■孝編 その5
20XX年7月15日 日本・大阪 12:35
「ツー、ツー……」
『まだ、つながらないか』
ケータイを手元に置く孝。
その後梢と両親の安否が気になり、何度も交互にかけているのだが、電話はつながらなかった。
外は相変わらず騒がしい。
このことに関する中継でもしないかと思って、テレビもつけっぱなしにしているが、生放送を扱う番組ではスタジオだけが映されていて、もぬけの殻だ。
『いったいなにが起きたんだろう?』
考えてみるがわかるわけがない。
隕石が落ちた、大津波が襲いかかった、大地震がおこったなどなど、想定できそうな天変地異なら、パニックも一時的なものだったかもしれないが、今回のこの事故は、そんなスケールを軽くを超えていた。
と、そのとき、突然ケータイが鳴った。
「!」
着信を見ると、梢からだった。
大急ぎで通話ボタンを押す。
「梢か? 大丈夫か?」
「孝! あなたは大丈夫なの?」
涙声で訴えかける梢。
パニックに陥っているようだ。
「わかった! すぐに行くから落ち着け! いまはどこだ!」
「ツー、ツー……」
そう問いかけたとき、電話はいきなり不通になった。
「くっ!」
思わずケータイを床にたたきつけそうになった、が、それはギリギリのところで思いとどまった。
これをなくしてしまっては、梢との最後の生命線が切れてしまうからだ。
『そうか、梢は生きているのか!』
安否を確認できた今、一刻でも早く会いたい。
そう思うと、いてもたってもられなくなった。
荷物から必要なものを取り出して、出かける準備を整えた。
そして、カーテンを引き、窓外を見る。
さっきよりは落ち着いたとはいえ、まだパニックは続いている。
『いま、外に出ても大丈夫なのだろうか……』
死んでは元も子もない。
安全策をとって、夜に行動すべきか?
孝は熟考した。
『……いや、考えていても仕方がない! 梢が待っているんだ!』
そう思うと、いてもたってもいられなくなり、孝は東京へ向かう決意をした。
危険な場所に、梢を待たせたままには出来ない。
そんな思いが孝の背中を押した。
外に出た。
すると、あちこちで交通事故が起きており、またおびただしい数の人が死に、もしくは重傷を負っている。
思わず目をそむけた。
怪我をしている人も孝を見るなり、
「助けてくれ……」
と、救援を求めるが、あえて聞こえないふりをして、その場を急いで離れた。
しばらく進むと、中学生と小学生らしい兄弟が学校の門の前で待っているのが目に入った。
小さいほうの子はお兄ちゃんらしき男の子の手を握りながら、泣き続けている。
白いTシャツに何か書いてあるのが目にとまった。
大きい子のTシャツには「山田博之」、小さい子のTシャツには「山田尚」と書かれていた。
『そうか、両親や関係者にわかるようにしているんだな』
その賢さに、子供ながら大したものだと思った瞬間、孝の頭にもあるアイディアが思い浮かんだ。
『そうだ! これだ!』
そう思った途端、元の部屋に向かって全速力で戻って行った。