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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第4章 ふたつの世界を股にかけ
65/71

65.この程度のトラブルには慣れっこになっちゃったんだよね



 俺は、お袋の前で何も言えなかった。何を言えばいいのか、思いつかなかった。


 こんななりしていても中身はあんたの息子のユウキなんだ、……と言ったところで、本物のユウキは目の前に居るわけだし、お袋も困るよなぁ。


 うつむいてしまった俺。そんな俺を前にして、頭の上にハテナマークをつけながら首をかしげるお袋。沈黙を破ったのは、アンドラさんだった。


「ユウキちゃん、……じゃなくてアーシスちゃん!」


 まだ俺のことアーシスと呼ぶのになれていないのか。それはいいとして、なんでそんなに身構えているのだろう? 髪の毛が逆立ってるよ。


「変な感じがするわ」


 そう言いながら、アンドラさんは一歩前にでる。全員というよりも俺の前に。俺を護るように。


 あ、アンドラさん、耳、耳、オオカミの耳がでてるって! ……って、『へんな感じ』?


「そう、殺気を感じるのよ。不審な人間はいない。それはわかるのに、たしかに殺気が……。あちらの方向」


 気づけば、横にいるマコトもいつのまにか身構えていた。同じ方向を見ている。


 女性陣二人の尋常じゃない雰囲気をうけたのか、防衛省のおっさんも動き出す。小さなマイク(?)にむけて何やら早口でしゃべっている。


「この街には、もともと産業スパイが多数はいりこんでいます。その上、複数の国の工作員が、ミサイルを粉にしたおふたり目当てに昨晩から動き出していることも確認済みです」


 昨晩から?


「ええ。私どもだけではなく他の機関の連中もですが、昼夜を問わず人知れず働いている人間はいるということです。……あ、余計な事でした。気にしなくていいですよ、仕事ですから。とにかく、往復機の試験に向け注目が集まっている中で、白昼堂々民間人を巻き込んでまで手荒なことはしないとは思いますが、……一応気をつけた方がよいかもしれません」


 周囲を見渡しても、俺は何もわからない。『俺』とお袋も同じ様子だ。こんなとき、一般人はただただ狼狽するだけだ。


 いや、でも、よく考えてみれば、このただっ広い駐車場ってまだ基地の中ほど警備が厳重ではないし、逆に一般人がたくさんいる街中や住宅街でもないし、悪事を企むなら狙い目の場所だったりしないか?


 だからといって、俺に何かできることがあるわけではない。自慢じゃないが幾たびの危機をくぐり抜けてきた俺は、少しは学習したのだ。こーゆー時は無理に頑張らない。俺が頑張っても無駄だ。邪魔になるだけだ。だから俺は、俺の守り神に頼る。


「クシピー、例の火薬を封じる魔法、えーと、文明抑止機能をオンに……」


 そこまで言いかけた瞬間、目の前が真っ白に光った。






 俺の目では、正確なことはわからない。しかし、それはおそらく左前方から来た。


 俺の前には、アンドラさん。ちょっと距離を置いてお袋、そしてマコトと『俺』がいた。


 光る直前、俺の視界の中で動いたのは、マコトだけ。マコトが脚を蹴り上げた。


 目にもとまらぬ速さ。ジーンズにサンダル履きの長い足が思い切り蹴っ飛ばす。蹴飛ばされたのは、マヌケ面の『俺』だ。『俺』が視界の外にすっ飛んでいく光景を見ながら、俺はただ呆然としていたのだ。


 そして光る。真っ赤な光。檄光。


 そこは、『俺』が居たはずの空間。瞬間的に激しい光が湧き出した。『ぼっ』という音ともに、『俺』を蹴っ飛ばしたマコトの足が、……消えた。



 見間違えではない。マコトの長くて細い脚。膝から下が、光とともに一瞬真っ赤になった。小さな、しかし爆発的な炎が燃え上がる。そして膝、すね、ふくらはぎあたりがジーンズごと綺麗に消えたのだ。マコト本体から切り離された足首から下が、サンダルとともに放物線を描いて飛んで行く。


 眩しい光が収まっても、何度まばたきをしても、状況は変わらない。あらわになったマコトの太ももから血が噴き出す。片足を失なったマコトがバランスを崩し、倒れる。


「がぁぁぁっ」


 さすがのマコトも叫ぶ。悲鳴とも呻きともつかぬ絶叫が響く。





 俺は動けない。何があったのかいまだに理解できない。かわりに動いたのは『俺』だ。マコトに蹴り飛ばされ光を避けることができた『俺』は、俺よりも少しだけ反応が早かった。


「マコトォ!」


 とっさに立ち上がり、マコトを抱きかかえる『俺』。


「自律型ドローンから赤外線レーザでの狙撃!」


 おっさんが無線機らしきものにまくし立てる。


「殺人はもちろん、無関係の物や人間を燃やし騒ぎの隙に目的を果たす。お隣の国が紛争地帯でよく使う手ですが、まさか日本国内でここまでやるとは。……あれだ、確保しろ!」


 どこから現れたのか、わらわらと人が出てきた。アタッシュケースが開かれると、無数の超小型ドローンが放たれ悪のドローンに群がる。銃をむけている人もいるぞ。


 ななななんだ? 『俺』が狙撃され、それをマコトがかばったということか? ドローンって、実験基地の中は飛行禁止じゃなかったか? しかもあんなでっかいのが、どうして。


「マコト、マコト、大丈夫か? 脚、俺のために、いま救急車呼ぶから、頑張れ」


「わ、わ、私は大丈夫。大丈夫だから! みんな一カ所に固まって伏せて! アーシス、もう一発くらい誰かが撃たれる可能性があるわ。精霊でなんとかして!!」


 えっ。そ、そうか。


「ククククシピー、できるか?」


『解析しました。レーザーの波長と入射方向が同じならば問題ありま……』


 ばっ


 その瞬間。ドローンの方向の空気が、ふたたび光った。





 いまだ飛行を続ける悪のドローンとの位置関係からみて、おそらく狙われたのはお袋だ。何が起きたのか理解できずいまだに棒立ち状態のままのお袋が、マコトの脚を一瞬で焼き切った光で狙われて無事で済むとは思えない。


「お、お袋!!!!」


 とっさに振り向く。


 しかし、さきほどとは様子がちがった。正視できないほどの眩しい光ではない。一点に収束された輝きでもない。お袋の周囲、いや俺達の周囲全体の空気が、空間が、淡く光っただけだ。


「な、なに、なんなの?」


 お袋は相変わらず狼狽している。俺の頭の上の守り神が、のんきな声で解説をしてくれた。


『精霊の空間配置により、特定の波長のレーザー光を散乱させました。この程度のエネルギー密度ならばまったく問題ありません』


 クシピー!! ……ありがとう。





 ぽん!


 爆発音。見れば、かなり遠くの空中になにかが爆発した跡。黒い煙がただよっている。


「くそ、ドローンが自爆したか」


 いつの間にか俺たちの周りには、数人の男によってガードするように取り囲まれていた。……これ、みんな自衛隊さんなのか? どこに隠れていたんだ?


 唖然とする俺達。しかし、衝撃には、さらに追い打ちがあったのだ。


「もう! ジーンズが片足だけ半分になっちゃったわ」


 マコトの呑気な声。振り向けば、とっさに抱きかかえた『俺』の下からマコトが這い出てきたところだ。


 そそそ、そうだ。マコト。マコトは? 『俺』をかばって撃たれた脚は? ……あれ? ある。片足だけ生足。でも、きちんと足がある? 


「ママママコト、おいマコト、おまえさっきレーザーで足……」


 俺だけの見間違えじゃない。抱きついている『俺』も、お袋も、アンドラさんも、おっさんすらも、唖然としている。


「えっ、レーザー? なんのこと?」


 胸に抱きついている半べそをかいている『俺』の頭を撫でながら、しれっとして答えるマコト。


 マコトの右足は、確かについている。ももも膝もすねも踵もつま先までしっかりある。しかし、はいているジーンズは右足だけ半分のまま。膝上10センチくらいから下がない。焼け焦げている。どうでもいいけど、白い太ももが眩しいな。


「お、おまえ、えっ? なんで? 右足は? ……裸足だけど、サンダルは?」





「サンダル? ……あ! あれは何!!」


 マコトがさけんだ。あらぬ方向を指さす。みんながそちらを向く。その隙に、マコトは動いたのだ。目にもとまらぬ速さとはこのことだ。


 俺だけはみた。皆がマコトの指さす方向に目を向けた瞬間、マコトは光の速さで一歩、二歩、三歩動いて、素早く何かを拾ったのだ。


 マコトが拾ったのは、サンダルを履いた、……足。焼け焦げた生々しい膝から下、自分自身の身体の一部。マコトはその肉片からサンダルを脱がせると、今の『新しい右足』に履き替えた。


 そして……。みんなが見ていないうちに、『焼き切られたマコトの古い足』がどこにいったのか。マコトが何を口の中に放り込み、鋭い牙でかみ砕き、急いで飲み込んだのか。……俺は何も見ていない。なにも見ていないぞ。





「……だめです。証拠はなくなってしまいました。自律型なのでどこから操作していたのか

わかりません」


 冷や汗をかきながら、おっさんが言う。まぁ、基地の外、公道の上空からレーザーで狙撃されたら、防ぐ方法はないだろうなぁ。


 ああ、おっさん。すごい脂汗だ。マコトに視線を合わせようとしない。地面にぶちまけられたマコトの真っ赤な鮮血ももちろん見えないふりだ。……おっさんも見てたんだな、さっきのマコトの怪物ぶり。


 そのおっさんが、小刻みに震える手で汗をふきつつも、早口で説明をしてくれる。


「昨日の今日で、しかもこの日本で白昼からこんな手荒な事をするなんて、『連中』はよっぽどお二人に価値を認めているようです。あれであきらめるとは思えません。さっさと基地の中に……」


 そうだ。俺とアンドラさんが目的だとしたら命までは狙われないだろうが、しかしお袋や『俺』を巻き添えにするわけにはいかない。さっさと基地の中に入ろうぜ。






 と、そのタイミングを狙ったかのように、基地の警備員の制服の人が走り寄ってきた。その中のひとりが、俺の前にたつ。手を差し出す。


「大丈夫ですか?」


 優しそうな顔。この世界の人間について何も知らないアンドラさんが騙されたのも仕方が無い。


 しかし、その男は俺の手を取った瞬間、俺の身体を引き寄せ、頭に何かを突きつけたのだ。いうまでもない。銃だ。


「動くな。おとなしくしていれば危害は加えない。こちらにこい」







「ユ、ユ、ユ、ユウキ。マコトちゃんも。あああなた方。いったい何に巻き込まれてるの?」


 銃を突きつけられた俺のすぐ側、お袋が訳もわからない様子でさけぶ。そりゃ狼狽するよな。ごめん。


 しかし、俺は不思議と動揺しなかった。この程度の危機はなれたものだ。


「なぁ。おっさん」


 俺は、防衛省のおっさんに顔をむけた。


「俺、この世界に居る限り、こうやっていろんな人に迷惑かけちゃうのかな?」


「私たちが護ってみせます、といいたいところですが……」


 そうだよなぁ。この国はこの手の非合法な荒事があまり得意じゃないことは、俺でさえ知ってる。それはあるいみ誇るべき事なのかも知れないが、狙われている当事者としてはちょっと困る。それに、悪人は俺達がここに来ることをあらかじめ知っていたようだ。内部ですら信用できないと言うことだ。悪人も笑ってるよ


 ということで、やっぱり、さっさとあちらの世界に帰った方がいいよな。うん、そうだ。


「なぁマコト。例の穴はいまどの辺だ?」


「えーと、太平洋上。高度は、……あああ、三万メートル」


 そうか。なら普通の飛行機じゃ無理だな。俺は、今度はお袋に対して顔を向けた。






「おふく、……じゃなくて、宮沢副主任」


「あなた、どうして私の名を……」


「おしゃべりはいい加減にしろ! 死にたいのか?」


 俺に銃を突きつけている悪人がいらついている。無視されているからかな。


 うるさいな、おまえ。撃ちたかったら撃てよ。


「なぁ、宮沢副主任。取引しないか」


「取引? 私と?」


「信じられないだろうけど、俺、ドラゴンといっしょに異世界から来たんだ。ミサイルを粉にしたのも、レーザーを防いだのも、すべて異世界のテクノロジーなんだ。例の重力波も、たぶん俺の仕業だ」


 えっ?


「なぁ。異世界のテクノロジーを少し分けてあげるから、あの宇宙往復機に乗せてくれないか。そして、成層圏にある時空の穴まで送ってくれ。……頼むよ、お袋」




 

 

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


2018.01.01 初出

 

(*)同じ世界を舞台にしたもうひとつの物語も連載しています。こちらよりもかなり呑気なお話ですが、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

 『剣と魔法の異世界だって、美少女アンドロイドの私がいれば平気なのです』( https://ncode.syosetu.com/n8255ca/ )


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