マクラ
笠の下から失礼を致します。
手前どもはコレを外す事が出来ませんもので、どうか一つお許しを願いとうございます。
さて昔から落語で馬鹿と申しますと、『与太郎』さんなどと呼ばれます。『与二郎』でも『与三郎』でもないんですね。この『与太郎』というのは、『馬鹿』と同じ意味合いなのでございます。
与太郎さんの特徴なんでございますが。
たとえば似たような存在で、狂言に出て参ります『太郎冠者』などは、少々どじを踏むことはあっても、機転の利く利口者が多うございます。しかし落語の与太郎さんはと申しますと、まぁ怠け者でずるばかりして、ぼーっとしてて気が利かなくて野暮天と、相場が大体決まっております。
もう一つ余計なことを申しますと、『与太郎』という名前には、『馬鹿』だけでは足りませんで、『愚か者』ですとか、『出鱈目ばかり言う者』という意味もくっ付いて参ります。愚かで、ずるくて、口から出任せの出鱈目ばかり……ってことは、つまり煎じつめると『馬鹿』でございますな。
そして、これはアタシが存じております、とある与太郎さんのお話しなんでございます。
もっとも本当のお名前は与太郎さんではなく、長二郎さんと仰るんですけどね。
※六代目三遊亭圓生『猫怪談』より一部引用しました。




