寄り道(K)
「俺とは違う適格者?」
「そうじゃ。適格者と言っても、適格者ごとに適するものが違うんだよ」
適するものが違う? つまり、ヴァイオレット以外にも色々いるってことなのか?
「えーっと。じゃあ、これから会う人は、何に対しての適格者なんですか?」
「ふっふっふ。それは見てからのお楽しみということじゃな。さて、あと少しで着くぞ」
もう少しで着くと言われて気づいたが、既に村のような集落を抜けたあたりだった。
前方を確認し、小屋などがないかを目で探る。無論この大草原、小屋があれば見えるはずだが。もしや、学長の言う“少し”というのは、10分20分のことなのでは?
俺は学長の発言に疑念を抱きながらも、素直に着いていくことにした。
学長の発言から1分が経過する。見渡す限り大草原。集落を越えてからまだ小屋の一つも見えやしない。どういうことだ?
そう、疑念を更に深めたとき、学長はこちらを見て、にっこりと笑った。
「さて、あと何歩か歩けば目的地が見えるはずだ」
「は、はあ……」
俺は地平線を見つめながら、恐る恐る足を踏み出した。
1歩、2歩、3歩、4歩――
俺が4歩目を出した時、突然視界が深い霧に覆われた。思わず瞑ってしまった目を開くと、目の前には平屋が2軒、渡り廊下で結ばれて存在していた。
「これが、目的地……?」
「ああ、そうじゃ。これは結界の一種でな。ワシが学園周辺にかけているものと基本は同じ。違うのは、さっきハドアくんが感じた通り、外から中が見れないことだけじゃ」
「凄い…… 結界にも色々あるんですね」
「うむ。では、早速お邪魔しよう」
そう言って学長は、向かって左側の家に向かってスタスタと歩き始めた。それに俺も着いていく。
玄関に着くと、学長は戸を叩いて家の中に呼びかけた。
「ユール、ユール。おらんか。ワシじゃ」
しばらくして、しわがれた男の声が聞こえた。
「はいはい今開けるぞ。ちょっと待っとれ」
それから家の中を歩く音が数回した後、ガラリと戸が開く。
戸を開けたのは、俺よりも少しだけ背の高い、目の垂れたお爺さんだった。学長と比べてだいぶ老けて見える。学長が若作りなだけなんだが。
「おうおう相変わらず若いのうお前は。さ、中に入れ」
「久々だな」
「久々か? 一年ぶりくらいじゃろう」
学長の後に着いて家に入り、戸を閉める。
「その若いのは、なんかの適格者か?」
「うむ。聞いたところ、宝玉の適格者だそうだよ」
「宝玉の!? そいつはすげえね。話を聞かせてくれよ。何があったか」
俺たちが導かれたのは、普通の居間。
新しい家というわけではなさそうだが、余程手入れされているのか、床は結構綺麗だ。もしかしたら俺の実家より綺麗だ。
「さあさあ、座れ。お前さんも。まずは、何があったか話してくれるかの」
「その前に自己紹介をしておかないと、うちのハドアくんがお困りだよ」
「ああ、それもそうか。わしゃあユールテウス・ウィガロ。今日はよろしくな、少年」
「は、はい。僕は、ハドア・ステルターニと言います! よろしくお願いします」
やばい。緊張する。学長とこの人は親友で、俺がそこに加わっているワケだ。しかも相手は明らかな目上。これで緊張しないはずがない。
「ハッハッハ。礼儀がなっとるようで良かったわい。わしのことはウィガロ爺とでも呼んでおけ。さあ、話じゃ」
「ううむ。さっきも言ったが、このハドアくんのところに『適格者を探す者』が訪れたんじゃ」
「宝玉じゃな?」
「うむ」
「シュボルトんとこの坊やとか、あのババアの孫娘ではなく?」
「そう、他でもないこのハドアくんだ」
ウィガロさんは「そうか」と言って深く考えたのち、俺の方を向いて言った。
「ハドアくん、君のところに来た奴は、どんな見た目だったか、分かるかい?」
「えっと、紫色の髪の女の子で、紅い眼で…… あと、名前を聞いたらヴァイオレットと名乗りました」
「そうかそうか。じゃあ概ね予想通りじゃ。ハドアくん、君のところに来た女の子は、あれは人ではない」
「ああ、はい。そんなことを言ってました。私は宝玉だ、と」
「そうか、そう言っていたか。ホッホッホ。もう一つ聞くが、そのヴァイオレットちゃんからは、圧を感じたかな?」
「いえ、彼女が魔法を使ったときは感じましたが」
「魔力を放ち続ける筈の宝玉が、魔力を放っていないというのは、いささか疑問ではないかね?」
それは、そうだ。確かに、魔力を放っているのなら、圧を感じるはずだ。あの至近距離にいたのに全く感じなかった。人ではなく、宝玉でもないのなら、彼女は一体……
「その子は、宝玉が生み出した分身のようなものだ。それが『適格者を探す者』の正体。宝玉は使われたがっておる。その為に、適性のあるお主を選んだのじゃ。そして、それをお主に伝えるために、ヴァイオレットとして現れた」
「えっ。でも、だとすれば、宝玉には意思があるんですか?」
無機物が意思を持つだなんて、ありえない。そんな俺の考えを否定するように、ウィガロさんは呟いた。
「驚くことではない。わしらだって頭蓋の中の、拗れた腸のようなヘンテコな物体だけで意思を持っているんじゃ。だから、大したことではない」
「じゃあ、宝玉は別のところにあるってことですね?」
「うむ。そのヴァイオレットという少女を通してでも、宝玉の力を使うことはできる。じゃが、宝玉に込められた全てを使うことはできん。ヴァイオレットは、宝玉の無料お試し版みたいなもんじゃな。ハッハッハ」
「つまり、宝玉の真の力を使うためには、宝玉を探す必要があると?」
「その通り。あの空の魔法陣を作る程の絶大な力に立ち向かうには、こちらも絶大な力に頼るしかない。そのためには、少女を通してだけの力では足りんのじゃよ」
「2人とも、もう充分話せたかな?」
学長が口を開く。
「今回ここへ来たのは、ハドアくんとユールに話をしてもらいたかったからでもあるが、一番は宝玉を探すのに必要なツールを借りるためなんだよ」
「どういうものなんですか?」
「ヴァイオレットと宝玉は、何らかの力で結ばれている。これから借りようとしているのは、その力の結びつきを辿るためのものだ」
「ホッホッホ、だろうと思うたわ。じゃがの、貸すかどうかは、わしが決めることじゃ」
ウィガロさんはニヤリと笑った。




