不自然(O)
「ちっぽけな圧が消えたね」
「お前くらいでも圧を感じられるんだな」
「キミキミ。ボクをなめすぎじゃないかい?」
なめて当然だろ。魔封石がなきゃろくに戦えねえんだからな。
動物は魔力を持ったとしてもそれが制御できず、身体から外へ魔力が流れ出す。その流れ出た魔力は、人間には重々しい空気のように感じる。それは魔法を使えない人間でも感じられる。
人々はその重々しい空気を「圧」と呼び、少しでも圧を感じたら通報するように言われている。
それぞれの動物が持つ魔力量によって、流れ出る量も異なる。
今回のアギラはC級。近くに行かなければ圧は感じないだろう。
「C級の褒美なんかいらねえから、お前にやるよ」
「お、ありがたく頂くとするよ」
こんな雑魚のために10キロメートルの道を往復するなんて面倒くせえ。ポケットの中の魔封石でも売りに行くか。
「お前は先帰ってていいぞ。俺はここにちょっと用があるからな」
「あれ? 許可は取ったの? 許可証持ってなかったけどいつ取ったの? いいの? まさか、キミ。サボる気じゃないだろうね!」
あああ。うるせえ。面倒なやつに気に入られちまったな。
「別にサボる……」
この言葉を言い終える前に、ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ今まで感じたことのない圧を感じた。
「今の圧、やばくないか?」
「おおおおおえ。気持ち悪いぞおおおおえ」
今ほどの圧となると普通の人間やレベルの低い奴らには衝撃が強すぎるようだ。
「今の、どっちから??」
「ボクの考えだと、東辺りかな。学園の方からかも」
学園の方か。なら俺らが行く必要もないな。先生やら寮長やらがどうにかしてくれんだろ。
「キミ。向かおう」
「は? なんで」
「ボクらは今外にいるんだ。行くことだって簡単だろ? それに、キミのポケットの中の魔封石があればボクだって戦えるさ」
「なんでこれのこと……」
こいつは度々不思議なことを言い出す。
「ま、行ってやるか。あの凄まじい圧を出すやつを見てみたいからな」
「よし、いこう」
「……で、馬車は?」
「馬車はあそこにあるよ。でも御者さんがいないねえ」
「はー。どこにいんだよめんどくせえ」
周りを見渡す。だが、御者さんどころか人っ子ひとりいやしない。いるのはムルフッフだけ。
「なんか、不気味じゃね?」
「不気味だねえ」
「御者さんの名前何?」
「確かジョセフかな」
「ジョオオオオオセエエエエエエフ! おーい! ジョセフウウウウウウウ!!」
…………反応がない。
「本当にジョセフって名前か?」
「確か」
「明らかにおかしいな。いつもこの街は人いないけどポツポツならいるぞ。なのに今日は誰もいないんだな。お前、馬車運転できるか?」
「ん~何年ぶりかだけど一応できなくはないよ」
「じゃあ運転しろ。ジョセフはまた後で回収だ。早くしないと圧を出した奴が逃げちまう」
俺とムルフッフは馬車にのってロリエンヌを出発した。
あの時圧を感じた以降、ちょっとした小さな圧も感じない。ロリエンヌから学園まで半分くらいまで来たのに、何も感じない。アギラなら常に魔力を出しているため、少し離れてたとしても少しの圧を感じることができのだが。
もう遠くに行ってしまったのか。だとしても移動が早いな。
そのまま何も感じないで学園に着いた。
「寮長!! さっきのとてつもない圧はなんだったんすか!!」
「ロリエンヌにいても感じたのか。教授達も何も分からないってさ」
「マジか」
「キミキミ、やっぱジョセフ探しいこうよ」
「いーやーだ。それはもう俺には関係ない」
関係なくはないがただめんどくさいだけなんだけどね。
「褒美やるんだから許してくれ、寝させてくれ」
「キミ~。まあ、わがままに付き合ってもらったんだ。今回は許してやろう」
何目線なんだよ。いちいち言い方むかつくな。
「おいムルフッフ!! さっきのこともあるから十分気をつけろよ? 魔封石持ってげよ?」
「ありがとうございます寮長。今度は忘れずに持って行きます!」
ムルフッフは学校を出発した。
「あ、そういえばハドア君。君達が出発した後にロリエンヌ市に行く途中の街に、ドゥーマ達が出かけたんだけど、帰ってくるときにドゥーマ達を見たかい?」
「え、誰もいませんでしたよ」
「あれ、おかしいな~」
「戻ってこないんすか?」
「そうなんだよ。なんか、不自然なことが多いね。」
「あ!! そういえば寮長とハドア! さっき観測班が言ってたんだけど。上の魔法陣、動いたらしいよ!!!」
通りかかった生徒が言った。
「動いた!? 上の魔法陣が!?!?」
「うん!! 中心円が4分の1くらい反時計回りに動いたらしい!」
今までに動くだなんてことはなかった。ずっと止まったままのはずだった。
今日に限って未知なことが起こりすぎる。
いや、訂正しよう。だって、「今日から」の方が正しいから。