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第十三話 駄馬乗れるか?

 昼は広場の中央で焚き火を囲み、ビッグベアの解体した焼肉になった。

 村人たちも出てきて、隊員たちと一緒に食べ始める。

 それを眺めて俺はぽつりと漏らす。


「ビッグベアって人食いだよな?」 


 それを聞きとがめたフィオが、造作もなく言った。


「昨日のワイルドボアも肉食、人だって食ってる……よ」

「えっ……」


 異界の恐ろしい部分を自ら体験していた。


「うっ、うそ……俺、人食い人種……」

「テオ、やっぱり、ポンコツ冒険者……なの」  

「うん?」


 俺はいぶかしんでフィオを眺めると、申し訳ない胸を張って偉そうに語った。


「人が食われれば直ちに討伐されて、その野獣(マンイーター)は今回のように解体、内臓は丁寧に埋葬される……よ」

「埋葬か、そうか。……そういえば、死者のアンデッドとかいないよな」

「アンデッド? ここ出ない……よ。マァニの湧き出たところとか、烈赤月の指定区じゃないと出てこない……わ」


 烈赤月って、魔力の濃いところ? マァニってのは自然エネルギーのマナってことのようだ。


「そうか、なんか少し安心した」

「ただ森で人知れず死んで、野獣(マンイーター)たちに食われたのはカウントされないけど……ね」

「うっ」


 確かに野獣が食べたたんぱく質は、どれも分子レベルにまで消化されて、栄養分が野獣のエネルギーと体の一部に変換されるだけ。

 牛肉食って、草を食べたとは言わないものな。

 けっして共食いではない……そう思うが、なぜか胃が落ち着きなく不快指数を上げてきた。


 そこへシモンが頼んだ暴れ馬が、乗馬している年輩者の持った手綱に引かれてやってきた。

 シモンが受け取り、広場の端で団を取っていた俺とフィオ、生き残りのトスカンの前に引っ張ってきた。


「よーし、よし。弟子よ。これが祝いの品だ。肉にする予定だったが、乗りこなせばどこへでも連れてっていいぞ」


 シモンが豪快に笑いながらその駄馬の背を手で叩くと、後ろ足、前足と前後に上げてひと暴れした。


「うっひょー、相変わらずだ」

「あれは俺も乗りこなせなかった」

「シオンさんも落とされてたよな」


 肉を食いながら一人の男が言うと、シオンがにらんできて萎縮する。

 俺はその暴れ馬に乗ることに冷や汗を流し始めた。


 即効で落馬して、どこか骨折するイメージしか浮かばない。

 俺が駄馬を見ながら悩んでいると、フィオが「乗れるの?」と疑問符で聞いてきた。


「たぶん。だけど暴れられると無理だな」

「そっ」


 そう言ってフィオは口に手をつけて、荒ぶるのをやめて草を食べていた駄馬に近づく。

 フィオに気づいて首を上げると荒ぶる馬は、前足を上げて威嚇したので、俺は慌てて彼女に走り寄り抱えて馬から遠ざかる。


「むむむ、近づけない……の」


 見ていた男たちは焼肉をかぶりつきながら笑う。


「小娘は触りたいのか?」

「その馬は、ガキにだって優しくねーぞ」


 荒ぶる馬を引いてきた男が腰の巾着から、赤い丸い林檎のような食べ物をフィオに投げ渡す。


「それで少しは近づけるぜ」


 手にした果実を持って、草を食べるのを再開してた馬に近寄る。

 反対の手を口につけたフィオは、食べ物を馬の前に見せるとすぐかすめ取られた。

 食べている馬を見届けると俺のところへ戻ってきて笑顔を見せる。


「安心して乗るといい……よ」


 小さい声で耳打ちしてきた。


「何したんだよ?」

「契約結んだ……の」


 手を口に持っていってたのを思い起こすと、すぐフィオの唇からディープなキスが連想された。

 そのフィオが俺を見て小首をかしげる。


 俺は頭を振って考えを戻すと、手を歯で噛み血を出させてたと推測した。 

 それを食べ物に付着させて食べさせたんだな。


「だけど、それって俺の契約と違うんじゃないか?」

「思考を変えれば変更できる……よ。この子にはテオを乗らせる契約、でないと高熱が起てしまう……と」

「一方的だな、って待てよ。それって動物にも意思で契約が遂行できることか?」


 気抜けした彼女が微笑む。


「わからないけど、そうなるよう……だよ」


 フィオの笑いが妖艶に変わったような気がした。





 彼女の話が本当かどうかわからないが、他に選択はないのだから乗ってみる決意をして前に出る。

 荒ぶる馬に数人がかりで鞍がつけられたので、俺はゆっくり近づくとその馬と目が合ったような気がした。

 そのせいかすぐ暴れだしたが、一回前足を上げて体を震わせると、何事もなかったように大人しくなった。


 そのまま触ってみるが、暴れないので一気に乗ってみる。

 やはり体が馴染んでいるかのように、問題なく乗れて手綱を引けた。


「よし、いけるか?」


 だが、一回身体を揺らした馬は、前足と後足を交互に高く上げて暴れだした。


「うわっ」


 駄馬の激しい動きにしがみつき、振り落とされないようにすると、周りで見ていた男たちがゲラゲラと下品な笑いを上げだした。

 しばらく我慢すると馬はいななき、鼻息を何度かしだすと動きが鈍くなってきた。

 俺の身体が自然と行動を起こし、馬の手綱を引いたり、足裁きを行ったりして制御に努めだす。


 ――くっ、焦るな。


 落馬しないようにバランスを取り、軽い手綱裁きを繰り返す。

 体を震わせた駄馬は、俺の動きに合わせるように次第に大人しくなっていった。


 静かになった馬の手綱を引き、円を描くようにその場を歩かせた。

 肉に噛みついていた男たちの前を、慎重にトボトボと横切っていく。

 周りは笑いが止んで、呆気に取られている。


「嘘だろ」

「乗っちまったよ」

「駄馬を静めやがった」

「小僧何もんだ」


 俺は無表情を保ちながら、フィオの近くへ駄馬を歩かしていき、片目を閉じて親指を立てるジェスチャーをした。

 彼女は笑顔で手を叩いて祝ってくれた。

 黙っていた見学中のシモンは、組んでいた腕を解いて俺に近づいてくる。


「お前、気に入った。俺のところに来て、槍で一旗上げてみないか?」

「えっ? いや、俺は……」


 馬から下りて何となくフィオを見ると、直立し上目づかいで俺を恨めしそうに見つめてくる。

 彼女の不安を払しょくするために、言葉を濁さず言った。


「俺、スージュにいきます、三十日以内に彼女の首輪外してやらないといけないから」


 シモンは一瞬目を点にしたあと、豪快に笑い出す。


「お前、奴隷の小娘が気に入ってたか。そうか、そんな年頃か。はははっ」

「年頃って……」


 確かに前世の年齢でなく、この身体の年齢の感覚に落ち着いてきている。

 自我と知識を保てたまま、若返った気分が今の俺だ。


「まあ、その後、気が向いたら来な」


 そう言って俺の背中を叩いて笑いながら、焼いてる肉の焚き火へ向かう。

 歩き去るシモンと入れ違いで、幌馬車の生き残ったトスカンが来た。


「お前、奴隷を連れて行くのか? それなら俺も助かる」

「トスカンさんはどうします?」

「生き残り一人送っても大して金にならんし、幌馬車の後始末もあるから任せるわ。だがスージュはここから馬でも七日かかる、ゆっくりはできんぞ」

「馬が七日なら、時間に余裕はあると思うんですが」

「何か勘違いしてねえか?」

「勘違い? ですか」


 俺は首を傾けてトスカンを見た。


「いやなっ、三十日以内に首輪外すって言ってただろ? あれは一般の商会の話。護送していたスージュ商会は特殊で、十五日ほどで魔法発動の話だぞ」

「えっ!」


 俺のうしろへやってきたフィオが絶句した。

 数秒して俺も意味を理解し絶句した。


「同じ商会の術士か、高名な法士じゃないと解けない。術をかけた赤化法士は首都(レムール)へ向かうと言ってたしな。だから、奴隷っ子気に入ったのなら、早くスージュへ連れて行くことを進言するぞ」


 俺とフィオは目を合わせるとうなづき合う。

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