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俺の知ってるカニピラフと違う(K)

「おい、もう着いたぞ」


「え、もうですか? 結構早いですね」


 寮長が馬車を運転する間、車内は一人で退屈だった。まあ、眠っている間に着いてしまったようだが。


「3キロしかないからな。……さて、何食いに行く? やっぱカニピラフか!」


「もちろんです! サップーケと言ったらカニピラフとカニカマですからね。カニピラフが妥当でしょう!」


「よーっし! じゃあ馬車から降りろ! 行くぞ!」


「はい!」


 やや暗くなった空の下。次第に落ちていく気温を肌で感じながら、俺と寮長は歩き始めた。



 目当ての料理店に向かって多少の会話を交えながら、ゆっくりと進んでいく。だが、料理店に入る一歩手前、俺と寮長は息を合わせたわけでもなく、されど全くの同時に足を止めてしまった。

 何故か。その答えは単純に示せるものではなく、しかし、かといって複雑なわけではない。とにかく、足を止めなければならないと、そう理解したからだ。

 いや、「理解」という表現は適切ではないだろう。俺たちは、思考による理解も、直感的な理解もしてはいない。ただ頭のどこかで、「足を止めなければならない」という、誰かからの指令を「承知」したのだ。

 俺たちは言葉を発することもなく、ただ静止した。


 立ち尽くしたまま、鼓動の音を5回数えた直後、店の窓から眩い光が発せられた!

 あまりの眩しさに思わず目を瞑る。すると次には、けたたましい轟音が鳴り響いた。


「なっ…… 何がっ!?」


 耳に手を当てて音を軽減しようと思ったが、あまりの大音量に顔をしかめずにはいられなかった。

 轟音が鳴りやんだ後も、耳のおかしさは暫く消えなかった。


「何が起こったんでしょう!?」


「分からない。でも、すぐにここを離れるべきだよ。すぐに学校に戻ろう!」


「ああ、カニピラフよ」


 店に向かって軽く頭を下げてから、俺は馬車へと走って行った。

 馬車を停めていた場所に着いてすぐ、寮長は


「馬車が無い!! さっきの音で馬が逃げたんだ! クソッ!」


 ああ、なんてこった! なんで今日ばかりこんな目に遭うんだ!

 心の中でそう嘆くと、寮長は顔を青ざめさせて、声を震わせながらこう言った。


「は、ハドア君、逃げよう」


「え……?」


 逃げるって、何から!?

 俺は寮長の目線の先を見やると、――黒々とした、全身の至る所に(あな)の開いた、5メートルはあろうという巨大な人型が、俺たちを見ていた。いや、見ていたという表現は的確ではない。そいつには顔が無かったのだ。

 頭部にも、他の部分と同じように無数の孔が開いており、そして、その全身の孔からは、タコの足のような形の、黒い奇妙な触手が出入りを繰り返していた。


 不快で、見ていられなかった。


 巨人はこちらに手を伸ばしながら、口が無いにもかかわらず、重い声で俺たちに喋りかけた。


『メ…… アカイメヲ…… カエセ……』


 逃げる、しかない! 巨人の台詞について考える時間はない!

 俺は走って逃げながら、ポケットの魔封石を漁り、そして、より速く逃げる方法を思索した。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


 今回の話は、「サップーケ」とかいうだいぶ酷い名前の街を舞台にした回でした。

 学園からサップーケまではたった3キロなので、同じ市か町に属しているのかもしれません。そう思って、ロリエンヌ行きの馬車道のような会話シーンは入れませんでした。

 サップーケで食事を摂ることになっていたので、何かいい特産品ないかなーと思って、カニを思いつきました。そうだ、サップーケの特産品はカニということにしよう、と。(※ちなみにカニカマはカニではない)


 その後カニピラフを食べることなく、何故か突然足を止めることを余儀なくされますが。ハドアたちの足を止めさせたのはいったい誰なのか、という伏線を置いておきました。

 それは、ハドアを適格者扱いするヴァイオレットかもしれないし、強力な圧を発した紅い眼の人物かもしれませんし、もっと超常的な何かかもしれません。でも唯一言えることは、リレー小説の特性上、回収されない伏線が幾つも出てきてしまうということです。

 ムルフッフとロリエンヌ市まで行って帰ってくるまでに、すれ違いになったまま誰の気にも留まらないドゥーマ達(第四話参照)が、その一例です。


 ああそれにしても、タコ足にゅるにゅる黒巨人に、アツアツのカニピラフをぶつけたい。

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