世界の力(O)
「当然、食べてもよいが。この果実が何を意味するのかをわかってないのだろう?」
「はい、全くもって知りません」
「フフ…… やはり可笑しい」
彼女は手を口の前に持っていき、優雅に笑った。
「儂は何年もの間、限られた人物にこの果実を授けてきた。だが、その全員はこの果実の存在、意味を理解した上、使い道を詳しく説明した。汝みたいな人間は初めてだ」
他の人もここに来たのか。しかもその人達全員、このことを詳しく知ってただなんて。
「ん?」
「どうしたハドアよ。」
「学…… メザードさんも過去に来たことがあると言っていましたよね?」
「先の爺さんか。ああ、二度訪れている」
「こ、ここにメザードさんが来た時も使い道とか話したんですよね?」
「そうだ、頭のいいやつだ。動機もしっかりしておった」
おい~、そんだけこの果実のこと解ってんなら俺に少しくらい教えろよクソじじい。なんも知らされないで来させられた俺の身になってみやがれってんだ。
「不満があるようだな」
しまった。顔に出ていたか。
「申し訳ありません。せっかくこの果実を譲って頂いたのに」
「良いのじゃ。汝の今の気持ちは凪いでないからな」
彼女は笑顔を見せた。
「あの、この果実のこと教えてくれませんか?」
「仕方あるまい。まず、この木には『種』が無いのだ。木や果実は種から始まり、やがて種を落とす。だが、この木にはその『種』がない」
「え、種が無い? それなら、何故この木は生え、果実を実らせてるのですか?」
「世界の一部とでも言っておこう」
全くもって意味がわからない。
「え〜と…… もっと解りやすく~……」
「そうだな、汝は何も知らないんだったな」
彼女は笑っていた。
「この世界には幾多の王が存在する。巨人族、龍、そして儂。汝の記憶から知っている種族はこのくらいだろう。かつてこの世界には、脅威が存在しなかった。だが、エルフや人間が誕生した。世界の流れは大きく変わった。人間は何を求めたか。力だ。交わってはならぬ人間とエルフが交わり、今では同化までしてしまった。魔法という力を手にした人間は好き勝手なことをしだした」
彼女は笑顔を見せず、真剣な表情で話した。
「巨人族や龍やその他の王と呼ばれる者達は、自分が生まれた土地を守る守神として生きている。人間に害を与えるなど決してしなかった。昔はな。だが、いつしか王達から人間は、己の土地を汚す生き物と見方が変わった。森林を伐採し、自然の姿を消し去り、人間の住みやすいものへと変えていった。王達にとってその行動は許されなかった。人間にとってこの王達は邪魔でしかなかったのであろう。住み着いた人間は、『ここは我々の土地だ』そう言いだした。恐ろしい限りだ。そして、遂に王は討伐され、その王の持つ宝玉を人間が手にしてしまった。膨大な魔力と力を手にした人間は次に何を求めたか。『強い』このことを解らせるという欲に駆られた。力の無い人間を下につけ、『国』を築いた。この世界という有り難き母に感謝も示さずに」
何だろうこの気持ち。
「巨人族。人間は奴らの宝玉にまで手を出した。そして、手にしてしまった。人間はその力を『破壊』に使った。巨人族の願いだ。人間に持った怒りは底知れない。その怒りを人間はコントロールできる筈もない。その他の王の宝玉の願いもそれだろう。この世界に彷徨く邪魔な人間を排除することだろう。だが、この世界はこう考えた。『共存できないのか』と。世界は優しすぎる。互いを知り、互いを分かり合うことはできないのか。そして世界は、己の力を貸すことを決めた。限られた人間、信頼なる人間に力を与え、宝玉を王の元へ返す役目として」
え、っていうことは。
「世界は、一切日の光が届かない暗闇のこの深淵に、力の源であるこの木を生やした。そして、この木の守神として儂がここにいるわけだ。儂は、世界、大地の力を与える者を見極める役目」
なんか、内容がぶっ飛びすぎて。それが目の前の木…… だよな? それに実ってる果実を、俺は持ってる?そんな重要なモノを!?
これを与えられたってことは、俺はこれから宝玉を持ち主に返す役目を持つってことになるの!?
「そ、そんな重要な世界の力ってのを、何も知らなかった俺に与えていいんですか!?」
「ああ。儂には解る。汝の心に濁りはないと。そして、あのメザード坊やが連れてきた人物。間違いはないだろう」
「そ、そうなんですか。あの、この力ってのは具体的にどんな感じなんですか?」
「いいだろう。これは世界、あるいは大地の力を手にすることができる。汝らがいつも使う魔法では一切操ることのできない力を操れる」
「た、例えばどういったものですか?」
「この世界の法則を書き換える、操れる魔法だ」
ハテナがいっぱいだぞ!?
「ピンとこないようだな。簡単に言うと、力の流れを変える、だな」
力の流れを変える!?!?
「ん~上手く説明できん。詳しいことはメザード坊やに聞いてくれ」
あれ、投げやりになった。
「その果実は今ここで食べてくれ。地上に連れ戻して他の誰かに食べられたりしたら終わりだ。汝が食べたら、地上に戻してやろう」
食べるしか選択肢はないわけか。世界に選ばれたのか。実感湧かないけど、食べて損はないだろうな。
俺は果実を食べた。
目がクラクラする。上手く立てない。
意識が飛ぶ寸前、この言葉が聞こえた。
「汝も翠色の仲間入りだな」
このディフェスという言葉を理解するには、あまり時間は掛からなかった。




