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第十四話 この獣人は危険

 トスカンが持ってきた鉄の皿に上がった焼いた肉には、最初俺は手が出なかったが結局あとで食べてしまった。

 村人が作った野菜の煮物も配られていたので、そちらを食べるが味が薄く、食を楽しむほどのことがなく寂しくなる。


 されど空腹なのと、調理して分けてもらったものなので、フィオと一緒にありがたくいただいた。

 彼女と同じ動作で木の茶碗に注いだ煮物をむさぼるように口に入れると、トスカンに兄弟のようだと笑われる。

 渋い顔で顔を見合わせ、二人同時に顔をそらしたが、俺が背けた先に木で囲った柵があり、中に注意が向いた。


 柵の中に鎮座しているのは、人の二倍の高さを持った妙な岩で、逆三角形の形状なのに絶妙のバランスで立って存在感を示している。

 岩の途中にはコケにまみれた古びた剣らしいものが、真横から岩を切り割くように途中で止まった状態で石と一体化していて驚く。

 深く刺し貫いて剣の柄だけが出ている感じだ。


「あれ、何?」


 眺めていた俺にフィオも興味を示し、指を指してトスカンに聞いた。


「岩に飛び出ているものは剣か? 赤月剣の類かな」


 赤月剣とは、魔剣の類か?


「そんな仰々しい物じゃないよ。旅人さん興味ある?」


 ちょうど野菜の煮物の鍋を持って配り周っていた村娘が、トスカンの持っている木茶碗に継ぎたしていたところで話に入ってきた。


「君、知ってるのか?」

「私コリンヌ。それは風化紫月石剣(ふうかしげつせきけん)だね。このアナネア村ができる前からあったものだって、元は赤月(せきげつ)の結晶石だったらしいけど、かなり前の狂乱時代から放置されているそうよ」


 風化紫月石剣はいいが、狂乱時代とか、また知らないことが……。


「あのでかい石が結晶石だった? 風化紫月石はたまに見かけるが、この大きさは珍しいな。……じゃあ剣の持ち主は、赤化巨大獣(ベルグリシ)なんかと戦ったのか」

「村の人たちもそう言ってる。大きいからね。使っていた者は、神族か魔族じゃなかったかと言ってるわ」

「そうだろう。ベルグリシの討伐剣と違って、ここのは中型剣だからな」


 剣が刺さったままってことは、ベルグリシって言うドラゴンなみの生き物に剣で立ち向かったってのか?

 スゲーな、ちょっとあの剣に興味わいた。 

 ただ神族とか魔族とかがいるらしく、不安も感じた。


「石がもったい……ない。風化したけど、元の赤月の源は凄かったと思う……よ」 

 フィオが残念そうに言うが、大昔の石だろ。


「あの横に刺さった剣は、抜けないの?」


 俺が何気なく聞くと、村娘は肩をすくめた。


「取れないって。いろんな人が試したけど、駄目だったわよ」

「剣を外したら勇者になれるとか?」


 俺の台詞で、一同が静まったあと大笑いされた。


「ふっ。テオ、面白いこと考える……ね」

「ロ、ロマンだな。うんうん、勇者か。お前ならきっとなれる」

「うふっ、勇者になれるといいですね」


 何っ、この嘲笑。

 俺の中で、異界での中世ロマンが一つ消えた。


「あの剣は赤月石との摩擦熱で、もう一体化しているんだろ? 無理無理」

「わかりましたよ。冗談ですから」

「試しにテオ、あの剣抜いてみたら、どう……なの。ふっ」


 このロリ、俺をおちょくりにきたのだろうが、この際だ、やってみるか。


「あれ、触っていいのかい?」

「子供も触っているから問題ないよ」


 俺は木茶碗を持ちながら立ち上がり、柵の入り口から中へ入って眺めてみる。


「結構デカい剣……なの」


 後ろからついてきたフィオが、俺の横から顔をのぞかせると、風化紫月石に向かって首をひねった。


「おっ、どうした?」

「生きてる……の」


 その発言に、今度は俺が首をひねりながら木茶碗を彼女に預け、大剣の柄に手をかけて引き抜きを試みた。

 だが硬く、びくともしない、まさしく石のようだ。


「生きているって?」

「この石、まだ完全に石化してない……の」

「えっ?」

「あはは、馬鹿のやることはみな同じだな」


 背後から罵声が聞こえて振り返ると、ジャコと他数名が立ってこちらを見ていた。


「何……さ」


 フィオがジャコたちに向けて肩を怒らせるが、俺の腕に痛みが走りだした。

 眼前に突然映像が現れ、そちらに目が釘付けになる。

 剣の主の残留思念能力(サイコメトリー)が俺の目に着火したらしい。


「その風化石から飛び出た(つか)は馬鹿発見剣って言われてんだぜ。見事に引っかかりやがって、おめでたい奴」

「はははっ、違いねえ」

「言葉も出せねえらしい。がははは」

「むむむっ……嫌い……なの」


 顔を前に出して睨むフィオに、にやけた笑みを返してジャコたちは笑い合いながらその場を去った。

 俺は周りに気にも留めずに、次々に現れる記憶映像を追っていく。

 その映像に変化が見えだす。


 巨大な蛇が見えて興味を持ったら、走馬灯の映像が止まり、蛇、いや大蛇(おろち)が画面に襲い掛かってくるシーンが始まった。

 それをカメラ目線である大剣の持ち主が避けて、大蛇の鱗に刃を叩きつける。


 どうやら意思一つで、走馬灯から一部をピックアップして視ることができるようだ。

 そこへ、例の痛みが始まる。


「うっ」


 身体の筋肉がきつく縛られ圧迫された状態になると、映像は途切れ消失し、頭が真っ白になり、気が付くと倒れてうずくまっていた。

 トスカン、村娘のコリンヌが駆け寄ってきたが、隣にいたフィオは何か気が付いたのか、目を細めてゆっくり腰を下ろしてきた。


「大丈夫なの……かしら?」

「おっ、おう」


 上半身を起こすと、トスカンとコリンヌは一様に安堵してから、村医に見てもらうかと声をかけてくれる。


「いえ、引き抜きに力入れすぎて、筋肉をつったようで、もう平気です。この通り」


 立ち上がり両手を広げ、元気アピールをすると二人は納得して元の場所に戻った。

 フィオは持っていた木茶碗を俺に渡しながら小さい声で聞いてくる。


「テオ。剣の強さの秘密……なの?」


 お見通しだった。


「……かもしれない」


 自分でさえわからないので、それ以上は口にせず、元の席に戻ろうとしたら、フィオが突然体をはねたかと思うと尻もちをついて倒れてしまった。


「えっ、フィオ?」

「近い。突然現れた……の」

「何が?」


 彼女の目線に目を向けると、村の門の外へ向かう。


「狼たちと出会った場所の奥にいた、まがまがしい赤い物」


 彼女の赤月眼に、何か危険色が映ったのか?

 門の外は、暗くじめじめした森が静かに横たわっていた。


「そういえば、異常に静かになっているな」


 その話題にした場所から大声が上がった。


「だっ、誰かーっ。うあーっ」


 わりと近くの木々の中から男の悲鳴のあと、馬に似た猛獣の雄叫びが広場に大きく響き渡った。

 村が、広場が、一斉に静寂に包まれた。


 猛獣の声にしては、背筋が凍る声だ。

 俺は周りの様子をうかがいながらフィオを起こすと、一斉に人の走りだす音があちこちから聞こえ始めた。


「東門からだ」


 聞きつけたシモンの討伐部隊の男二人が、目の前を通って声の方向へかけていく。


「なんだあ?」


 トスカンも声のした暗い森の方を見やると、シモンが肉を食いながら隊員たちを引き連れてやってきた。

 村の中が次第に静まり張り詰めた空気に変わりだしたとき、鉄のぶつかる音が聞こえだした。


「西の出入り口も人を増やして強化させろ」


 指示を出したシモンは、従者から黒の槍を受け取り森の方ににらみを利かせた。


「相手は戦闘狂らしいな」


 その言葉で、隊員たちが武器の剣に手をかけて待機するが、突然のことで誰も防具をせず無防備だ。

 俺は木茶碗を両手に持って呆然と見ていたら、フィオの手が俺の防具を叩いてきた。


「ヤバい奴……なの。下がった方がいい……の」


 緊迫してきた空気に、俺はフィオと一緒にゆっくり後ずさる。

 その森から先ほどの討伐部隊の一人が、剣を片手に血だらけで駆け戻ってきた。


「どうした?」

「はっ、獣人です」

「なんだと?」

「三人ともやられました。化け物で剣を振り回して、非常に危険……」


 言っている途中に、人が空中を飛んできて報告者にぶつかり、赤い水滴をまき散らし両方倒れてしまった。

 すぐ隊員二人が、倒れた二人を気遣って立たせようとすると短い悲鳴を上げた。


「頭がない」


 飛んできた頭部のない防具を着た身体に、周りの女性たちが悲鳴を上げた。


「女、子供は下がっていろ」


 シモンが一括すると、村人たちが先を争って家々に入っていき、広場は騒然とし始める。

*すいません、今回からタイトルを変えました。


*剣の種類がわかりにくく書いてしまったので、まとめてみました。

  大型剣 中型剣 (普通)剣 小型剣 短剣 ナイフ です。


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