上書き(S)
学長は荷物から四角い箱のような物を取り出した。
「この中に入れておけばしばらくは大丈夫かな」
学長がうさぎの死体に手を触れようとした瞬間。
「ダ、メ……」
まるで喋ることが初めての赤ん坊のような、たどたどしい声が聞こえると、うさぎの死体が微かに動き出した。
「な、なんだ!」
学長が驚きの声をあげる。うさぎの死体が動いたのと同時に、オレンジ色の光がどんどん強くなり目が開けなくなるほどの閃光と化す。
「この光は何なんですか?」
目を手で覆いながら学長に声をかける。
「ワシにもわからん。多分だが、このオラクルの特殊な性質が関係してるのかもしれん」
光が収まり目を開けると、そこには驚くべき光景があった。
「うさぎが……、生き返った?」
先程まであった腹の傷は、傷跡すら残さずに綺麗さっぱりなくなっている。それどころか、白い毛並みべったりと付いていた血すらも消えて無くなっている。こちらを見つめるうさぎの目は綺麗なオレンジ色をしている。
「違、う」
うさぎに目を奪われて気づかなかった。うさぎの隣に小さな男の子がいた。見た目はヴァイオレットよりも更に幼く、五歳くらいだろう。うさぎと同じ白い髪とオレンジ色の目をした男の子は、うさぎを抱き抱えた。
「どうやらもう出てきたみたいだ」
男の子を見た学長は一言そう言った。この子がこのオラクルの『適格者を探す者』なのだろう。
「違うってどういう事なんだ?」
「生き、返ってない。なかった、事にした」
生き返っていない? なかった事にした? 意味がわからない。なら何でうさぎが今そこで生きている。
「なるほど。治癒でもなければ再生でもないってわけだ。素晴らしい力だね」
学長はあのセリフだけでわかったのか男の子を素直に褒めた。
「え、どういう事なんですか?」
「詳しくはわからないけど、あのオラクルの性質は対象の時間だけを戻すものだと思う」
「対象の時間?」
「生き返ってない、なかった事にした。つまり傷は治してない、傷自体をなかった事にした。対象の時間を戻す事によって死んだ事実を無くしたんだよ」
「ちょっとだ、け違う」
「この力、対象、を十分前の、状態に上書きする。時間は戻してない」
「戻す、だけじゃ、戻った時に死んじゃう」
淡々と告げているが、限定的とはいえ死んだ事をなかった事にする力なんて。
「君はこれからどうするのかね?」
学長は男の子に聞いた。
「適格者、探す」
生まれたばかりの蜘蛛がやり方を習わずに巣を作るように、この子も自分のやるべき事を本能で理解してるんだろうか。
「なら、一緒に来ないか? ワシは学園を持っていて、学園には人がいっぱいいる。もしかしたらお前の適格者がいるかもしれん」
「これから用事があってすぐに学園には帰れんがな」
「適格者、探す。人いるなら行く」
それだけ答えると、うさぎを下ろした男の子がだんだんと透明になり、目の前から消えた。
「このうさぎを持ってけって事ですよね?」
俺はその場に残ったうさぎを抱き抱えた。
「まぁ、そうなるだろうな」
男二人の旅かと思っていたがひょんな事に可愛い同行者が増えた。
はいどうもSです。
今回のお話はちょっと書くのが難しかったです。うさぎが死んだままではなんか嫌ですし、かといって蘇生能力なんかにすると俺TUEEEEー!になってしまうので、頭を捻りあげこの能力しました(あれ?でもこれはこれで俺TUEEEEー!になってね?)。
このうさぎさんは誰と契約するのか楽しみです。新キャラか、はたまた今まで出たキャラなのか自分でもわからないからリレー小説は楽しいですね。
さて、今回はこの辺で。また一周後にバイバーイ!




