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魔王さま、お仕事です

作者: 空汰

「さあ魔王さま。宴の時間ですよ」

魔界の最奥にある真っ黒な城、魔王城。

「・・・・・・」

その城の玉座にけだるそうに座る女が一人。

「どうしたのですか?魔王さま。もしかして男の血肉はお嫌でしたか?でしたら女の肉ですか?」

そして隣には眼鏡をかけた切れ者風の女が一人。


「それともわたくしのぐぼぉ!!」

「変な言い方をするな!!ただの牛だろうが!オスと言えオスと!!その言い方だと私が人間を食べているみたいだろうが!!」

けだるげな女が眼鏡の女に右ストレートを決めた。目の前には牛を使ったディナーが並べられている。

「ごほごほ、嫌ですね~魔王さま。魔王なんですから人を食べたって普通のことなんですよ?なんならわたくしが今から食べてきいたたたぃぃ」

今度は頬を思いっきりつねった。

「うるさい!だいたいその変な口調を直せ!!」

「えーせっかくノリノリだったのに~(>_<)」

「その顔文字もやめろ」

眼鏡の女はつねられた頬をさすりながら、先ほどの切れ者のような雰囲気を見事に消しあっという間にちゃらんぽらんへと変貌してしまった。

「ちぇ!まあいいや本日のスケジュールは勇者をつぶすことでーす」

「いやいいよ、めんどくさいな。夢が行ってきて」

元気よく話す夢と呼ばれる女に対し、けだるそうな雰囲気のまま玉座に座る女はそれを拒否した。

「嫌ですよ。笹の仕事なんだから笹がしなよ。さ、わたくしは女の子をはべらせてくるうぅぅいったーい!!なにすんのさ!」

「むかついたから。魔王の命令だ、行ってこい」

「えーすぐそれ使うんだから~・・。しょうがない、じゃ行ってくるから留守番ちゃんとしてるのよ、いい?」

「早く行け」

夢を追い出すと笹と呼ばれた女は玉座に深々と座り深いため息をついていた。


 彼女はこの魔界を総べる王、魔王である。漆黒の短めの髪に切れ長の黒い瞳。平均的な身体にまとっているのは黒のジャージだ、そして長めのマントを付けている。

名は『笹』。もちろん本名ではなくあだ名である。面倒くさがりな彼女はいつもこの玉座から動くことはなく外での仕事は全て先ほどの夢と呼んでいた女に任せていた。

 そして先ほど出て行った女が側近の『夢』。こちらも本名ではない。薄い茶色の髪を下で二つに結び、眼鏡をかけている。服装は海軍のような男性風の恰好をしている。この服装の通り、女性が大好きで隙を見つけてはナンパをして魔王に殴られていた。


「たっだいま~!」

「おうおかえり。勇者一行は倒せたか?」

「いんや全然」

「そうか」

いつも通り二人は勇者を本気で倒そうとはしていない。何故かというと、あくまで魔王としての仕事を遂行しているにすぎないため倒れようが返り討ちに合おうがどうでもいいのである。

「あーあそれにしても残念だったな~。またしても僧侶ちゃんに振られちゃったよ。わたくしのウハウハ計画が・・」

「キモイ。遊んでないで仕事をしろ、仕事を」

「それ笹に言われたくないよね」

「私はきちんと自分のすべきことはやっている。魔界を統括するのが私の仕事だ。勇者との戦闘はあくまで仕事のついでにすぎない」

「その魔界の統括もウザいやつ城に呼び出してお説教して終わりじゃん」

笹の仕事はこの玉座に座り、目に余る魔物を説教しこの玉座で書類の整理をする。とりあえず玉座の範囲内から出る仕事は一切受け付けない。

「説教で済むのだから軽い方だろう。この間はついうっかり手が出てしまったが、それは例外だ」

「いやあのボディーブローは痛そうだったよ」

ついこの間、笹の十倍は大きいであろう強面の魔物を拳一つで気絶させてしまったのだ。夢は隣で拍手を送っていたが、他の部下たちは顔面蒼白だったそうな。

そんなこともあり、この魔王城で笹に意見できるのは夢だけなのだ。



「さー次の仕事に取り掛かりましょう!今回はとある国の姫君をさらう仕事ですよ~」

「・・・・やだめんどうくさそう」

今回も早々に断る笹。しかしそれに慣れている夢は軽く流して話を進める。

「いや、拒否権ないからさ。さっさと終わらしていこうよ」

「はあ。だいたい姫とかさらってどうするわけ?甘やかされて育ったんだからメイドとしては使えないし、銅像ぐらいしか役に立たないと思うんだけど」

「ど、銅像・・。一国のお姫様さらっといて銅像はどうかと思うよ笹」

さすがの夢も呆れた表情で返した。

「コホン。さらった後はもちろん婚礼をあげるのが筋でしょ!お姫様と結婚したくて世の魔王様たちは夜な夜な苦労して姫君をさらってくるのだよ」

「いや、違うだろ。それじゃ世の魔王たちが皆乙女チックな考え方をしているみたいじゃないか。それに私は一応女だから。姫との結婚とか興味ないから」

「またまたぁ~笹が女?もう、冗談はそのくらいにしといてよ~こんな暴力的な女の子いるわけぐぼぉ」

夢の右頬に笹渾身のストレートが決まった。

「夢ちゃん、何か言った?」

「いえ何も」

魔王の微笑みを受けて夢は殴られた頬を抑えながら即答した。


「では、じゃーん仕事の早い側近が無事お姫様をさらってきました~」

「本当に早いな」

相当に面倒臭いのか玉座にもたれかかり頬杖をついて夢の方を盗み見た。

「まあまあ!で、ご所望だった姫君の感想は?」

「は?ご所望もなにも夢が勝手に連れてきたんだろ。つか・・・これ本当にお姫様なわけ?平凡すぎるだろ顔が」

イライラしつつ床に寝かされた少女を見た。金色の腰まである髪に特徴のない顔、唯一着ている物が平民と少し違うことぐらいに姫だとわかるものはなかった。

「失礼だな笹よ。まあわたくしもそう思ったけどさ、寝台に寝ていたんだから間違いないはずさ!」

面倒そうにしつつも、笹は珍しく玉座から降りてその姫と思わしき少女を観察しだした。が、少ししてすぐに鼻で笑ってまた玉座へと戻っていった。

「はーあ胸もぺちゃんこだし、良いところゼロじゃないか。可哀想に・・・」

「笹。哀れむのはやめたげて、なんか可哀想になってくるからマジで」


「う、ん・・・」

「あ、噂の姫君が起きるみたいだよ」

二人が残念そうに少女を見ていると閉じていた瞳がゆっくりと開いた。

「あ・・・れ?ここ、は・・・・!!!!だ、誰!!?」

「はあ、反応も平凡すぎる。アウトだ」

「起き抜け早々になんですか!?」

「あはは~ごめんね~。ちょっと確認するけどさ君ってとある国の姫君で間違いないよね?」

少女が混乱していると夢が横から体を起こしてやり優しく尋ねた。

「え・・あ、はいそうですけど」

「「はー」」

「なんでため息つくんですか!!失礼にもほどがあるでしょ!わ、私は姫なんですよ!?」

少女が肯定すると二人して残念そうにため息をついた。つかれた方はというと、わけがわからずに涙目になりながら訴えた。が、笹は可哀想な物を見る目で少女を見ながら口を開いた。

「そうだな。村娘みたいな外見のお前がよくお姫様だと名乗れたものだ。この私もお前のその勇気には脱帽するよ」

「超失礼なんですけど!?もうなんなんですかあなたたちは!!」

そう叫んだ少女に対し、夢がドヤ顔で笹の隣に立ち声を張り上げた。

「ふっふっふ~何を隠そう、この方こそ魔界を総べる王、魔王さまです~ドンドンパフパフ~」

「・・・・は?」

やりきった顔の夢とは違い少女はわけがわからないといった表情だ。

「お前は理解力すら常人並なんだな、可哀想に・・」

「ひ、ひどい・・。だって魔王って言ったらもっとこう角が生えてて、牙がこう出てて禍々しいオーラを出している感じじゃないですか。あ、あなたはどう見たって人間っぽいし」

「はー知識まで村人A並だったとは」

「どんどん格下になっていってるんですけど!!?」

「お前なんて村人C辺りで十分だ。夢、説明よろしく」

そう言うと笹は玉座から降りて無造作に放り出されている謎の機械をいじりだした。丸い球体のような椅子ぐらいの大きさだ。


「はいは~い!いい、Cちゃん。魔王さまが普段からオーラ駄々漏れしていたらわたくしたち常人は近寄れないからね。だから普段は角は隠しているし、爪だって本当は長いのに短くしているんだよ~オケ?」

「はい、ってCちゃんはやめてください!」

「名前があるだけマシだろう。姫なんてそんな呼び方おこがましいにも程があるぞ。自覚しろ」

離れた所から笹が叫んだ。

「あの人なにか私に恨みでもあるんですか?」

「我慢してあげて。笹は普段からあんな感じだからさ。人を蹴って蹴って蹴りまくるのが大好きな超ドSだから」

小声で話していたがばっちり聞かれたらしくトンカチが投げられてきた。それを楽しそうに避ける夢に対し、Cは驚きで悲鳴を上げていた。

「人聞きの悪いことを言うな。というかその村人Cさっさと捨ててこい」

「なんのために連れて来たんですか!?」

「そんなこと私が知るか」

「もう、なんなのあの人・・・」

Cは悲しみを通り越して呆れた眼差しで笹を見た。そんなCを見て夢は楽しそうにしつつも肩を叩いて励ました。

「あはは、ごめんね~。すーぐ帰してあげるからね~って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笹」

珍しく夢が真顔になり笹の近くまで歩いて行った。

「なんだ、夢」

「わ、わたくしのワープマシンどこにやった?」

「ワープマシン?お前そんなもの使っていたのか。そんなものは知らんぞ」

訝しげにしながら答える笹は謎の物体を解体するのに忙しいらしい。

「じゃあさ、笹が今解体しているソレは・・・何?」

「・・・・・・・・椅子だ」

「へーそうなんだー」

「ああ」

だんだんと夢が半目になっていく中、笹は平常な顔を維持しながらも内心冷や汗をだらだらと流していた。そして、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなわけあるかーーーーーー!!!!!え、なに?椅子?椅子が欲しかったら人の物改造してもいいの?ねえ笹?」

「すいませんでした」

「わー魔王さまでも土下座ってするんですね」

「黙ってろ村人D」

「Cです。って違う姫です!!」

土下座をしつつもCの方を睨んで言い返す。夢はというと怒る気も失せたのか頭を抱えてうなだれた。

「はー最悪だよ。それが無かったらCちゃんを元の時代に帰せないじゃないか・・」

「ええ!?そんなって時代?」

「時代?」

二人そろって夢を見た。問われた夢は笑顔で頷いて肯定した。

「お前・・この村人どこの時代から拾ってきたんだ」

「えーうーんとわたくしたちのいる時代から数百年前ってとこかな?まあわたくしたちには時って関係ないじゃん?だからいいかなーと思って」

ヘラヘラと笑いながら話す夢に笹の跳び蹴りが飛んできた。

「よくないだろう!?じゃあこいつはこの時代ではもう死んでいる存在ってことじゃないか!」

「えええ!!?」

「あてて、うんそうだね。人間って長生きできない存在だから。というわけでワープマシンが無いと、いくら魔王さまといえど時間を遡ることはできないってわけ?オケ?ぐはあっ」

笹のボディーブローが見事に腹に決まった。

「オケ?じゃないだろうがこのバカが!!!なんで他の時代の奴をさらってくるんだ!」

「うぐぐ・・・だ、だってその方が楽しいかなって、思って」

「仕事に楽しさを求めんな!・・・はあ、どうすんだこいつ」

気が済むまで夢を殴り続け、気が抜けたように定位置の玉座に座りため息をついた。

「あいたた、うーんしばらくの間ここに置いてあげるしかないんじゃなーい?」

脅威の回復力で復活した夢はCの肩を持ちそう提案した。しかし笹は案の定顔を歪めて「はあ!?嫌だよ」と全力拒否をした。

「・・・ねー?ワープマシンを椅子に改造しようとした「さ、今日からここがお前の家だ寛ぐといい」よかったねCちゃん」

「ええ!?わ、私元の家に帰りたいんですけど」

泣きそうになりながら言うも、笹はきっぱりと断言した。

「諦めろ」

「えへへごめんね~」

「えええぇぇぇー」

そして新しくお姫様、もとい村人Cを城に迎えることとなった。



「さーて、魔王さま次の仕事が入っておりますよ~」

「もう今日はいい。時間外労働はしない主義なんだ。一日八時間、これがこの城のルールだ」

「魔王っていったい・・・」

こうして今日もゆるくも八時間しっかり仕事をこなしていく魔王なのであった。






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