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誰かのおかげ

作者: THIEMO

外で働きたい妻と家にいてもらいたい夫。我が家はまさしくそれ。

最近多大なるストレスとイライラで、夫を殴り倒してしまうんじゃないかと不安になる。

結婚4年目。私は小田桐綾。職業?専業主婦。子無し。年齢39歳。気力・体力・女っぷり、すこぶる絶好調。

夫は小田桐賢太郎。私より10歳年下。職業、会社員。気力・体力・男っぷり、すこぶる絶好調。

まずどうして私が家庭に入り浸ってなきゃいけないのか?だったら結婚前に言えっつーの!

最初はいい条件出してきていざ結婚したら話が違うなんてことよく聞く話で、騙された方が悪いなんて他人事のように思っていたけれど・・・。まんまと引っかかりましたね、ええ。

確かにあの頃は同じ職場だった夫に惚れていた。恋多き女と噂され、男に不自由なく、今考えればかなりお高くとまって生きてきた私が、今まで出会ったことのない真面目でピュアで誠実な夫に心をまんまと奪われ、まさか10歳も年下とは思わなかったが、自らグイグイ攻めていったのが事の始まりだ。

歳を考えれば恋に臆病になりがちだが、勝算があると確信できるほど、夫も私に好意丸出しだった。

そして初デート。さんざん遊んでパーキングで休憩。お互いシートを倒して会社のこと、美味しいラーメン屋さんのこと、友達のこと、将来のことを語った。その流れで夫が「綾さんは、社交的でお仕事してる時

キラキラしてますよね。俺は将来結婚したら奥さんには外でバリバリ仕事していてほしいんです。いつまでも輝いていてほしいし。」って夕焼け空を見ながら間違いなく奴は言った。夕焼雲の形もはっきりと覚えている。でもその時の私は、あぁ~、この人はずっと家にいてジッと夫の帰りを待ちわびる古風な女はウザいんだな。もしくは、ずっと家にいてせんべい片手にワイドショーを見ながらおケツぽりぽり、身体ブクブク的な、女を忘れてしまった妻が無理なんだなぁ~と。結婚して仕事を辞めて専業主婦を望んでいた女だったらこの時点で去って行くんだろうなぁ~くらいにしか思っていなかった。私は私で結婚願望が全くなく、生涯独身がいいと考えていたし、過去に交際していた彼からプロポーズされると途端に冷めて、別れを繰り返していたら、こんな歳になっていたけれど、結婚という意識が0なので気にならなかった。

ではなぜ私はこのような女になってしまったのか。理由は4つ。題して「なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった」。

①両親含め身の周りに幸せな結婚生活を送っている夫婦がいない。理想とする、結婚て素晴らしいなと思わせる憧れる夫婦がいない。なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった。

②誰にも頼らず生きていける術を身につけろ、頼れるのは己のみと母によく言われていた。様々な経験をし苦労してきた母の言葉だったから、間違いないと。生きる術を身につけたおかげで何不自由なく、男女間のめんどくさいトラブルもなく生きてこれた(別れ話のとき多少のいざこざはあったが)。なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった。

③可愛げのない性格。男は女が良かれと思ってしている気遣いを次回から当たり前のようにねだってくるのが我慢できない私。もちろん男を部屋に招待したことは一度もない。招き入れたら最後、あれしてこれしての要求の嵐。そして最終的に寄生虫のように住み着く。男に甘えられるのが本当に無理。私が甘えたい。なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった。

④そんな私でもどうしてもというなら結婚プランがないわけでもない。理想としてはおわかりの通り完全別居婚。さすがに結婚しているから住まいは教えるけど、お邪魔しま~すは嫌。元々人とずーっと一緒にいるのが苦痛。夫婦といえども他人だし、自分の家なのに気を使うし。浮気の心配もあるが、「な~んか、怪し~。プンプン」つって焼きもちやくくらいのほうが刺激があって興奮すると感じる私は変態か。と、こんな暮らしをするくらいだったら結婚という形式をとらなくてもいいレベルに達している。なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった。

以上が、「なので1人でいたほうがいいんじゃないかと必然的に考えるようになった」だ。

これでわかったように私は完璧なる結婚不適合者。・・・だったのに!!

ではなぜ私は結婚してしまったのだろうか?理由は6つ。題して「なので私は結婚しました」。

①とにかく真面目で頼もしい夫(以降、賢太)は10歳年下なのだが、歳の差を全く感じさせないほど。そして今まで犯罪はもちろん、軽犯罪すらおこしたこともないだろうと感じさせる身の潔白さ。もちろん犯罪に重いも軽いもないのだが。そのくらい、(どのくらいかは、私のさじ加減)真面目。思考回路がとにかく真面目。なので冗談が全く通じないのが玉にきず。

②堅実さ。将来のビジョンをたてて、行動することができる。ブレない。なのですごく頑固。

③ピュア。付き合い始めて間もない寒い冬の出来事。私が高熱で会社を休んだ。賢太は私が出勤していないことに気付き、仕事の合間に「家の前にいるから、辛いだろうけどでてきてくれる?」と電話してきた。そっとしといてくれよと思いながらフラフラヨロヨロと外へ。待ってましたとばかりに、賢太に抱きかかえられ車の中へ引きづり込まれる。「すごく身体熱いじゃん!服全部脱いで。」と私の服を勝手に脱がしはじめた。は?なに言ってやがるこいつと抵抗したくても40度以上熱があった私はされるがまま。挙句の果てに、賢太まで脱ぎ始め、こいつはこの状況でおっぱじめようというのかと絶望していたら、裸でムギューっと抱きしめてくるだけ。余すとこなくギューッと。寒くて仕方ない私は一体どういうつもりか賢太に聞いた。「裸と裸で抱き合っているとお互いの体温が伝わってより一層暖かくなると思って。」と天使のような顔で言ってのけた。このご時世に、一昔前の遭難したカップルの映画のワンシーンを再現してくるなんて、なんてピュアな少年なのだと惚れ直してしまった。

④優しさ。付き合う前の出来事。外出していてお昼を食べるのが遅くなってしまった私は会社の食堂にいた。カップラーメンですまそうと販売機で購入し、お湯を入れて蓋をしたとたん割り箸入れの中が空に気付いた。焦っていたら、賢太が食堂に入ってきた。事の説明をすると、ちょっと待っててとササッと出ていき、サッーと戻ってきた。両手に山ほどの割り箸を抱えて。涼しげに笑ってまたササッと出て行ってしまった。ラーメンも私の鼻の下ものびきっていた。惚れてまうやろ?今現在もその優しさは変わらない。

⑤顔。体型。共に最高にタイプ。その他にも天然で飾りっ気のない、何事も一生懸命に取り組む賢太のような男は出会ったことがなかったから、とにかく新鮮だった。賢太と一緒にいると私はどれだけ汚れてしまっていたんだろうと気づかされる。

⑥そして結婚を決断させる決定的な出来事は3/11におきた東日本大震災。いつものように当たり前に過ぎ去るはずだった日常が簡単に破壊されてしまった。連日テレビで流れる悲惨な映像。これは現実なの?私が住んでいる日本なの?と目を疑う光景。スーパー、コンビニへ行くと、心無いおじさんやおばさんが数少ない食べ物を大量に買い占めていく醜い姿。そんな客を見て、こんなこといつまで続くのと泣いている店員さん。ガソリンは手に入らない。携帯も不能。どこにも行けず、誰とも連絡が取れない。一人ぼっちだし、先が見えずイライラするし、不安だし、淋しいし、涙が勝手にこぼれてくるし、あの時はみんなが情緒不安定で、相当参っていた。

そんな中、やっと連絡がとれた賢太からの突然のプロポーズ。間髪入れずに素直に受け入れた私。そして3/30に籍を入れた。賢太は予想すらしていなかったことがおきてしまったこの最悪なる現実に、相当考えさせられての決断だったのだろう。私も、強がって生意気に虚勢を張って生きてきただけだったんだ、1人では生きていけないんだってことを痛感した。家族とはこういう状況下の中でこそ威力を発揮する。喜怒哀楽を家族みんなで分かち合うことができる。人間本来の正しいあり方が家族にはつまっている。私はそれらを賢太に求めたのだ。異性をこんなにも愛おしく思ったのは賢太が初めて。今まで付き合ってきた男たちは一体なんだったのかと思うほど。全く汚れていない人間なんで、汚れの私が一緒にいていいのかと住職にまで相談したほど。それくらいその頃は大好きだった。そんなときに東北大震災がおこり、あの状況の中でプロポーズされたらするって。絶対に。以上が「なので私はけっこんしました」だ。

籍を入れる前に賢太から「いろいろあって大変だったけど、これからは俺がいるんだから。心配せずに安心してゆっくり休んで。」と言われた。要するに仕事を辞めて家にいなさいということ。「いろいろあって大変だった」と賢太が言った意味は、仕事のこと。私の部署のトップが変わり、社内の色が理不尽に変色してきて、みんなが難色を示し、信頼していた先輩達、可愛がっていた後輩達がどんどん去っていくのを何も言えずに見守ってきたが、賢太の言葉で吹っ切れ潔く辞めることができた。いつもの私だったら次の職場を探して辞めているはずだから、結婚して守られているんだなと、今までに感じたことのない肌触りがすこぶるいいモフモフのお布団に優しくくるまれているような居心地の良さを感じたし、賢太の気遣いに感謝した。だがいつまでも賢太におんぶにだっこのままではいけないので、焦らずゆっくりと仕事は探していこうと考えていた。

無期限の長期休暇に戸惑っていたら「今まで出来なかったことを思う存分やってみたら」と賢治に言われ、そりゃそうだと片っ端から実行していった。大好きなDVDを見まくったし、これまた大好きな小説をしこたま買ってきて徹夜で読みあさったし、趣味の編み物もたくさんできたし、ガンダムのプラモデルにも初挑戦したし、マリオカートを夜通しやったり、どうぶつの森にどっぷりはまったり、ずっと会えなかった友達とやっと会うことが出来たり。ケーキ作りやお菓子作りをやっていたときなんて、わざわざフリフリの可愛いエプロンを買ってきちゃったりして、女の子している自分に酔っちゃったり、、かなりキモかったり。と、こんな感じで毎日充実していた。もちろん主婦業もきっちりやりながら。

でも、3か月も経つとさすがに飽きてきてしまう。マンネリ化してきてしまった。長期休暇も終了の合図だと、本腰を入れて探し始めたらいい条件の会社が見つかり、さっそく面接へ。3日後、採用通知が送られてきた。とんとん拍子に決まって喜ぶ私を賢太は話があるからと呼んだ。「綾。仕事しないで家に居てくれないかな。俺1人の稼ぎで暮らしていけるんだし。今はそんなに贅沢をさせてあげることはできないけど、1年後、2年後に生活がもっともっとよくなるように俺頑張るからさ。それに、外で働いてストレスを抱えてくる綾はもう2度と見たくない。結婚したからには綾には絶対苦労をかけさせないって決めたんだよ。俺頑張るから。」と言われた。私の為にそこまで思ってくれていたんだ、ありがたいなと思う反面、そこまで言われちゃったら仕事復帰しずらくなっちゃったじゃんと思ってしまった。でもまぁ、今はまだ時期じゃないと判断して見送ることにしたが様子を見つつ必ず仕事復帰しようと思った。

それからというものダラダラ時間を過ごすだけ。何もやる気もおきないし、何しても楽しくない。

賢太が帰宅する度にイラついていた。なぜか?

「今日ΟΟさんからこんな評価を受けたんだ」「みんなが嫌がる仕事ちゃっちゃっと終わらせてきたよ」「休憩中みんなとしゃべってたらこんな面白いことがあってさ」「ぶっ通しで仕事したから疲れちゃったよ」など、賢太が発する言葉は仕事にやりがいを感じ満足なんですと聞こえるものばかり。家にこもっている私には腹ただしい言葉ばかりを投げつけてくる。私だってそれなりのポジションで仕事してきて評価も受けてきた。そんなことで自慢げに報告してくんじゃねーよ!と毎日毎日イライラしていた。それでも最初は笑顔で接していたが、そんな上っ面のモチベーションが続くはずもなく、瞬く間に態度にでるようになり、喧嘩ばかりの日々。「私は賢太の奴隷じゃないんだよ!」「だから何で俺の言ってることわかってくれないんだよ!」「私を解放してよ!」「どうゆう意味だよ!」の繰り返し。専業主婦は一家を支える大事な仕事なんていうけれど、都合のいいセリフだと思う。主婦の方たちが専業主婦を「専属家政婦」「家事ロボット」「洗濯おばさん」などと比喩していたがその通り。九州男児と一緒。九州男児だから仕方ないみたいな風潮が許せない。な~にが九州男児だよ。九州女児が甘やかすから九州男児が湧いてきたんだよ。世の男を女が甘やかせば九州男児の出っ来上がり~♩なんだよ。あんなもん、「わがまま男児」「自己中男児」「おこちゃま男児」「うぬぼれ男児」「勘違い男児」だろ。あ~イラつく。専業主婦の仕事なんて日常の中でただただ繰り返されていくから感謝などされない。なぜか。当たり前だから。狭ーい狭ーいごく一部の場所でしか行動していないから、ストレスも半端ない。孤立感、おいてけぼり感も凄まじいから、この状態で社会復帰したら間違いなく浦島花子状態で恥をかくので、ネットニュースで時事ネタは必ずチェックしていたし、規則正しい生活をし、出勤しているつもりで、朝早く起きて、化粧をして髪もきちんとしていつでも出かけられるようにすることも欠かしていなかった。近所の人は、「いつも綺麗にしてるからご主人もさぞかし嬉しいでしょうねぇ。」と言うけれど、そんな理由だったとはこれっぽっちも思わないだろう。

そんな毎日を送る中、久しぶりに親友と会うことになった。開口一番「ねぇちょっと聞いてよー!」

と私の愚痴からスタート。うんうんと黙って聞いてくれていた親友(以降、友香)だったが、頃合いをみて口を開いた。「自分が1番の犠牲者風だけど賢太君の気持ちはわかってあげてるの?」と。続けて友香は「賢太君は、10歳も年上の綾に馬鹿にされないようガキ扱いされないようにただただ一生懸命なんだよ。年下男の意地とプライドをわかってあげなよ。あの若さで嫁に家にいてゆっくりしててなんて言えるってことは相当の覚悟がないと言えないことだよ?自分の給料だけじゃ大変だから嫁にも働いてほしいってのが現実でしょ。それに職場結婚だから周りは綾のこと知っている人ばかりでしょ?綾みたいなのと結婚した賢太君にかかる重圧、プレッシャーは計り知れないよ?周りは興味津々で見てるし、聞いてきてるってこと知らないでしょ綾は。家族を養ってその生活を維持していくってだけでも大変なことなのに、賢太君は健気すぎるよ。理解して支えてあげないとばち当たるよ!」と激しく叱られ、うぅ~っと何も言えなくなってしまった。ただ「綾みたいなのと」というくだりは気になったが、今聞き返したらキレられるから黙っていようと思った。「それにね」と、友香は言った。「綾を外で働かせるのも心配というか嫌なんだと思うよ。10歳も年下だとさ、綾が新しい職場で自分よりも大人な男性に出会ってしまうんじゃないかとかあらゆることが頭の中を駆けめぐって、気が気じゃないんだよ。仕事にも身が入らないだろうし。だからこそ綾は賢太君を信用してたくさん甘えて自信を与えてあげるところからじゃない?男勝りで可愛げのない綾には賢太君におんぶにだっこくらいがちょうどいいよ。もっと男をたてることを学びなね。」

「じゃあ私は仕事することを諦めろってこと?」

「あのさ、初心忘れるべからずだよ。賢太君となんで結婚しようと思ったんだっけ?それに、専業主婦は当たり前ばかりで嫌って言ってたけど、賢太君と出会えたこと、結婚できたこと綾の中で当たり前になってんじゃない?違う?綾。当たり前なんてこの世に1つとないんだよ。」

私の主張を木端微塵に打ち砕かれ、意気消沈して帰宅。鍵を開けようとしたら鍵がかかった。鍵をかけ忘れて何時間も外出なんて専業主婦失格だわ。これで泥棒にでも入られていたら賢太に愛想つかされて捨てられて、今の私には当然の報いかもしれないな。いっそ、まだ泥棒が潜んでいて私が急に帰宅したことで逃げ場を失い、私を殺して逃げるという方が筋書としてはいいかもしれない。それこそ因果応報だから。

だったら怖がることはない。胸張って殺されようと息を整えた瞬間、ガチャっとドアが開いた。

「ギョエーーー」と私の雄叫びが静粛した夜の閑静な住宅街にこだましたことだろう。目の前にいたのは泥棒ではなく、賢太と、賢太の腕の中でガタガタ震える子犬だった。


ソファに座り震えが治まりつつある可愛い子犬を優しく抱きしめ、大きな声を出して驚かせてしまったことを謝りながら、賢太がとった行動に驚かされていた。リビングには真新しい真っ白なケージ。柔らかそうな生地で作られた小さくて可愛いおもちゃも転がっている。他にもトイレシーツやおしりふき、これまた可愛いお洋服、「犬の本音がわかる」という本まで用意されている。賢太は恥ずかしそうに「我が家の新しい家族だよ。」と言った。そして「今まで綾の気持ちを無視してごめん。仕事が大好きな綾から仕事することを奪いただ家にいろなんて俺が身勝手すぎた。ごめん。でも俺ー」

「ね、そんなことより、この子だよ。どういうこと?」と賢太の言葉を遮った。

「うん。俺たちには子供がいない。だからといって悲観的になってるわけではないよ。ただ、2人よりも+一匹、もしくは+二匹+三匹と家族が増えていくのも楽しいんじゃないかなって。前に綾が小さい頃から犬と一緒に生活してみたかったんだけど、家族の反対もあって無理だったし、大人になっても仕事が忙しくて遊んであげることが出来ないから我慢してるって寂しそうに言ってたのを覚えててさ。ちょこちょこペットショップ巡りしてたんだけど、今日初めて行ったペットショップに小っちゃいこいつがいて、俺の顔見るなり「きゃお~ん」てでっけー声で鳴いたんだ。俺には「ここにいるぜ!」って聞こえて、迷わず連れて帰ってきちゃったんだよ。今だったら思う存分可愛がることができるでしょ?それに、俺は綾の側にずっと一緒にいてあげることはできないけど、こいつがいれば綾を守ってくれるだろうって思いもあって男の子にしたんだ。」って。嬉しかった。とてつもなく嬉しかった。私が何気なく言ったことをちゃんと覚えていてくれて、実行してくれるなんて、私はこんなにも愛されているんだなって改めて実感した。と同時に今まで自分を愛しすぎていて、賢太を愛すことができなかったんじゃないかと気付いた。友香の言う通り賢太の存在は当たり前になっていたのだ。本当に私はクズ女。醜いバカ女。

「賢太・・・私・・・ごめんなさい。自分の思いばかり押し付けて、賢太のこと少しも理解しようとしてなかった。」

「綾。こんな俺だけどこれからもよろしくな。そしてこいつも。」と言って私の腕から子犬を抱き上げた。

その瞬間子犬のおちんちんからシャーっと。

「うわー。こいつしょんべんしやがった!綾、雑巾!!」

「もう、いい加減こいつって言うのやめてくれない?楓太って名前があるんだからね!」といいながら雑巾で床を拭いた。

すると賢太が「楓太かぁ。いいなぁ。賢太郎に楓太郎。いいねぇ。ていうか、俺の話聞かないで楓太の名前ずっと考えてただろう!」

「楓太郎じゃないよ。楓太で止まるから。郎つかないように楓太。にしようかなぁ。」

やっとこれから始まっていくんだなと感じた。これも全部賢太の大きな愛と楓太との出会いのおかげ。私はこの家族を全力で支えていこうと決めた。


新しい家族が増えて5カ月がたった。楓太はコロコロと大きくなってやんちゃ坊主となっていた。すっかり我が家に馴染んで、「あっしが一家の大黒柱っすけどなにか?」と言わんばかりにふんぞり返っている。そんな楓太に、賢太も私もメロメロだった。

賢太はますます仕事も順調らしく相変わらず忙しい日々を送っている。それでも楓太のおトイレも積極的に取り替えてくれるし、家族サービスもしてくれるし、変わらず私をとっても大事にしてくれる、自慢の夫。

そして私は楓太が来てから生活がガラッと変わった。お散歩&ウォーキングをするようになって健康的になった。

楓太が来てから何十年と吸っていた煙草をきっぱり止めたのでますます健康的になった。だが、その分食欲が半端ないので太ってしまったがそれまでやせっぽっちだったからそれもまた健康的でいいのかもしれない。

そして、家で仕事をするために只今勉強中なのである。外がダメなら内でしょうってことで、諦めの悪い女です。賢太もそれならと応援してくれている。応援だけでなく、「勉強するには環境が大事」とサプライズで立派で大きな社長のデスクに、これまた座ったら思わず足を組んで膝の上にペルシャ猫、片手にシャンパングラスがイメージできそうなゴージャスな椅子。そして最新型のパソコンをプレゼントしてくれた。これにはさすがにびっくりして20年以上ぶり位に鼻血をだしてしまった。そんな賢太の想いを力に、日々膝の上に楓太、片手にキーボードで勤しんでいる。もちろん専業主婦も頑張ってるよ。

ありがとうって笑顔をもらえると専業主婦って当たり前な仕事ではないんだなと思えたから。

そもそも、当たり前な日常なんてこの世に存在していないのだから。

なぜなら、この世に存在している日常は誰かのおかげで成り立っているのだから。














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