「実験体?」


 俺もフィオも眉をひそめる。


「それは、そろそろこの東のイラベも参戦してもらおうと思いましてね。ふふふっ、実験的布石の一つかしら?」

「ええっ!? それって、西の王国が起こしている戦争に介入ってことか?」


 俺はなぜか、剣を握る手に力がこもる。


「ふふっ、滅相もない。私たちのやっていることは、火種に少々風を起こすぐらいよ?」

「なぜそんなことをする」


 ひどく腹立たしい気持ちに襲われて、声を荒げていた。


「それは……うむ、ラグナの小娘どもへの嫌がらせかしら。ふふふっ」

「ラグナの小娘?」


 俺が首をひねって聞く。


「あら、それでわからないって、どこの田舎者なの?」

戦いの女神族(ヴァルキューレ)・スクルド・ノルン……なの」


 俺は相変わらず知らないが、フィオが知っているようなので聞いた。

「ラグナ教団、南方面担当騎士……よ。今回の戦争を止めにやってきているっていうディース族の乙女……なの。えっ、ディース族知らない? 赤月の力を授かった人たちの一勢力……なの」


 ラグナ教とかよくわからないんで、あとで詳しく聞こう。


「嫌がらせ程度のことか、それだけでないだろ?」

「おやーっ、わかる? 今のは私の個人的見解。戦争が起き、戦いが増えれば死者も増えて素材が増える。テュポンの制作力が沸いて、作品が増える。世に刺激が増える」

「ここのキメラをつくったのは、そのテュポンか?」

「この作品を創れるのが他にいて?」


 エキドナが片手を上げると、隣の鳥半獣人二体がこちらへ威嚇するように翼を広げた。


「酷い!」

「ふふっ、世の中には退屈している者もいてね。テュポンはその者に刺激を与えてやれるのよ」

「退屈? 馬鹿げている」

「下賎の輩の答えはみな同じものね。くだらない。ふん……そろそろ質問は終わりにするわ。それじゃあ、深紅の指輪を渡してもらおうかしら」


 白装束のエキドナが腕を前に差し出して、フィオに指輪の提出を迫った。


「渡すな」


 俺が駄目だと言って彼女を下がらせ、剣を中断に構えてエキドナへ対峙する。


「仕方ないわね」


 エキドナが右腕を少し降ったら紫色の小石が跳ねて、出し抜けにその空間から女蛇半獣人が出現した。


「えっ?」


 その蛇の腕が俺の胸へ水平に飛んできて、激しく強打。

 後方へ飛ばされ、あの風化紫月石剣の大石を囲った木の柵を破壊して倒れた。


「……いっ」


 体を一時的な修復をしてもらったのに、このざまだ。

 剣も先ほどの場所に落としている。


「ごみは処分よ」


 広場からエキドナの声と、フィオがこちらに走り寄る足音が聞こえる。

 近くに退避していた怪我人、村人たちも呆然と俺を見ているだけで、恐怖で金縛りにあったように動けない。

 後ろの風化紫月石剣付近に物音がしたあと、人の歩く音で振り返るとエキドナがいた。


「おやっ、……これは面白い」


 フィオより早く、瞬時に俺の後ろに立って大石を眺めていた。

 何かの魔法……空間移動?

 白生地の女は、倒れている俺に見向きもせずに、風化紫月石剣の前に立って笑い出す。


「石へ風化しているのに芯はまだ燃えているのね。赤月結晶と言うものは本当に楽しませてくれるわ」


 エキドナが横に手を振ったら、紫色の粒が見えたと思うと、今度は四つ足の狼半獣人が唐突に空間から現われた。

 風化紫月石剣の前に立ち上がった狼半獣人は、両手で大石と飛び出ている石剣を掴み地面からもぎ取る。

 持ち上げて広場の方へ投げると、俺の上を飛び越え地面に落下、軽く砕けながらフィオの立ち止まった足元に転がり停止する。


 風化紫月石の石剣のところから二つに割れ、中から赤い物体が現れた。

 着火した豆炭の燃え尽きた灰を、火鉢で取り除くと中から小さくなった赤い燃焼部分が出てくるように、中心の部分から赤月結晶体が輝きだし、オーラが出ているような崇高な感覚に襲われる。


「これも収集だわ」


 広場の先から足音がすると、シオンたち残った二十人ほどの隊員が、空中に上がった二体の鳥半獣人と蛇半獣人の威嚇で足踏みをしていた。


 残りの半獣人がこちらに魔法か何かで瞬間移動したから、隊員たちも状況を知って走ってきたようだ。

 風化紫月石がわかれた切れ目は、石化した剣がはまり込んだ部分で全身が現れでていた。

 俺は武器になると思い駆け寄り、手にすると石との一体化は解けかけてぐらつき、取り出すことが容易と判断できた。


「このぉ」


 力任せに持ち上げると、石の一部が砕け、金属の刃が現れて抜け出した。


「風化紫月石剣が外れた!」

「石が割れたからだ」

「それでも外れて、人の手に握られたんだ。凄いことだ」

「石剣が半獣人を何とかしてくれるんじゃないか?」


 広場で見ていた人々から、どよめきが上がった。

 刃の先端は、光沢まででて現役で使えるレベルとすぐわかる。


 ――赤月結晶の力が加味したか?


 大剣を手に取ってみると、大きさの割に重くは感じずに、手のグリップの馴染みよく収まり、懐かしいような感覚がした。


「私より先に結晶をかすめるのかと思ったら、付属の剣の方なの? でもそれでどうするのかな」


 俺は大剣を持って、向かいで笑うエキドナと静止している狼半獣人の前まで歩み、奴を叩き倒すための横殴りの一撃を与えた。


 案外、大剣は軽く振れた。

 だが、狼半獣人はエキドナをかばうように前面に立って大剣を受け止めてきた。

 2本脚立ちになっていた二メートル級の狼半獣人は、大剣に触れると派手に地面に倒れ伏せた。


「すげーっ、あの体格を一発で」


 この剣何か仕込んでありそうだ。

 喜べたのは一瞬だけ。

 次はエキドナに大剣を振ると、魔族は忽然と消えた。


「まったく危ないわね」


 また瞬間移動?

 左から声がした方にエキドナは立っていて、こちらに紫色の小石を投げてきた。

 右手を上げて大剣で弾くと、鳥半獣人がロングソードを持って上段切りで眼前に現れた。


「なっ」


 鳥半獣人が手に持ったロングソードは、俺が先ほどまで使っていた剣。

 その刃は俺が盾にした大剣を突破した。


 血で濡れた刃の先端が、ゆっくりと金属辺をぎらつかせながら迫ってくるのを、ビデオをスローにしたかのようにはっきりと垣間見た。


 近すぎて身体を退避させることができずに、俺の右側を刃が切り裂いていく。

 腕が激痛にまみれて石剣を持った指の感覚が消えた。


「やっ」


 右手は石剣とともに切断されて、地面に落ちていた。

 恐怖と痛みで目をつぶり、力が抜け両膝を地面につく。

 呼吸ができず、思考力はなくなると、地面に身体が転がる。


 上空の鳥半獣人が俺を見やったあと、こちらに走り寄っているフィオに向かっていった。

 フィオの口は大きく空いたりしまったりしているが、何も声は聞こえない。

 左手を右肩に置いて鈍痛に耐える。


 そして、耐える。

 耐える。

 耐える。


「くっ……」


 重苦と涙で、周りがゆがむ中、音が聞こえ出す。

 悲鳴だ。

 同時に心臓を掴まれて握られたような感触から熱が上がるが、腕の激痛に相殺される。


 ――フィオ。


 苦しみの中、目を開けて広場を見る。

 全身が赤く染まったフィオが、宙を舞う腕のない鳥半獣人に追いかけられ、俺の使っていた剣でポンチョが切り裂かれているのが見えた。

 指輪の防御魔法は……マァニ切れか?


 ――くそ。


 倒した狼半獣人が復活していて、フィオの後ろ髪を握ると引張り倒した。

 その狼半獣人は白紫色(はくししょく)の髪を口に噛んむと、広場を四つ足で走りだす。

 巨体の下でうつ伏せ状態の彼女は、引きずり回される。

 縦横無尽に飛び跳ねては、彼女を飛び跳ねさせて、地面に衝突させる。


「ぐっ、ぐう、うあううーっ」


 勢いでフィオの体が地面から反転するごとに何度か悲鳴が上がる。

 だが、もう助けに入るものがいない。

 シオンたちも、二体の半獣人たちに翻弄されて動けない。


 フィオが広場の中央で引き回されて数分、彼女は声を上げなくなった。

 狼半獣人が広場を一周してエキドナの前で止まると髪を離す。

 空中で声を上げて広場を威嚇していた鳥半獣人が、ロングソードを地面に突き刺すとフィオの背に乗り上げて静かになる。


「うっ……」


 フィオは地面にうつ伏せのまま身体を丸くする。

 苦しむ彼女の前にエキドナが腰を下ろしていて、割れた風化紫月石の赤月結晶を手に取り重さと大きさを吟味していた。


「もう終わりかしら? もう少し抗ってくれないと面白味がないわね」

 フィオの方に振り向いた白装束の魔族は、小言のように言ってから立ち上がり、彼女の髪を無理やりに持ち上げて顔を見た。

 フィオの顔は目に涙を貯めていて、土と切り傷で肌が赤黒くなっていて痛々しい。

「ううっ……ごほっ、ぐほっ」

「私が要求したら、素早く寄こすものよ……うん、これは思った以上に……」


 エキドナは言ったまま、少し考え込んだ。

 フィオの髪を乱暴に放すと、懐から小さな紫月石を取り出して彼女の首元へ落とした。


「このマァニのアンバランスは……ハーフ? あは、はははっ、これはとんだ拾いものだわ」


 それ以上何をやっているのかわからなかったが、注意がそがれているうちに武器を持って……助けないと。

 初動の激痛が緩和され、呼吸ができるようになり、少し考えられるようになってきた。

 脳や無意識が生き残るために痛覚遮断をしているんだろうか、心臓の圧迫や熱も感じなくなった。


 前世の俺ならショック死しかけない状況だが……たぶん、先ほどの振りかけられたボーションや、その前に飲んでいたボーションに関係あるのだろう、腕からあまり流血していない。

 剣を持ちたくて無意識に右手に力を入れてしまい、消失した腕の部分に激痛が走る。


「ううっ」


 痛覚遮断してると思ったら、今度は 幻肢痛(げんしつう)かよ。

 俺とフィオの間に切断された腕が落ちており、手が大剣を握りしめているのを見て、無意識に右腕があるように動かしてしまい幻肢痛が苛烈になる。


 ――あっ?


 その切断された腕が動いた気が……うっ。

 また痛みが……。

 ありえないことに、あの大剣が動く。

 俺のなくなった、地面に落ちてる右手が動いている?


 ――まさか。


 つながっている?


 ――ありえない。


 左手のある腕で、やってみると何も効果が出ない。

 もう一度、右手があるように意識して、先に転がる大剣を握る動作をする。


 痛みとともに、明らかに大剣が動いて反応を示した。

 だが、それは切断した手ではなく大剣自体だ。

 握っている感触で動かすと、大剣も同じように反応した。


 次第に大剣が動きを強めると、離れている俺の元右手も握ったままだ。

 右腕の切り口が激しく痛み咳込むが、彼女を助けるためなら何でもやらねばと、苦痛を意思で払拭する。

 膝立ちして意識を離れた剣に向けた。


 喪失した腕の神経が生きているように、普段通りの腕を動かす感覚で、数歩離れたところにある大剣が、刃を下にして空中に持ち上がっていた。

誤字修正。読みずらい文章を修正。

「二個の指環」⇒「指輪」に修正。

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