第十一話 戦闘継続です
倒れていた討伐部隊の男たちが、起き上がり不快そうに俺をにらんでいた。
「こいつらの長として、よけいな手出しをしたことにまず謝っておこう。だが、お前を見逃すわけにもいかん。俺が奴らの代わりに戦闘を引き継ぐ」
「ええっ?」
俺はフィオを背中に乗せたまま棒立ちになり、低い声を上げた。
「それでその小娘の指の深紅の指輪は、お前が与えた物か?」
「えっ?」
「しまっ……」
フィオが俺の首に巻いていた左手をすぐひっこめた。
左手の指輪か、さっきのジャコのときも何か言ってたな……高価なものなのだろうか?
「……そう、だとしたら?」
言った瞬間、首にまた手が巻き付いてきて、一瞬強く首を絞めつけられたような気がしたのは気のせいだろう。
「ふむ、おおよそ戦闘の原因が読めてきた。……俺はいらんが、ケジメはつけさせてもらうかな」
「嫌ですと言ったらどうします」
「ふぁはは。強制に決まっておろう。なーに、打ち合うだけだ。命まで取らんから安心しろ」
「へっ、シモンさんが暴れたいだけだろ?」
うしろのジャコが小声で言うと、シモンが振り向かないままパンチを送った。
「俺に一太刀浴びせられたら、奴隷の小娘も深紅の指輪も見逃していいぞ」
ものすごい自信、槍の達人じゃないよな。
「自信ないんですけど」
「俺とやらなければ、全員で袋叩きにするだけだ」
「マジっすか?」
「いいから、背中にしょってる小娘を下ろしてかかってこい。他に道はないと考えな」
「いや、いやいや、彼女下ろしたらさらってくでしょ?」
「いい加減うるせえ奴だな。そんなことはさせねえよ」
シモンの鋭い目を見て、戦うのは避けられないと悟り、フィオを下ろすが奴らが信用できず、ジャコたちから離れたところへ待機させる。
「よし。いくぞ」
あとから来た男たちも腕を組んで見学の構えになり、フィオを気にせず集中できるのが救いか。
「シモンさんにボコられな」
「はははっ」
ジャコたちグループがうるさい。
外野を気にせずに、俺とシモンは槍をゆっくり前に出し、刀身である穂先を合わせる。
少し離れて、もう一度槍の穂先を合わせ、同時に叩き合う。
金属音が森に木霊す。
離れて様子を見ながら、槍の刃を合わせる。
また穂先のぶつかる音が木々に響く。
穂先を向けて突こうとするが、すぐ下方へ叩かれ、突きの瞬間を潰される。
刀身をさげて、黒槍の動きを見定めながら後ろへ下がる。
シモンが向かってきて、俺はすぐ槍を叩き上げ、内側を取って攻撃に転ずるが、速攻で弾かれる。
「ほうっ」
少し驚いたシモンだが、笑顔を作って俺を見てくる。
シモンの槍が重く、何度か落としそうになっているのに、余裕の笑顔を向けられて怖気が走った。
二、三歩横に動いて攻めるチャンスをうかがうが、同じ動きをされて前に出づらい。
「小僧の癖に、速攻のシモンさんを様子見させている」
「小僧、何か流派にでも入ってるのか?」
「死んじまった副隊長とシモンさんの試合で、よく見てたパターンだな」
「何だか副隊長と型が似てる」
周りの観客の話が入ってきて、手にした槍の持ち主の話で集中が削がれた。
その隙を突かれ、槍合わせのあと、強く払われて下がったところへ、大きく叩かれた。
――しまった……いや、これは。
同時に相手の槍も大振りになっている。
好機として槍の軸が始めからずれてない、中段構えのまま槍の穂先を足に向けた。
シモンの足に、素早くひと突き入れる。
だが、相手の大振り回転した槍が戻ってきて、俺が突いた刃先を真横に弾き飛ばしてくれた。
――まずい。
シモンはすかさず黒槍の刃先をけさ斬りに持ってくる。
「くっ」
すぐ腰の剣を引き抜き、盾として槍の刃を受けると浅黒い肌の男は笑う。
体制を戻した槍の柄で、相手の黒槍を叩き上げる。
飛びのいて剣を鞘に戻していると、シモンが声をかけた。
「足を狙おうなどと、余裕があるのか?」
「余裕など……せ、戦略ですよ」
確かに余裕など持てず、難しいのはわかった。
本気で斬りつけないと勝算はない。
シモンは黒槍を上段に上げ、こちらへ構えた。
俺は中段のまま槍を出す。
その穂先にシモンの刃が軽くふれると、次に激しく叩いてきた。
こちらもひるまず、やり返して叩き返す。
二度、三度、四度と打ち合うと、手がしびれだし体も接近してきたので、後ろへ飛びのく。
シモンの黒槍は、一回転させて倍の力で叩きつけてくる。
ひるんだが強引に引き戻し、そのまま横槍を入れるようにシモンの体に穂先を突き入れた。
が、簡単に回した黒槍の柄で弾かれる。
避けるため急ぎ体を反らすが、黒槍の石突を肩に食らった。
「うくっ」
体制を崩さないように脇へ移動するが、バランスを崩してしまう。
肩が熱く痛むが、かまっていられない。
今の一撃で崩れた体制を戻しながら、様子をうかがう。
シモンは笑みを入れたあと、俺の交差した槍の刃に穂先を叩きつけ、金属音を出して誘ってくる。
相手は背が高い分リーチもあって、槍が長く感じて入りづらい。
躊躇していると、また隙ととらえて攻撃に移ってくる。
大きな金属音とともに穂先を弾かれ、一歩、二歩と前に入り込まれてしまう。
――んっ。
すぐ下がり距離を取って槍を頭上に交わして、迫った刃を受け止め弾き返す。
シモンは弾いた黒槍を簡単に戻して、容赦なく叩きにきた。
――このおっ。
穂先がぶつかり、俺は野球のバットで振り切るようにシモンの黒槍を大きく弾き返した。
「ふんっ……」
浅黒い長身男は顔に笑みを作る。
すぐ間を取って、また槍の刃を対峙させる。
かなり手がしびれてきて、長期戦は望めない。
だが、シモンの腕力を使って叩きのめす攻撃法則が見えてきた。
――斬られる覚悟で奇襲でいく。
俺は相手との交差を止めて、穂先を地面へ下ろす。
「んっ」
すかさずシモンの黒槍刃が、飛び込むようにこちらに迫った。
地面をついた俺の刃は土を引き上げ、泥を浅黒い男へ飛び散らせる。
その勢いのまま、相手の黒槍の柄を叩き上げるが遅い。
「ぐうっ」
黒槍を避けられずに痛みをもらった。
シモンの刃先が置き見上げのように、俺の左肩を切り裂き血が吹き出した。
「ちっ」
だが、泥を顔面にかけたことでシモンの隙を一瞬作ることに成功。
叩き上げ対峙した相手の槍の柄を滑らせるように、刃先を腕元へ瞬時に移動させることができた。
初めてシモンが慌てて左腕を上げ、俺の突いた槍の柄を見事に掴んだ。
「えっ?」
――何て胴体反応! いや、関心する場合じゃない、槍の動きを止められたんだ。
槍をすぐ放し、捨て身で飛び込み、引き出した剣刃をシモンの首に突き刺す。
だが、シモンも鞘から剣を引き上げ、盾代わりにして俺の剣を止める。
同時に、浅黒い男の黒槍の柄が、俺の頭部を直撃していた。
「ふうー。今のはやばかった」
シモンの言葉に、周りから強槍や剛勇との声が上がっているのを聞きながら、頭がふらつき足の力が抜けて倒れてしまう。
「テオーッ」
フィオの声と複数の駆け寄る音。
「ははっ、ざまぁ」
ジャコらしい声のあとから、頭部に激しい痛み。
「止めんか!」
シモンの声が遠ざかるように聞こえたあと、頭を蹴られたのかと自覚したまま意識が飛んだ。
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