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第十八話 ここは奮起です

「腕、大丈夫?」


 フィオが近づき、俺の左腕の様子を見る。

 腕に意識をやり、確認するように折り曲げたり握ったりしてみた。


「痛むが、何とか動く。このまま、やるしかないし、あいつらは待ってくれないだろう」


 立ち上がって剣を鞘に納め、槍の一本を地面にさして、もう一本の槍を右手で持つと鞭が飛んできた。

 今度は目視していたので、よけながら彼女を下がらせる。


「フィオ。もう背中に乗るのは危険だ。家に避難してくれ」


 そう言ってる間に彼女は、俺の背に乗って首に腕を絡めてきた。


「それだとテオ困る……の。ぎりぎりまで、私やる……よ」

「ぎりぎりの前の前で逃げてくれ」


 話している間に、アラクネもどきの半獣人が鬼のような形相で長い前歩脚(ぜんほきゃく)を一振りしてきた。


「うわっ」


 長い脚のスウィングをさけると、別方向から頭上に鞭の空を切る音が聞こえたので槍を上げて顔面の盾にする。

 太刀打ち部分にそれは巻き付き、一瞬で槍が手から離れて空中高く持っていかれた。


「やべえ」


 刺して立てていたもう一本の槍を持って、その場を引くと蜘蛛赤月獣が前歩脚(ぜんほきゃく)を上げてこちらに振り回してきた。

 風圧さえ感じて、たまらず二、三歩下がる。


「人を打ち飛ばす趣味でもありそうだな」

「幌馬車の中は蒸すと言って、あの人やたらと両手をブラブラさせて顔をあおって……たよ」

「それかよ」


 後ろで鞭を叩いてこちらを狙っている、調教師半獣人を注意しながら距離をとる。


「わかった……の。蜘蛛半獣人は合成部分の蜘蛛の方に赤月がある……の」

「蜘蛛の頭部か?」

「うん」


 入り込むため槍を向け、歩き寄ってくる女蜘蛛半獣人の左歩脚(ほきゃく)に焦点を絞る。

 右によって相手の左側に立ち、振り回してくる前歩脚を避けて内側に入り込み、槍の先端を合成部分の頭部へ速攻の一撃を入れた。


 だが相手は、蜘蛛の頭部をかがめ女の腕が下りてきて弾かれてしまう。

 女蜘蛛半獣人は急所を狙われたと感じたのか、本能のように前歩脚二本を縮ませて防御姿勢に変わりだす。

 半獣人からの攻撃が来ないと見て取り、再度前に出て、槍を前歩脚防御の隙間から頭部へ突き刺した。


 そう思ったら手から槍が消えてしまう。

 その槍は空中に上がり、調教師半獣人の足元に鞭と一緒に落ちた。

 蜘蛛半獣人は、飛んで行った槍と調教師半獣人に注意が向いた。


「まだだ」


 剣を引き抜いて、眼前の蜘蛛半獣人に突進。

 前足防御の一本が、こちらへ飛んできた。


 曲芸のごとく身体を海老ぞらせて、スローになった半獣人の前歩脚を避けるとフィオの重みで、背後へ横回転し、その勢いで目標の頭部へ剣を差し入れた。


 女蜘蛛半獣人は、一声甲高く吠えるが反撃せずに動かない。

 今の一撃は、剣を持った腕に結晶に当てて割れた感触を得た。


「ヒット」


 俺は倒れないように両足で踏ん張ったあと、その場を離脱する。

 タランチュラの前歩脚の攻撃に注意して、射程から飛び出しそのまま調教師半獣人へ剣を向けて走る。





 フィオが俺の背中から振り落とされないように、しがみついて声を発する。


「無謀……なの」

「やったねテオ、って言ってくれよ」

「やだ」


 調教師半獣人の鞭が上がってきたので、左側へ移動して距離を取って対峙する。

 横目で赤月獣だった女が、元の大きさで上半身のまま倒れているのが見えた。

 そこへ足元に鞭が飛ぶが届かない。

 すぐ前方に警戒を向ける。


「これすぐわかる……の。おなか……だよ」


 前方の相手を観察し弱点を言い当てる。


「昆虫肌の部分か。わかった。ならフィオは、ほかの四体と戦っているシモンさんや、トスカンさんのところへ行って、さりげなく位置を教えるといい」

「うん。テオ……は?」

「何とかする。するしかないし」

「わかった。剣を巻き取られないように……なの」 


 俺から降りたフィオは、西門の方へかけていった。

 剣取られたら終わりだろ。


「死んでも渡さない」


 独り言というか、調教師半獣人の鞭に向かって言ってみた。

 そうすると半獣人が鞭を地面に叩いて、こちらに向かって振り上げた。

 俺は、半円を描くように走って鞭の距離の中へ入る隙をうかがう。


「きゃああっ」


 フィオの悲鳴で振り返ると、剣を持った半獣人一体が、彼女の前に立ちふさがっていた。

 また乱戦から赤月獣が、勝ち上がってきたのか?

 隙を見てたのに、逆に俺が隙を作ってしまい、不調の左腕に鞭の先端が絡みついていた。


「あっ」


 声とともに、空と地面が交互に見えだして、身体に激しい衝撃が来た。


「ううっ」


 息ができない激痛が全身に起きて、言ってる先から剣を手放してしまう。

 苦痛を耐えて目を開けると、空が見えるが赤く染まり、赤い調教師半獣人がこちらを見ている。

 目の前に落とされた?

 じゃあ、足元に……。


 両手を地面に動かすと、右手側に感触があり、持ち上げるとさっきまで武器にしていた槍とわかる。

 俺が動き出すと、調教師半獣人は後退して右手に握る鞭を持ち上げる。

 その動作の間に俺は、半獣人の股から槍を斜めに刺し貫く。


 鞭を持つ手が一瞬止まる調教師半獣人だが、すぐ腕を振り上げた。

 簡単に槍が肌に潜り込んでいったが、感触がない。

 引き抜いてもう一度と思ったら、槍の太刀打ち部分に鞭が巻き付く。


「くっ」


 同じ失敗はしないと強く握るが、途端に胸の咳込みが起きて、槍が空高く持っていかれた。

 何も武器がない。

 調教師半獣人の足蹴りが来るのをよつんばで避けつつ、ふらつきながら膝立ちする、


 いやっ、まだある。

 両手を後ろのベルトにかけ、設置していた小型の投げナイフ二本を取り出して、目の前の股の上に無我夢中で刺した。


 左手のナイフは半獣人の腕に弾かれたが、右手のナイフは肉に食い込んだ。

 ねじって深く沈めると岩盤にあたる感触。


 ――ヒット?


 同時に背中に衝撃が来て、半獣人の足の圧力で地面にねじ伏せられた。

 地べたに咳込むと、赤い液が飛び散って怖気が走る。


 そのまま、遠くから剣撃の音が聞こえていたのが消えて静寂になっていく。

 朦朧(もうろう)とした感じのまま、静かになったと不思議に思いつつ……安らぎが頭に広がる。


 そう感じていたら、地面へ倒れる何かの大きな音で目が覚めたように我に返ると、静寂から元の喧騒が戻ってきた。

 背中の抑えがなくなって、上半身を上げると、調教師半獣人だった男が元の腹が破けた状態で倒れていた。


「赤月結晶を粉砕した?」


 ふらつきながら起き上がると、目に映っていた血の赤みが涙で取れた状態でフィオの方へ振り向く。

 先ほどの赤月半獣人の前にトスカンが立っていて、その後ろにフィオがいた。


「ああっ、助けられていたか」


 安堵のため息から、二本のナイフをベルトに戻して、落ちている槍と剣を取り上げ二人の方へ向かうが、頭がまだクラクラする。

 




 トスカンが対峙している大男は、体の半分が鱗に覆われトカゲのような腕を持つ冒険者の赤月半獣人だ。


「よーっテオ、酷い格好だな。だが援護頼むわ」

「やりますよ。でもトスカンさんも酷いですね」


 近づくとトスカンも土まみれで、ところどころ傷を負って出血していた。


「知り合いばかりで、やりづらくてかなわん」


 前に立つトスカンに、大剣が振られて剣で応戦するが押されている。


「テオーっ」


 フィオが振り向いて、俺を不安そうに眺めている。


「トスカンさんには?」

「言っておいたよ。右脇腹……なの。でもテオの頭と口、また血が出てる……の」

「そうか……でも動けるから大丈夫」


 フィオは不安そうにしていたが、「伝えてくる」と俺たちに言うと、近くに置いてあった革袋を担ぎ、シモン隊長のいる西門の方へかけていった。

 門付近のシモンたちは、二つの輪を作り戦っているが、少人数になっていて攻めあぐねている風に見えた。


 二個小隊ほどいたのに、広場のあちらこちらで倒れて動かない者が多く目につき、半分ほどが離脱している。

 傷を負ってリタイヤした隊員は、端に移動して寝込み、幾人かの村人に介抱されていた。


「早く倒さないと村の放棄につながる。そうなれば、半獣人たちに狩られることになるぞ」


 焦って言うトスカンの横について、トカゲ半獣人と対峙する。


「残りは何体です?」

「シモンさんが槍で、突撃イノシシ獣を倒したままだ」


 するとトスカンが対峙している半獣人を含めて、あと三体。


「左に回ります」

「おう」


 トスカンは右に移動して、左右からの同時攻撃をする。


「てぃっ」


 俺が掛け声とともに敵の腰付近に槍を突き入れるが、右手の剣が降ってきて弾き返される。

 そのまま弾かれた槍を手放して、体を一回転させ射程内に入りこむ。


 援護するようにトスカンも剣の一撃を放つが、半獣人の左腕に体ごと叩かれ後方に転がり倒れ伏せる。

 トカゲ半獣人は両手が上段移動で、腹ががら空きになり、俺は自らの剣を引き抜き目標の腹に刺し貫く。

 




 感触が分からないまま、急ぎ剣の柄を放して前のめりに地面へ伏せた。

 すぐ頭上へ大剣の風圧が過ぎ去っていく。

 続いてその大剣の刃が、俺の先方の地面に突き刺さった。


「ひえっ」


 四つ足でその場を急ぎ離脱して振り返ると、トカゲ半獣人があっさり倒れていくところだった。


「おおっ」

「やったのか?」


 トスカンが顔半分砂まみれで戻り、倒れた半獣人を見ている。

 どうやら合成が解けて、元の状態に戻ったらしい。


 その死者に向かって、トスカンは胸に手の平を当て頭をさげた。 

 俺も近づくと、トスカンが振り向いてにらんできた。


「おまえ、死ぬ気だったのか? あの特攻はないぞ」

「はあっ……跡がないと思ったら動いてました」


 まさしく、そんな感じで今までも行動して切り抜けていたが、無意識の継承スキルに自身を全て預けていたことに気が付く。


「まあ、急かせてたのは俺だが、されど、特攻はよくねえ。……なんにせよ、助かってよかった」


 地面に落ちていた剣を拾い上げて、頭をかきながら俺に渡すトスカン。


「すみません」


 ――心配させるのはよくないか。


 だが、無茶しないと化け物と戦えないってのもある。

 引き継いだ手続き記憶とそれを表現できるこの身体に絶大な信頼を持っていたことで、今まで何とか奮戦できてたが、これからも上手く行くとは考えない方がいいだろう。気を付けよう。

 されど、今以上に継承スキルを使いこなせば、ぎりぎりの戦いからは避けられるかもしれないが……。


「おおっー」


 そこへ後ろから、いく人かの怒声が響いて、トスカンともども門の方を振り返る。

 奥で対峙していた、四つ足歩行の狼半獣人が輪を崩壊させて、蛇半獣人を取り巻いていた数人の隊員を倒している。


 ――ついに隊が崩壊した?


 倒れた中にシモンもいて、地面に伏して動かない隊長にフィオが寄りそっていた。

 その彼女たちに蛇半獣人が近づいている。


「やばい」


 俺は門の方へ急ぎ駆け出したら、羽ばたきがした。


「はなれろっ!」


 トスカンの声と一緒に、激しく横に突き飛ばされ地面に横倒しになる。

 宙から鳥の羽ばたく音、そして女の雄叫び。


 顔に冷たいものが大量にかかり、不安のまま上を見上げる。

 そこには、胸から上だけの身体に背中から褐色な羽が生えた鳥半獣人が、宙を羽ばたいていた。


 腕には刃先まで紫色したナイフを持ち、その刃がトスカンの首に深く刺さったまま身体を持ち上げ、空中に浮遊させていた。

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