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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第4章 ふたつの世界を股にかけ
61/71

61.どうしても寝られない夜ってあるよね



 その日の夜中。


 俺は、マコトの部屋のベットで寝ている。マコトとアンドラさんも一緒、三人で川の字だ。少々狭いが、マコトとアンドラさんが声をそろえて、俺には手の届くところに居て欲しいというので、こうなってしまった。


 ここに来るまでいろいろあったけど、この二人と一緒なら絶対に安全だと断言できる。だから安心して眠れるはずだ。はずなのだが、……落ち着かない。


 美人でスタイル抜群の女の人がふたり、手の届く距離、というか、息がかかるほどの至近距離だ。心地よい寝息のリズム。触れなくても感じる肌の暖かさ。ほのかに香るいい臭い。


 ……こんな環境で寝られるわけないだろ!


 くそ、ギンギンに目がさえてさっぱり寝付けない。いま何時頃なんだ? 仕方が無い。ちょっと気分を変えよう。


 音を立てないよう起きる。寝起きの良くないマコトはともかく、アンドラさんを起こさずにすんだのは、運が良かったとしか言い様がない。


 そして、リビングへ。真っ暗でも問題はない。どこに何があるのか、この家の中の様子はすべて覚えている。


 マコトは『俺』のうちの鍵を持っている。普段どこにおいてあるのか、当然おれは知っている。


 ちょっと行ってみるか。


 俺は玄関に向かう。





 目指すはマンションの廊下を挟んで向かいの部屋。寝間着のままで問題なかろう。


 月があかるい。遠くからサイレンの音が聞こえる。さらに、ヘリの音? 夜中だというのに?


 マコトの話によると、明日は親父達が作ってる宇宙往復機の重要なテストがあるらしい。俺が知っていたスケジュールよりちょっと遅れてるようなので、郊外の基地では徹夜で準備が進められているのだろう。おかげで、マコトの家も、そして俺の家も、ご両家とも両親は職場に泊まりだ。


 社畜、とはちょっとちがうが、好きでやってるとはいえ、仕事のしすぎだよなぁ。身体にだけは気をつけてもらいたいものだ。


 抜き足、差し足。目的のドアの前に立つ。なぜか緊張する。十年以上すんでいた自分の家だというのに。俺は、ゆっくりと鍵を開ける。






 室内は、こちらも当然まっ暗だ。


 基本的にマコトの家と左右対象の間取り。リビングの中。ソファ、テーブル、テレビ、そしてキッチン。その他なにもかも、記憶の中のそれとまったく変わっていない。


 ……たとえ俺がこの世界にいなくても、ここにはそんなこと関係なかったんだなぁ。


 改めてそれを認識すると、ちょっとだけ悲しくなる。だが、当たり前なのだ。『俺』が異世界に行っても、『俺』はここにいたんだから。


 静かに自分の部屋のドアを開ける。やはり明かりは消えている。乱雑な机の上、わずかに光るのはのディプレイの電源LED。鞄、本、雑誌、タブレットが雑然と散らかるフローリング。あいかわらず汚ぇ部屋だな、おい。


 お、このマンガ、続きはどうなってるんだ? おもわず床のコミックス単行本に手を伸ばし、ふと視線がベットに向かった。


 いた。


 この、こ汚い部屋の主が、アホ面して寝ていやがる。呑気なものだ。


 今こいつが寝ているのは、物心ついた頃からずっと使っていたベット。そして俺がアーシスの夢を見ていたのも、ここだ。もしかして、……ここでなら、俺もぐっすり寝られるかもしれない。






 いつの間に寝てしまったのか。


 異世界から来たというアーシスとアンドラさんの二人を残し、マコトの部屋から帰ってきたのは、日付も変わろうかという時刻だったはずだ。


 シャワーを浴びて、そのまま寝床に入ったものの、やっぱりしばらくは寝付けなかった。


 まずは、なにはともあれアーシスが無事だったのはよかった。本当によかった。


 だが、驚いたことに、あのアーシスの中身には、俺の人格が入っているという。


 夢に出てきた少女が現実世界に実在しているというだけでも驚きなのだが、ドラゴンと一緒に異世界から来たとか、魔法みたいなテクノロジーを使えるとか、なによりも俺の記憶と人格がコピーされてしまったとか、もうファンタジーというかSFというか現実離れしすぎて正気でついていけない。


 すぐに寝付けないほど興奮するのも無理もなかろう。俺はSF好きの男の子なんだから。






 記憶と人格だけとはいえ、この『俺』がファンタジー世界にいって、大冒険か……。


 ボンヤリした頭の中で夢想する。


 俺は安定志向の堅実派だ。異世界に行き、かわりにマコトと一緒に居られるこの世界を失うなんて、想像したこともない。


 だけど。……だけど、だ。


 マコトの正体が妖怪変化だと気づいたとき、俺はワクワクしなかったか?


 夢の中で少女と出会ったとき、ドキドキしなかったか?


 そして、つい半日前。異世界で冒険してきたというアーシスの中身が『俺』だと知ったとき、うらやましいと思わなかったか?


 この心の奥底からわき出してくる感情はなんなのだろう。自分で自分がわからない。





 どれだけの時間、ベットの上でゴロゴロしていたのか。それでも少しづつ意識が睡眠モードに引き込まれては覚醒し、それを何度も繰り返した後、ふと気づいた。


 なにかの気配。ベットの横だ。……いや、誰かがいつのまにかベットの中、俺の隣で横になっている?


 まだ暗い。夜中だろ。マコトは自分の部屋に居るはずだ。夢なのか? 現実? わからない。まあ、どちらでもいいか。


 まぶたをうっすらと開く。焦点が合わない。


 暗闇の中、ぼんやりとした輪郭は、小さな人影。マコトじゃない。不思議な色の長い髪。細くて、華奢で、そしてはかない少女。






 ああ、アーシスか。夢の中で会うのも久しぶりだな。元気でやってるのか?


 少女はこちらを向いている。俺の顔を見詰めている。そして、ささやくように答えた。


 おかげさまで。……まだ寝ぼけてるようね? ともかく、あなたも元気そうでよかった。


 おれは寝ぼけているのか? まぁいいや。おまえ、冬眠がどうとか言ってたな。大丈夫なのか?


 このとおり平気よ。『あなた』のおかげ。


 俺、なにかしたか?


 ええ。あなたのおかげで目を覚ますことができた。思い出すこともできた。心から感謝してるわ。


 そうか。よくわからんけど、俺がアーシスの役に立ったのなら、よかった。


 それだけじゃないわ。あなたのおかげで、この先もいろいろと楽しいことが経験できそうよ。本当にありがとう。……夢で出会ったのが『あなた』でよかった。


 ……俺、この先も、異世界でも、アーシスの役に立てそうか?


 もちろん! ずっと一緒よ。


 そうかぁ。……よろしく頼むよ。


 うん。……この部屋、このベットの中で、私の夢を見ていたのね。


 ああ。基本的にここだな。授業中の机で居眠りした時とか、マコトのベットの中のこともあったけど。


 あなたねぇ、恋人のベットの中で、私の夢を見ていたの? 最低の男ね。信じられない!


 おまえが勝手に俺の夢の中に出てきたんだろうが!


 まぁいいわ。『あなた』も、そして私の中の『あなた』も、好きな人がいるのは承知の上よ。当たり前よね。でも、……ねぇ、私もここで寝てもいい?


 へっ? 意味がわからんぞ。


 いいでしょ? 私はあなたなんだから、ここは私の部屋。ここで眠る権利があるはずよ。きっと、これが最後だから。


 ああ。まぁよくわからんけど、かまわんよ。






「ちょっとユウキ兄! いいかげん、おきなさい!!」


 耳元で大声。いや、正確には耳に聞こえたわけではない。その声は、俺の脳味噌に直接響いた。精神の中枢に突き刺さった。身体全体に電撃が走る。俺は瞬間的に、そして強制的に、覚醒させられてしまった。


 ななななんだなんだ?


「……なんだ。マコトか」


 いつの間にか周囲は明るくなっている。枕元の目覚まし時計を見ると、いつもの起床時刻だ。


 マコトの声で起こされるのは珍しいことではない。しかし、こいつ今日はなんでそんなに怒ってるんだ? たしか今日は土曜日、……だったよな。だったはずだ。学校は休みのはずだが。


 あらためて目をこする。むりやり瞼を見開き、声の方向に視線をむける。


 頭に角を生やして怒り狂うマコトが、枕元に仁王立ち。その後ろにいるのは、……金髪の女性だ。異世界から来たというアンドラさんか。


 ん?


 ふと、気づく。俺の真横、マコトと反対側になにかいる。


 俺が上半身を起こせないのは、腕になにかが乗っているからだ。ちょうど人の頭くらいの重さ。わずかに聞こえる規則正しい寝息。腕枕?


 でも、あれ? マコトがあそこにいると言うことは、……これは誰だ?


 あらためて顔を横に向ける。視線の先、俺が腕枕をしているのは、緋色の髪の少女。こちらを向いた小さな顔。透き通るような白い肌。長いまつげ。


「うわーーー!」


 反射的に声が出た。


 とっさに少女の頭の下から腕を引き抜かなかったのは、いつもマコトを起こさないよう気を遣っていた癖だ。


「お、お、お、おまえ、なんでこんなところに!」


 少女がやっと目を覚ます。サクランボのような唇と鼻がわずかにむずむすと動いたあと、ゆっくりと瞼がひらく。


 そして、鈴を鳴らすような声。


「なんだよ、うるさ……」






 俺は、マコトに負けず劣らず寝起きは良くない方だ。


 目が覚めたからといって、とっさに周囲の状況が理解できるわけじゃない。目の焦点が合うまでしばし時間がかかる。さらに、瞳に映った顔が誰なのか、脳が判別できるまで数秒。そして……。


「うわわわわ! なななななんで、おまえが俺と一緒に寝ているんだよぉ!」


 すぐそばで、俺に腕枕をしていた俺が叫ぶ。


「それは、俺の台詞だ!」


 とっさに俺から離れる俺。まままままさか!


「おおおおおおおまえ、やったのか? こんな少女の身体の俺に、しかも異世界人、いや、自分自身を相手に、やってしまったのか? そこまで変態だったのか、おまえ!」


「やってない。俺は何もやってないぞ! お、おまえ、起こした上半身を毛布で隠す色っぽいしぐさはやめろ。ちゃんとティーシャツ着てるじゃねぇか。それに、半分涙目で睨む悩ましい表情もやめてくれ。ガキのくせに、どこでそんな仕草を覚えたんだ、おまえ、いや、オレ!」


「ユウキ兄!!!」


 憤怒のマコトが一歩踏み出す。


「マママコト、本当だ。なにもない。誓って何もやってないぞ、俺は! 信じてくれぇぇぇぇ!」






「はぁ」


 マコトが大きな大きなため息をついた。


「ふたりの事情は理解できるし、ユウキ兄にそんな度胸ないのもよーく知ってるわ。……ホントはね、夜中にアーシスの跡をつけて来た私たちもこっちの家のリビングにいたのよ。でも、……なんだろ、この沸々とわき上がるドス黒い感情は」


 俺の枕元、マコトが勢いよく座る。反動でベットの上の俺とアーシスの身体が浮き上がるほどの勢い。そして、指をペキペキならしながら、マコトは俺への死刑宣告を下した。


「ふたりとも、あんなに幸せそうな顔して寝ちゃって。……あー、こんな少女相手に、しかも中身はユウキ兄そのものの少女に対して嫉妬してる自分に腹が立つ! みんなユウキ兄が悪い! 天誅!!」


 ぐはっ!


 マコト渾身のエルボーが、俺のみぞおちに決まった。





「ちなみに、アーシス!!」


 しばらく動けそうもないアホ面の男に代わり、マコトが今度はこちらに視線を向けた。


「は、はい」


 俺は動けない。蛇に睨まれた蛙だ。


「エメルーソの奴も嫉妬深いわよ。奴も『私』なんだから当然だけど、帰ったら覚悟しておくのね」


「は、はひっ!」


 あまりの迫力に涙目の俺に対し、ふいにマコトが微笑んだ。


「……そうそう、異世界に帰れる穴をみつけたわよ。ちょっと変なところに移動しちゃったけど、今日一日あればたぶんなんとかなると思うの。あっちに帰る心の準備はいい?」


 も、も、もちろんだ!



 

 

 

2017.06.17 初出


えらい間隔があいてしまいました。今後もよろしくお願いいたします。



(*)同じ世界を舞台にしたもうひとつの物語も連載しています。こちらよりもかなり呑気なお話ですが、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

 『剣と魔法の異世界だって、美少女アンドロイドの私がいれば平気なのです』( http://ncode.syosetu.com/n8255ca/ )



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