ルフラン(K)
目を覚ますと深淵ではなくて、ちゃんとした青空があった。
「目覚めたかね? ハドアくん」
なんだか最近目覚めてばかりな気もするけど、まあ、奈落の底に飛び込んだりしてたんだから、しょうがないか。
「もう起きましたよ」
言いながら身体を起こして、辺りを見回す。ここはどこだろうか。
「うむ。ここはね。さっきいた奈落の近くから、転移魔法で適当な草原に移動したんじゃ」
適当な草原? 何が目的だろう。どっか行くわけじゃないんだろうし。
「この辺りはね、見ての通り木が無い。地形的には建設向きの良い土地なんだけど、肝心の建築資材が調達できなくてね。人が住んでないんだ。だから、ここでさっきの果実の力を試すんじゃよ」
なるほど。それでこんな大草原なのか。
「でも、試すって言ったって、使い方が分かりませんけど」
「うむ。ワシにもわからん」
むむ? 学長は果実を食べたんだよな? だったら力の出し方とか分かっても良いと思うけどな。
「学長も知らないんですか?」
「うむ。あれは果実の色によって全く違うのでな。ワシが選んだのは、濃い緑、ライムみたいな色のやつじゃった」
「なるほどぉ…… ちなみに、学長のはどんな魔法なんですか?」
「む、ワシか? ワシの魔法は『持続』じゃ」
持続? どういう魔法だろう。
「それってどういう感じなんすか?」
「ウサギのオラクルを手にした後、ベベンが襲ってきたじゃろう」
ベベン? ああ、あの、ウサギを食べたがってた婆か。そういえばあの婆、学長が頭を殴った後、異様に痛がってたな。
「もしかして、ベベンを撃退したときに使った魔法ですか?」
学長は自慢げに頷いた。
「うむ。ワシがベベンの頭を一発殴った後、ベベンは異常に痛がっていたじゃろ? あれはな、『持続』の魔法によるものなんだよ」
「えーっと、殴った時の痛みを持続させたとかですか?」
「惜しい。あれはね、殴った時の衝撃を持続させたんじゃよ」
衝撃を持続? んー、わけわからん。
「どういうことすか?」
「頭を殴れば、拳が頭を押している間、ごく僅かに頭が凹むじゃろ?」
あー、なんとなくわかってきたような。
「ワシはな、その“凹むという反応”を持続させたんじゃ」
「つまりそれって、あいつの頭は殴った後も凹み続けたってことすか?」
「優秀だ」
学長こえー。怒らせないようにしとこう。
そういえば学長って、学園周辺に巨大な結界を張っているよな。あれだけの規模の魔法、普通なら維持できない。
「学長が張ってる結界も、その魔法で維持してるんですか?」
「優秀だ。一瞬でも結界魔法を作用させられれば、あとは持続の魔法で維持すればいい。そういうことじゃ。さて、ワシの力の話はいい。今はハドアくんの魔法じゃ」
「そうっすね。水色の果実の力は、いったいなんなんすかねー」
「とりあえずは、そうじゃなー。水色の果実を思い浮かべて、右手を突き出してみるのはどうじゃろうか」
水色の果実…… 水色の果実……
あの時手に取った水色の果実を思い起こしながら、掛け声と共に右手を突き出してみる。
「ハァッ!!」
……なにも起こらない。
「なにも起こりませんねー」
「まあ、ワシも昔はそうじゃった。動かしたことのない筋肉を動かすようなものだから、慣れるまでは試行錯誤の繰り返しになる。もちろん、慣れていけばイメージや掛け声に頼らずとも使えるようになるがね」
「じゃあ、しばらくは適当にやりまくればいいんですね?」
「うむ。ハドアくんが一刻も早く技を習得することを、心から願っているよ」
そう言って学長は優しく笑んでから、こう続けた。
「さて、次はどうしようかね。ハドアくんは、水色といえば何を思い浮かべるかな?」
「水色といったら…… やっぱ水すかね」
「水か。いいイメージだね。じゃあ今度は頭に水を思い浮かべながら、両手を出してみようか」
水…… 水……
「はぁ~~」
水をイメージしながら滑らかに両手を前に突き出す。でもやっぱり何も起こらない。
「出ませんねぇ」
「じゃあ、水から更に連想してみようか」
「連想ゲームですね? じゃあ、魚とか」
ポーズはどうしよう。体をくねくねさせてみるか。
よし、体をくねくねさせながら~、掛け声は……、魚だしギョギョギョでいくか。
「ギョギョギョ~!!」
……何も起こんねーわ。
「駄目みたいっすねコレ」




