ストラディヴァイオレット(K)
学長、ずっといなかったけど何してたんだろう。学園周辺の哨戒とかかな。いや、仮にも一大組織の長なんだし、首都へ報告とか対策会議とかに行っていたと考える方がそれっぽいか。
まあそんなことはどうでもいい。
学長には質問したいことが幾つかある。今の俺にとっては、その質問に対する返答の方が重要だ。でもまあ、ちょっと寮長に聞いてみるか。
「寮長、学長ってどこに行ってたんですかね?」
「学長か? んー。いや、知らん。そういうのなら、教授たちの方が詳しいんじゃないか?」
「そうっすか」
特に話したりもせず、学食堂の入り口近くに来たときだった。
「学長、さっき食堂で見かけたんだよ。私が見たときはまだ注文の段階だったし、まだ少ししか経ってないから居ると思うけど。とりあえず入ってみようか」
「あっ、はい」
たぶん居ねえだろうなぁと思いつつ、学食堂に入り、学長の姿を探す。
「あれ? もういないのかな。注文してたの定食だったし、食べるのに時間がかかるはず……」
結構前、頭痛で授業を抜けて保健室へ行く途中。学長が学食堂を利用しているのを見かけたことがある。その時の学長の早食いっぷりには、目が飛び出るかと思うほど驚いた。あり得ない捕食スピードで、今でも目に焼き付いている。
だから、食堂に連れてこられた時点で、学長に会えないことは既に分かっていた。見るまでもないことだった。
寮長は、学長と食事のタイミングが違うんだろう。だから知らないんだ。
「えーっと、いないみたいですね……。とりあえず、ここからは一人で探してみます。ありがとうございました」
「ああ、そうだね。こっちも見かけたら教えるよ」
とは言ってみたものの、何処を探そうかな。やっぱり学長室が一番確率高いかな。
学長室。一度も入ったことはないし、扉に触れたことさえない。
「いるかな?」
やや疑心暗鬼になりながら、ゆっくりと扉を開けようと試みる。しかし、鍵が掛かっているのか、扉は開く素振りを見せない。
「やっぱり、いないか」
また今度にしよう。
俺は素直に、自室に戻ることにした。
管理棟を出て、学園敷地内を突っ切って男子寮に向かう。講義棟と寮とを繋ぐ渡り廊下から男子寮へ入り、自室に向かう。エレナが部屋の前に居ないかを確認しつつ。
「よし、エレナはいない。大丈夫だな」
ポケットから鍵を取り出して、錠を回す…… あれ? 回らない?
逆側には回るので、つまり、鍵が開いてしまっているということだ。ワイナードが鍵を閉め忘れたか、そういうものだろう。
エレナじゃないよな? いや、アレがピッキングとかできるわけないよな? な?
慎重に扉を開ける。中には…… 誰もいない?
部屋の扉を閉めて、奥へと進む。誰か隠れてたりしないよな…… ん!?
「この子は……」
二段ベッドの下側、ワイナードのベッドで眠る少女の姿があった。
髪は紫色、目は紅色……。それから少女の傍らには、ヴァイオリンが置かれていた。
「これは…… ストラディバリ!!」
このヴァイオリンの艶やかさ、間違いなくストラディバリウスだ。
「……どいてもらえますか?」
俺がストラディバリに覆いかぶさっていると、下の方から少女の声がした。声の方を見ると、少女は既に目を覚ましていた。
「ああ、すまん」
体を起こし、少女に尋ねる。
「このストラディバリ、どこで手に入れたんだ?」
「それは、HAMAYAで買ったふつうの奴ですよ」
「なんだ。ストラディバリじゃないのか。ところで君、ヴァイオリンちゃん、だっけ? なんでここにいるの? ワイナードなの?」
「ヴァイオレットです。貴方を待っていたら、こうして寝てしまってたんです」
「ふーん。無許可で他人のベッド使ってみて、寝心地どんな感じ?」
俺のおちょくりを特に聞く様子はなく、少女は口を開く。
「ところで、あなたに話しておかなければならないことがあります。空の魔法陣の話です」




