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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第4章 ふたつの世界を股にかけ
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68.エンジニアや研究者という人種は蘊蓄を語りはじめと止まらなくなるよね



 離陸予定時刻の数時間前。


 急遽予定を変更し、マスコミや一般見学がシャットアウトされた管制室。管制スタッフ達は、母機の新たな飛行コースやシャトルの軌道の再計算や俺達の搭乗準備やらで騒然としている。


 ちなみに現在の『穴』の正確な位置の情報は、お袋によると本省から刻々と指示が来ているそうだ。しかし、その情報の出所について現場の人間はなにも知らされていないらしい。


 だけど俺は知っている。この世界の人間の技術で『特異点』とやらの位置などわかるはずがない。実際に穴の位置を観測しているのは、もっとも現場に近い位置に居る妖怪変化。すなわち、マコトだろう。その情報がいちど東京にいるマコトの仲間達を経由して、それからここに届いているというなんだろうなぁ。少なくともここの人々にはマコトの正体は秘密のままだし。


 ……いや、まてよ。この世界には、マコトの他にもドラゴンがいるんだよな。





 何か重要なことを思い出しかけたところで、俺の思考は中断させられた。プロジェクトの責任者さんが俺達に問い掛ける。


「やはり予定より離陸時刻はちょっとだけ遅れそうです。降って湧いた根本的なプランの修正ですからね、少々手こずるのも勘弁してください。とはいえ、美女二人を救うというミッションですから、スタッフ達がみんな普段の数倍以上にやる気満々で、まぁなんとかなるでしょう。……というわけで少々待ち時間があります。唐突で申し訳ないのだが、見せてくれるかな、君の持っているテクノロジーを」


 本当に唐突だな。でも仕方がない。なにせ時間がないのだ。


 東京からの連絡によると、『異世界のテクノロジー』に詳しいと思われる各分野のお偉い専門家さんが急遽招集され、すでに各地からこちらに向かっているそうだ。政府としてはそうするのが当たり前だろう。


 だが、目の前の現場の責任者さんはそれを待つつもりはない。彼らが到着するまで悠長に待っていては、別の種類の人間もここに強引に乗り込んで来るに違いないのだ。


 例えば、不穏な臭いを嗅ぎつけたマスコミや、各国のエージェント。たとえ官邸から直接指示されたミッションであろうとも、そしてたとえ自衛隊や警察が護ってくれていようとも、決して安心はできない。なんといっても、この件ではスポンサーや同盟国だって信用できない。そいつらに物理的・政治的に妨害されたら、現場で対抗できるとは限らないのだ。


 だから、なんとしてでもその前に離陸させてしまう。それが彼の決断だ。そのためには、テクノロジーを披露するのは今このタイミングしかないのだ。





「『異世界のテクノロジー』とやらの取り扱いついては、現場の私に一任されています。いったい何を、どんな技術を、いただけるのです?」


 ここに至っても、やはりいまだに半信半疑か。そうだろうなぁ。俺が彼の立場でもたぶんそうだ。


 それに、シャトルで俺達を還すということは、ここに居る人々が人生を賭けた一大プロジェクトを台無しにしかねないことなんだ。俺としても、できる限りの恩返しをしたい。……といっても、頑張るのは俺だけど俺ではないのだが。


「アーシス! 起きてるか? 頼むよ」


『……なによ。私は数日に一回しか目覚めないって言ったでしょ! 寝不足は美容に悪いのよ』


「そういわずに、頼むよ。お前も帰りたいだろ?」


『しかたないわねぇ。ここの原始人達に精霊の事を教えてやればいいのよね』


 ……なぁ、本人達に面と向かって『原始人』よばわりはやめてくれよ、頼むから。






 例のブリーフィングルーム。俺達は、プロジェクトのスタッフから選ばれた各分野の専門家スタッフ数人に囲まれている。


 いつのまにか、お袋だけでなく俺の親父、そして深川のおじさんおばさん、要するにマコトの両親もよばれていた。


 我が子が何やらトラブルに巻き込まれたと連絡をうけたのだろう。マコトと『ユウキ』の顔をみてホッと安心したのがついさっきのことだ。そして今、いったいこれから何が始まるのか、再び少々不安げな表情になっている。


「そもそもなぜ言葉が通じるのかという大きな大きな疑問がありますが、それは後回しということで、……君のいう精霊? ミサイルを粉にしたあれは、分子機械なのかい?」


 若いスタッフの一人が問う。血走った目つき。今にもアーシスに食いつきそうな迫力。彼だけではない。白衣を着たスタッフ達は、みな似たような雰囲気だ。ちなみにアーシスの周囲は、たくさんのカメラとマイクが取り囲んでいる。一言一句すべてを記録するつもりらしい。


 そんな状況にちょっと引きながら、俺=アーシスは口をひらく。


「そう、私達は精霊と呼んでいるけど、……私達のナノマシンは、基本的にはあなたのいうとおり分子機械よ。機能面だけに注目すれば、プログラミング可能な分子アッセンブラー機能をもつ自律型の分子機械の集合といって間違いではないわ。エネルギー源と材料の原子さえあれば、自由に分子を作ったり壊したり自己増殖も出来るのよ」


 自分の口から出た言葉の意味がわからない。しかし、周りの白衣の皆様は、この俺の言葉に興奮しているようだ。


「ナノマシンを組み込んだ人工の微生物、……サイボーグウィルスのようなもの、と理解して正しいのかな?」


「うーん、微妙。……それでは、精霊システムの単なる入出力デバイスとしての機能の一面しか表現していないわね」


 入出力デバイスとしての機能?


「私達の精霊は、その開発過程の歴史的経緯から『ナノマシン』とよばれているけど、単なるナノサイズの分子機械じゃないの。分子機械の技術の延長というよりは、超空間量子計算機の演算素子を空間に展開したものと考えたほうが正しいわ」


 は?


「それぞれの精霊の個体は、その中心に量子サイズのマイクロブラックホールを抱え込んでいる。それが亜空間をとおして重力波を使った超光速通信ネットワークを形成し、それぞれの精霊が連携して空間ごと量子コンピュータを形成しているの。いわば、精霊システムの本質は空間自体そのもので思考すること。空間そのものが超空間超光速量子コンピュータであり、その機能のひとつ、分子アッセンブラー機能が入出力デバイスなのよ」


 深川のおじさんおばさんも含め、みんな目をしろくろしている。


「亜空間をつかった超光速ネットワークで空間ごと量子コンピュータ化?」

「り、量子サイズのブラックホールって……、ほ、ほ、ほ、ホーキング放射は?」

「あほ! それ以前に、いったいどうやってブラックホールをつくってナノマシンに組み込むかの方が問題だろ」


 スタッフ達がざわつく中、この場に居るもっとも年長のスタッフさんが口を開いた。


「その精霊とやらの効果を、……どんな形でもいい、今この場で目で見ることは可能ですか?」


「それぞれの精霊の個体は顕微鏡でみることも可能よ。だけど、クシピーの支配下の空間から離れると自壊しちゃうように作ってあるし。……ここで爆発魔法でも使ってみる?」


 アーシスが問うている先は俺か。爆発魔法は危ないからやめておけ。即死魔法はここの人間には効かないだろう、ていうかアンドラさんが危険だからそもそもダメだ。……そうだなぁ、ここに居る人達は、たぶんそんなファンタジーよりも、もっと違うものがみたいんじゃないかな。


「……そうねぇ、方向と波長を特定すれば、フェイズドアレイの原理をつかって重力波レーザーで狙い撃ちが出来るわよ。私の支配下のすべての精霊を使ったって出力はたかが知れているけれど、観測してみる?」






 重力波レーザーで狙い撃ち?


 その単語に、あらためてこの場の全員に衝撃がはしる。年長のスタッフさんが唖然としている。若いスタッフのひとりが、鼻血を吹きながらその場にぶっ倒れた。


「大げさねぇ。……どうせなら意味のある信号を送った方がいいわよね。ええい、めんどくさい。モールス信号にしましょう。波長は? どこを狙えばいい?」


「モールス信号? 異世界の人なのに? ……じゃなくて、ええええーと、太陽・地球系のラグランジェポイントに、稼働し始めたばかりのNASAの宇宙重力波天文台が……」


「だめよ!」


 突然大声を発したのは、お袋だ。


 ひゃっ?


 あまりの剣幕にアーシスがビックリしている。


「あああ、怒鳴っちゃってごめんなさい。えーと、えーと、そう、NASAのあれは、遠い上に波長が短いものの観測には向いてないわ。で、で、できれば、我が国の施設にお願い。えーと、一番近いのは地元大学が廃坑あとに設置したアレよね? 大学の研究室の同期がいるから連絡するわ。方向は、……直線ならこっち?」


 お袋が指を指す。水平よりちょっと下。地平線の向こう、地面の中に向けて。


 部屋の中が一気に騒然としはじめた。お袋がPCに向かいネット経由で誰かを呼び出している。知り合いなのか? 口調が恐い。けんか腰で怒鳴る。大臣の名前まで出して、強引にまくし立てている。


「準備はいい? いくわよ」


 アーシスがクシピーに命じる。例によって、俺の周囲の精霊があわく光る。


 静寂の数秒間。そして沈黙。


 ……でた、のか?


 突然、部屋の中に絶叫が響いた。PCの中、画面の向こう側にいるメガネのおっさんが何やら叫んでいる。ついさっき、ネット経由でお袋が呼び出した、天文台の所長とかいう人だ。


 見たことあるな、この人。たしかここ数年ノーベル賞の候補に挙がってる人だ。その見た目いかにも学者然とした沈着冷静なオジサマが、画面の向こうで絶叫している。早口で泡を吹きながらなにかしゃべっているらしいが、聞き取れない。


「天文台の所長が発狂しています。どんな魔法を使ったのかと。もっと、送れと」






「ありがとう」


 喧噪が収まった後、プロジェクト責任者のおっさんが丁寧に頭をさげてくれた。頭をあげると、……泣いている?


「申し訳ない。……年甲斐も無く、ちょっと感動しちゃって。科学は、人類は、いつかはここまで達することができるのか、と」


 おっさんが、涙を拭ってメガネをかけ直す。いまだ鼻をグズグズしている。


「……では続けましょうか? いや、重力波はもう結構です。それよりも、君は我々にテクノロジーを分けてくれると言ったそうですね」


 そうだよなぁ。いくら天文台に信号を送ったって、それだけだもんなぁ。テクノロジーを分けてあげると言ったものの、どうしたらいいものやら。


「そうだ!」


 アーシスはポンと小さな手を叩く。

 

「クシピーの中に保存してある精霊関連のドキュメントでどう?」


 はぁ?


「一般ユーザのための『エージェントの使い方マニュアル』。開発者向けの各種ツールのマニュアルもあるわよ。連邦共通語はすべて揃ってるから、『日本語』のテキストなら読めるでしょ?」


「に、日本語ぉ? そ、そ、そ、それで、それでいいです。時間も無いし、そうしましょう。じゃあ、転送方式を。えーと、プロトコルは……」


「ああ、面倒くさい。これだから原始人は。……画像にしましょう。原始的な方法だけど、クシピーは専門家ではない一般ユーザ向けに各種ドキュメントを投影できるのよ。二次元版ならこのホワイトボードで十分。高速でページ送りをするから、全部録画して!」





 目の前、壁に文書らしきものが投影されている。目にもとまらない速度でページ送りされているようだが、たまに萌え系イラストっぽいものが見えるような気がする。可愛らしい女の子がいろんな形のエージェントと会話しているマンガも。それを、何台ものカメラやスマホが追いかける。


 俺がアーシスになった直後、この一般用ユーザー向けのマニュアルが使えれば、あんな死にそうな体験しなくてすんだだろうになぁ。でも……。


『なぁ。ここにいる彼らは俺みたいなクシピーのユーザーじゃない。テクノロジーそのものが欲しいんだ。利用マニュアルなんて役に立つのかね? 設計図や製造法ですらないんだろ?』


『たとえ技術そのものじゃなくても、そしてたとえ今は中身を理解できなくても、基本的な技術進歩の方向性が正しいことが確信できれば、その方向めざした進歩は格段に早くなるんじゃないかな。ここの人達も、それくらいわかっていると思うわ』


 ふーん。そういうものかね。


 そういうものよ。





 シャトルの準備ができたらしい。俺とアンドラさんの着換えもすんだ。さぁ、出発だ。




 

 

ストーリーがさっぱり進まないことは自覚してますが、設定の蘊蓄を語り出すととまらない。次回こそは二人ともあっちの世界に帰れるんじゃないかと思います。


2019.03.30 初出

 

(*)同じ世界を舞台にしたもうひとつの物語も連載しています。こちらよりもかなり呑気なお話ですが、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

 『剣と魔法の異世界だって、美少女アンドロイドの私がいれば平気なのです』( https://ncode.syosetu.com/n8255ca/ )



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