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老バーミリオン(O)

「ハドアくん。その()を抱いているが、気をつけろよ? 悪戯好きだと好き勝手に10分前に戻されちゃうからな。小さな男の子の場合はその確率が高いからの」


「あ、確かにそうっすね。まずどうやったら10分前に戻されちゃうんすか?」


「う~む。それがわからんと気のつけようがないからのう。ちょっと待っとれ」


 学長は近くに落ちている小枝を拾いこう言った。


「兎さん。今からこの枝を折るから、折ったら10分前に戻してみてくれないか?」


 すると兎は首を横に振った。


「その力を使いたくないみたいだな。無闇矢鱈には使わない()のようじゃな」


「疲れてるとかっすか?」


「恐らくな」


 兎は俺の腕の中で、ぬいぐるみになったかのように眠った。


「寝かせておこう」


「ちょおっと待ひな!」


 後ろの方から人の声が何重にも重なったような濁りのある声が聞こえた。

 すると学長は耳元で


「厄介な奴に見つかっちまった。振り向かずに(ここ)から出よう」


 なんだろうあの不気味な声は。何人もが一斉に喋ってるような。でも気配は大勢いるようには感じない。不気味だ。

 俺は小さな声で学長に聞いた。


「こんな林の中でも人っているんすね」


「残念だな、あれは人間じゃない。気色悪くてワシは苦手じゃ」


「え、てことは。また物語に出てくるような生き物なんすか?」


「優秀だ」


「ひゃ~待て待て~ひゃ~」


 後ろから聞こえる。追ってきてる。声は女性に近い。余計不気味だ。


「こいつは渡さんぞ」


 学長が言った。


「ワタヒの縄張りだ~ワタヒの獲物だ~」


 後ろからの足音は次第にペースが上がる。俺らもひたすら歩く。ペースを上げ、歩く。

 なんだこの怖さは。


「しつこいっすね」


「そうだな。しょうがない。わからせてやるか」


 学長は足を止めた。俺も学長が止まってから少しして止まった。


「ハドアくん。振り向く時、心の準備が整ってからにした方がいい」


「は、はい」


 俺は何だかよくわからないが心の準備を整え、振り向いた。

 薄汚い血が染みたようなダルンダルンのタンクトップを着て、ビリビリの布を腰に巻き、趣味の悪い骨のネックレスを首に掛け、腕には丁度いい感覚で針が刺さっていて、頭を隠すように布を縛り、腐敗した歯茎が露出した老婆がそこには居た。

 一目見た感想、キモイ。

 はひーはひーと息が漏れる音が聞こえる。それも何重にも重なったかのようだ。


「何故この兎を欲しがる」


 学長が問う。


「兎? おいひいんだもん」


「食べたいだけなのか?」


「人間、兎食べなひの? ちょばっ! 臭ひ! 人間臭ひ! アンタら臭ひ!!」


 臭ひ? ちゃんとシャワーも浴びたぞ? 石鹸のいい匂いするぞ?


「臭いとは失礼な。お前たちベベンの方が臭いわい!」


「まあ! なんという人間。アタヒ達をバカにしたね!」


「が、学長? 挑発しない方がいいのでは~」


 やめて~、こんな悍ましい奴と戦うとかやめて~。


「大丈夫。奴ら魔法使えないから」


「あ、そうなんすか。ならよかった」


「まあ、その分身体能力はズバ抜けてるがな」


「え?」


「侮辱ひた罪! アタヒの爪で切り裂いてやる」


 老婆は超不気味な笑顔を見せながら両手を大きく振りながら走ってきた。その姿を見ただけでゾワゾワする。

 学長は身動き一つ取らない。

 おいおい。あいつ案外足速いぞ? ってか気持ち悪いくらい足速いぞ!?!?

 学長を見る。すると、学長の目はいつもより翠が強くなってる気がした。そして、歩き出した。


「ハドアくん。これがワシの力じゃよ」


 そう言いながら歩く姿は、誇らしさを感じた。

 学長は老婆の攻撃を避け、するりするりと内側に入り込む。


「ホレ」


 学長はそう言って一発だけ老婆の頭を殴った。大した力で殴ったわけでもないのに、老婆は酷くもがき苦しんでいる。


「ぎぃやあああああああ」


 老婆はその叫びをどれだけの時間言い続けているだろうか。学長は既に俺の隣で腕を組んでいる。

 老婆は頭をずっと抑え、今尚叫びを上げている。


「これで放っておいても大丈夫じゃ。行こう」


 老婆は俺らが歩き出しても見向きもせず、叫び続けている。林を抜けるとこに来ても尚、微かにその叫び声は聞こえてくる。

 学長、何したんだ?


「学長? さっきはどんな魔法を?」


「ん? ちょっとね、嫌いな種族だったもんで、ズルい魔法を使わせてもらった。いつかハドアくんにもわかる時がくるさ」


「俺にもわかる時がくるんすか?」


「うむ。これからね。教えてほしいなら教えてあげるけど?」


「いや、いいです。今聞いてもサッパリわからないと思うんで」


「そうかね」


 学長と俺は林を抜け、空が見えるところまで来た。


「さっきの婆さんの叫びでもこの()は起きないんすね」


「よほどハドアくんの胸の中が気持ち良いんだろうね」


「気持ち悪いっすよ」


「あ、学長! 名前付けません?」


「お、いい案だ。ここはワシに任せなさい」


 学長は腕を組み、空を見上げた。


「ん~……」


「そんな悩んじゃいます?」


「ちょ、今喉まで出かけてる」


「す、すんません」


「よおおおし! 思いついた!」


 俺は学長から出た名前に酷く驚愕した。

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