表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/164

新聞余話

【両国にて竜巻が発生】


――さて、昨夜八時頃、両国橋西詰H町にて小規模の竜巻発生せる。


 古道具屋数鹿流堂、木端微塵となり大修羅場を現出す。店主骨董商人、中野善五郎、のぶ夫妻、洋行中にて普段は留守居下宿人三居りしが、この時にはただ一人にて、不幸中の幸い怪我人無し。


 竜巻にて瓦礫となりし山塊の上にて、書生まだ鼾かきて寝続ける有様、滑稽にして、近隣の人々の耳目を驚かしむるものなり。


 竜巻の目撃者おらず破壊音一切聞かれず、不審な点多々ありしが、すわ鬼神の仕業と愚民の噂したるは、無知の骨頂なり。被害は古道具屋一軒のみにて、気象博士の申すには、古建物にて局所的な強突風に耐えず、哀れにも崩れしものならんとのことと――



【鼠使いと化猫使いの決闘】


――昨夕、日本橋は呉服屋暮白屋へ、不埒者の押し入る事件あり。婦女子二名をたぶらかし、人質に取りて蔵へと立て篭もり、金を強奪せんとす。


 人質に取られしは、病身の内儀おかる。及び看病の看護婦、前田桜女史の二名。

 狂徒は普段は浅草奥山にて、『とろろ』なる鼠使いの見世物師なり。常陸の国の産なる、本名を戸田新市という男。この度、密かに富裕なる他家の蔵の中へ、日頃手懐けし鼠数百匹を放ち、たぶらかしたる女どもを脅して幽閉し、強盗を企てし卑劣漢なり。


 戸主の白岡銀右ヱ門氏はじめ、一人子息、手代丁稚ら数十人、松明を携え取り囲み、人質を解放せよと求めるも一向に解決へ至らず。そこへ一報を聞き馳せ来たりしは、同じく浅草にて化猫使いの興行せし男。鼠使いとは因縁数々ござる、けしからぬ奴ばらにして商売敵、成敗せんと、呉服屋の友軍となるを申し出るものなり。


 化猫使い、今こそ奴と決闘すと一計を案じ、興行芝居の真似事にて、姿を女と偽りて近付くと優しく声をかける。鼠使い愚かにも、偽女人の寒玉声々麗に惹かれ、軽率に蔵の扉を開くなり。


 そこへヤッと飛び込むは勇猛にして忠義の大猫。目方、およそ五貫ともいう傑物。見世物の畜生なれど、時は今と鋭利なる爪と牙にて、蔓延る鼠の賊軍を蹴散らす奮迅ぶり、まさに獅子の如し。

 その隙に、人質となりし前田女史、果敢にも鼠の群れの中より内儀を抱え、救出したり。多くの無気力卑屈たる東洋婦人、これ見習うべし。


 猫の乱入に、鼠使い仰天。火を放たんとするも徒労なり。蔵より逃げ出でて、外で待ち受けし人々に追われ、火の目眩ましのうちに何処かへ逃げ去るなり。化猫使い、名も名乗らず何処かへ消え失せ現在警察が捜査探索中なるが、人質家財には損害なしと。呉服屋の人民、皆無事を喜ぶこと甚だしきなり。


 鼠には猫が覿面てきめんとは、これいつの世も変わらぬ道理なり。にゃん――



【服部文蔵の捕縛】


――盗賊、服部文蔵ついに捕縛。


 帝都を震撼させし盗賊、服部文蔵(二十九歳)、遂に捕縛。この名を聞きしだけで、百万都人が戦慄せし強盗にして狂暴なる悪徒。これまで強奪せし金円、古金銀合計、千八百円余。


 文蔵、伊豆人なり。身の丈、六尺。仁王の如き体躯の肥満にて、片腕五人力の大兵。かつて浪人壮士と名乗り、種々の流言浮説を唱導す。耶蘇教の禁止、学校廃止、徴兵廃止など訴え、騒擾事件に関わること、およそ十年。足抜けの後、土蔵破りとなる。


 帝都の他、武州、下総上総と破りたる土蔵、金庫、六十箇所へ押し入るなり。平素は『平民道具屋 石田四郎』にカムフラージュし、三回みめぐり稲荷の長屋に潜伏す。他にも数多の偽名使い分け、更には余罪十九件ありしという捧腹極まる凶悪犯罪者なり。


 この文蔵、昨日の白昼堂々、駿河台は子爵、相内家邸宅へ押し入らんとす。

 門前にて門番に止められしが、ふてぶてしくも何某かの名を騙り、金円を要求するものなり。果ては懐中より所持の短刀を抜き、金を脅し取らんとする。


 門番二名、家令の他、使用人ども驚きて、如何にせんと慌てふためきたるところへ、警察探偵小林弥助氏、屋敷の馬丁より事件の報せ聞き馳せ参ずる。一目見るなり、これ人相書きの通り、服部文蔵に相違無しと極まりたり。


 探偵小林氏、小男なれど、これまでも数々の事件を解決に至らしめし勇者。

 怪力無双の盗賊にも一向怯まず、勇敢に立ち向かいたり。盗賊本性を現し、おのれ小役人めと、掴みかからんとするのを、小林氏さっと逃れ右へ左へ身を翻し、毬栗頭を十手一つではっしと打ち据え、「御用だ」と手繰り出したるほぞを、首へ二重かけ回し後へ曳くと、逆倒しす。


 門番、家令も加勢し、賊の手足へ齧りつき土埃濛々たる大格闘の末、小さき勇者、大盗賊の上へ跨り「召し取ったり」の大音声。猿屋町警察署へ拘引することと相成る。


 小林探偵、職務忠実にしてその胆力、まこと男子の鑑というものにて天晴、天晴――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ