表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

圧(K)

 あけおめな季節に投稿です。

 凄まじい圧。きっとエレナや寮長にも届いただろう。

 俺は落としていた視線を上げ、再度黒ずくめの人物を確認すると、そいつは再び周囲を警戒し始めた。

 まずい! そう思ったのも束の間、そいつは突然黒い球のような姿になると、そのまま段々と小さくなり、やがて目に見えなくなった。


 なんだあの消え方は。魔法には見えなかった。

 転移魔法であれば、術者と転移者を同時にこなすことはできない。つまり、一人で転移魔法を使って移動する場合には、魔法陣なんかを利用する必要があるというわけだ。だが、さっき魔法陣は一切見えなかった。なのにあいつは消えた。なんでだ?


 見てはいけないものを見てしまったような気分だ。などと思っていると、今度は背後から強烈な圧が発せられた。驚いて振り向くと、俺の後ろの地面には魔法陣が展開されていた。

 俺はすぐにわかった。この魔法陣はヴァイオレットが消えるときに使っていた奴だ。あんな特徴的なシーンを2回も見せられたんだ。間違いない。


 俺が魔法陣を見つめていると、途端に、魔法陣から閃光が発せられた。

 この近距離、最悪失明するぞと内心怒りながら、再度魔法陣のあった方向を確認すると、美しい紫の少女が立っていた。やはりヴァイオレットだった。


「今日は何の用かな?」


「唐突で申し訳ありませんが、先ほどの人物を見ましたか?」


「おいおいまずは挨拶が先だろ、お嬢ちゃん。それにその質問。まるで怪盗を追いかける刑事だ」


「えーと…… こんにちは、適格者。あの、それで、質問ですが」


「はいはい、見たよ。あの黒服で紅い目の奴だろ?」


 そう投げやりに返すと、彼女は小さく「はい」とだけ答えた。


 あの黒ずくめ、ヴァイオレットとは毛色が違うし、たぶん敵対関係だろうな。でも一応聞いてみるか。


「それで、あいつがどうかしたのか? 知り合いか?」


 その質問に対して彼女ははっきり「いいえ」と否定し、続けて言った。


「ですが、あの人物には警戒してください。見かけても、近づいたりしないでください」


「と言われてもだな。第一、お前自体信用できるわけじゃないしな」


「……ですが、あの人物には警戒すべきです」


「あのな。信用できん奴に警告されても、困るんだ。俺からすれば、実はあいつはスゲーいい奴で、お前が嘘をついてる可能性だってあるわけだからな」


 そう言うと、彼女は数秒間黙考したのち、「では、どうすれば信用して頂けますか」と呟いた。


「うーん、そうだな」


 何が一番効果的だろうか。

 暫く行動を共にするか? いや、それは危険だな。じゃあ色々質問してみるか? いや、これも駄目だ。質問事項が少なすぎる。だとすれば他には何が…… ああ、とってもいい手があるじゃないか。


「俺に着いてこい。そこで俺の信用を勝ち取れば、あの黒ずくめを見かけても放っておいてやる。……もし無理だったら、その時はお前とは二度と関わらない」


「……はい」


 彼女の返答を聞いてすぐ、手を引っ張って馬車の方へと向かう。エレナ達にはどう言われるか分からんが、俺の保身のためだ。仕方ない。




「ハドア!? それ誘拐?」


「おいおい。あの林から女の子連れてきたら、普通は迷子ちゃんだと思わないか?」


「でもハドアって普通じゃないとこあるしぃー?」


「あのなぁ……」


 エレナはさして疑っている様子はないが、寮長はそうでもないらしい。俺を怪訝そうに見ているのが、わき目でもよく分かる。


「ハドア君。その少女は、先の圧と何か関係があるのかな?」


「さて、どうでしょう。とにかく、学園に連れて行ってもらえませんか?」


「まずは質問に答えてもらえるかな」


 寮長はいつになく鋭い眼差しで、立て続けに言った。


「最近、強い圧を感じることが多いけど、ほとんど私が管理する寮内で発生しているね。最初、空の魔法陣が動いたとき、学園に居なかった学生は君とムルフッフ君だけだ。それ以外の子からは外出申請を貰ってない。それから君と行ったサップーケでの出来事。私から見れば、ハドア君が一番疑わしい」


 これは、困ったな。確かに、寮長から見ればそう映るはずだ。俺が適格者だって知ってるのは学長とエレナとワイナードだけ。サップーケでの出来事を体験した学園関係者は寮長だけ。これでは疑われても仕方ない。おまけに寮長は、紅い眼の人物が圧を発する姿を目撃している。

 これは、困った。どう返せばいいかな。いや、ここは正直に言おう。


「寮長はさっき、何回圧を感じましたか?」


「2回、感じたね」


「その内1回、後に起こった方が、この少女によるものです」


「じゃあ、最初に起こった方は?」


「それは、知りません。この少女でないことは確かです」


「ふうん。じゃあ、私の寮で起こった圧は? それもその子かい?」


「はい、その通りです」


「そうか。じゃあ、何のためにその子を学園に連れて行きたいのかな」


「……学長と、会わせるためです」


 言うべきかは迷ったが、言わなきゃ埒が明かないと思った。


「その子は、あんな凄まじい圧を発せられるほどだ。そんな危険因子を、学園に連れて行こうだなんて、ましてや学長と直接合わせるだなんて、それはちょっと無理があるんじゃないかな?」


 確かに、そうだ。だけどここで下がるわけにはいかない。

 これはチャンスだ。俺からヴァイオレットに会うことはできない。ここでヴァイオレットを逃がすと、もしかしたら、次会うときは学長が不在の時かもしれない。学長と会わせられるこのチャンスを、易々と逃すわけにはいかない。


「寮長が何と言おうと、連れて行きます。いっそ馬車に乗せてくれなくても、歩いていきます」


「……わかった。馬車に乗っていくといい。その代わり、もしその子が何かしようとしたら、すぐに降ろすからね」


「はい! ありがとうございます!」


 寮長はにっこりと作り笑いして、馬車の操縦席に乗った。


「じゃあ、私たちも乗ろっか」


「ああ、そうだな」


 ヴァイオレットの手を引っ張って、馬車に乗せる。まるで誘拐犯だが、まあ仕方ない。




 俺たちは再度沈黙に浸ったまま、学園までの道のりを耐え抜いた。


「やっと、着いたな」


 馬車を降りてエレナに言う。

 さあ、学長との三者面談といこうか。


「じゃ、学長室、行こっか」


 突然エレナはそう言った。コイツも着いてくる気なのか?


「なんでお前まで。お前も俺のこと疑ってんのか?」


「疑ってないけど、心配だもん」


 ああ、そっか。コイツはそういう奴だ。コイツは俺のすることを疑ったりはしない。だけど、何をするにしてもすぐ心配してきやがる。そういう奴だ。

 俺は幼馴染に、皮肉を込めてこう言った。


「お前は心配性だもんな」


 そう言うと、エレナは笑顔で口を開いた。


「やっと分かってくれましたか」


「いいや。ずっと、わかってたよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ