五十歩百歩(K)
「よし。じゃあ魔法で飛んでいくぞ。ハドアくんは飛行の魔法使えるんだったかな?」
飛行魔法か。全然使えねーんだよなぁ。
「いえ全く」
「アタシに許可なく喋るな! 口開くなガキンチョ!」
こいつぶん殴りてえなあ。まあ、ここは堪えよう。ガキを殴っても意味が無い。
「そうか。使えんか。なら、ワシの魔法で一緒に飛ぶとしよう」
「って、ちょ、ちょっと待ってくださいよ学長!! 飛行魔法って、こっから飛んでく気っすか!?」
何考えてんだこの学長。正気とは思えないぞ。
そんな俺の疑問に、学長は俺にだけ聞こえるよう小声で答えた。
「だって、転移魔法使ったら気持ち悪くなるじゃろ? そしたらあの子、機嫌悪くするじゃん絶対」
糞みてえな理由だな。
「飛行魔法で飛んでったら、どのくらいかかるんすか?」
「う~む。明日の朝には着くじゃろうな」
明日の朝か。となるとやっぱり、どっかで一泊する必要があるよな。
「どっかで一泊するんすよね?」
「まあ、そうなるよね、普通」
う、嘘だろ。こんなクソ生意気なガキと同じ場所で寝るとかなったら、俺だけ追い出されて外で寝る羽目になっちまうだろ!!
「あんな奴と泊まれませんよ!」
俺はアイツに聞こえないように、静かに学長に耳打ちした。
「とは言っても、飛ぶ以外ないじゃろ?」
「い、いや! 飛ばないのもアリだと思うよッ! 転移魔法最高ッ! ビバ、ワープ!!」
「ちょっと! アタシを差し置いてなに勝手に話してんのよスカポンタン!!」
「いや~、お嬢さん。ちょっと提案なんだけどさぁ」
「何よ生意気ね」
ムカッ!
「いや、そのね。学園まで何時間もさっむい風を全身に浴びながら行くコースと、ちょっと眩暈がするけど一瞬で着くコース。どっちがいい?」
「え!? 一瞬で着けるの?」
よし、最高の反応だな。
「うん。そこのおっちゃんが全部やってくれるよ。ちょっと眩暈がするけどね」
「ちょっとって、どのくらい?」
「個人差があるけど、強い子なら全く気持ち悪くなったりしないはずだよ。現に俺はならなかったし」
もちろん嘘だ。
「へ、へー…… じゃあアタシなら大丈夫そうね」
「そうでしょうそうでしょう」
やった。大勝利だ。
「じゃあ学長。頼んますわ」
「本当に、いいのかい?」
いいんだよ。いいから早くしろよ。
「いいから早く連れて行きなさいよ! このマヌケ!」
良いぞガキ! 学長も、これで後には引けまい。やったぜ。
「じゃ、じゃあ。ちょっとだけ離れててくれるかな?」
「何言ってんの? あなたが離れればいいじゃない」
やっぱこのガキむかつくなあ。
「はいはい言われた通り離れましょうねえ」
俺はガキを抱きかかえ、その場から少しだけ離れた位置に移動した。
「ちょっと離しなさいこの変態野郎!」
「いやはや。この程度で変態認定とは、恐れ入りますなあ」
ガキが「降ろしなさい」などと喚いている間に、学長は魔法陣の準備を終えてしまったようだ。やっぱり準備速いよなあ。
「じゃあ二人とも、こっちに来てくれるかな?」
「一人で行けるから! 降ろしなさい! 生意気よこのガキンチョ!」
「はいはい。言われなくても降ろしますよ」
ガキを降ろすと、ガキはすぐに学長のもとに駆け寄った。ちょっと恐怖心持たれちゃったかな?
俺もすぐに学長のもとに移動して、もう一度ガキに言いつけた。
「眩暈がするかもしれないから、気をつけてね? まあ? 強い子なら? 気持ち悪くなったりしないと思うけど? 特にキミなら? 大丈夫なんじゃない?」
「うっさいわね! アタシの近くで喋らないで」
「じゃ、じゃあ、飛ぶぞい?」
一瞬にして視界が暗くなる。異常なまでの気持ち悪さと、ボヤけた視界。
「着いたぞ」
そう学長が言う。着いたであろうことは分かるが、本当にここが学園かどうかは、視界がぼやけて確認できない。
「うっ……」
間違いない。これはアイツが咽んでる声だ。
俺は頭と胸の気持ち悪さを堪え、意地悪く言ってやることにした。
「どうしたんだいレディー。随分と気持ち悪そうじゃないか。もしかして……」
「ち、違うわよ…… 気持ち悪くなんか…… 無いわ、よ……」
「そうか。まあ? 強い子なら? 気持ち悪くならないもんねえ?」
「いちいちうっさい……」
やったぜ。大勝利だ。
俺は内心ガッツポーズを決めながら、上を向いて気持ち悪さを紛らわした。




