山の主の娘(O)
「え、山? 山!? 転校生が山に!?」
「世界的に有名なあのトッチクルッタ山脈にだ」
「山…… 登るんすか」
「お忘れかな? 転送魔法でちょちょいのちょいじゃ」
そうだった。学長には転送魔法という便利すぎる魔法があるんだ。って言っても、なんで俺まで転校生迎えに行かなきゃならねえんだよ。学長一人で行けよ。
「俺も行かなきゃダメっすか?」
「ハドアくんは嫌いな種だと思うけどね、ワシの学園で預かることになったんだ。ハドアくんを帰らせるのにもワシの転送魔法がないと帰れないんだぞ~? いいのかい~?」
く、くそ。人の弱点を突きやがって。しかも何だ、俺の嫌いな種だと!? ベベンか? あいつはあの時あの場所で嫌いになったけど。
「い、行きますよ! 行けばいんでしょ!」
「そうこなくちゃね! ゆっくりハーブティー飲んでから出発だ!」
俺は学長と静かなティータイムを過ごした。少しだが心が凪いだ気がする。面倒くさいけど、学長の言う通り俺だけじゃ帰れない。ここが何処なのかは転送させた学長しか分からないのだから。空の魔法陣の魔法回路をみてみても方角までは分からない。だが、この国の中ってのは分かる。何故なら空の魔法陣が見えるからな。
「ハドアくんそろそろ行こうか。約束の時間になる」
「わかりましたよー。けっ」
「今なんか聞こえたような……」
「いえ何でもないですよ! ハーブティーが歯に詰まってしまって。ちっちっ」
「お、そうか! 頑張れよ!」
学長はそう言うと、朝、転送させた時のような動作をした。俺に荷物と兎を持たせ、肩に手をポンと置いた。
結構な圧と共に、視界が真っ暗になる。
「はい~終了~」
ダメだ、まだこの転送には慣れない。視界がボヤけている。気持ち悪いぞ?
「ハドアくん! よろけてると危ないよ! 落ちちゃうよ!!」
落ちる!? どうゆうことだ!?
次第に視界が回復した。回復して今の現状を理解した。目の前に広がる絶景と地平線。地平線に沿ったように広がる空の魔法陣は、今は絶景とでも言っておこう。
だが、目の前絶壁なんだわ。あと一歩踏み出してたら確実に落ちてたわ。なんでこんな危ねーとこに転送させたんだよ。
「学長、殺す気っすか!」
「いやいや、そんな滅相もな~い。山頂付近の地形は中々難易度高いんだから、仕方あるまい」
まあ、そうか。俺は転送魔法すらできないんだからそこら辺考えると学長は凄えよ。でも危ないってことは言ってほしかった。
「さあ、行こうか。転校生がお待ちじゃ」
「こんな山頂に転校生なんているんすか?」
「それがいるんだな~」
俺と学長は大きな荷物を背負い、勾配な上り坂を歩いた。俺は兎も抱いて。
しっかしこいついつまで寝れば気がすむんだ。自分で歩いてくれないかな。学園戻ったらエレナに預けっぱなしでいっか。いい「しつけ」してくれるだろう。
上り坂も緩やかになり、木々の間を潜り抜けると、頂上らしき開けた広場が見えてきた。
「こんな山奥に立派な建物が」
「昔を生きた生き物達の証じゃよ」
石でできたような荒廃した教会らしき建物に、蔦が巻きつき、独特な雰囲気を醸し出している。その建物を遮るものは無く、陽の光をギンギンに浴びている。神々しいとでも言っておこう。
こんな神々しい場所にいる転校生。なんておシャンティなんだ。
「転校生はこの建物の中じゃ、大分待たせてしまったようだな」
少しの期待を胸に、学長に続いて建物の中に入った。
「おーそーいー!」
その声は、甲高いにも関わらず伸びがある。
「すまんすまん! 予想より坂が勾配だったんじゃ!」
「アタシのパパはすぐ来るって言ったのに! アタシのパパ嘘はつかないもん!」
「そうじゃ! 主のお父さんは嘘はつかん!」
ん~。可愛らしい。
さらっとした銀髪。服はピシッとした布で着こなしている。足には下駄を履いている。背中にはまだ生えたてであろう可愛らしい羽。片手には生き物の羽でできたような高価なうちわを持っていた。それで優雅に仰いでやがる。
「よっ! 転校生! これからよろしくな!」
「…………」
「無視すんなよ!」
「ハ、ハドアくん! 言葉遣いには気をつけてええ~」
この言葉を言い終わったあと、学長は俺の耳元で小さく囁いた。
「言葉遣い悪くすると、めんどくさいよ。それを理解した上で発言してくれ」
「ねえ、だーれ? そのガキンチョ!」
むかっ。
「この子はワシの弟子じゃ! ワシの学園の生徒でもあるんじゃ! 仲良くしてくれるか?」
「嫌だ! 気に入らん! その目つき気に入らん!」
むかっ!
「アタシのパパだったらそんなやつ一捻りだ! アタシも本気出したら一捻りだけどね!」
「ハハハハ。それは愉快愉快」
あいつ……。
「アタシのパパ凄いんだ! すっごい強いんだ! えっとねえっとね?」
そう言うとあのガキはベラベラベラベラと自慢話をしだした。
「そうかそうか、愉快愉快。ハハハハ」
学長。よくこんなガキに付き合ってられんな。その忍耐力も凄えよ。
「そろそろ行こうか」
「うん、行く! でもちょっと待って? アタシの近くをそのガキンチョが彷徨くの?」
むかあっ!
「あ~の~な~」
学長は俺を見て、表情で伝えた。今のは解った。「ダーメーだ!」そう言ってる。これは確実だ。
俺は言い出そうとした言葉をグッと飲み込んだ。
「だからバカみたいなガキンチョは嫌いなのさ! アタシには似合わないよ! ま! ついて来たいならついて来な! 絶対にアタシの後ろを歩け!」
はーん!
こんなやつと行動を共にしたら頭がおかしくなりそうだ。ただ、学長がこんな山奥にまで出向くんだから。相当凄いやつの子供なんだろうな。
学園に着くまでの我慢か。仕方ない。
「アタシの視界に入らないでこのガキンチョ!」
はーーーん!




